Page 2 / 2 1ページ目から読む

曇りばっかりで雨と雪もすごく多い風土が音楽にも関係している

――バンドのメンバーが被っていたり、お互いの活動をサポートし合っているのは、それこそアメリカのローカル・シーンみたいだなと思いました。

「やっぱり海外のシーンに対しての憧れはありますね。シカゴのシーンとか、すごくいいなって。例えばトータスを中心にシカゴ音響派と呼ばれるコミュニティーや、キンセラ兄弟というキーパーソンを中心に世界中のエモ/ポスト・ロック界隈に影響を与え続けているコミュニティー。どちらも、もはや誰がどのバンドで活動してるかわからないぐらい掛け持ちしてる(笑)。1つのバンドを一途にやるのもめちゃくちゃカッコいいけど、こういう柔軟なスタイルに自分は憧れちゃう。スリル・ジョッキーやタッチ&ゴーみたいな凄いレーベルもあって、もうローカル・シーンの枠を超えてるますしね。

あとはグラスゴー。富山市の人口はだいたい42万人くらいなんですけど、確かグラスゴーもそれほど大きく変わらないんですよ。下手したらバンドの数自体は、グラスゴーも富山もそんなに変わらないんじゃないかと思うんですけど、あまりにも土壌が違いすぎるというか、世界的な評価としてはもう比べようがないので。それこそグラスゴーのシーンはギター・ポップからポスト・ロックまでジャンルを越えているし、そういうところも羨ましいなって」

――とはいえ、『Looks』もジャンルレスな作品ですよね。特にディスク2はラップ・ミュージックからフォークトロニカまで、ものすごく多種多様。しかも、おしなべてポップなところがまたいいなと。

「確かにそこは意識してました。こういうコンピは流れで聴いてもらえないと意味がないので、アンダーグラウンドなカッコいいものは1枚目、ポップで聴きやすいものは2枚目っていうふうに、わりとはっきりコンセプトを分けてみたんです」

――ディスク1はポスト・ロック/ポスト・ハードコアが大半を占めていますね。ここにもレーベルの特色を感じました。

「僕らが活動してきたなかで、徐々にそういうバンドが増えてきたっていうのはあると思います。あと、2013年に〈SAY HELLO FESTIVAL〉というイヴェントの企画とブッキングをお手伝いしたんですけど、そのときにenvy、MONO、イースタン・ユースらに出演してもらえたのも、僕らの住んでいる北陸としてはすごく大きい出来事でした」

――土地柄が絡んでいるということはないですか?

「あ、それはあると思います。それこそ北陸って年間の日照時間が少ないんですよ。曇りばっかりだし、雨と雪もすごく多い。だから、自虐的に〈そりゃ音楽も暗くなるよねー〉みたいなことを言う人もいるんですけど、実際にそれって大きいと思うんですよね。それこそモントリオールにポスト・ロックのバンドがたくさんいるのも、きっとそういう地域性と無関係ではないと思うし」

――そんな北陸のバンドが揃った『Looks』のなかに東京のKONCOSがいるというのも、すごく気になったところです。彼らが今回のコンピレーションに加わった経緯というのは?

「彼らとはもう10年以上の付き合いで、それこそ(古川)太一くんと(佐藤)寛くんが(KONCOSの前に)Riddim Saunterをやっていた頃から交流が続いているんです。で、僕がずっとブッキングを手伝っていた〈BEATRAM MUSIC FESTIVAL〉というイヴェントにKONCOSには毎年のように出てもらっていて、去年に〈せっかくならKONCOSの7インチ・シングルを会場限定で販売しよう〉ということになったんです。そうしたら、これがあっという間に売り切れてしまって」

KONCOSがTOKEIからリリースした7インチ・シングル“The Whistle Song”
 

――“The Whistle Song”がTOKEIからリリースされたのは、そういう経緯だったんですね。

「僕としても地元のバンドにこだわらず、自分たちと繋がりのある人たちをサポートしていきたいし、それこそKONCOSは何度も富山に足を運んでくれてますからね。しかもKONCOSのホーン隊の2人は富山の大学出身だし。ここはぜひコンピにも参加してほしいなと思って、太一くんにおそるおそる〈北陸のバンド中心なんだけど、よかったらどう?〉と声をかけてみたんです。そうしたら〈水くさいじゃないですか! 絶対にやりますよ〉と言ってくれて」

――活動拠点よりも、個人としての繋がりを大事にしたいと。

「そうですね。しかも、別にそれはバンドに限ったことじゃなくて、たとえば東北や他の地方でディストロをやっている人がTOKEIの作品を取り扱ってくれてたりするんですよ。そうやって地方同士で共感できることって、やっぱりあるんですよね。だから、同じような悩みを抱えている者同士でお互いの現状を共有しながら、前を向いてなにか一緒にやっていけたらいいなって」

――TOKEIと交流がある地方のレーベルというと、たとえばどこが挙げられますか?

「Second Royalには長い間お世話になってます。きっかけは、自分が主催しているDJイヴェント〈LOVEBUZZ〉にセカロイのDJやバンドを呼んでいたことだったんですけど、それから付き合いが密になっていくなかで、TOKEIのことも知ってもらえるようになって、たとえばHomecomingsが新譜を出すときに連絡をもらったり、逆に僕がやまものリリースをしたときには、セカロイのショップでCDを取り扱ってもらったりとか、そういう小さいやりとりをさせてもらってます」

 

自分が今住んでいるこの街でいかに楽しく過ごせるか、それが僕のテーマ

――地元のバンドと交流し、他の地方とも繋がっていきながら5周年という節目を迎えたTOKEI RECORDS。6年目に差し掛かりつつあるなか、これからはどんな展開を考えていますか?

「来年はinterior palette toeshoesのアルバムを出そうと思いつつ、それとは別で僕はsmougというバンドもやっていて、そっちが今ちょっとおもしろい動きができそうなんですよ。というのも、富山には伝統工芸として世界的にも有名な〈能作〉という高岡銅器の会社があるんですけど、今度smougとコラボすることになったんです。要はフィールド・レコーディングみたいな感じですね。伝統工芸の職人さんたちが出す音をサンプリングしてきて、それをバンドに落とし込んでみようと。まさに地産地消というか(笑)」

――すごい。ここにきて地元の産業ともリンクしてきたんだ。

「そうなんです。なんとなくスタートしたレーベルですけど、やれることがちょっとずつ広がってきているのは感じているので、これを形にしていけたらいいなって」

――TOKEIをはじめて5年を経て、北陸シーンも少しずつ変化していっているんじゃないですか?

「TOKEIの動きとはまた別ですけど、『Looks』にも参加してくれたゆーきゃんさんが京都から富山に帰ってきたことは、北陸のシーンにとってはものすごく大きいんです。彼のおかげで北陸を訪れるアーティストがここ何年かですごく増えたので」

――求心力ありますよね、ゆーきゃんさん。

「いや、あの感じで本当にパワフルなんですよ(笑)。彼にはいろんなところから人が集まってくるから、それこそ数年前までは外タレが富山にくることなんて僕らが呼ぶ以外ほとんど無かったのに、ゆーきゃんさんが帰ってきてからは、Kレコーズのレイクやアイ・アム・ロボット・アンド・プラウドとか海外のバンドがツアーで北陸を廻るっていうケースが増えてきてる。若いイヴェンターに振ってもらえる話も多くなったし、環境としてはかなり変わりましたね。こういう音楽を好きな人が相対的に増えてきて、いろんなイヴェントがちゃんと成立するようになったのも、ここ数年の大きな成果かもしれない」

ゆーきゃんの2016年作『時計台』収録曲“サイハテ・バス・ストップ”
 

――それは、TOKEIがこの5年間で耕してきた成果なんじゃないですかね。最後に意地悪な質問をすると、レーベル運営するにあたって金銭的なやりくりはどのように回しているんですか?

「まあ、そこは無理のない範囲でやっているというか。たとえばレコーディング費用はバンド持ちで、流通だけを手伝うとなった場合は、レーベルとしてかかる最低限の費用だけはもらって、あとの取り分はぜんぶバンドにいくようにしてます。基本的にこのレーベルは僕が個人でやっていることだし、とにかくバンドが潤ってほしいので」

――あくまでもこのレーベルは生計を立てるためにやっているわけではないと。

「そうですね。これからの時代、リリースだけではやっぱり厳しいし、もっとよりリアルに音楽を生で感じられるイヴェントにも力を入れていきたいんですけど、イヴェントの場合はギャラも会場費も払わなきゃいけないし、フライヤーを作って配るという労力もかかる。で、それに見合った対価があるかっていうと、そこはちょっと難しいところでもあるし」

――実際、イヴェントで収益を出すのってすごく大変ですよね。コウイチさんがそれでもさまざまな企画を富山で打っていきたいと思えるのは、なぜなんでしょう?

「自分がライヴに出られるから(笑)。僕、基本的に自分が出ないイヴェントはやらないんですよ。たとえば、誰かのリリース・パーティーを開くとなった場合、ワンマンというのはやっぱり地方だと大変なんですよね。で、そうなると自分のバンドも自ずと入ってくる。そうやって自分が楽しめているから、イヴェントを組むのはぜんぜん苦じゃないんです。逆に、もしイヴェントを頼まれても、自分が出られないものは基本的にこれからもやらないんじゃないかな」

――あくまでもコウイチさん自身が楽しめることをやっていると。

「そう。もっと正直にいうと、地元を盛り上げたいっていう気持ちでは動いてないんです。もちろんそうなったらいいなとは思っていますけど、それよりも自分が今住んでいるこの街で、いかに楽しく過ごせるか。それが僕のテーマなんです」

 


Live Information
〈TOKEI RECORDS『Looks』RELEASE PARTY〉
2018年1月6日(土)~7日(日)富山・若鶴酒造大正蔵
出演:
1月6日 meimei/Water Side/herpes/shitoneleft/sabusave/noid/Oavette/vivid branch/smoug/general fuzz sound system
1月7日 Frogs in Flight/basementcolor/rima kato+ten tote/film./ザおめでたズ/YOGO ORGAN/やまも/KONCOS/interior palette toeshoes
出店:古本ブックエンド(富山)/ひらすま書房(射水)/よこわけ文庫(黒部)/LINUS RECORDS(東京)/サンダーバード(立山)/máni-coffee(南砺)/たかこゆきやさい※6日のみ(富山) and more!
開場/開演 12:00/13:00
前売り/当日 3,500円(『LOOKS』のCD付き)/3,500円(CD無し)
★詳細はこちら