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映画『TAP - THE LAST SHOW -』 〈相棒〉ファンも必見、タップ・ダンス題材に水谷豊ならではの人間讃歌輝く監督デビュー作

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  • 2017.06.16
映画『TAP - THE LAST SHOW -』 〈相棒〉ファンも必見、タップ・ダンス題材に水谷豊ならではの人間讃歌輝く監督デビュー作

『相棒』の杉下右京ファンにこそ見てほしい!
水谷豊ならではの人間讃歌が輝く渾身の映画監督デビュー作!

 水谷豊が映画監督デビューを果たした。今日まで半世紀に及ぶ長い俳優生活を送っているベテランに、とうとうカメラの横に立つ決意をさせた題材、それはタップダンスの世界だった。

 物語は30年前の痛ましい回想映像から始まる。1988年12月24日、ショウの最中に転倒事故を起こした若きタップダンサーが、再起不能となるほどの大けがを左足に負った。その男、渡真二郎(水谷豊)は現在、振付師としてショウビジネス界に身を置くものの、酒浸りの自堕落な毎日。酔いつぶれて夜な夜な事故の瞬間を悪夢に見ては、目覚めの悪い昼の時間を送っていたのだ。そんなある日、渡のもとへ旧友の劇場オーナー、毛利喜一郎(岸部一徳)が現れる。閉館を余儀なくされつつある劇場の最終公演に、渡演出のタップショウを催したいという。最初は気乗りがしなかった渡だったが、オーディションに参加した才能ある青年が奏でる「響き」をきっかけに徐々にかつての情熱を甦らせていく。

 もともと40年ほど前、当時23歳の水谷がブロードウェイで観劇したタップショウへの感動に端を発した企画である。一時は水谷自身が現役ダンサーとして出演するアイデアもあったが、現在の年齢を鑑み、若きダンサーを指導する側に回った次第。何よりも、水谷が監督も兼ねるというオプションが加わったことで、通常の主演作品にはない独特の味わいがにじむスペシャルな一作になった。

 厳しいレッスンを経た若手ダンサーたちの成長、及びその集大成としてのラストショウがクライマックスを彩るのはご想像のとおり。実際、プロのダンサーを配しての24分に及ぶタップショウは圧巻で、そこからあふれるタップダンスの興奮、醍醐味はただただ眼福といっていい。しかし、映画の中盤以降、大きく印象を占めるのは、ショウの開催をめぐる人間模様であった。とりわけ、オーディションに参加した若者たちの生活描写への比重は大きく、水谷演じる渡真二郎の影が薄くなっているほど。タップを扱いつつも、普遍的な人情ドラマの様相を呈していてユニークこの上ない。

 水谷豊という俳優は、もちろん銀幕での活躍もまぶしいスターであるが、主な活躍の場といえばテレビであった。少年時代の『バンパイヤ』を出発点に『傷だらけの天使』『赤い激流』『熱中時代』『相棒』と、ジャンルこそさまざまだが、長丁場のシリーズという特性上、基軸に描かれたのはキャラクターたちの日常である。いかに人間を描くか、見つめるべきか。たとえば、水谷が『相棒』の収録や劇場版製作の合間に実現を希望した最初の映画企画といえば『HOME愛しの座敷わらし』であった。ホームドラマを作りたいという意志の具体化であり、水谷が数十年もの間、テレビの仕事で培ってきた「人間を丹念に描く」という基本精神の素直な投影であったのだろう。今回も同様の軸線に立っているといっていい。実のところブロードウェイ・ショウへの感動も、タップそのもの以上に、それを披露するダンサーたちの背後に彼らの生活や人生に見たがゆえの物種ではなかったか。華やかなブロードウェイ舞台の再現をやりたかったわけではない。芸を磨き上げた人間たちの素顔が見たかった。芸にいそしむ人間の悲喜こもごもを豪華なショウと共に描いてみたかった。映画という大きなスクリーンを借りて。そういう信念、こだわりがどうしても映える。

 役者としては、渡真二郎という人生の失望者に扮するあたりの挑戦も忘れてはならないだろう。この短気な天才肌の元タップダンサー/振付師は、見事なほどのひねくれ者で、嫌味な言動に事欠かない。人をイライラさせることでも天才で、明晰&潔癖な『相棒』の杉下右京とはまさに正反対の人物である。右京ファンには、ある意味で見るのもつらい人物であろう。しかし、この人生に疲れた男に水谷自身を重ねることもまた別の側面の真実だといえば暴論だろうか。誰の目から見ても成功した俳優とはいえ、その長い俳優生活において水谷に全く挫折や屈折がなかったとはいいきれない。いや、相応の葛藤を抱え、踏み越えてこその俳優人生だったのではないか。その横顔のひとつの表れとして、渡という人間をとらえることは重要である。処女作にはその監督のすべてが刻まれるといわれるが、誠、水谷豊の監督デビュー作にも王道のジンクスは当てはまるとしていい。ここには生のままの水谷豊の姿がある。まるごと素のままの水谷豊がまぶしく輝く。

 決して非の打ち所のない傑作というわけではない。決して流暢な語り口の仕上がりでもない。むしろ、描写としてはもどかしいほどの人生の困難が刻まれる。芸を成功させることの厳しさが打ち出される。だからこそ、というべきであろう。のたうち回るような人間たちの汗と涙の人生の有り様が、感に堪えない人間味を生々しく醸しだし、眼前に迫ってくる。とはいえ、下手な郷愁にも溺れない。流行を意識した無意味な気取りもない。人間好きな俳優が、ぎこちなく不器用に、しかし正直に、正面から熱く謳い上げた物狂おしき人間讃歌。それが水谷豊初監督映画『TAP -THE LAST SHOW-』なのである。

映画『TAP - THE LAST SHOW -』
監督:水谷豊 
脚本:両沢和幸 
撮影監督:会田正裕 
音楽:佐藤準 
タップダンス監修振付:HIDEBOH
出演:水谷豊/北乃きい/清水夏生/六平直政/前田美波里/岸部一徳/西川大貴/HAMACHI/太田彩乃/佐藤瑞季/さな/ほか
配給:東映 (2017年 日本 133分) (C)2017 TAP Film Partners.
◎6/17(土)全国ロードショー!