華麗なる二枚目ラッパーのドラマティックな新作!

 世界的にヒットした映画「ワイルド・スピード ICE BREAK」の主題歌としてケラーニと“Good Life”を披露し、〈サマーソニック〉での初来日も実現。さらにはチャーリーXCX“Boys”のMVにONE OK ROCKのTAKAらと並んで出演も果たすなど、2017年はG・イージーというラッパーが日本でもグッと身近に感じられるトピックが多かった年かもしれない。そんな好機に初めて日本盤化されたのが、意欲的なニュー・アルバム『The Beautiful & Damned』である。

G-EAZY The Beautiful & Damned BPG/RVG/RCA/ソニー(2017)

 振り返ってみると、マック・ミラーの復権からポスト・マローンのブレイク、マックルモアのソロ回帰、リル・ピープの躍進と急逝、クリスチャン・ラッパーのNFによる全米1位獲得といった多様なトピックが2017年も続き、USアーバンのフィールドではマイノリティーとされてきた白人ラッパー(というカテゴライズも前時代的なものだが……)の活躍も珍しくはなくなっているが、そのなかでもダークな雰囲気とディープな語り口で攻めるG・イージーの作法は他とは異なって響くものだろう。

 89年生まれの彼はカリフォルニア州オークランドの出身。同級生だったリル・Bの活躍に触発されてラップを始めたそうで、ニューオーリンズの大学では音楽ビジネスを学び、楽曲制作やデザインまで自身で行うDIYスタイルでミックステープを発表しはじめる。そのトレードマークは、身長193cmという恵まれたルックスに、ジョニー・キャッシュを参考にしたというヘアスタイルと全身黒の洗練されたスタイリング。独特の粋でクラッシーな雰囲気も発散しながら、2014年に『These Things Happen』でメジャー・デビューを果たしている。

 ベイエリアの重鎮E-40やエイサップ・ファーグ、ブラックベアらを招いた同作はいきなり全米3位を記録してゴールド・ヒットに。そして、GQ誌の〈The 10 Best-Dressed Men At New York Fashion Week〉にも選出された2015年には、ビービー・レクサをフィーチャーした“Me, Myself & I”が全米7位(ラップ・チャートでは首位)まで上昇、その勢いに乗ったメジャーでの2作目『When It's Dark Out』も全米5位を記録して見事にトップ・ラッパーの仲間入りを果たしたのだった。それに先駆けてグレイスの“You Don't Own Me”という客演ヒット(全豪1位/全英4位)も得ていた彼は、以降もブリトニー・スピアーズ“Make Me...”、ネイサン・サイクス“Give It Up”とポップ・フィールドでのコラボレーション仕事を増やし、着実にメインストリームでのステイタスを上げていくこととなる。

 そして、フィッツジェラルドの「美しく呪われし者」から表題を取ったと思しき新作の『The Beautiful & Damned』だ。これは初の2枚組というヴォリュームながら、トータルの尺はCD1枚にも収まる程度だから、盤を分けたのには意図があるのだろうか。エイサップ・ロッキーとカーディBを交えたストイックなソルジャーぶりがカッコ良い“No Limit”、交際中のホールジーを迎えた親密な“Him & I”という2つの先行ヒットを含むDisc-1は、メジャー感を増しながら前作からのクールな華やかさを貫いた印象。チャーリー・プースやアナ・オブ・ノースといったゲスト・ヴォーカル陣の見せ場も極めてドラマティックに耳残りするポップな仕上がりだ。

 対して、“Crash & Burn”で再会したケラーニをはじめ、デヴィッド・ゲッタ曲でお馴染みのサム・マーティンや、ゼイの片割れドリュー・ラヴ、マディソン・ラヴ(アクスウェル&イングロッソ他)ら歌唱ゲストを大半の楽曲にフィーチャーしているのがDisc-2だ。E-40とジェイ・アントとのジャジーな絡みがある一方、ゲイリー・バートン&チック・コリア使いの美しい“Summer In December”、SGルイスの同名曲に丸乗りした“No Less”やサン・ラックス“Easy”をベタ使いした“Eazy”など、比較的シックで重苦しいアンビエンスが作中を濃厚に印象づける。この充実作をもって、彼の名はさらに大きくなることだろう。

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