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いままでになかった感じ

 その〈ずっと叫んでる〉曲“SHARR”ではリンリンの壮絶なスクリームを軸にメンバーが絶叫合戦を繰り広げ、合間には「『GiANT KiLLERS』の時から声に遊びをつけるようになりました」と語るアツコの妖艶(?)ヴォイスも炸裂。“SMACK baby SMACK”では「松隈さんから〈チバユウスケさんみたいに歌って〉って言われたんですけど、私はチバさんのことがわからなかったので、チバさん風の歌い方をしてるアイナちゃんを真似しました」というアユニがオラついた歌唱法を覚醒させるなど、歌声の個性がこれまで以上に追求されているのも頼もしい。

 そんななかにあって、まったく新しいBiSH像に挑戦した象徴的なナンバーこそ、リード曲の“My landscape”だろう。ストリングスを大々的に導入した雄大でドラマティックなサウンドにはノリだけに頼らない名曲の風格があり、聴き進めるに従って増していくような感情の深みも一級品だ。

 「曲調や雰囲気が海外のバンド・サウンドみたいで、いままでのBiSHになかった感じがして。自分ではAメロとBメロとサビで全然違う感じに歌ってるつもりで、歌詞の〈山猫〉のところは松隈さんから〈戦いに挑む前の山猫の気持ちで超静かに歌って〉って言われました」(チッチ)。

 「曲を貰ったとき、自分がどこを歌うかより先に振りが浮かんできて、そのイメージが〈気持ち悪い動き〉だったんです。自分のなかでそういうものを表現したい気持ちが大きかったから〈キターッ!〉ってなって。足を開脚する振りは出産をイメージしていて、山猫が生まれるみたいな感じ。あとは全体的に大陸をイメージしてたので、ずっと身体のどこかしらを動かしてて、止まることがないんですよ」(アイナ)。

 さらに、「『KiLLER BiSH』で書いた“My distinction”の続きの出来事を書いてるんですけど……2年前にケンカ別れした友達と仲直りできて、ハッピーな結末で終わりました」(リンリン)という陽気なメロコア“Here's looking at you, kid.”、「私は集団行動とか誰かと競うのが苦手なんですけど、そういう人もひとりひとりいいところがあるはずだから、どこかしらで一番になれるよって伝えたかった」(モモコ)と語るシャッフル系の柔らいミディアム“JAM”、「夜中に自分の嫌で消し去ってた思い出や黒歴史を思い出して、いろいろ考えちゃうときの気持ちを書きました」(アユニ)という2ビートの疾走チューン“spare of despair”など、今回もメンバーそれぞれの作詞が活かされている。アイナが「自分が男か女かわからんようになったときがあって、でも私は女として生まれてきてるから、歌詞の中だけでも女になってみようと思って」書いたという“ALLS”の曝け出し具合も凄いが、チッチ作詞の短尺パンク“ろっくんろおるのかみさま”も、彼女の本音と強さが垣間見えてグッとくる。

 「私のことを応援してくれてる人がSNSで〈私のことホントに好きなのかな?〉って思うようなことを書いてて、人間不信になったことがあるんです。でも、それ以上に私を応援してくれる人がいっぱいいると思って、そんな人たちに届けたくて書いた歌詞なんです。きっと誰にでも自分のことを好きになってくれる人がひとりはいると思うから、その人のために生きてればいいと思うし、自分は自分という気持ちを持って生きてほしいなと思って」(チッチ)。

 壮大なストリングスの躍る“パール”、後ろ髪を引かれるような青臭さが逆に新鮮なラストの“FOR HiM”まで、面倒な感情ともきっちり向き合いながら日常をストラグルしていく姿を描いた全13曲。6人それぞれの個性や役割がよりハッキリしてきたぶん、本作はさまざまな人の心や景色にフィットすることだろう。学生限定/女性限定というテーマを設けたこの秋のツアーを駆け抜け、2018年には早くも次のツアー〈BiSH pUBLic imAGE LiMiTEd TOUR〉を控えるBiSH。6人の前にはまだまだ広大なランドスケープが広がっている。

BiSHの近作。

 

アイナ・ジ・エンドの参加した作品。

 

BiSHのライヴDVDを紹介。