SPEAKING OF DIVERSITY
[ 特集 ]日本語ラップの多様性

悠長に振り返ってるヒマもないくらい、進行形の注目作がリリース・ラッシュ。こんな多様に拡張しているからこそ、日本語ラップの最高はひとつじゃないのだ!

★Pt.2 SALU『INDIGO』
★Pt.3 春ねむり『アトム・ハート・マザー』
★Pt.4 野崎りこん『野崎爆発』
★Pt.5 TWINKLE+『JAPANESE YEDO MONKEY』

 


MONYPETZJNKMN
東京のBPMはYENTOWNが決める

 石が3つゴロゴロと積み重なって『磊』。とんでもないストーナーということなのか、豪放磊落ということなのか。ともかく、やっと彼らを紹介できる時が来た。一昨年から話題となっていた東京のヒップホップ集団で、そのスジではすでにお馴染みのYENTOWN。ラッパーやDJ、VJ、トラックメイカー、ファッションデザイナー、映像ディレクターらが入り乱れ、年齢も出身も国籍もバラバラ。ストリート・カルチャーの発信地たる渋谷を拠点に音楽/映像/ファッション/アートのハイブリッドを体現してきた彼らだが、このタイミングで間違いなくその名前は一回り大きくなることだろう。クルーを代表するユニット、MONYPETZJNKMNが初フィジカル作品にして初のフル・アルバム『磊』をリリースしたのだ。

MONYPETZJNKMN bpm tokyo(2017)

 YENTOWNのことを知ったのがどの曲きっかけだったかは定かじゃないが、最初はTHE LOWBROWSで活躍したChaki Zuluの手掛ける若いラッパー集団というぐらいの淡いイメージだったように思う。実際のところ2015年1月にMVが公開された“Higher, Pt. II”はクルーの始まりの一曲にあたるようだが、まさにそこでラップしていたのがMonyHorse(モニーホース)とPETZ(ペッツ)、Junkman(ジャンクマン)の3名だった。つまり、MONYPETZJNKMNはYENTOWNのフロントを務める顔ぶれが揃ったユニットということだ。以降も“Seven Sinners”などさまざまな組み合わせによるYENTOWN勢の楽曲は世に出されていくが、SEEDA×DJ ISSOの『CONCRETE GREEN 13』で個々のメンバーがフックアップされるなどして、その存在は多方面に浸食していった。2016年に入ると3人はユニットとしてMONYPETZJNKMNを名乗り、2月に『上』、4月に『下』とミニ・アルバムを連続で配信。その間にはDJ RYOWの“GONE”にもユニット名義で客演している。さらに8月にはEP の『轟』を発表。年末には〈田中面舞踏会〉のサントラにDJ MAYAKU製の“SCALE”で参加してもいる。今回の『磊』に注がれる大きな期待は、ここまでの歩みに依るものなのだ。

 過去の配信作品と同じく、今回のアルバムでも総合プロデュースを担ったのはChaki Zuluだ。パンクからエレクトロ、ハウス、ベース・ミュージックなどをバックグラウンドに持ち、ヘヴィーでアトモスフェリックでもある彼のトラックは、いわゆるフロア・ミュージック的な快感原則に忠実なもの。なかでもレイヴィーなトラップ“UP IN SMOKE”の破壊力や、ギトギトのシンセで煽りながら寸止めを強いる“SPACY”の奇妙な多幸感は彼ならではの仕上がりだろう。他にもYENTOWNクルーのU-LEEやWATAPACHI、DOGEAR周辺で活躍する敏腕のDJ SCRATCH NICE、モデルとしても活躍するLISACHRISらがトラックメイクを手掛けているが、いずれも主役3名の自由なラップぶりを活かす空間の広さによって各々の中毒性を生み出しているのがおもしろい。

 客演陣ではYENTOWNのkZmが“SIVA”で気を吐くほか、沖縄のAWICHがキャッチーな“WHOUARE”で妖しいヴォーカルを披露。この2名は今作のリリース元となる新進レーベル=bpm tokyoの所属アクトでもある。さらに“X”にはSQUASH SQUADのLOOTA、Junkmanソロの“啓示の書”にはこれまでも絡みの多い危険人物DOGMAがフィーチャーされている。もちろんクセの強い個々のマイク捌きが最大の聴きどころで、MonyHorseのソロ・チューン“44”で幕を下ろすまで、単に享楽的でも退廃的でもない独特の妖しい薫りが斬新なラップ体験を約束してくれるはず。大注目だ。

 

MONYPETZJNKMNの参加した作品を一部紹介。

 

『磊』に参加したアーティストの関連作。

 

Chaki Zuluがプロデュースに関与した近作を一部紹介。