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ゲイリー・バートンのラスト・コンサート ~「ゲイリーとの出逢いがなければ、今の自分はない」と語る小曽根真とのデュオを最後に~

小曽根真&ゲイリー・バートン Tour 2017, Final

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  • 2017.05.09

 2017年3月を持って、コンサート・ドロップアウト、演奏活動からの引退を宣言したヴィブラフォン奏者ゲイリー・バートンが、5月29日のかつしかシンフォニーヒルズを皮切りに日本での引退公演を行う。日本のジャズファンには、かつて名もないバークリーの新入生だった小曽根真の才能を入学当初から高く評価し、自身のグループのレギュラー・メンバーに招き入れ、プロフェッショナル、かつアーティステックな音楽家に育て上げた人として知られた音楽家である。今回その小曽根とのデュオを演奏活動の締めくくりに選んだ。この日本でのラストはゲイリー本人にとっても思い出深い公演として記憶されることとなるだろう。

 

 しかし、考えてみると彼の引退は、70年代のジャズを愛してきたファンだけでなく往年の洋楽ファンにとっても何か、ある時代の終わりの告知、の始まりのように映るかもしれない。というのも72年に初グラミー賞を射止めて以来、何度も受賞の栄誉に浴してきたゲイリーの音楽は、ファンキー、フリーが席巻していた60年代後半のジャズ界に、ポスト・ウッドストック的な熱を帯びたサウンドをもたらし、ポスト・ウッドストックのロック世代に、ジャズのクールサウンドを吹きかけたからだ。ゲイリーと彼の盟友の一人であるベーシスト/作曲家のスティーヴ・スワロウや、チャールズ・ロイド=キース・ジャレット、ポール&カーラ・ブレイ達は、60年代のジャズが、破壊と解放の中に見失った自由を、70年代にあのなんとも言えない、西海岸的、自由な空気感として再び蘇らせたジャズ・アーティストと言えるだろう。ゲイリーの『Alone At Last』(71年)に収録されたモントルーでのソロを聴くとき、そこから後のパット・メセニー達の世代に続く、吹っ切れた、いわゆるカルフォルニアの、サンフランシスコ的自由な風を、誰もが感じることができるのではないだろうか。さらにその後リリースされたチック・コリアとのデュオ『Crystal Silence』(73年)は、そうしたゲイリーの音楽を理想的な形で表現したアルバムとして高く評価されたと同時に、当時発足して間もないレーベルであったECMが標榜する”沈黙の次に最も美しいサウンド”を象徴する響きの一つとして世界中の音楽ファンの記憶に残った。

 改めて彼自身のソロアルバムや、小曽根、チック、キース・ジャレット、アストル・ピアソラといった音楽家と残してきた数々のアルバムを聴き直してみるとその涼しげな響きとは裏腹な、恐ろしいほどに進化した複雑極まりないマレットさばきに驚く。一体何本ものマレットを同時にさばいているのだろうか? そんな素朴な疑問がなんども過ぎる。かつてジャズ界が産んだ、誰もその領域に踏み入れることができない巨匠・天才と称されたピアニスト、アート・テイタムも、実際の演奏を見るまで、あのウラディミール・ホロヴィッツでさえもが、一人で演奏しているとは思わなかったという信じがたい逸話を思い出させる。ゲイリーは、ライオネル・ハンプトン、ミルト・ジャクソン、ボビー・ハッチャーソン達が築き上げたジャズ・ヴァイヴの世界を根底から更新したレヴェルのテクニシャンなのだ。おそらく即興のためだけにというよりは、ソロ楽器としての表現レヴェルの更新を彼は、そのキャリアを通じて考えていたのではないだろうか。

 そしてそのポテンシャルを十分に開花させたと感じた今だから、もう一人のヴィルトゥオーゾ小曽根真と一花咲かせて散るのだろうか。理由はともあれ最後となる今回の公演を聴きながら、あの時代のアメリカへの想いにまた一花を咲かせたいと、思う。

 


LIVE INFORMATION

小曽根真&ゲイリー・バートン Tour 2017, Final
○5/29(月)18:30開演 会場:東京/かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
○5/30(火)19:00開演 会場:山形/山形テルサ
○6/1(木)19:00開演 会場:大阪/いずみホール
○6/2(金)19:00開演 会場:福岡/福岡シンフォニーホール
○6/3(土)18:00開演 会場:松山/松山市民会館 大ホール
○6/5(月)19:00開演 会場:札幌/札幌コンサートホール Kitara
○6/8(木)19:00開演 会場:東京/東京オペラシティ コンサートホール
○6/9(金)19:00開演 会場:神奈川/神奈川県立音楽堂
○6/10(土)15:00開演 会場:川口/川口総合文化センター リリア
www.kajimotomusic.com/jp/concert/k=602/

 

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