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サカナクション 『魚図鑑』 分析不能なバンドとその楽曲を、自分たちの手であえて分析して出した一つの答え

サカナクション 『魚図鑑』 分析不能なバンドとその楽曲を、自分たちの手であえて分析して出した一つの答え

いわばサカナクションという分析不能なバンドとその楽曲たちを、自分たちの手であえて分析して出した一つの答え

10代後半からレコード会社の育成部門にいたという山口一郎は、前身バンドのメンバーでもあった岩寺基晴と共に2005年、音楽ユニットとしてサカナクションを結成。2007年には異例のスピードで、アルバム『GO TO THE FUTURE』にてメジャー・デビューする(これを機に岡崎英美、草刈愛美、江島啓一が加入しバンド形態に)。以後、ロック、オルタナ、あるいはフォークを根幹としつつも、そこにエレクトロやダンス・ミュージックなど多岐にわたるジャンルを取り入れ、もはや〈サカナクション〉というジャンルとしか言いようのない分類不能な独自の音楽を作り上げてきた。

そこから10年間のバンドの激動ぶり、成長ぶりは別稿に任せるとして、彼らは昨年2017年にデビュー10周年を迎え、12枚目のシングル『多分、風。』を引っ提げた全国ツアー、そしてデビュー10周年を記念した全国ツアーで日本中を駆け巡った。そんなサカナクションが今年に入って届けてくれたのは、なんと3作品連続リリースというアナウンスだった。その連続リリースの第一弾にあたるのが今作『魚図鑑』である。リリース文面には〈10周年の活動を総括するバンド初のベストアルバム〉とあるが、ただのベストアルバムではないことは火を見るより明らかだ。

 

 

3形態それぞれにこだわりぬいたアートワークや内容物。「浅瀬」「中層」「深海」(「深海」は完全生産限定盤プレミアムBOXのみ収録)と名付けられた各ディスクと、そこに分類された楽曲群。そして「魚大図鑑」「魚図鑑」と名付けられ、各楽曲を図と文章で徹底的に解説した豪華ブックレット。そう、商品内容を見ただけでも、これはただのベストアルバムなんかではなく、いわばサカナクションという分析不能なバンドとその楽曲たちを、自分たちの手であえて分析して出した一つの答えになっていることがわかる。

山口一郎は先日自身のラジオにおいて、ベストアルバムをCDというフィジカルな形でリリースすることを、サブスクリプションを比較対象に挙げ「自分たちで今まで出してきた曲を、〈こういう順番で聴いてもらうのはどうかな〉ってキュレーションし直すことをやってもよいかなと思った」と述べた。10周年を迎えた今だからこそ改めて自分たちの歴史を振り返り、各楽曲を分析して再定義することが必要だったのだろう。

収録曲に目を向けると、「浅瀬」と名付けられたDisc 1はシングル表題曲を中心にセレクト。たしかに〈一番人目につきやすい〉という意味でも〈元気よく活発に活動する〉という意味でも、シングル曲たちが浅瀬に棲んでいると定義付けられたことは納得だ。映画「曇天に笑う」の主題歌としてキャスト陣のダンス動画が話題の『陽炎 -movie version-』もここに収録されている。

「中層」には配信リリース曲やアルバム収録曲、シングルのカップリング曲から選曲。“三日月サンセット”や“ネイティブダンサー”といった比較的ポピュラーな曲から始まり、魚たちはグラデーションを描くようにだんだんとインナーワールドへと降下していく。そうして到達した中層の最下点にあるのは暗黒の世界ではなく、“目が明く藍色”の世界だった。4thアルバム『kikUUiki』のラストも飾った壮大なナンバーが、壮大な旅を締めくくってくれる。

そこよりもさらに下に広がる「深海」の世界を除くことが許されるのは、完全生産限定盤プレミアムBOXを手にした者だけ。“enough”“mellow”あたりからは、水面から届く明かりが完全に見えなくなり、そこに見えるのは自分自身だけ。内なる自分との対峙がスタートする。この深海への潜水の果てに見える光景とは一体……? それはぜひとも自分の耳で体験してほしい。

そうして本作を聴き終った後も、サカナクションを追いかける旅路は、3作品連続リリースの第二弾、6.1chのサラウンドで行われたライブ『SAKANAQUARIUM2017 10th ANNIVERSARY Arena Session 6.1ch Sound Around』のBlu-ray&DVDへ、さらには連続リリースの第三弾として約5年ぶりにリリースされるオリジナル・アルバムへと続いていく。

前述のラジオ番組では「今までのサカナクションは次のアルバムで終わり」と言い放った山口一郎。ではこれからのサカナクションはどうなっていくのか。出世魚のごとく更なる成長を見せるのか、はたまた川や海を出て新たな生物へと進化を遂げるのか。きっとその行く末を知る最初のきっかけが、この『魚図鑑』に詰まっているに違いない。

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