INTERVIEW

菊地成孔が語る2017年の展望─TABOO主催の新イヴェントに見る、若手への信頼とシーンに対する問題意識、独自のレーベル運営論

TABOO LABEL PRESENTS HOLIDAY Vol.2 LADY’S PAY DAY

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  • 2017.05.24
菊地成孔が語る2017年の展望─TABOO主催の新イヴェントに見る、若手への信頼とシーンに対する問題意識、独自のレーベル運営論

菊地成孔が率いる自主レーベル、TABOOがレギュラー・ライヴ・イヴェント〈HOLIDAY〉をスタート。今年3月に〈Gentleman’s PAY DAY〉と題して開催された第1回では、菊地のソロとオーニソロジー、WONKの3組が出演し、大盛況のうちに幕を閉じた。 2013年に設立されたTABOOは、菊地のバンドによる諸作に加えて、女優の菊地凛子によるRinbjö名義での『戒厳令』(2014年)、大西順子の復帰作『Tea Times』、菊地が手掛けた「機動戦士ガンダム サンダーボルト」サントラ(共に2016年)といった話題作をリリース。それらと並行して、ものんくる『南へ』(2014年)のように、シーンの明日を担う若手を発掘してきた。

レーベル側のインフォによると、〈HOLIDAY〉のコンセプトは、大人向きの価格帯/内容が固まりつつある菊地のマーケットを若返らせるべく、注目のニューカマー中心に低料金(前売り2,500円!)で3バンドを提供すること。5月31日(水)に行われる第2回の〈LADY’S PAY DAY〉は、前回に続いて東京・代官山UNITを会場とし、ものんくる、けもの、市川愛の3組が登場。平仮名の2組は、菊地のプロデュースによるニュー・アルバムの発表を今夏に控えており、これから注目度が高まることは間違いなさそうだ。近年、ジャズが時代のキーワードとして再浮上しているなか、菊地は音楽家/レーベル・オーナーとして、シーンの動きをどのように捉えているのか。イヴェントの開催意図とTABOOの展望、若手ミュージシャンへの想いについて、本人に話を訊いた。

★〈LADY’S PAY DAY〉公演詳細はこちら

 


僕のことを知らない人たちに、若くて優秀な方たちを紹介したい

――そもそも〈HOLIDAY〉を立ち上げようと思ったのは、どういう経緯があったんですか?

「そんなに複雑で高邁な理由があるわけでもなく(笑)、これは各ジャンルのミュージシャンが共有している問題だと思うんですけど、SpotifyやHuluだのに代表されるサブスクリプションの登場もあって、プロダクツとしてCDが売れないので。僕は何一つやってないし、未だにレコ屋に行ってるんでよくわからないですけど(笑)。あとTABOOというのは、もともと僕の作品を出すだけではなくて、若い人を発掘するという側面もあって。他ではやらないような、僕が自信を持ってレコメンドできる人たちを紹介してきたわけです。それに、どうしてもジャズのレーベルだと思われがちだけど、実際のタイトルを見渡すとヒップホップもあれば、ポップスもある。レーベルとしては雑食で、むしろジャズは少ないんですよね。大西順子さんの復帰作と自分の作品くらい」

――そうなんですよね。

「で、今日のレーベル(の在り方)について簡単に言うと、Suchmosの成功に代表されるように、インディーで自分たちの好きなようにやって、商業的なプライズやフェイムも得てしまう、というのがクールでスマートとされている。別にdisるわけじゃないけど、〈長いものには巻かれろ〉でメジャーから作品を出すことの価値が揺らいでいると思うんですよ。上がっているか下がっているかではなくて、揺らいでいる。というのは、これまではインディーである程度行ったその先にメジャーがあって。インディーがよしんばメジャーを追い越したところで、それは事故的なことであって、一般的なことではないとされてきた。それが今では、(インディー主導でも)一般性を持つ見通しが出てきている。まあ、Suchmosは極端な例ですけど」

――なるほど。

「僕らTABOOはソニー傘下なので、どう振る舞うべきかを常に考えていて。メジャー・カンパニーのなかにインディー・レーベルとして、ビュロー菊地がTABOOを持って、プロモーションから何まで自由にやったほうが上手くいくんじゃないか。そんな見通しも、一般論として成り立ちそうな時代になっているわけですよ。そんななか、古いのか新しいのかよくわからないけど(笑)、レーベルのアーティストをショーケース形式で、非常に安価なプライスで提供していこうと。会場の代官山UNITは、僕が(メインアクトで)イヴェントを開けばすぐ満杯になるくらいのキャパですが、そうではなくて、僕のことを知らないような人たちに、若くて優秀な方たちを紹介したい。そのためにも、ライヴ・イヴェントをシリーズ化するのが手っ取り早いんじゃないかと考えたわけです」

――2013年のTABOO設立に当たって、菊地さんが寄せたコメントのなかにも〈ワタシのモチベーションをバッキバキにクソ上げまくっているのは、若く優秀な新人達です〉とありましたよね。そのように若い人たちをプッシュしたいという意欲は、どこから沸いてくるものなのでしょう?

「今は若い人たちにとって、厳しい時代のように映るんですよ。僕がラクをしてきたとは決して言いませんが(笑)、僕らの世代というのは、生まれたのが高度成長期で、成人する頃がバブルの真っ最中。金は天下の回り物で、躁病的というか、何をやっても上手くいった。日本の戦後は基本的に不景気ベースですけど、そのなかでも気が狂ったような高景気を迎えたときに、人生のインパクトが訪れてしまった世代なんですよ。だから、本当のことを言うと、苦労してがんばっている人たちの気持ちがわからない」

――というと?

「ひとりでテクノを作ってるメンヘラの女の子とか、とんでもないビートを作ってるヒップホップの子とか、実力がある人も多いのに、がんばってみたところでSoundCloudでちょっとバズって終わり。そこで文句を言われたりすると、〈もう鬱です、しばらく作品作るの休みます〉みたいな(笑)。今はそういう才能の在り方が点在しちゃってますよね。(軸が)太くてしっかりしているのはアイドルくらい。メジャー・カンパニーでさえも、脅威の新人が出てきて売れまくるという状況をしばらく見ていない気がする。そういう状況下でも、確実に優れている若い人たちはいるんですよ。

この間、MC漢さん(漢 a.k.a. GAMI)と話したんだけど、〈とにかく若い子がスキルフル過ぎて、とてもじゃないけど敵わない〉って。彼は『フリースタイルダンジョン』にも出演しているでしょ。僕より15歳くらい若いんだけど、その漢さんですら、高校生のラップが達者すぎることに呆れ返っている。そこで僕は言ったんです、〈ジャズもまったく同じです〉って。とてつもなく上手い人たちがたくさん台頭している。だけど、若い彼らには仕事がない。そこで54歳を迎えた音楽家としては、美魔女みたいに〈まだまだ若いですよ〉と歌ったり演奏したりもできますけど(笑)、それより後続のミュージシャンを紹介することで、シーンを活性化したいという思いがあって」

――イヴェント出演やレーベル運営を通じて、若手をフックアップしようと。

「僕はもう散々やりたいことをやってきたし、自分の活動もだいたい認知されていますし。桑田佳祐さんみたいに日本国民が全員知ってるとか、そんなの別になりたくもないし(笑)。今ぐらいで十分だから、それよりも音楽の〈the Son〉が大事というか。私に子どもはいませんけれど、自分のレーベルから新しい才能が出てきて、それが売れたら嬉しいですよね。たださっきも言ったように、僕は苦労してデモ・テープを作って、手売りでがんばって……というふうにやってきたわけじゃない。なんとなく最初からメジャーで、気がついたらインパルスと契約しちゃってたし(笑)。だから苦労している若い人を見ても、兄貴分の先輩みたいに〈お前らの気持ちわかるよ〉なんてシンパシーを抱くことはできないんですよ。むしろ、それでいいかなって。〈俺は全然苦労していないけど、君たちがんばってね〉って(笑)。そうやってフックアップしつつ、僕も彼らから若さをもらいたい。自分がバンドをやるときは若い人材をピックアップする。僕は50代、サイドマンはみんな20代。それはマイルス・スタイルですよね」

――そうですね。

「あと自分は、音楽家としては癖が強いほうだと思うけど(笑)、選曲家としてはそうでもないというか。ラジオ(『菊地成孔の粋な夜電波』)を聴いている人で、〈菊地の番組って、よくわからない変な音楽ばかりかかるよね〉と思ってる人はいないはず(笑)。表現者としては少しツイストしているけど、聴き手としてはちゃんとしている自負がある。そんな僕がプロデュースしているのだから、きっと良い音楽だろうと。そういう信頼も、若い人に持っていただきたいですね。もっと簡単に言うなら、音楽産業の今後のために、ユースがもう少し音楽を買ったり聴いたりするようにしていきたい。

最近はブロックバスター式というか、何かドッカーンって売れたら、あとは同じようなものばかりになっていくじゃないですか。それに今だと、〈Suchmosに似た音楽〉みたいに検索すると選曲してくれるサービスもあって、それで一晩くらい気持ち良く浸れちゃう(笑)。そういう時代だからこそ、もっと生々しくてアーティスティックな音楽を届けていこうと。それは奇矯で病的であるべきってことではなく、スムースで心地良いものを提供するのがアーティストの使命なのだと、改めてもう一度プレゼンしたいわけです。大きく言うと、それが〈HOLIDAY〉の開催意図ですね」

――それで〈HOLIDAY〉は、Real Soundにアップされた菊地さんのコメント動画によると、気軽に足を運べるチケット料金、隔月開催で毎回3組出演、出演者は自分のレーベル以外からも呼ぶという3点を決め事にしているんですよね。それらを踏まえつつ、3月に開催された前回の〈Gentleman’s Pay Day〉で、オーニソロジーとWONK、それに菊地さんのソロというラインナップを組んだ意図を教えてください。

「まぁ1回目だから自分が出なきゃかなということで、僕がニューチャプター形式のソウル、ヒップホップ/R&Bみたいなのをやっている〈菊地成孔ソロ〉をメインアクトに据えて。オーニソロジーは、おそらく来年TABOOからリリースすることになりそうです。(中心人物の)辻村泰彦くんはTABOOに直接応募してくれた奈良の人で、デビューのために上京してきたんだけど、シンガー・ソングライターとして非常に優れているのでプロデュースしたいなと。そんなオーニソロジーの、バンド編成による東京でのデビュー・ライヴになりました。リズム・セクションはDC/PRGの新しく加入したメンバーがやってくれて、演奏もとても良かった。で、この回の(レーベル外部の)客人はWONKのみなさん」

※近藤佑太(ベース)と、showmoreのメンバーである秋元修(ドラムス)

オーニソロジーの2015年の楽曲“エレタメモア”
 

――WONKに対しては、どんな印象を抱いてます?

「日本は韓国や欧米と違って、ニューチャプター形式というか、R&Bを生演奏でやるバンド、いわゆる〈Black Radio型〉のオーバーグラウンダーがいないんですよね。韓国の音楽シーンはそのあたり経由しているし、アメリカは言うまでもないし、ほかにいろんな国の音源を聴いてみても、作曲はロバート・グラスパー、ドラムはクリス・デイヴみたいになってきている。そういうのが通過儀礼というか、一種のトレンドとなっているんだけど、日本ではどういうわけか(メジャーで)出てこない。EXILEがジャズ部を立ち上げて、『Black Radio』みたいなアルバムを出したら尊敬しますけど(笑)。おそらく、ニューチャプターみたいなスティッキーというか粘る音楽性が、Suchmos的な爽やかさとコンフリクトするのかな。だから飛ばすし、ガラパゴスでトレンドはやらない。昔はそんなことなかったですよね。アメリカが風邪をひけば日本はクシャミしていた。ファンクにソウル、ヒップホップと、アメリカで流行ればその都度取り入れてきたのが、なぜかグラスパー周辺だけはスポッと抜け落ちている。そこを真摯に追求しているのがWONKで、そういった感覚が体質化している世代のプレイヤーが揃っているのがオーニソロジーだと思います」

――そのニューチャプター形式を、菊地さんのソロでも採用していると。アーバンなR&B/ヒップホップからスティーヴ・コールマンの再解釈まで、幅広い曲調が印象的でした。

「この間のライヴでは、Yasei Collectiveの松下マサナオくんがドラムを叩いてくれましたけど、彼も基本スキルがニューチャプター以降ですよね。ニューチャプター以降のソングライテイング、ヒップホップを経由したドラム、ジャズをベースにした演奏スキルなど、若くて優秀な人はいっぱいいる。だからこそ、そういう人たちの演奏で、気持ちいい曲を聴くという経験をもっと提供していくべきなのかなと。誰もやらないなら、俺がやるかって(笑)」

Yasei Collective が今年5月にリリースしたニュー・アルバム『FINE PRODUCTS』収録曲“HELLO”
 

――松下さんも最近は各方面に引っ張りだこですが、菊地さんのソロで叩くとは思わなかったので、ライヴ当日はビックリしました。

「今、日本のジャズ・ドラムは石若駿の時代ですよね。僕がプロデュースしているアルバムでも、けもの、ものんくるの両方で彼が叩いているし、(起用のされ方が)スティーヴ・ガッドみたいになっている(笑)。でも、(92年生まれの)石若くんの前後の世代には、彼に近いレヴェルのドラマーが結構いるんですよ。DC/PRGに入ってくれた秋元(修)くんは石若くんの一つ上で、石若くんも彼のプレイには注目しているみたい。そういう20代前半に集中している、クリス・デイヴ以降のスキルが体質化した若い子たちはすごい票田なんですよ。音楽の変わり目っていうのは、やっぱり世代交代が起こったときで。フュージョンが出てきたときも、ポンタさん(村上“PONTA”秀一)などが出てきて、それまで4ビートとラテンが叩ければジャズ・ドラマーだとされてきた人たちの首を刈ったんだよね。その粛清を潜り抜けた人だけが(第一線で)やっていけた。

で、松下くんは僕から見たら若手だけど、石若くんに比べたら年上ですよね。まあ僕がソロをやるとなって、ラッパーでOMSB、歌で吉田沙良さん(ものんくる)や市川愛さんとかが参加しているわけで、〈一緒にやんない?〉と声をかけたら誰でもやってくれるんで(笑)。今は優秀なプレイヤーがたくさんいるから選り取り見取りというか、できることなら全員とやりたいくらい。毎回ドラマーを代えることで、演奏する曲は一緒だけどグルーヴが変わる、そういう贅沢なこともできる時代なんですよ。もちろん、スケジュールありきの話でもありますけど、それで今回は松下くんだったという感じですね」

※けものは青羊(あめ)のソロ・ユニットで、石若は前作『LE KEMONO INTOXIQUE』(2013年)にも参加。青羊はヴォーカリストとして、石若のソロEP『Songbook』(2016年)に1曲参加している

 
次ページハッキリ言って、出演者の水準はメチャクチャ高い
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