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よりクリエイティヴに

 アルバム・リリース後、2007年の作品はajapai制作のシングル“Flag”のみに止まるが、その後に制作体制などを仕切り直して登場したのが、本人も大きなターニング・ポイントと認める2008年7月のシングル“Inside Your Head”だ。初顔合わせのNao’ymtによるキャッチーなダンス・トラックは、大知がみずから振付けも担うきっかけの一曲となった。

 「一回仕切り直してから、いままで組んだことのないトラックメイカーの方とも一緒にやってみようって話になって、そこでNaoさんとの出会いもあったんです。この“Inside Your Head”がなければ自分が振付師として〈ダンスを一曲丸々つけたい〉みたいな気持ちになるのも、もっと後だったかもしれないです。それまでは振付師の方がいたんですけど、この曲はもう聴いた時に〈絶対に自分でやりたい〉と思って作って、〈使わなくてもいいから見てほしい〉って見てもらって。そしたら何か〈いいね〉みたいな話になって、そこから自分で作るようになったんです。定点のダンス映像もこの時から撮りはじめたし、いまの三浦大知の一歩目という感じはありますね」。

 なお、同シングルのカップリングに収録された“Magic”では、UTAとの共作で大知が初の作曲を担当。『D-ROCK with U』収録の“17 Ways”や先述の“Flag”で作詞を経験していた大知だが、ここでのUTAとの手合わせは彼が具体的な制作面にも深く関わっていくきっかけとなった。そうした成果を踏まえてのセカンド・アルバム『Who’s The Man』は、改めて〈この男は誰だ?〉と問う表題からもわかるように、改めて自身の持ち味を世に紹介する気概に溢れた名作となった。

 「チームとしてNaoさんとの出会いが凄く衝撃的だったので、やっぱその衝撃をパッケージしたい気持ちが強かったですね。もちろん他にもU-Key zoneさんだったり、いろんな出会いがあって、このあたりから自分も制作の部分により入らせていただいたり。以前が別に関わってなかったわけじゃないですけど、拙いながら歌詞を書いてみるとか、〈こういう楽曲をやってみたい〉っていう段階から話をさせてもらえはじめていたので、よりクリエイティヴな部分を一緒にやらせてもらえたアルバムだった気はしてます」。

 数字だけで見れば商業的に大成功とは言い難い『Who’s The Man』ではあったものの、そこが現在にまで至るスタンスのポジティヴな起点になったことは、初のTOP10入りを記録する次作『D.M.』(2011年)以降のアルバムが確信的に地続きとなっていることからも明白だ。また、この時期の大知からはシングル・ヒットを期待される立場でありつつ、よりアルバム・アーティストとしての頼もしさを強めてきたという印象も受ける。

 「そうですね。ツアーでも以前より会場を多めに回らせていただくとか、三浦大知はこうやってライヴ中心にやっていく、みたいになっていった時に、ひとつの塊で観せる/聴かせるっていうのはライヴもアルバムも通じるところが凄くあって。アルバム一枚の流れみたいなものも、セットリストじゃないですけど、そういう視点で選ぶようになってきた部分はあるかもしれないですね」。

 2012年5月には初めて日本武道館で公演を行い、翌年9月には初の横浜アリーナ、2017年1月には初の国立代々木競技場第一体育館……とライヴの動員数もツアーの規模もグングン拡大。それと並行して『The Entertainer』(2013年)、『FEVER』(2015年)、『HIT』(2017年)と力の入ったアルバムもコンスタントに生まれてきた。折々の作品に臨む本人の意識はアルバムごとにbounceで行ってきたインタヴューをアーカイヴなどでご覧いただくとして、その流れで見えてくるのはUTAと大知のコンビが制作ユニットの重要な一角として徐々に存在感を大きくしてきたことだろう。

 「自分で何かやってみたい気持ちは常にあったんですけど、それを形にする術がなくて、自分でトラックを作ってみても、やっぱり頭の中で鳴ってるものにはならないし。そんな時にUTAさんと〈こういうスネアが良くて、これぐらいのBPMのこんな感じがいいと思ってるんですけど〉って話してたら、パッとドラムを組んでくれて、そしたら自分の頭の中で鳴ってるやつの最高峰みたいなのがその場で組み上がるわけですよ。〈ああ、それです!〉みたいな。そうやって頭の中にある音を形にしてくれて、それをより上回るものを一緒に作ってくれるUTAさんがいるから、そこに甘えさせてもらいながら自分もそういう部分に参加できるようになった感じはあります。もちろん他の作家さんにもたくさんお世話になってるんですけど、NaoさんとUTAさんっていうのは曲数も含めて三浦大知の中では大きい存在なんです。Naoさんは、どっちかって言うとホントに仕立て屋さん、テイラー屋さんだと思うんですよ。もう独自の世界観があって、その人専用のスーツを一着ビシッと作ってくださるっていう。一方のUTAさんはもうビックリするくらいデカいクローゼットがあって、バサッて開けたら、いろんな洋服が選び放題で、そこからどんな服を組み合わせても、ちゃんとそのオリジナルになるみたいな。だから2人とも能力が違うんだけど、唯一無二な部分を凄く感じていますね」。