時代を越えてニュー・タイトルが続々と登場してくるソウルの世界。今年もいろいろ動きはありますが、ひとまずは2017年を総決算しておきましょう。種々のリイシューや発掘盤など膨大なリリースの宝の山から、いま拾い上げて聴いておきたい作品とは!?
もうとっくに2018年ですが、ここではまだ2017年の話を……というか、そもそもフラットに時代から切り離されたリイシューの世界は言うまでもなくタイムレス。2017年のソウル界では、本連載でも大きく取り上げたリオン・ウェアやウォルター“ジュニー”モリソンをはじめ、クライド・スタブルフィールドやボビー・テイラー、シルヴィア・モイ、さらにはミラクルズのウォーレン・ピート・ムーア、ソウル・サヴァイヴァーズのリチャード・インガイ、アル・ジャロウら多くの才能がこの世を去るという悲報も届きました。アナログ作品のCD化という流れが90年代に盛んになってからすでに20年以上が経過した現在、〈世界初CD化〉〈未発表音源の蔵出し〉という但し書きがあろうとなかろうと、その作品に初めて立ち会うリスナーには、そこがその人のリアルタイムなわけで……なんて当然のことを前提とするなら、やはり2017年も注目すべき復刻や発掘作品は多かったはずです。マニア向けでも入門編でも、いま扉の前に立ったリスナーにとっては、そこが入口なのですから。 *bounce編集部
2017年のソウル復刻&発掘タイトル、私的ベスト10はこれだ! 選・文/林 剛
ブラック・ムーヴィーのサントラとしては『Melinda』(72年)の復刻も快挙だったが、トム・ベルが全面指揮した79年の本作(バスケ×ディスコ映画のサントラ)は第2黄金期を迎えていたベルのスウィート&エレガントなセンスが発揮された未CD化の名盤だっただけに喜びもひとしお。特にフィリス・ハイマン“Magic Mona”とウィリアム・ハート(デルフォニックス)の“Follow Every Dream”はフィリー・ソウル屈指のバラード。当時ベルの右腕だったベル&ジェイムズが歌った主題歌のトム・ベル・オーケストラ名義による12インチ版やインスト版が追加収録されたのも嬉しい。
70年代レディー・ソウルの名盤が、ここにきて異なるヴァージョン+α(ミックスはジョン・モラレス)との2枚組セットで新装されたのは驚きだった。“Seeing You This Way”のアコースティック版、あの“Lovin' You”をドラムス、ベース、リズム・ギター入りのトラックで歌った別ヴァージョン、そして本作を匿名で全面指揮したスティーヴィー・ワンダーとのデュエット版となる“Take A Little Trip”は近年屈指の発掘音源だろう。しかも次作収録曲のグルーヴィーな別ヴァージョンまで。リイシューの監修はディアンジェロ『Brown Sugar』の拡大盤も手掛けた名匠ハリー・ワインガーだ。
ソウル・ファンには70年に発表した唯一のアルバム『In A Moment』で知られるフィラデルフィアのヴォーカル・グループ。その中心メンバーが同郷のコーリションズと合流してイントリーグスとして吹き込むもお蔵入りとなった音源集(6曲)だが、このクォリティーがめっぽう高い。それもそのはず、曲の作者にして共同制作者はスピナーズやメジャー・ハリスにヒットを献上したメルヴィンとマーヴィンのスティールズ兄弟なのだ。70年代後半のディスコ・ムードの中で再現されたフィリーのモダンな躍動感とニュージャージー的なイナタさ。熱気漲るバリトン・リードも快調だ。
レアな作品の復刻が続くTKの日本盤化の中でも、クラレンス・リードらが手掛けたこの唯一のアルバム(世界初CD化)はとびきりレアにしてハイクォリティーな逸品。ワイルド・ハニーを名乗るグループはP&P絡みのユニットも含めて別モノが複数存在するが、こちらはテキサス出身と思しき女性トリオ。アルバム未収録のドライヴ原盤曲が純正フィリー・ソウルであったように、TK仕込みの本作でも冒頭からフィリー風ダンサーが登場し、〈南部版ファースト・チョイス〉とでも呼びたいディスコ調のアップも含めて溌剌とした歌を聴かせる。スケールの大きなバラードも好演。
スタックス創立60周年でもあった2017年。同社のソングライター/プロデューサーとしてメンフィス・ソウルの発展に貢献し、ソロとして大胆な長尺カヴァーを含むシンフォニックなソウルを歌ったスタックスでのキャリアを、テーマごとに4枚のCDで振り返るアンソロジーも力作だった。裏方仕事をまとめたDisc-1はスタックスの名曲コンピとしても通用する。ソロ曲集ではビル・ウィザーズ“Ain't No Sunshine”の未発表カヴァーなども初お目見え。初期にヤングスタウンから出した7インチのレプリカも封入。〈このハゲー!〉と罵る前に、まずヘイズの偉業に接してほしい。
ディープ・ファンクのブームが落ち着き、モダン・ソウル/ブギー系のリイシュー/発掘が主流となるなか、イーゴンのナウ・アゲインがやってくれた。プリンスとコラボ経験があるメンバーを含むアイオワ州デモインを拠点としたバンドの編集盤。7インチ版も収録された“Watching Out”(とカップリングの“Dazed”)は唯一のシングルとして一部で知られていたが、大半はお蔵入りとなっていた70年代後半~80年代前半の音源。スレイヴ風のヘヴィーなファンク・ダンサーやローズ・ロイスのような女声リードのバラードなど、メジャーで活躍できたと思わせるスキルと質の高さに驚いた。
マンドレの正規リイシューも待たれるが、その前身となる男女混成バンド=マクサンが72 ~74年にカプリコーンから出した3枚のアルバム(全録音)が紙ジャケCD化され、セットで発表されたのは地味に快挙だった。総帥アンドレ・ルイスのもと、ファンク、ブルース、ジャズ、ゴスペルを呑み込んで展開するサイケでコズミックな拡張~越境型のソウルは〈ジャンルなんて関係ない〉と仰る貴殿・貴女にこそ聴いてほしい。ストーンズ名曲などのカヴァーをエネルギッシュに歌う元アイケッツのマクサン嬢はメリー・クレイトンにも通じているか。再評価の気運が高まってきた。
ニュージャージー発、オール・プラティナム産のレディー・ソウルの隠れ名作。妖しく頼りなげな歌声はシルヴィアほどの強烈な個性がなく当時は埋もれてしまったが、夫のアル・グッドマンらモーメンツ一派やリムショッツのウォルター・モリスが手掛けたメロウな楽曲は、“Really Really”を筆頭にモダン・ソウル・ブームを経たいまこそ評価されるものだろう。長尺の12インチ・ミックス版が追加収録された“My Love Is On His Way”もエクスパンション好みのメロウなディスコ・ダンサー。アルバムの前年に出したメアリー・ウェルズ名曲のカヴァーなどシングル2曲も追加。
音楽界でもLGBTに対する理解が深まりつつあるなか、カナダのトロントで活動したトランスジェンダーのシンガーの編集盤が出たことはタイムリーだった。が、本当に偏見がないのなら音楽そのものを評価すべきで、60年代に吹き込まれたシングルやライヴ音源から成る本作は、まさにシンガーとしての魅力をストレートに伝えてくれる。バレット・ストロング“Money(That's What I Want)”をカヴァーし、ジャッキー・ウィルソンみたいにエキサイティングな声を放つ〈彼女〉の音楽にはデトロイト産リズム&ブルースの影響が色濃く滲み、そのファンキーさはJBにも通じている。
狭義のニュー・ソウル・ムーヴメントを支え、東海岸的なセンスでカートムに新風を吹き込んだ都会派シンガー/ソングライターのアンソロジー。大半を占めるカートム音源はアシッド・ジャズの源流として90年代的な再評価が続いており、本作の狙いも監修者やレーベルが伝える通りだ。が、タヴァレスも取り上げた“Positive Forces”、西海岸録音作『Paradise』(82年)の流れを汲む“Now That I Found You”という未発表だった2曲は、それぞれモダン・ソウル、ブギーの文脈で評価されるべきもの。日本盤が発表されたことで5月に初来日公演が決定という嬉しいオマケも付いた。