INTERVIEW

fhána“ムーンリバー” 初めての挫折を経て再構築のタームへ、アニメ「有頂天家族」のエンディング飾る新シングルを語る

【特集:二次元以上。SPRING SPECIAL】Pt.3

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  • 2017.05.08

予想以上の反響を得たラプソディが見せてくれた次なる地平。初めての挫折を経て生まれ変わった歌声に乗って、バンドは再構築のタームへ――

 森見登美彦の小説を原作とするアニメ「有頂天家族」のエンディング・テーマ“ケセラセラ”で2013年にデビューしたfhána。それから4年近くを経て、彼らが同アニメの〈第2期〉のエンディングを彩るニュー・シングル“ムーンリバー”を完成させた。人に化けた狸と天狗、そして人間が共存する京都を舞台に、軽妙なタッチで〈家族の絆〉を描く物語へ宛てた楽曲の作曲者はyuxuki waga。11枚目のシングルにして、メイン・トラックの作曲をリーダーの佐藤純一以外が手掛けるのはこれが初の試みだ。

fhana ムーンリバー ランティス(2017)

 「アニメのキャラクターに、前作では完璧に見えた主人公の憧れの女性(天狗の神通力を得た美女、弁天)がいるんですけど、今回はいろいろと悩んでたり、泥臭い部分が見えてきたりして、前回とは違うイメージになっているんです。そこから、その人の葛藤を曲で表してほしいというリクエストで」(yuxuki)。

 「fhánaの曲は全部エモいと言えばエモいですけど、今回はよりラウドなものがいいだろうと。じゃあ曲はyuxuki君だねって(笑)」(佐藤)。

 「作り方も、いつもはだいたい作曲者がアレンジの指揮も執るんですけど、今回は俺が作った曲を佐藤さんがメインでアレンジしていて、そこもおもしろいかなと」(yuxuki)。

 そんなふうに、これまでとは異なる布陣で制作された“ムーンリバー”は、メランコリックなエレポップかと思いきや、サビでエモーショナルなバンド・サウンドへガラリと切り替わるドラマティックなミディアムに。

 「これは、ニュー・オーダーの“Krafty”方式ですね(笑)。Aメロ、Bメロがテクノっぽい打ち込みで、サビでは生バンドになるっていう」(佐藤)。

 「僕は、サビに至るまでのテクノっぽい部分でふわふわした感じの質感づけをしたり、曲が進んだところにサンプリング・フレーズを入れたり。いつもはもっといろんな音色を使うんですけど、アレンジの変化がわかりやすいように、この曲は抑え気味ですね」(kevin mitsunaga)。

 「歌は細かい技巧がたくさん入っているので(笑)、技術的には難しい曲だなあって」(towana)。

 「歌の調子が良かったんですよね。メロディーのアップダウンも、タラララって音階を上るところもそうですし、あとロング・トーンとか、声の伸びを楽しんでもらえればと思って、普段やってなさそうなことをいろいろと盛り込んでいます」(yuxuki)。

 そうしたtowanaの好調にはある理由が。それは、林英樹の綴る“ムーンリバー”の歌世界ともリンクするものだ。

 「去年の9月にポリープの手術をしたんです。だから、手術をしなければならなくなってしまった自分の状況と、この曲のキャラクターの〈初めて挫折を経験する〉みたいなところが重なるなと思って。完全復活した今となっては笑って話せるんですけど(笑)、1年ぐらい前からずっと調子が悪くて、言えないっていうのもストレスだったりして……この曲は、すごく気持ちをこめて歌えたと思います」(towana)。

 「歌詞は、挫折から立ち上がる……かどうかはアニメを観てのお楽しみなんですけど(笑)、女性の弱さと強さを表現してほしいっていうオーダーをして。towanaの喉のことともリンクする内容になったと思います」(yuxuki)。

 「あと、“ムーンリバー”の〈リバー〉は鴨川なんです。デビュー曲の“ケセラセラ”はドリス・デイの“Que Sera, Sera”(ヒッチコックの56年監督作『知りすぎていた男』の主題歌)からインスパイアされているんですけど、今回も昔の名曲から持ってきたいと思って。で、『ティファニーで朝食を』(ブレイク・エドワーズの61年監督作)の主題歌が“Moon River”っていうんですけど、ドリス・デイからオードリー・ヘップバーンっていうのはいいんじゃないか、歌詞には〈川〉も〈月〉も出てくるし……ってところでみんなに打診したら、ピッタリじゃんと(笑)」(佐藤)。

 

バンドは再構築のタームへ

 そして、2形態となった今作のうち、〈アニメ盤〉に収められるのは“ケセラセラ”の新アレンジ版。京都にちなんで〈先斗町Ver.〉と冠されているが……。

 「『有頂天家族』っていう作品とか、デビューの頃からのfhánaのファンの方により楽しんでもらえるような企画をやりたいと思って。最初は前回のツアーでやっていたジャズっぽい(笑)アコースティック・アレンジをちゃんとレコーディングしようっていう話だったんですけど、それよりもっとポップで、バンドで再現できるオーセンティックなものがいいなと思って、yuxuki君がメインでアレンジを固めていった感じです」(佐藤)。

 「ひとり一楽器縛りっていう。ライヴで完全再現できる状態にしてありますね。イメージ的に、大人っぽいバーでやってそうな感じっていうところで〈先斗町Ver.〉(笑)」(yuxuki)。

 一方の〈アーティスト盤〉には新曲の“Rebuilt world”を収録。作曲は佐藤で、kevinがアレンジを主導している。

 「欠点のない人が挫折して、そこから立ち上がる。それってある意味、〈再生〉とか〈再建〉みたいなテーマだと思うんですけど、“ムーンリバー”が〈感情〉のほうにスポットが当たっているとするならば、こちらは〈再生〉〈再建〉にスポットを当てた歌詞になっているっていう。ベースでミトさん、ミックスで益子樹さんに参加してもらっているんですけど、サウンドは“ムーンリバー”でバンドが入ってくるまでのテクノっぽい感じで最後まで作っています。MV撮影で京都に行ったとき、待機中にポーター・ロビンソンの“Shelter”の動画を観ていたんですよね。めっちゃ良いなって。この曲は、割とその勢いで作ったっていうのもありますね(笑)」(佐藤)。

 「僕はリーダーのディレクションに沿って音を作ったり、たまにオーダーにないものも入れてみて、〈どうですか?〉って聴いてもらったり。そのやり取りを繰り返して完成した感じです」(kevin)。

 アニメの世界観を表現しつつ、fhána自体の物語ともリンクしてきたこれまでの楽曲。“Rebuilt world”もまた、それらと同様の構造を持っている。

 「バンドとしては、“青空のラプソディ”の評判が予想以上に良かったことが大きいです。今まで見えてなかったものが見えてきたっていう、そういう意味での〈再構築〉。セカンド・アルバム(2016年作『What a Wonderful World Line』)とはまた違う、もっと広いところへ行きたいっていうのがあって」(yuxuki)。

 「確かに。趣味を全部盛りしたファースト・アルバム(2015年作『Outside of Melancholy』)以降はいろいろなフィードバックがあって、そうすると良いことだけじゃなく、悩みや苦しみも増えてくる。その苦悩、ある種の諦めみたいなものをテーマにしたのがセカンドだと思うんですよね。〈人と人とはわかり合えないからこそ、一周回って希望がある〉〈生きていることに意味はない。だからこそ、その意味を自分で作っていこう〉っていう、諦めから始まって、それを何とか希望へ繋げよう、奮い立たせようみたいな作りになっていて。それってつまり、自分自身の内面を掘る作業だったんですけど、その次のシングル“calling”では〈fhánaの使命は良い音楽を作って届けていくこと〉っていう再確認があって、“青空のラプソディ”では自分たちがどうこうというよりもみんなを楽しませようと、気持ちがものすごく外に向かって。だから、セカンド・アルバムが(〈中断〉や〈破壊〉という意味での)ブレイクだとしたら、今のfhánaは再構築されつつあるのかなってところですね。あと、作詞の林君は、〈“Rebuilt world”の歌詞は東日本大震災のときの空気を思い出しながら書いた〉って言っていて。電気も停まって真っ暗ななかで親しい人たちがSkype上に集まっていた、震災当時の不安定なあの空気感はfhánaが今のメンバーになって最初に発表した“kotonoha breakdown”に反映されているんですけど、“Rebuilt world”のシリアスさもそれに近い。だから“ムーンリバー”がメジャー・デビューから一回りだとしたら、“Rebuilt world”は結成から一回り。そういう曲なのかもしれないです」(佐藤)。

 そうした周期を経てより広い地平を見つめるようになったfhána。現在開催中のツアーはもちろん、今後の彼らの物語の一部を担うものだ。

 「今回はアルバムを引っ提げて新曲を披露するためのツアーじゃなくて、〈楽しんでもらう〉ということを第1に考えているツアー。なおかつ、単に〈楽しかったね〉でお終いじゃなくて、この経験がfhánaの次の作品へダイレクトに繋がっていくはずなので、ライヴに参加するというか、fhánaの物語を一緒に紡いでいってくれればと思います」(佐藤)。

fhánaの作品を一部紹介。

 


二次元以上。SPRING SPECIAL
[ 特集 ]音楽で楽しむ2017年春の2Dカルチャー

★Pt.1 久保ユリカ『すべてが大切な出会い ~Meeting with your creates myself~』
★Pt.2 MYTH & ROID『eYe's』
★Pt.4 Tom-H@ck×佐藤純一×太田雅友 特別鼎談
★Pt.5 Pile『Tailwind(s)』
★Pt.6 夏川椎菜“グレープフルーツムーン”
★Pt.7 芹澤優『YOU & YOU』
★Pt.8 ディスクガイド

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