OPUS OF THE YEAR 2017
[特集]2017年の100枚+
ゆく年くる年。ゆく音くる音。ゆきゆきて音楽──2017年もいい作品は山ほどあった!という感慨を抱きしめながら、晴れやかに翼を広げて、新しい年へ飛び立つ準備はもうできていますか? 最高だった作品の数々をここで改めて振り返っておきましょう!
★bounce編集部の選ぶ2017年の100枚・前編 1⇒50
★bounce編集部の選ぶ2017年の100枚・後編 51⇒100
100枚では語り尽くせない2017年の音楽トピック
UKラップのハイブリッドな多様性
前年のスケプタ『Konnichiwa』、2017年のストームジー『Gang Signs & Prayer』と、トップMCたちの決定的な作品が成功することで、完全にメインストリームの欠かせない一角となったUKのラップ・シーン。あらかじめ含有するカリブやアフリカ音楽の色はUS産品以上に濃いだけに、ハイブリッドな音のカッコ良さにはエッジーな独自性がある。他にもレッチ32やヤング・スプレーなど各世代が層を厚くしている様子も頼もしかった。

2017年はイエロー・クロウ曲でミーゴスとの合体も実現したテンパーは、多様なルーツゆえの引き出しの多さで十年選手の余裕を見せた。ウィズキッドを迎えた“Mamacita”とジェス・グリンやザラ・ラーソンとの歌モノ大ヒットとが普通に同居するあたりはブリット・ホップ世代ならでは。

東ロンドン出身のガンビア系ラッパーによる初作。アフロ・ポップやダンスホール・レゲエを織り込んだユルいサウンドのイマっぽい気持ち良さがヒットしたことは、ドレイクらのマイルドな気持ち良さの源流を窺わせると同時に、UKラップ総体の盛り上がりと浸透を裏付けるものでもあったはず。

ディジー・ラスカルとの“Still Sittin' Here”(2014年)で注目された南ロンドンのMCもこの初作にてメジャー浮上。ギグズとの“Gossip”、スケプタとの“Way Too Much”といった先行曲よりも容赦ない鋭利なトラックが居並ぶ。初期グライムっぽさが痛快ななかにニュートリノの参加もあり!

後進の活躍は、デビュー15年を間近に控えるヴェテランの奮起も促したか。どんなビートも器用に履きこなすフロウの持ち主だけに作品の内容は毎回異なるが、ここではカルドを大幅に起用してスロウ・グライム(?)的な聴き心地のバウンシーなトラップを披露。UK×US的なノリがかっこいい。

前作でUK版バウ・ワウなノリに転じ、一時はT.I.のグランド・ハッスルに籍を置いてもいた彼。タイニー・テンパーらとのビーフ通過後に放った本作では、トレ・ミッションらを迎えた攻撃的なグライム回帰も最高だが、“Snap Snap”などファナティックス製のダンスホール・レゲエが相性抜群!
混迷した現代に響くアメリカーナ
ジャック・ホワイトやブラック・キーズ、そしてフリート・フォクシーズらがアメリカン・ルーツ色の強いサウンドをヒップなものとしてアリにしてきた……というこれまでの流れを踏まえつつ、そこにトランプ政権への不安や不満も重なり、2017年は〈古き良き米国〉に思いを馳せるアメリカーナ作品が数多く登場。その様子をヴェトナム戦争の最中に花開いたシンガー・ソングライター・ブームと重ねる向きもありました。
特に印象深かったのはナッシュヴィルを拠点としたダン・オーバックのソロ・ワーク、フリート・フォクシーズやウォー・オン・ドラッグスのメジャー移籍、〈テン年代のボブ・ディラン〉なんて異名を持つコートニー・バーネットとカート・ヴァイルの共演でしょうか。また、アリエル・ピンクやアレックスGといったインディー界のカリスマが、先鋭性に代わってノスタルジーを求めはじめたのも偶然ではないはず。もちろん新たなスターも登場していて、日本デビューを果たしたジュリアン・ベイカーとフィービー・ブリジャーズの2人がとりわけ大きな注目を集めています。 *山西絵美
KAKUBARHYTHM15周年
YOUR SONG IS GOODやSAKEROCK、ceroらを輩出し、日本のインディー・シーンに大きな刺激を与えてきたKAKUBARHYTHM。その設立から15周年を迎えた2017年は、記念ライヴ・ツアーと並行して怒涛の連続リリースを行い、ますます勢いづく彼らの現状を提示した。思い出野郎Aチームやmei eharaといった新たな顔からレーベルの新陳代謝の良さを感じさせる一方で、中堅どころのキセルは自身の世界観をバンド・メンバーと共に深化。さらには、スカートのメジャー・デビューというトピックもあったり……2018年もよりフレッシュな動きを期待したい。 *土田真弓
オリジナル・シューゲイザー世代のカムバック
ウルリッヒ・シュナウスらによってシューゲイザーが見直されるようになったのは10年以上も前のこと。以降もフィードバック・ノイズは鳴り続け、大成功を収めたマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの復活を皮切りに、ここ数年はオリジナル世代の再結成が相次いだわけです。そして2017年、レジェンドたちが口裏を合わせたかのように約20年ぶりのスタジオ作品を発表。スロウダイヴやライドはアンビエント要素を採り入れて後進のドリーム・ポップ勢と共鳴してみせ、ジーザス・アンド・メリー・チェインはあくまでも我が道を貫き……と、それぞれの方法で音楽シーンを盛り上げてくれました。また、知名度では彼らに劣るものの、シークレット・シャインやディアダークヘッドの新録盤が登場したことも追記しておきたいトピック。そのリリース元が新人バンドの育成を通じてニューゲイザー人気に貢献してきたUSのセイント・マリー、というのも良い話じゃないですか。 *山西絵美
初音ミク10周年
supercellやkz、米津玄師(ハチ)をはじめ、ニコニコ動画を出自とするアーティストが第一線で活躍する現在。新たなポップソングのスタイルに影響を与えた彼らの影の功労者とも言える音声合成システム用のヴォーカル音源=ボーカロイド対応の初音ミクが生誕から8月31日で10年を迎えた。それを受けた主な動きを追ってみると……まずは誕生日の前日に2枚組の10周年記念盤が登場。書き下ろし楽曲のみの〈Disc-1〉にはwowakaやDECO*27、40mPらが登板し、歴代レジェンド楽曲が並ぶ〈Disc-2〉にはMOSAIC.WAV×鶴田加茂やlivetune、sasakure.UK、じん、黒うさPらの名がズラリ。また、八王子Pのように自身のオリジナル作でお祝いを表明したアクトや、異色のジャズ・アレンジ作となった手塚治虫×冨田勲×ミクのトリプル・アニヴァーサリー盤なども。さらには、初音ミク文化の体験イヴェント〈マジカルミライ 5th Anniversary Special Live〉の公式コンピに提供した“砂の惑星”のセルフ・カヴァーも含む米津玄師の最新作『BOOTLEG』が大ヒットを記録したりと、ミクの足跡が多彩なシーンに刻み込まれていることが、目に見える形であきらかに。 *土田真弓
UKロックの新人レースは大混戦
ギャラガー兄弟やシャーランタンズほか、ブリット・ポップ時代に出世した面々を筆頭とするキャリア組の動きが目立ったからといって、〈英国キッズのロック離れ〉と決めつけるのは早計。確かに、まとめて語りやすい大きなムーヴメントがなかったため、状況を把握しづらいのも事実ですが、裏を返せば2017年の新人レースは混沌としているからこそのヤバイ興奮があった、と私は感じています。
ということで、この1年のニューカマーを強引に系統立てて紹介すると、ウルフ・アリスの後を追うインヘヴンやアマゾンズらグランジ回帰系、〈ポスト・アークティック・モンキーズ〉争いを展開中のシャーロックスとサンダラ・カルマら王道系、スペインのハインズに真っ向勝負を仕掛けたビッグ・ムーンやヴァントら爆音ガレージ・ロック系、ラッド臭プンプンのキャベッジやラット・ボーイらハイブリッド・パンク系、そしてフォーメイションやゴールデン・ティーチャーらタテノリのダンス系など。ここからビッグ・ウェイヴが生まれるか……はさておき、いろんな勢力が乱立している様子は見ていてワクワクしましたよね! *山西絵美
男性ソロ・アイドルに夢中!
ボーイズ・バンド旋風がひと段落し、イケメン好きの視線はソロ・アクトへ。なかでも、発表から10か月以上かけてUSチャート5位まで浮上した初作『Kane Brown』が話題のポップ・カントリー歌手、ケイン・ブラウンは〈男性版テイラー・スウィフト〉としてのさらなる飛躍を予感させてくれました。また、2016年作『Illuminate』で世界的スターの仲間入りを果たしたショーン・メンデスや、US本国での公式アルバムが待たれるオースティン・マホーンが、ここ日本で2017年にブレイクしたことも忘れちゃいけません。そうしたなかで、ワン・ダイレクションのメンバーが本格的に個別の活動へ踏み切ったのは正しい判断と言えましょう。先にアルバム・デビューを飾った2人——ハリーとナイルは70sの西海岸ロックっぽい音作りで新たなファン層を獲得。また、ルイとリアムはベッドルームR&B調の先行シングル群によって来るべきアルバムへの期待を煽り、4人各々がこれまでと違うアダルトな表情で私たちにトキメキを与えたのでした。 *山西絵美