INTERVIEW

I-DeA『SWEET HELL』 BESやGOODMOODGOKU、D.Oらを迎えた新作を機に、日本のヒップホップを支える名匠が意識の変化を語る

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  • 2017.08.25
I-DeA『SWEET HELL』 BESやGOODMOODGOKU、D.Oらを迎えた新作を機に、日本のヒップホップを支える名匠が意識の変化を語る

日本のヒップホップを支える名匠を問えば彼の名が挙がるはず。地獄の底で溢れ返るアイデアを束ねた4枚目のリーダー作は、その意識を変える新たな分岐点となった!

かっこいい曲を作る

 「こういう感じでやっていこうと思った時には、甘い言葉とか甘いトラップに喰らった状況になってた」――発表されたばかりの新作『SWEET HELL』の制作を巡る状況についてそう口を開いたI-DeA。プロデューサー/エンジニアとして多くの作品を手掛ける一方で自身名義のアルバムも送り出し、今回の『SWEET HELL』は2013年の『12ways』以来4年ぶりのアルバムとなるが、同作はそもそも限定会員にコンテンツを提供する企画の一環で制作されたものだ。それゆえにオープンな形でのリリースは当然予定になかったが、ちょっとしたトラブルなどもあり、彼自身が一般発売を決断して今回のCDリリースに至った。

I-DeA SWEET HELL VYBE(2017)

 「ゴタゴタによって音源が埋もれていくのは本望じゃないんで……ここ半年、俺のヘルな状況を見てた多くの関係者の方々に助けられてこのアルバムをリリースできました。怒りより感謝の気持ちを持たなくてはって自分に言い聞かせてます。あと、結果的に迷惑をかけた人に謝罪の気持ちですね。ただ、音源に関しては、自信を持って良い仕上がりになったと思ってます」。

 もっとも、制作をめぐる環境こそ表題通りの〈HELL〉な状況だったとはいえ、楽曲の制作そのものにストレスはなかったそう。CD化に際しては楽曲も追加され、一部の既存曲にも新たな客演勢を迎えている。

 「アルバム自体のコンセプトはなかったっす。曲単位でラッパーにイメージを大まかに伝えて、それをどう捉えて曲に落とし込んでくれるか、レコーディングしてみてまた思いついたことをやったんで。とにかく〈自分が連絡つけられる人とかっこいい曲を作る〉というのがコンセプトといえばコンセプトっすかね」。

 時流を見据えながら振り幅広くビートを展開した前作『12ways』に比べ、多くの曲でサンプリング・ベースの作風をよりシンプルに響かせた今回のトラックメイクは、制作時期の彼のモードを映したものだという。

 「J・コールみたいなサウンドに超影響されてた時期だったんですけど、ビートの打ち方に関していままで通りの90年代の流れの打ち方でいくのか、メトロ・ブーミンみたいなトラップ寄りのサンプリングでいくか、ぶっちゃけちょっとブレてた時があって、これはその間を取った感じ。同じ頃にやってたBES君の『THE KISS OF LIFE』が30代オーヴァーの人が聴くような音楽性が多かったんで、そういう影響も無意識に入ったのかもしんないです」。

 表題曲など2曲で復調ぶりを覗かせるBESや、“Ma $hit”でマイクを握るSTICKYら勝手知ったる面々との共演は、歌詞も含めて地に足の着いたものに。CD化にあたり、道やL-VOKALら新たな客演も交えて作品を進めるなか、D.Oとの“DeA Boyz”はI-DeAみずからトピック出しをした曲とあって、特に思い入れが強いという。

 「少年が分かれ道に立ってて、まっすぐ見たら勉強をがんばっていい会社に入って順風満帆にいくかと思いきやトラップに引っ掛かって破滅する道、左を見たらスポーツがんばってプロでお金稼ごうと人生をかけるけど才能がないことに気付いてドロップアウトしてやさぐれる道、右を見たらストリートで人の裏切りや罠を乗り越えて人望を集めて成功する道と、現実はみんなが思ってる道じゃないようないろんな道があって何が正解かはわからないけど、選んだテメーがどんな壁も乗り越えていくぐらい本当にやりたいことを選んで進めって感じで思ってて、それをD.O君に伝えてあの曲が出来た。自分がトラックを作ってる時にイメージしてた世界観をD.O君が見事に曲にしてくれました」。

 

人生の使命

 さらにアルバム後半ではNORIKIYOや、GOKU GREEN改めGOODMOODGOKUがラヴソングを披露し、トピックの広がりに貢献。2曲で迎えたGOKUは、いずれの楽曲でも歌を聴かせている。

 「オートチューン使ってトラップ的なサウンドでやってる若い世代は、歌ってると言いつつもラップの延長というか、フロウのあるラップみたいな感じじゃないですか。そのなかでGOKUはより歌にヴェクトルが寄ってて表現の幅が広い。いまはBPM60~70ぐらいでもだいたい倍でビート打ってタテノリの感じになるけど、そこをあえて倍で打たずにハットもチキらせないトラックで、気怠い感じに歌うっていう、そこらへんの感覚も俺のトラックと相性がいいかなって」。

 先述の“DeA Boyz”を最たるものとして、“Where are you now Remix”におけるMEGA-Gの〈痛みに堪える日々の経験値ビタミンに変え/飲み込む現実〉というラインや、“Free”におけるMILES WORD(BLAHRMY)の〈昨日より今日明日明後日〉。そして“Wake”でSALUが歌う〈人生や芸術の先は君が思うよりもずっとずっと長い〉という一節と共に、D.D.Sが“Walk Remix”で吐く〈気づいたらまだ道の途中で/下手したらゴールなぞ無い事がANSWER〉というリリック……I-DeAいわく「同じ意識を持ってる」面々との曲が集まったこのアルバムは、苦難を越えて音楽と共にある彼自身の姿を映すものでもある。本作について「いろんなリリックがありますけど、薄まってはないと思うんですよ、ヒップホップという名の下においては」と彼が言うのも、つまりはそういうことだろう。

 「20代前半の時はいつまでヒップホップやってんのかって漠然と不安を抱えた状態でやってたけど、この年齢になってもやってるってことは、完全にこれが人生の使命なんだっていう。いまはもうヒップホップと共に死ぬっていう意識になったんで(笑)」。

 SEEDAのデビュー作『DETONATOR』(99年)を手掛けて名を上げてからキャリアは20年近くを数え、日本のヒップホップ・シーンをもっと大きくしたいという思いも芽生えてきたというI-DeA。そのために、「〈考えあんでしょ? じゃあ、すぐにかっこいいの作って世に出そうよ!〉ってラッパーのケツを叩くようなマインドでいたい」とも。本作に続いて9月にはKM$とのEP『GODS WORK』のリリースも控え、「いまはとにかく先に進みたい」と本作の話を締め括った。

 「『SWEET HELL』は、ここ半年の俺らはこんな感じの曲作ってました、くらいですかね(笑)。それぞれの曲でそれぞれ聴いてる人の人生とリンクして何か感じてもらえたら幸いです」。

『SWEET HELL』に参加したアーティストの作品。

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