クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに、国内外で活躍を続けているジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に長く身を置きながら、NHORHMとしてへヴィメタル・カヴァー盤をリリースしBABYMETALへの並々ならぬ愛を綴った記事でMikikiの年間アクセス・ランキングの首位を獲得するなど、メタル愛好家としても知られる彼女。そんな〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉という立ち位置から、近年再び盛り上がりを見せるへヴィメタルを語り尽くすのが本連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉です。更新を待っているよの声も多数いただくほど、お陰様で大大大大大好評をいただいています!

早くも第5回となる今回は、季節にちなんだテーマ――この猛暑にピッタリの〈ブラジリアン・メタル〉を紹介してくれました! *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


今年は、7月から気温の高い日が続いていますね。

個人的に、〈暑い〉〈寒い〉〈忙しい〉の3ワードは、言っても何も生み出さないので、なるべく口に出さないようにしているのですが、今年の酷暑はさすがにそういうわけにもいかず、しかし〈暑い〉と言うと負けた気分になるので、気温が37度、38度ぐらいになると〈痛い〉と言っています。

しかし、そんな中でも、ヘヴィメタルがあれば、元気になれる!

暑い! 熱い! 暑苦しい! それが、メタル!

明日から真似できる、最強の〈メタル・クールビズ・スタイル〉もあります。

それはさておき、夏といえば、ボサノヴァ。

〈イパネマの娘〉に代表されるボサノヴァの有名曲は、ジャズ・シーンではこの時期、特に多く演奏されますし、ボサノヴァ・アレンジはなんとなく涼やかな気分になれますね。爽やかな夏らしくて、良いですね。

スタン・ゲッツ、ジョアン・ジルベルトの64年のシングル〈イパネマの娘〉
 

ボサノヴァといえば、ブラジルの音楽ですが、ブラジルにはサンバやボサノヴァだけでなく、超熱いヘヴィメタルもあるんですよ……! なんとなく、寒い国の方がメタルっぽいイメージがあると思いますが、ブラジルのメタルは熱いです。

夏=ボサノヴァ、

ボサノヴァ=ブラジル、

ブラジル=ヘヴィメタルだ!

ということで、夏=ヘヴィメタル。暑い夏を〈圧〉で返り討ちにする、ブラジリアン・メタルのご紹介です。

 

まずは、ブラジルを代表するメタル・バンド〈セパルトゥラ(Sepultura)〉。

セパルトゥラの91年作『Arise』タイトル・トラック
 

悪い! 凶悪サウンド! 熱帯夜に合う!

こちらのバンドは、初期はスラッシュ・メタル&デス・メタル〜その後グルーヴ・メタル寄りのサウンドに結びついていく、極悪サウンドが魅力なのですが、1996年の名盤『Roots』は、ブラジルの土着の音楽と結びついて、魔術的で癖になる面白さがあります。アルバムの要所要所で使われる民族打楽器が非常に自然で格好良く、それが呪術的で、妖しさ、禍々しさを加速させています。

同アルバム収録曲“Roots Bloody Roots”のMVは、ブラジルの夏を感じられるのでお勧めです。

“Roots Bloody Roots”
 

このセパルトゥラ、実は今年5月に、17年ぶりに来日していました。

現在のメンバーは、バンド創設時の中心メンバーであるカヴァレラ兄弟がいないのですが、このツアー時のオフショット映像がなんだかとても楽しそうで可愛くて癒されるので、ぜひどうぞ。

 

そして、こちらもブラジルを代表するメタル・バンド〈アングラ(Angra)〉。

1996年の名作『Holy Land』収録の、代表曲である“Nothing To Say”、この曲のイントロの、恐るべき〈メタルとサンバの融合〉を聴いて頂きたい。

アングラの96年作『Holy Land』収録曲“Nothing To Say”
 

メタルとサンバって、合うんだ……

夏らしいですね!!!(圧)

このアルバム『Holy Land』は、全曲、何らかの形でブラジル音楽的なアプローチが絡んできます。“Carolina Ⅳ”という曲では、エルメート・パスコアールの“Bebe”の一節が引用で出てきます。メタルなのに!

エルメート・パスコアールの73年作『A Música Livre De Hermeto Paschoal』収録曲“Bebe”
 

私はこのアングラを以前から大好きでして、マイ・ベスト・アルバムは『Temple Of Shadows』(2004年)、このアルバムは本当に楽曲のクォリティーが高く、見事な構成だと思います。アングラにはブラジル音楽独特の〈サウダージ〉と呼ばれる感覚が常にあって、そこが私にとっては一番の魅力ですね。

私のヘヴィメタル・ジャズ・プロジェクト、NHORHMの1stアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』(2015年)でも、アングラの“Upper Levels”という曲をカヴァーさせてもらいました。この曲も、実は原曲がブラジル音楽の要素がかなり多く、パルチード・アルトのようなリズム・パターンもありました。ジャズ・ミュージシャンとしても親和性を感じるサウンドだったので取り上げたのですが、ギターのキコ・ルーレイロ(現メガデス)からアルバムの推薦コメントを頂くこともできたうえ、フェリペ・アンドレオーリ(ベース)と、ブルーノ・ヴァルヴェルデ(ドラムス)も聴いて気に入ってくれて、メッセージを頂き、非常にフレンドリーな方々なのだなあと、一層好きになりましたよ。

 

セパルトゥラは、ブラジル先住民の土着的なビートが、メタルのグルーヴをより呪術的で深く沈むものに、
アングラは、ブラジル音楽のサウダージな部分が、様式美系の世界観をよりカラフルに増幅。

アングラは、今年秋に来日公演も予定されています。

11/5(月)愛知・名古屋 DIAMOND HALL
11/6(火)大阪 BIGCAT
11/7(水)東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST
11/8(木)東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST
https://www.creativeman.co.jp/event/angra18/

この〈ブラジル音楽とヘヴィメタルとの悪魔合体〉は、酷暑にぴったりです!

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコースジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5ヶ月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズプロムナード・ジャズコンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をスパイスオブライフ(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズフェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、全ての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。

2016年には続編アルバムも発売。自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズプロムナードをはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

http://hitominishiyama.net/

 


Live Information

8/8(水)千葉・本八幡cooljojo
鬼怒無月guitar DUO

8/11(土・昼)兵庫・神戸CREOLE
Duo 清野拓巳guitar

8/12(日・昼)京都NAM HALL
Duo 東かおるvocal

8/15(水)兵庫・伊丹Stage
安ヵ川大樹bassデュオ

8/17(金)神奈川・横浜 上町63
小牧良平bass 池長一美drums

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