インタビュー

三浦大知、10年かけて培った自信と余裕をもって〈熱狂と興奮をいろんな角度から表現した〉新作『FEVER』を語る

三浦大知 『FEVER』 Pt.1

Eの次にはFがある――説明不要のエンターテイナーがフレンドリーに届ける新しい放熱の形。身体中を走る興奮と心の奥の静かな熱狂、さまざまな角度から押し寄せる『FEVER』をフィールせよ!

 

プラスの感情に向き合って

 「もともとは〈喜び〉とか〈楽しさ〉をたくさん詰め込んだアルバムにしたいと思ってたんです。例えばそれを音楽で表現するって一種類じゃないじゃないですか。アップの曲で興奮する楽しさもあるし、バラードを聴いて涙するような心の中の熱狂もあるし。そうやって、いろんな角度からプラスの感情に向き合ってアルバム作りを進めていくなかで、〈これはいろんな興奮や熱狂が詰まったアルバムなんじゃないかな?〉と思って、最終的に『FEVER』に仕上がった感じですね。今回はプラスな気持ちになれる楽曲、明日への活力になるみたいな音楽がいっぱい作れたらいいなと思っていたので、そこはブレずにやれました」。

 自身5枚目のニュー・アルバムを『FEVER』と名付けた三浦大知は、そのように説明する。とはいえ、言葉を尽くさなくとも、アルバム冒頭のアップ・チューン“SING OUT LOUD”の爽やかな開放感を浴びれば、彼の言わんとするムードや狙いは即座に伝わるのではないか。タイトルが示唆する通り、同曲はリスナーを鼓舞するギミックなしの人生讃歌のようでもあり、ストレートな音楽讃歌のようでもある。そして、大知の歌い上げる先の空は、いままでよりもさらに天高く広がっているのだ。

三浦大知 FEVER SONIC GROOVE(2015)

 もっとも、その開放的な目線の広がりは、前作『The Entertainer』(2013年)以降のリリース作品においても少しずつ表明されていた。同作は本人の〈振り切った作品にしたい〉というヴィジョンを投影して尋常じゃないテンションに満たされた傑作だったが、Nao'ymtによる翌2014年3月の“Anchor”から連なってきたシングルは、いずれも『The Entertainer』のマッシヴな緊張感とは感触をやや異にするものだったからだ。同年12月には両A面のいずれもバラードで固めた『ふれあうだけで ~Always with you~/IT'S THE RIGHT TIME』を発表しているが、特にCMソングとして評判を呼んだ“ふれあうだけで ~Always with you~”は、通例と違って楽曲制作にタッチせず、ひとりのシンガーとして〈声〉だけを起用されたもの。表現のアウトプットがシンガー/ダンサー/コレオグラファー/ソングライターといった各要素のトータル・パッケージであることが常な大知にとっては珍しい試みでもあった。

 「最初から曲があって〈この曲を歌ってください〉というケースは初めてでしたね。曲は王道のラヴ・バラードで、『The Entertainer』ではそこも自分なりに振り切っていたつもりではあったんですけど、また違う方向の曲でもあったし、自分が声だけで何を提示できるかというチャレンジでもありました。やってみてすごい新鮮でしたね」。

 そうした経験も踏まえつつ、そこからアルバムの輪郭を見定めるきっかけとなったのは、今年6月のシングル“music”だったという。そこでは極めてポップでフランクなUTAのアレンジに乗せて、音楽の効能がポジティヴに歌われている。

 「リリースは今年だけど曲だけは去年からあって、ストレートにハッピーなことをやりたいね、っていうのはその頃から固まってきたものですね。それとはまた別の話で、年末に事務所主催のイヴェントで後輩というか若いアーティストのライヴを観たんですけど、本当にピュアで音楽してるって感じたんですよ。純粋に音を楽しんで、みんなを盛り上げよう、しっかり表現しようっていう。もちろん自分も音楽に対する初期衝動って忘れてないつもりですけど、改めて自分ももっとそうありたいなって思ったんですね。で、そう思えた時の気持ちが凄い心地良かったというか、前向きな気持ちが連鎖していく瞬間っていうのはいいなって改めて思って、そうなった時に、何となくそういう音楽っていま必要だな、もっとあったほうがいいな、って、考えが凄くシンプルになったんです。ソロ・デビューして10年ということで昔の自分と向き合ったことも関係あるでしょうし、いろんなことが重なっていまの気分になったのかもしれないです」。

 

グッド・ミュージックへの思い

 そのようにして「熱狂と興奮をいろんな角度から表現する」一作となった『FEVER』ではあるが、ここまでの本人の発言からもわかるように、当然その〈熱狂〉や〈興奮〉は一方向な曲調を意味するものではない。「ミッドでもスロウでもテンションの持続するものは常々めざしていて、今回は特にいわゆるテンポ感でアガるだけじゃないものを作りたかった」との言葉通り、ミディアムやスロウがいままで以上に強い印象を残すのは確かだ。そして、そんな大知のヴィジョンとセンスを明確に集約したのが、スムースな歌唱と抑制の効いたグルーヴでしなやかに躍動するアーバン・ダンサーの表題曲である。

 「これはデモと出会った段階から“FEVER”ってタイトルが付いてたんです。日本的な感覚からすると〈フィーヴァー〉って〈大盛り上がり〉みたいに想像されると思うんですけど、これはトラックを聴いた瞬間に物凄くグルーヴィーでファンキーで、こういう曲に“FEVER”ってタイトルが付いてる感じっていうのが自分がやりたかったことで、すごく自分の感覚に近いんだろうなって思ったんです」。

 ステレオタイプスのプロデュースした同曲に代表されるように、海外クリエイターも含めて新たな顔ぶれの参加は多いが、「根底にグッド・ミュージックを作りたい思いがあって、三浦大知がいれば、何をやっても三浦大知になる」という、それこそ10年かけて培ってきた自信に揺るぎはない。オハイオのシンガー・ソングライターだというポール・オッテンの曲にAKIRAが詞をつけたロッキッシュな“One Shot”もあれば、UTAとの共作でキッズ・コーラスも配した“Welcome!”もある。また、以前リミックスで手を合わせたBACHLOGICのトラック(作曲はクロード・ケリー)が渦を巻くR&Bチューン“MAKE US DO”もあって、作家陣のヴァラエティー以上に曲調も実に多彩だ。

 「BLさんとオリジナル曲でもやりたいっていう話をしていた時に〈これはどう?〉って聴かせてもらって、そこで惚れ込んだ感じですね。個人的には“Unlock”から“MAKE US DO”でNaoさんとBLさんの曲を並べられたっていうだけで、いち音楽ファンとしてワクワクしてるんですけど(笑)」。

 もうひとつ特筆すべきは、Nao'ymtによるその“Unlock”などのシングル曲を配した際の、アルバムとしてのスマートな佇まいの良さだ。とりわけ、アルバム中盤のインタールードとして置かれたT-SKのピアノ・ソロ“Ascertain”以降、そのT-SKやナーヴォと作り上げた珠玉のバラード“IT'S THE RIGHT TIME”から感動的な“Anchor”へ流れ込んで始まるドラマティックな後半の真摯な深みは素晴らしい。

 「作ってる段階の感覚では、シングルだからこういう曲にしようとか、アルバムだからこうしよう、みたいなのはないんですよ。そのタイミングごとに自分が歌ってみたい、踊ってみたいという気持ちを優先しているので。ただ、こうやって並べてみると、気持ちに軸があるからなのか、シングル曲もアルバムに入った時にまた新しい機能を果たしてくれていると思いますね」。

 翳りのある歌唱が染みるミッドの“Color Me Blue”、爆発的なスラップに遊び心と辛辣なメッセージを埋め込んだT-SK製のファンキー・チューン“Supa Dupa Paper Plane”とカラフルな楽曲がさまざまな彩りを生み出し、壮大なハイライトとなるのは“Testify”。こちらを手掛けたU-key zone(プロデュース/作曲)とMOMO "mocha" N.(作詞)はこれまで“Lullaby”や“The Answer”(共に2010年)といった名シングルを送り出し、直近の“Good Sign”(シングル“Anchor”のカップリング)まで大知と好相性を見せてきた名コンビだが、これはふたりの最高傑作とも言える出来映えだ。

 「個別に曲や詞をお願いはしてたんですけど、あのコンビでの曲は大好きなので今回はぜひお願いしたいって思って。ふたりのなかでは〈これは“Lullaby”超えだ!〉って喜んでたんですけど、アルバムにもピッタリはまる曲をいただけました」。

 

余裕ができた

 2005年にソロ・デビューして今年で28歳。少年時代から活躍してきた彼が10年かけて獲得しようとしてきたのは〈大人の表現〉だったとも言える。そう考えると現在の彼は、大人になったから大人であろうとする必要がなくなったのかもしれない。そう思えるほど『FEVER』でのフランクに肩の力を抜いた姿は、いつになく無邪気ですらあるようにも思える。

 「そうですね。“Supa Dupa Paper Plane”も〈Yeahじゃなくてジェーだね〉とか言いながら録ってたんですけど(笑)、そういう笑えるけどかっこいい感じも余裕があるから出てきたものですね。“FEVER”の〈sexy sexy sexy all night〉って、いまこんなの言う人いるかな?とか、“Welcome!”の〈君の事を知っているよ〉って言って初対面な感じとか、しょうもないことをいろいろやってるんですけど(笑)、自分のやりたいことにピュアになるのって、身軽になって余裕がないとできないと思いますし」。

【参考動画】三浦大知の2015年のシングル“music”のカップリング曲“I Remember”

 

 そういえば“music”のカップリング曲“I Remember”のMVに“パラシューター”のシングルが出てきたのも余裕の表れかもしれない。そんな境地から改めて10年という歳月を振り返ってもらった。

 「本当にベタなんですけど(笑)、皆さんがよく言う〈長いようで短い〉っていう感覚そのままで。いろんなことをやってきて年月としてはもちろん長いんですけど、楽しいことは早く過ぎるのと一緒で、体感としてはギュッと短かかったです。10年で5枚目のアルバムなんですが、自分は作品と同じようにライヴにも重きを置いているので、その両方に焦らず取り組ませてもらえたのはありがたかったですね。今回もリリース後すぐにツアーができて、もちろん作品だけでもバッチリなように作ってるんですけど、今回は特に〈ステージだとどんな感じになるんだろう?〉みたいに思う方も多いアルバムだと思うので、そこはまた違う感じで楽しんでいただけると思います!」。

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