菊地成孔が率いる自主レーベル、TABOOがレギュラー・ライヴ・イヴェント〈HOLIDAY〉をスタート。今年3月に〈Gentleman’s PAY DAY〉と題して開催された第1回では、菊地のソロとオーニソロジー、WONKの3組が出演し、大盛況のうちに幕を閉じた。 2013年に設立されたTABOOは、菊地のバンドによる諸作に加えて、女優の菊地凛子によるRinbjö名義での『戒厳令』(2014年)、大西順子の復帰作『Tea Times』、菊地が手掛けた「機動戦士ガンダム サンダーボルト」サントラ(共に2016年)といった話題作をリリース。それらと並行して、ものんくる『南へ』(2014年)のように、シーンの明日を担う若手を発掘してきた。

レーベル側のインフォによると、〈HOLIDAY〉のコンセプトは、大人向きの価格帯/内容が固まりつつある菊地のマーケットを若返らせるべく、注目のニューカマー中心に低料金(前売り2,500円!)で3バンドを提供すること。5月31日(水)に行われる第2回の〈LADY’S PAY DAY〉は、前回に続いて東京・代官山UNITを会場とし、ものんくる、けもの、市川愛の3組が登場。平仮名の2組は、菊地のプロデュースによるニュー・アルバムの発表を今夏に控えており、これから注目度が高まることは間違いなさそうだ。近年、ジャズが時代のキーワードとして再浮上しているなか、菊地は音楽家/レーベル・オーナーとして、シーンの動きをどのように捉えているのか。イヴェントの開催意図とTABOOの展望、若手ミュージシャンへの想いについて、本人に話を訊いた。

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僕のことを知らない人たちに、若くて優秀な方たちを紹介したい

――そもそも〈HOLIDAY〉を立ち上げようと思ったのは、どういう経緯があったんですか?

「そんなに複雑で高邁な理由があるわけでもなく(笑)、これは各ジャンルのミュージシャンが共有している問題だと思うんですけど、SpotifyやHuluだのに代表されるサブスクリプションの登場もあって、プロダクツとしてCDが売れないので。僕は何一つやってないし、未だにレコ屋に行ってるんでよくわからないですけど(笑)。あとTABOOというのは、もともと僕の作品を出すだけではなくて、若い人を発掘するという側面もあって。他ではやらないような、僕が自信を持ってレコメンドできる人たちを紹介してきたわけです。それに、どうしてもジャズのレーベルだと思われがちだけど、実際のタイトルを見渡すとヒップホップもあれば、ポップスもある。レーベルとしては雑食で、むしろジャズは少ないんですよね。大西順子さんの復帰作と自分の作品くらい」

――そうなんですよね。

「で、今日のレーベル(の在り方)について簡単に言うと、Suchmosの成功に代表されるように、インディーで自分たちの好きなようにやって、商業的なプライズやフェイムも得てしまう、というのがクールでスマートとされている。別にdisるわけじゃないけど、〈長いものには巻かれろ〉でメジャーから作品を出すことの価値が揺らいでいると思うんですよ。上がっているか下がっているかではなくて、揺らいでいる。というのは、これまではインディーである程度行ったその先にメジャーがあって。インディーがよしんばメジャーを追い越したところで、それは事故的なことであって、一般的なことではないとされてきた。それが今では、(インディー主導でも)一般性を持つ見通しが出てきている。まあ、Suchmosは極端な例ですけど」

――なるほど。

「僕らTABOOはソニー傘下なので、どう振る舞うべきかを常に考えていて。メジャー・カンパニーのなかにインディー・レーベルとして、ビュロー菊地がTABOOを持って、プロモーションから何まで自由にやったほうが上手くいくんじゃないか。そんな見通しも、一般論として成り立ちそうな時代になっているわけですよ。そんななか、古いのか新しいのかよくわからないけど(笑)、レーベルのアーティストをショーケース形式で、非常に安価なプライスで提供していこうと。会場の代官山UNITは、僕が(メインアクトで)イヴェントを開けばすぐ満杯になるくらいのキャパですが、そうではなくて、僕のことを知らないような人たちに、若くて優秀な方たちを紹介したい。そのためにも、ライヴ・イヴェントをシリーズ化するのが手っ取り早いんじゃないかと考えたわけです」

――2013年のTABOO設立に当たって、菊地さんが寄せたコメントのなかにも〈ワタシのモチベーションをバッキバキにクソ上げまくっているのは、若く優秀な新人達です〉とありましたよね。そのように若い人たちをプッシュしたいという意欲は、どこから沸いてくるものなのでしょう?

「今は若い人たちにとって、厳しい時代のように映るんですよ。僕がラクをしてきたとは決して言いませんが(笑)、僕らの世代というのは、生まれたのが高度成長期で、成人する頃がバブルの真っ最中。金は天下の回り物で、躁病的というか、何をやっても上手くいった。日本の戦後は基本的に不景気ベースですけど、そのなかでも気が狂ったような高景気を迎えたときに、人生のインパクトが訪れてしまった世代なんですよ。だから、本当のことを言うと、苦労してがんばっている人たちの気持ちがわからない」

――というと?

「ひとりでテクノを作ってるメンヘラの女の子とか、とんでもないビートを作ってるヒップホップの子とか、実力がある人も多いのに、がんばってみたところでSoundCloudでちょっとバズって終わり。そこで文句を言われたりすると、〈もう鬱です、しばらく作品作るの休みます〉みたいな(笑)。今はそういう才能の在り方が点在しちゃってますよね。(軸が)太くてしっかりしているのはアイドルくらい。メジャー・カンパニーでさえも、脅威の新人が出てきて売れまくるという状況をしばらく見ていない気がする。そういう状況下でも、確実に優れている若い人たちはいるんですよ。

この間、MC漢さん(漢 a.k.a. GAMI)と話したんだけど、〈とにかく若い子がスキルフル過ぎて、とてもじゃないけど敵わない〉って。彼は『フリースタイルダンジョン』にも出演しているでしょ。僕より15歳くらい若いんだけど、その漢さんですら、高校生のラップが達者すぎることに呆れ返っている。そこで僕は言ったんです、〈ジャズもまったく同じです〉って。とてつもなく上手い人たちがたくさん台頭している。だけど、若い彼らには仕事がない。そこで54歳を迎えた音楽家としては、美魔女みたいに〈まだまだ若いですよ〉と歌ったり演奏したりもできますけど(笑)、それより後続のミュージシャンを紹介することで、シーンを活性化したいという思いがあって」

――イヴェント出演やレーベル運営を通じて、若手をフックアップしようと。

「僕はもう散々やりたいことをやってきたし、自分の活動もだいたい認知されていますし。桑田佳祐さんみたいに日本国民が全員知ってるとか、そんなの別になりたくもないし(笑)。今ぐらいで十分だから、それよりも音楽の〈the Son〉が大事というか。私に子どもはいませんけれど、自分のレーベルから新しい才能が出てきて、それが売れたら嬉しいですよね。たださっきも言ったように、僕は苦労してデモ・テープを作って、手売りでがんばって……というふうにやってきたわけじゃない。なんとなく最初からメジャーで、気がついたらインパルスと契約しちゃってたし(笑)。だから苦労している若い人を見ても、兄貴分の先輩みたいに〈お前らの気持ちわかるよ〉なんてシンパシーを抱くことはできないんですよ。むしろ、それでいいかなって。〈俺は全然苦労していないけど、君たちがんばってね〉って(笑)。そうやってフックアップしつつ、僕も彼らから若さをもらいたい。自分がバンドをやるときは若い人材をピックアップする。僕は50代、サイドマンはみんな20代。それはマイルス・スタイルですよね」

――そうですね。

「あと自分は、音楽家としては癖が強いほうだと思うけど(笑)、選曲家としてはそうでもないというか。ラジオ(『菊地成孔の粋な夜電波』)を聴いている人で、〈菊地の番組って、よくわからない変な音楽ばかりかかるよね〉と思ってる人はいないはず(笑)。表現者としては少しツイストしているけど、聴き手としてはちゃんとしている自負がある。そんな僕がプロデュースしているのだから、きっと良い音楽だろうと。そういう信頼も、若い人に持っていただきたいですね。もっと簡単に言うなら、音楽産業の今後のために、ユースがもう少し音楽を買ったり聴いたりするようにしていきたい。

最近はブロックバスター式というか、何かドッカーンって売れたら、あとは同じようなものばかりになっていくじゃないですか。それに今だと、〈Suchmosに似た音楽〉みたいに検索すると選曲してくれるサービスもあって、それで一晩くらい気持ち良く浸れちゃう(笑)。そういう時代だからこそ、もっと生々しくてアーティスティックな音楽を届けていこうと。それは奇矯で病的であるべきってことではなく、スムースで心地良いものを提供するのがアーティストの使命なのだと、改めてもう一度プレゼンしたいわけです。大きく言うと、それが〈HOLIDAY〉の開催意図ですね」

――それで〈HOLIDAY〉は、Real Soundにアップされた菊地さんのコメント動画によると、気軽に足を運べるチケット料金、隔月開催で毎回3組出演、出演者は自分のレーベル以外からも呼ぶという3点を決め事にしているんですよね。それらを踏まえつつ、3月に開催された前回の〈Gentleman’s Pay Day〉で、オーニソロジーとWONK、それに菊地さんのソロというラインナップを組んだ意図を教えてください。

「まぁ1回目だから自分が出なきゃかなということで、僕がニューチャプター形式のソウル、ヒップホップ/R&Bみたいなのをやっている〈菊地成孔ソロ〉をメインアクトに据えて。オーニソロジーは、おそらく来年TABOOからリリースすることになりそうです。(中心人物の)辻村泰彦くんはTABOOに直接応募してくれた奈良の人で、デビューのために上京してきたんだけど、シンガー・ソングライターとして非常に優れているのでプロデュースしたいなと。そんなオーニソロジーの、バンド編成による東京でのデビュー・ライヴになりました。リズム・セクションはDC/PRGの新しく加入したメンバー※がやってくれて、演奏もとても良かった。で、この回の(レーベル外部の)客人はWONKのみなさん」

※近藤佑太(ベース)と、showmoreのメンバーである秋元修(ドラムス)

オーニソロジーの2015年の楽曲“エレタメモア”
 

――WONKに対しては、どんな印象を抱いてます?

「日本は韓国や欧米と違って、ニューチャプター形式というか、R&Bを生演奏でやるバンド、いわゆる〈Black Radio型〉のオーバーグラウンダーがいないんですよね。韓国の音楽シーンはそのあたり経由しているし、アメリカは言うまでもないし、ほかにいろんな国の音源を聴いてみても、作曲はロバート・グラスパー、ドラムはクリス・デイヴみたいになってきている。そういうのが通過儀礼というか、一種のトレンドとなっているんだけど、日本ではどういうわけか(メジャーで)出てこない。EXILEがジャズ部を立ち上げて、『Black Radio』みたいなアルバムを出したら尊敬しますけど(笑)。おそらく、ニューチャプターみたいなスティッキーというか粘る音楽性が、Suchmos的な爽やかさとコンフリクトするのかな。だから飛ばすし、ガラパゴスでトレンドはやらない。昔はそんなことなかったですよね。アメリカが風邪をひけば日本はクシャミしていた。ファンクにソウル、ヒップホップと、アメリカで流行ればその都度取り入れてきたのが、なぜかグラスパー周辺だけはスポッと抜け落ちている。そこを真摯に追求しているのがWONKで、そういった感覚が体質化している世代のプレイヤーが揃っているのがオーニソロジーだと思います」

――そのニューチャプター形式を、菊地さんのソロでも採用していると。アーバンなR&B/ヒップホップからスティーヴ・コールマンの再解釈まで、幅広い曲調が印象的でした。

「この間のライヴでは、Yasei Collectiveの松下マサナオくんがドラムを叩いてくれましたけど、彼も基本スキルがニューチャプター以降ですよね。ニューチャプター以降のソングライテイング、ヒップホップを経由したドラム、ジャズをベースにした演奏スキルなど、若くて優秀な人はいっぱいいる。だからこそ、そういう人たちの演奏で、気持ちいい曲を聴くという経験をもっと提供していくべきなのかなと。誰もやらないなら、俺がやるかって(笑)」

Yasei Collective が今年5月にリリースしたニュー・アルバム『FINE PRODUCTS』収録曲“HELLO”
 

――松下さんも最近は各方面に引っ張りだこですが、菊地さんのソロで叩くとは思わなかったので、ライヴ当日はビックリしました。

「今、日本のジャズ・ドラムは石若駿の時代ですよね。僕がプロデュースしているアルバムでも、けもの、ものんくるの両方で彼が叩いているし※、(起用のされ方が)スティーヴ・ガッドみたいになっている(笑)。でも、(92年生まれの)石若くんの前後の世代には、彼に近いレヴェルのドラマーが結構いるんですよ。DC/PRGに入ってくれた秋元(修)くんは石若くんの一つ上で、石若くんも彼のプレイには注目しているみたい。そういう20代前半に集中している、クリス・デイヴ以降のスキルが体質化した若い子たちはすごい票田なんですよ。音楽の変わり目っていうのは、やっぱり世代交代が起こったときで。フュージョンが出てきたときも、ポンタさん(村上“PONTA”秀一)などが出てきて、それまで4ビートとラテンが叩ければジャズ・ドラマーだとされてきた人たちの首を刈ったんだよね。その粛清を潜り抜けた人だけが(第一線で)やっていけた。

で、松下くんは僕から見たら若手だけど、石若くんに比べたら年上ですよね。まあ僕がソロをやるとなって、ラッパーでOMSB、歌で吉田沙良さん(ものんくる)や市川愛さんとかが参加しているわけで、〈一緒にやんない?〉と声をかけたら誰でもやってくれるんで(笑)。今は優秀なプレイヤーがたくさんいるから選り取り見取りというか、できることなら全員とやりたいくらい。毎回ドラマーを代えることで、演奏する曲は一緒だけどグルーヴが変わる、そういう贅沢なこともできる時代なんですよ。もちろん、スケジュールありきの話でもありますけど、それで今回は松下くんだったという感じですね」

※けものは青羊(あめ)のソロ・ユニットで、石若は前作『LE KEMONO INTOXIQUE』(2013年)にも参加。青羊はヴォーカリストとして、石若のソロEP『Songbook』(2016年)に1曲参加している

 

 

ハッキリ言って、出演者の水準はメチャクチャ高い

――オーニソロジーにWONKと若い男子が集まった初回に続いて、5月の第2回となる〈LADY'S PAY DAY〉ではイヴェント名の通り、市川愛さん、ものんくる、けものと女性がフロントを務める3組が登場します。まず今回、菊地さんの出番はどうなりそうですか?

「けものwith菊地成孔として、青羊さんのバックで出演します。僕はプロデューサーとしては、自分の趣味で全部作っちゃうタイプではないんですよ。どちらかというと何もしない型で、スタジオに行って〈やってるやってる〉と聴いて、〈いい調子だね〉と伝えたら帰っちゃう(笑)。ポスト・プロダクションとか、この曲カヴァーしてくれとか、そういう方向性は決めるけど、一曲一曲に〈ここはこうで〉という指示はしない。で、けものも任せっぱなしにしたら、向こうから要請が来た(笑)。彼女の新しいアルバムでは、僕がサクソフォンで3曲、デュエットで3曲とガッツリ携わっていますが、思いのほか出来が良くなって。それで今回のライヴも(出演時間は)50分くらいだし、6曲に参加したら(セットリストの)ほぼ全部に参加することになるから、せっかくだし一緒に歌ったりサックス吹いたりしようかなと」

けものの2013年作『LE KEMONO INTOXIQUE』収録曲“Fish京子ちゃんのテーマA”
 

――第1回でも、オーニソロジーやWONKの演奏に飛び入りされていましたし、今回も忙しくなりそうですね。

「まあいずれは、僕は司会として〈次のバンドはこういうバンドです〉とMCだけして引っ込んでいくようにしたいんですけどね(笑)」

――お話に出たように、ものんくる、けものは菊地さんがプロデュースした新作も控えているんですよね※。

※ものんくる『世界はここにしかないって言って』が7月12日、けもの『めたもるシティ』が7月19日にそれぞれリリース

「ハッキリ言って、音楽の水準はメチャクチャ高いです。僕のプロデュース作としては、けものが今度出るアルバムで2枚目、ものんくるが3枚目と長い付き合いで。どちらもポップスの世界では決して若いとは言えないけど、今ちょうど(レヴェルが)上がっているところなんですよ。だから、ぜひ新作を聴いてみてほしい」

――(取材時点で)どちらの新作も、間もなく完成しそうなんですよね?

「そうですね。ちょっと前までJAZZ DOMMUNISTERS、けもの、ものんくる、ガンダム(『機動戦士ガンダム サンダーボルト』サントラの続編)を4枚同時並行で進めていて、〈死ぬかな?〉ってヤバさでしたけど(笑)、やっと収束して。これは選曲家として言いますけど、どれも内容的には欧米や韓国にまったく引けをとらないクォリティーになっています」

――今回のイヴェントは、そんな新作からのナンバーがいち早くお披露目される機会になりそうですね。市川愛さんはどうでしょう?

「彼女は長いことジャズ歌手をやられていて、バイリンガルだから英語でジャズ・スタンダードを歌っていたんです。それなのに、JAZZ DOMMUNISTERSのレコーディングに顔を出したことで、ひょんなことからラッパー・デビューすることになって。I.C.Iという、〈リアルな初音ミク〉みたいなキャラクターを確立するという(笑)。僕はジャズ歌手としての市川さんにはノータッチで、I.C.Iのときだけ面白半分に楽しくやっていたんです。でも、そんな市川さんが、このたびジャズ歌手をきっぱりお辞めになるというか、転向されるんですね」

I.C.I がフィーチャーされたJAZZ DOMMUNISTERSの2013年作『BIRTH OF DOMMUNIST』収録曲“XXL”
 

――今後はどのような方向に?

「彼女の神様は、浜田真理子さんなんですよ。大雑把に言うと70年代のシティー・ポップ、日本語のAORとかフォーク系が好きなんですって。ちなみに、けものの新作もAORやシティー・ポップに向かっていて、ジャズ色がまったくないんですよ。頭のおかしいメンヘラのシティー・ポップというか」

――それは興味深い(笑)。

「でも、市川さんは全然病的な人じゃないですし、スタイルやルックスはもちろん歌声も素晴らしい。そんな彼女から〈これからは、こういうのをやっていきます〉と、日本語で歌ったデモ・テープをもらったんですよ。1曲は浜田真理子さんが市川さんのために作った曲で、もう1曲は市川さんのオリジナル。それがあまりにも良くて、すぐにTABOOから出しましょうと伝えました。まだ亀の歩みではありますけど、来年か再来年にソロ・アルバムをリリースするつもりです」

――じゃあ市川さんは、今回もそういう路線のライヴになるんですか?

「そうなりますね。あとは僕が作ったデュエット用の曲もやりますし、今後の方向性をプレゼンするものになるかなと。で、ものんくるは、ホーンがたくさん入ったビッグバンドではなくて、普通のバンド形式です。いわゆるスティーリー・ダン・スタイルですね。中心に(角田隆太と吉田沙良の)2人がいて、実力派のミュージシャンがガッチリ脇を固めて、難しい曲を大変なスキルで演奏していくという。しかも、(吉田の)歌もクソ上手いし、ソングライテイングも物凄く巧み。ものんくるが狙っている(リスナーの)射程はすごく貪欲なんですよ。今は彼らが一番ヘルシーに貪欲ですね」

市川愛の今年4月のライヴ映像
 
ものんくるの今年3月のライヴ映像
 

「それに比べると、けものは高等遊民(笑)。金やフェイムがほしいというより、自分の世界をやれればいいっていう。青羊さんは漫画が大好きなんですよ。ラッパーで言うところの元ネタが漫画なの。一昔前だと、シティー・ポップと漫画は相容れなかったじゃないですか。でも、今のオシャレ女子は漫画も読みますよね。とっくの昔に、漫画は〈オタクの読む汚らしいアイテム〉ではなくなっている。そういう感受性の在り方、漫画好きがシティー・ポップをソウルフルにやるキャラとして、青羊さんが自己更新されると。市川さんも自己更新されるし、ものんくるもサウンド的に自己更新する。その3つを束ねて、2回目の〈HOLIDAY〉をやります」

――華やかなイヴェントになりそうですね。

「そうですね、これが当レーベルの実力ですって感じで(笑)。どのバンドも熱狂的な太いファンを持っているので、その人たちにも一同に集まってもらって。あとはドワンゴさんとのシェイクハンドで、前回に続いてニコニコ生放送で中継もします※」

※当日は、ビュロー菊地のニコニコ動画アカウントにて生中継

 

〈HOLIDAY〉には、自分自身のショーケースみたいな側面もある

――第1回のステージで、「第3回まではもう決まっている」とMCしていましたよね。今後のイメージも、すでにある程度は固まっているんですか?

「ここまでR&Bやロック寄りのポップスが続いたので、やっぱりTABOOとしては、もう一つのレーベルの大義であるジャズをやろうと。トップクラスのスターである大西順子さんに、DC/PRGやダブ・セクステット周りの若い人に登場してもらってもいいだろうし。JAZZ DOMMUNISTERSがあるから、ヒップホップのターンもあるでしょうね。それに、ペペ・トルメント・アスカラールをやるときは、最近流行りのニュー・クラシックに焦点を当てたりとか。中島ノブユキさんや小田朋美さんのように、芸大を出てクラシックじゃない音楽をやっている人たちが近年活躍しているわけですけど、その多くがタンゴやラテン・ミュージックに興味があるわけですよね。ヴィラ=ロボスからカエターノ・ヴェローゾを経て、クラシック側の教養によって、ジャズ的なものとは異なる形でラテン音楽を更新していく。それがペペ・トルメント・アスカラールでやってきたことでもあるので。そういう音楽家をプレゼンする日があってもいい」

――それはおもしろそう!

「この〈HOLIDAY〉は、いろんなことをやってきた自分自身のショーケースみたいな側面もあって。その一方で、僕はさっさと前座でやっちゃって、本当に力がある若い人たちがヘッドライナーを務めるというふうに発展していけば理想的ですね」

JAZZ DOMMUNISTERS Cupid & Bataille, Dirty Microphone TABOO(2017)

――TABOOからはこのあと、JAZZ DOMMUNISTERSのセカンド『Cupid & Bataille, Dirty Microphone』が6月7日(水)にリリースされるんですよね。レコーディングも完了したそうですが、どんなアルバムになりましたか?

「かなりヤバイですよ。前作(『BIRTH OF DOMMUNIST』)を出したときも同じことを言ったけど、作った自分たちが腰を抜かすほどの完成度ですね。ヒップホップの場合は、いいビートメイカーがトラックを作って、いいラッパーをフィーチャーして、自分もいいリリックを書けば、それだけで最高なものが出来上がるので(笑)。あと大谷(能生)くんは、MC YOSHIO*O改め谷王という名前になっています(笑)。今回はナイト・アルバムになっていて、最近のヒップホップが失いがちだった〈夜遊び〉をテーマのひとつにしている。あとは、とにかくエロいですね。フランス式のエロさ。韓国だとヒップホップのなかにフレンチ・ポップの要素が入り始めていたりするんだけど、日本でそれをやると、変にオシャレになってしまう。そうじゃなくて、バタイユやサドのようにエロくて残虐な感じを取り入れていこうと。それに、ポエトリー・リーディングとアナウンスメントのカルチャーも。イルなフロウで気の利いたライミングっていうのは、『フリースタイルダンジョン』のものになっちゃってるから。あれってゲームの競技者としてのスキルなわけでしょ? 僕らはそうじゃなくて、いい声のやつがいいビートのうえで、いい詩をボソボソと読んでいる。2人共あまりラップはしていない(笑)」

――ボソボソとしたポエトリー・リーディングというのは、確かにフランスっぽいですね。

「そう、かなりフランス。そんな作品にMC漢が参加している」

――まったくフランス的でない人が(笑)。

「MC漢の導入によってイルな側面もあるし、BIMくん(THE OTOGIBANASHI’S)によってオシャレで若い側面もある。そこにICIもカムバックして。まぁICIは、JAZZ DOMMUNISTERSのアルバムが立ち上がるたびに生き返るんだけど(笑)。それに、前作をマスタリングしてくれたトム・コイン※が制作中に亡くなってしまったので、彼を追悼するポエトリーに、オリヴィエ・メシアンみたいなオルガンが乗っかった曲もあります。だからヒップホップらしからぬ作品というか、MC漢のラップしている16小節だけがヒップホップというか(笑)。シリアスで重くてエロい、ほとんどの人が想像しているものとは違うものが出来上がったと思います」

※ア・トライブ・コールド・クエスト、デ・ラ・ソウルからアデルまで手掛けたマスタリング・エンジニアの巨匠。2017年4月12日に死去

――今回の話を踏まえて、レーベルの展望についても聞かせてください。

「もう来年いっぱいは、市川愛やオーニソロジーなどで予定が固まっておりまして。あとはショーケース・アルバムを作ろうかなと。ガンダム(サントラの続編)も秋~冬にかけて出る予定です。それと同時に、これから〈HOLIDAY〉でも宣伝していくつもりですが、『TABOOは常に新人を募集しています』というスタンスを前面に出していこうかなと。レーベルの活性化という意味でもね。メジャーが絡んできちゃうと、〈やりたいこともできずにポイされるんじゃないの?〉と不信感を抱く人もいるかもしれないけど、TABOOはそういうことはしませんので。自分が向いていると思った人は、ぜひ連絡してほしい」 

――最後に余談で、菊地さんは最近の音楽について、どういったあたりに興味があるのでしょう?

「最初に話したように、今は世界的に音楽産業がヤバイことになっていて。でも、寒流のほうが魚に脂が乗るのと同じで、芸術っていうものは国情が不安定なときほど輝くわけです。2016年は相当悪い年だったと思うし、2017年も半分近く終わったけど、まだ引きずっている感じがしますよね。そのなかで選盤家/DJとしては、2016年の新譜はどれも良かったと思うんですよ。とにかく百花繚乱で、洋楽/邦楽やジャンルを問わないどころか、ウズベキスタンやケニアからも名盤が届いた年で。トルメキスタンのヒップホップに、ロシアのR&Bとか。ロシアのR&Bってなんだよと思われそうだけど。〈寒くないの?〉みたいな(笑)」

――ハハハハ(笑)。

「極論を言うと、世界的にどの音楽も全部いいんですよ。それなのに音楽産業がヤバイという。だから最近は、音楽産業をどうするかがテーマになりがちだけど、音楽自体はあまりにも良くなっちゃって。アリアナ・グランデもいいし、地下アイドルやアンダーグラウンド・ヒップホップもそれなりにいいし、オーバーグラウンダーも全部いい。もう悪いアルバムなんてねえよって(笑)。逆に言うと、音楽性の話に絞れば、今はハイ・クォリティーのインフレ化が起こっているんだよね。少しアカデミックな話をすると、例えば和声進行の定番があって。Suchmosの一番売れてる曲(“STAY TUNE”)は、DC/PRGの“MIRROR BALLS”と同じコード進行で、あれは誰でも使うお決まりのパターンなんですよ。でも、それが出てくるまでのサビの部分も上手く作っちゃうと、前菜美味しい、パスタ美味しい、メインが美味しい、デザートも美味しいみたいな、守りも攻めも堅い店になっちゃう(笑)」

――あー、わかります。

「そこで僕の研究結果によれば、意識高い系の人たちがどう克服しているのかというと、わざと少し冗長にしているみたいですね。和声にベースライン、メロディーと、音楽は動体だから必ず動いていくんだけど、動いた瞬間に〈あんまり気持ち良くないんだけど……〉っていう状態をあえて入れておく。それから気持ちいいサビに移ったほうが、完璧な状態からサビに行くよりも美味しいんですよね。

これは(セルゲイ・)エイゼンシュテインが最初に言ったんだけど、20世紀の芸術においては、錦の御旗として〈冗長性の排除〉というのがあった。19世紀までの芸術には冗長性があったけど、20世紀に入ると、〈アリアを聴くためにオペラを一幕金払って聴くなんてかったるいよ〉〈アリアだけ集めたCDがほしい〉と、冗長性を排除しながらどんどん情報を圧縮していった。そして、現在のポップ・ミュージックは〈ダウンロードしても聴かない〉という状態に辿り着いてしまったと。だから、次のポップスにキーワードがあるとしたら、〈冗長性の復権〉だと思いますね。大サビに定番のコード進行を使うのは仕方がない。定番を細かくいじったりするのは20世紀にやり尽くしている。そこで、〈すっきりしねえなぁ〉という数小節をどう入れるか。ブルー・ノート(・スケール)と一緒で、最初は気持ち悪く思われても、そのうち欠かせないものになるはずで。それがコンポジション・スキルのエッジになっていくんじゃないかな」

 


TABOO LABEL PRESENTS HOLIDAY
Vol.2 LADY’S PAY DAY

日時:2017年5月31日(水)
会場:東京・代官山UNIT
出演:市川愛、ものんくる、けものwith菊地成孔
開場/開演:18:30/19:00
料金:2,500円(1D別)
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菊地成孔ダブ・セプテット
日時:2017年6月3日(土)、4日(日)
会場:Motion Blue yokohama
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JAZZ DOMMUNISTERS
feat. 漢aka GAMI / OMSB / BIM / I.C.I
日時:2017年6月11日(日)
会場:東京・代官山UNIT
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