INTERVIEW

菊地成孔が語る2017年の展望─TABOO主催の新イヴェントに見る、若手への信頼とシーンに対する問題意識、独自のレーベル運営論

TABOO LABEL PRESENTS HOLIDAY Vol.2 LADY’S PAY DAY

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  • 2017.05.24

〈HOLIDAY〉には、自分自身のショーケースみたいな側面もある

――第1回のステージで、「第3回まではもう決まっている」とMCしていましたよね。今後のイメージも、すでにある程度は固まっているんですか?

「ここまでR&Bやロック寄りのポップスが続いたので、やっぱりTABOOとしては、もう一つのレーベルの大義であるジャズをやろうと。トップクラスのスターである大西順子さんに、DC/PRGやダブ・セクステット周りの若い人に登場してもらってもいいだろうし。JAZZ DOMMUNISTERSがあるから、ヒップホップのターンもあるでしょうね。それに、ペペ・トルメント・アスカラールをやるときは、最近流行りのニュー・クラシックに焦点を当てたりとか。中島ノブユキさんや小田朋美さんのように、芸大を出てクラシックじゃない音楽をやっている人たちが近年活躍しているわけですけど、その多くがタンゴやラテン・ミュージックに興味があるわけですよね。ヴィラ=ロボスからカエターノ・ヴェローゾを経て、クラシック側の教養によって、ジャズ的なものとは異なる形でラテン音楽を更新していく。それがペペ・トルメント・アスカラールでやってきたことでもあるので。そういう音楽家をプレゼンする日があってもいい」

――それはおもしろそう!

「この〈HOLIDAY〉は、いろんなことをやってきた自分自身のショーケースみたいな側面もあって。その一方で、僕はさっさと前座でやっちゃって、本当に力がある若い人たちがヘッドライナーを務めるというふうに発展していけば理想的ですね」

JAZZ DOMMUNISTERS Cupid & Bataille, Dirty Microphone TABOO(2017)

――TABOOからはこのあと、JAZZ DOMMUNISTERSのセカンド『Cupid & Bataille, Dirty Microphone』が6月7日(水)にリリースされるんですよね。レコーディングも完了したそうですが、どんなアルバムになりましたか?

「かなりヤバイですよ。前作(『BIRTH OF DOMMUNIST』)を出したときも同じことを言ったけど、作った自分たちが腰を抜かすほどの完成度ですね。ヒップホップの場合は、いいビートメイカーがトラックを作って、いいラッパーをフィーチャーして、自分もいいリリックを書けば、それだけで最高なものが出来上がるので(笑)。あと大谷(能生)くんは、MC YOSHIO*O改め谷王という名前になっています(笑)。今回はナイト・アルバムになっていて、最近のヒップホップが失いがちだった〈夜遊び〉をテーマのひとつにしている。あとは、とにかくエロいですね。フランス式のエロさ。韓国だとヒップホップのなかにフレンチ・ポップの要素が入り始めていたりするんだけど、日本でそれをやると、変にオシャレになってしまう。そうじゃなくて、バタイユやサドのようにエロくて残虐な感じを取り入れていこうと。それに、ポエトリー・リーディングとアナウンスメントのカルチャーも。イルなフロウで気の利いたライミングっていうのは、『フリースタイルダンジョン』のものになっちゃってるから。あれってゲームの競技者としてのスキルなわけでしょ? 僕らはそうじゃなくて、いい声のやつがいいビートのうえで、いい詩をボソボソと読んでいる。2人共あまりラップはしていない(笑)」

――ボソボソとしたポエトリー・リーディングというのは、確かにフランスっぽいですね。

「そう、かなりフランス。そんな作品にMC漢が参加している」

――まったくフランス的でない人が(笑)。

「MC漢の導入によってイルな側面もあるし、BIMくん(THE OTOGIBANASHI’S)によってオシャレで若い側面もある。そこにICIもカムバックして。まぁICIは、JAZZ DOMMUNISTERSのアルバムが立ち上がるたびに生き返るんだけど(笑)。それに、前作をマスタリングしてくれたトム・コインが制作中に亡くなってしまったので、彼を追悼するポエトリーに、オリヴィエ・メシアンみたいなオルガンが乗っかった曲もあります。だからヒップホップらしからぬ作品というか、MC漢のラップしている16小節だけがヒップホップというか(笑)。シリアスで重くてエロい、ほとんどの人が想像しているものとは違うものが出来上がったと思います」

※ア・トライブ・コールド・クエスト、デ・ラ・ソウルからアデルまで手掛けたマスタリング・エンジニアの巨匠。2017年4月12日に死去

――今回の話を踏まえて、レーベルの展望についても聞かせてください。

「もう来年いっぱいは、市川愛やオーニソロジーなどで予定が固まっておりまして。あとはショーケース・アルバムを作ろうかなと。ガンダム(サントラの続編)も秋~冬にかけて出る予定です。それと同時に、これから〈HOLIDAY〉でも宣伝していくつもりですが、『TABOOは常に新人を募集しています』というスタンスを前面に出していこうかなと。レーベルの活性化という意味でもね。メジャーが絡んできちゃうと、〈やりたいこともできずにポイされるんじゃないの?〉と不信感を抱く人もいるかもしれないけど、TABOOはそういうことはしませんので。自分が向いていると思った人は、ぜひ連絡してほしい」 

――最後に余談で、菊地さんは最近の音楽について、どういったあたりに興味があるのでしょう?

「最初に話したように、今は世界的に音楽産業がヤバイことになっていて。でも、寒流のほうが魚に脂が乗るのと同じで、芸術っていうものは国情が不安定なときほど輝くわけです。2016年は相当悪い年だったと思うし、2017年も半分近く終わったけど、まだ引きずっている感じがしますよね。そのなかで選盤家/DJとしては、2016年の新譜はどれも良かったと思うんですよ。とにかく百花繚乱で、洋楽/邦楽やジャンルを問わないどころか、ウズベキスタンやケニアからも名盤が届いた年で。トルメキスタンのヒップホップに、ロシアのR&Bとか。ロシアのR&Bってなんだよと思われそうだけど。〈寒くないの?〉みたいな(笑)」

――ハハハハ(笑)。

「極論を言うと、世界的にどの音楽も全部いいんですよ。それなのに音楽産業がヤバイという。だから最近は、音楽産業をどうするかがテーマになりがちだけど、音楽自体はあまりにも良くなっちゃって。アリアナ・グランデもいいし、地下アイドルやアンダーグラウンド・ヒップホップもそれなりにいいし、オーバーグラウンダーも全部いい。もう悪いアルバムなんてねえよって(笑)。逆に言うと、音楽性の話に絞れば、今はハイ・クォリティーのインフレ化が起こっているんだよね。少しアカデミックな話をすると、例えば和声進行の定番があって。Suchmosの一番売れてる曲(“STAY TUNE”)は、DC/PRGの“MIRROR BALLS”と同じコード進行で、あれは誰でも使うお決まりのパターンなんですよ。でも、それが出てくるまでのサビの部分も上手く作っちゃうと、前菜美味しい、パスタ美味しい、メインが美味しい、デザートも美味しいみたいな、守りも攻めも堅い店になっちゃう(笑)」

――あー、わかります。

「そこで僕の研究結果によれば、意識高い系の人たちがどう克服しているのかというと、わざと少し冗長にしているみたいですね。和声にベースライン、メロディーと、音楽は動体だから必ず動いていくんだけど、動いた瞬間に〈あんまり気持ち良くないんだけど……〉っていう状態をあえて入れておく。それから気持ちいいサビに移ったほうが、完璧な状態からサビに行くよりも美味しいんですよね。

これは(セルゲイ・)エイゼンシュテインが最初に言ったんだけど、20世紀の芸術においては、錦の御旗として〈冗長性の排除〉というのがあった。19世紀までの芸術には冗長性があったけど、20世紀に入ると、〈アリアを聴くためにオペラを一幕金払って聴くなんてかったるいよ〉〈アリアだけ集めたCDがほしい〉と、冗長性を排除しながらどんどん情報を圧縮していった。そして、現在のポップ・ミュージックは〈ダウンロードしても聴かない〉という状態に辿り着いてしまったと。だから、次のポップスにキーワードがあるとしたら、〈冗長性の復権〉だと思いますね。大サビに定番のコード進行を使うのは仕方がない。定番を細かくいじったりするのは20世紀にやり尽くしている。そこで、〈すっきりしねえなぁ〉という数小節をどう入れるか。ブルー・ノート(・スケール)と一緒で、最初は気持ち悪く思われても、そのうち欠かせないものになるはずで。それがコンポジション・スキルのエッジになっていくんじゃないかな」

 


TABOO LABEL PRESENTS HOLIDAY
Vol.2 LADY’S PAY DAY

日時:2017年5月31日(水)
会場:東京・代官山UNIT
出演:市川愛、ものんくる、けものwith菊地成孔
開場/開演:18:30/19:00
料金:2,500円(1D別)
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菊地成孔ダブ・セプテット
日時:2017年6月3日(土)、4日(日)
会場:Motion Blue yokohama
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JAZZ DOMMUNISTERS
feat. 漢aka GAMI / OMSB / BIM / I.C.I
日時:2017年6月11日(日)
会場:東京・代官山UNIT
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