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2017年のソウル復刻&発掘タイトル、私的ベスト10はこれだ! 選・文/出嶌孝次

THE SYLVERS The Sylvers Pride/OCTAVE(1972)

70年代を代表する兄弟姉妹グループの初作。よく考えると2016年も彼らの『Something Special』をトップにしていた気がするが、そこでのブレイク前夜にあたるプライド時代のアルバムがファミリー盤も含めてすべて世界初CD化(フォスター・シルヴァーズの非公式なブツはあったが……)されたのはまさしくトピックだったはず。ジャクソン5らに通じるヤング・ソウル特有の青さや70年代マナーの哀愁味が眩しいこの初作を筆頭に、この時代ならではのロウでメロウな音像が麗しい。プライド音源の復刻では、ヴァン・マッコイの仕切ったニュー・センセーションのCD化も快挙だった。

 

THE UNDISPUTED TRUTH Nothing But The Truth Kent(2017)

スライらを意識した名匠ノーマン・ホイットフィールドが、サイケデリック・ソウル開眼後にモータウンから送り出した男女ユニットのアルバム3枚を2CDに収めた好リイシュー。なぜか2作目『Face To Face With The Truth』だけが何度も復刻されていたが、ここでは最大のヒット“Smiling Faces Sometimes”を含む初作『The Undisputed Truth』(71年)、アーシーに深化した3作目『Law Of The Land』(73年)、ファンキーな4作目『Down To Earth』(74年)という進化の過程を一望できる。ノーマン作の名曲をはじめ、ディランやビートルズらのカヴァーも交えた骨太な作りがかっこいい。

 

SPYDER TURNER Is It Love You're After: The Whitfield Records Years(1978-1980) BBR(2017)

あんまり購買意欲をそそらないジャケは残念だが、これまたノーマン・ホイットフィールド絡みの良品。60年代にMGMでヒットを飛ばした経歴のあるデトロイト育ちのシンガー/ソングライターがローズ・ロイスへの“Do Your Dance”提供を経てホイットフィールドに残した音源集だ。中身は78年作『Music Web』と80年作『Only Love』を2in1にパッケージしたもので、いずれも初CD化。古典的な歌唱スタイルの野太さが洗練されたディスコと相性の良さを見せていて、マイルドながら野性味も備えた歌いっぷりのスケールがやたら素晴らしい!

 

BRENDA HOLLOWAY Spellbound: Rare And Unreleased Motown Masters Numero(2017)

往時より量は減ったものの、リイシュー職人たちによるコンスタントなモータウン倉庫のガサ入れはやはり毎年の楽しみだ。2016年の目玉でもあったシリータの未発表曲集に続き、2017年は“Every Little Bit Hurts”の大ヒットで知られる歌姫のレア&未発表曲を集めた2枚組だ。冷遇されて本国ではアルバム1枚しか出せなかった人ながら、ここには63~66年の録音が33曲。モッズからノーザン・ソウルまでUK目線で独自に人気を集めてきただけに、選曲のポイントにも独自の観点があって興味深い。かつてモータウン以前の初期曲までコンパイルしていた英国人のブレンダ愛も窺える。

 

THE DETROIT EMERALDS I Think Of You:The Westbound Singles 1969-75 Kent/Ace(2017)

モータウン系やデトロイトものが多めなのは映画「デトロイト」公開とは関係ないとして、同じ映画でも「ベイビー・ドライバー」で“Baby Let Me Take You(In My Arms)”が使われて話題だったのはこのヴォーカル・グループ。折良く登場した今作は、その曲を含めてウェストバウンドでのシングル全曲を集大成した便利な一枚。コモンやケンドリック・ラマーらが用いた超定番ネタ“You're Gettin' A Little Too Smart”などの直球デトロイト・ソウル時代から、小粋なAC・ティルモン&デトロイト・エメラルズ名義に様変わりした時代まで、それぞれの輝きをいまこそ確認されたし。

 

JUNIE The Complete Westbound Recordings 1973-76 Ace(2017)

オハイオ・プレイヤーズやPファンクの中核として70~80年代にファンクを革新した天才ジュニー。逝去の直前にはソランジュがベタ使いの“Junie”を披露していたが、彼の才気はそうした諸々に下駄を履かされるようなものではない。本作は3枚のソロ・アルバムなどウェストバウンドでの音源を網羅した編集盤で、奇矯に粘るセンスとマルチ・ミュージシャンぶりが堪能できる2枚組。実験的でも親しみやすい変態サウンドは、ロジャーとプリンスを橋渡しするようでそのどちらにもない輝きに溢れている。今年は“Super Spirit”などジョージ・クリントン所有音源の再蔵出しも期待したい!

 

DAZZLE Dazzle De-Lite(1979)

クール&ザ・ギャングやクラウン・ハイツ・アフェアで知られたディライト作品の大挙リイシューは、レーベル単位のまとまった復刻という意味でもデカいトピックのひとつだったと思うが、なかでも話題だったのは世界初CD化となった本作。スタン・ルーカスとリロイ・バージェスを中心にジョセリン・ブラウンもヴォーカルで参加したディスコ・プロジェクトによる唯一のアルバムで、後のインナー・ライフやログにそのまま通じる明朗なNYサウンドがとにかく眩しい名品だ。レーベルの括りは関係なくても、ディスコ/ブギーの文脈においては必須の一枚だったはず。

 

THE JIMMY CASTOR BUNCH Let It Out Drive/Solid(1978)

ヒップホップの黎明期からバリバリ愛されてきた定番“It's Just Begun”を生み出し、70年代を通じてRCAやアトランティックにアルバムを残している、ジミー・キャスター率いるファンク・バンドの比較的レアだった一枚。2010年代に入ってからはオリジナル作のリイシューがほぼ出揃った状態になってきたが、ようやく世界初CD化となった本作はアトランティック時代の狭間で一枚だけTK傘下に残していたもの。当時のディスコ色も濃い洒落たキャッチーな内容だ。ダンス系からAOR方面まで、ツボを押さえたTKのリイシュー展開は2017年も堅調だった。

 

MARVA KING Feels Right Planet/ソニー(1981)

ゴスペル畑からマダガスカルなどのグループを経て、後にプリンスに認められてニュー・パワー・ジェネレーションで活躍するシンガーの処女作も、ここにきてようやくCD化が実現。キュートな歌声の甘さを“Isle Of Castaways”や“Feeling Wonderful Feelings”でゆったりエレガントに機能させる一方、溌剌としたフレッシュなアップにも粋な歌い口で見事に馴染む。80年代が80年代らしくなる過程の80年代サウンドといった雰囲気で、AORやフュージョンとも垣根のないアーバン・スタイリッシュな意匠は2017年の耳にももちろん有効だった。

 

PRINCE & THE REVOLUTION Purple Rain Deluxe: Expanded Edition Warner Bros.(2017)

ウェンディ&リサやアポロニアの増補リイシューもあったが、そちらを挙げるほど天の邪鬼になる必要もなく、この決定的な名作のデラックス盤が恐るべき収穫であったことは言うまでもない。目玉は当然ちょっとしたニュー・アルバムのような充実ぶりの未発表曲集で、“The Dance Electric”の長尺殿下ヴァージョンや延々と粘っこい“We Can Fuck”、まるでサイボトロンのような“Possessed”など、これまで別の形で聴けていた楽曲も驚きだらけだった。シングルB面集も〈Extended Version〉を名乗りつつ革命的な別テイクの“I Would Die 4 U”などがまとまっていて嬉しい。次は何?