INTERVIEW

さよならHALFBY、京都の田舎町からハワイ夢見た最終章『LAST ALOHA』を語る

さよならHALFBY、京都の田舎町からハワイ夢見た最終章『LAST ALOHA』を語る

手弾きしたメロディーを生かしながら、ビートやサンプリング・ピース、フィールド録音素材のコラージュによって、現代のエキゾチカとしてのハワイを具現化したアルバム『innn HAWAII』から3年。HALFBYこと高橋孝博のディスカヴァー・ハワイという名のもとに続けられた理想の音楽探究は新作アルバム『LAST ALOHA』で最終章を迎えた。メロウかつメロディアスなアナログ・シンセサイザーのレイヤーが誘う前作以上にチルなムードを湛えた本作では、ヴォーカル、コーラスで王舟、Homecomings、ギターでAhh! Folly Jetこと高井康生らをフィーチャーしながら、エキゾチックかつメランコリックなタッチでパーソナルな音楽世界を美しく描き出している。その耳触りはどこまでも滑らかで、イージーでラウンジーなリスニング体験を約束する作品であると同時にエッジやアーティスト・エゴをそぎ落としたところに静かな過激さも感じられる充実の一枚とも言えるだろう。

HALFBY LAST ALOHA felicity(2018)

田舎の実家暮らしで日々のルーティンは犬の散歩くらい

――まず、リリースから約3年が経った前作『innn HAWAII』を振り返っていただけますか?

「前作と今回の新作『LAST ALOHA』はハワイというコンセプトで繋がってはいるんですけど、言ってみれば、前作はハワイに初めて行った時の初期衝動的なアルバムだったんです。その初期衝動には、2010年のアルバム『THE ISLAND OF CURIOSITY』で初めてトロピカルなダンス・ミュージックに手を付けたものの、その路線を突き詰め切れていないなか、次作の『LEADERS OF THE NEW SCHOOL』(2011年)でディプロに憧れてバイレファンキやムーンバートンにトライしたことの影響や反動も含まれていて。そこに旅行で訪れたハワイの衝撃、高揚感がプラスされた。そんな『innn HAWAII』に対して、今回の『LAST ALOHA』は田舎に帰ってきて、その田舎での日々のなかでハワイをエキゾチカとして作品に投影したアルバムなので、チル度は増していますよね」

――田舎での日々のなかでハワイをエキゾチカとして作品に投影するというのは、具体的に言うとどういうことなんでしょうか?

「自分にしては珍しく、音楽的に目指したものや影響を受けた海外のアーティストやムーヴメントが特になくて。日々の生活に準じた温度感というか。かつて働いていた(京都のレコード・ショップ)JET SETを辞めた後、田舎の実家暮らしで日々のルーティンは犬の散歩くらい(笑)。『innn HAWAII』リリース後の2年くらいは外注仕事をコンスタントにこなしながら日々を過ごしていたんですけど、田舎でぼーっとしながらの作業だったので、音楽面での劇的な変化はなかったんですよ。あと自分の年齢的なこととか? それによって味覚が変わったり、思考がゆるくなったり、長らく会ってない人に会いたくなったりとか、そういうムードが作品に色濃く投影されたということなんじゃないですかね」

――つまり、外的な要因より内的な要因がチルなムードを熟成させていった、と。

「作品を作りながら、聴いていた音楽はもちろんあるんですけど、現場でプレイするダンス・ミュージックはほとんど聴いていませんでしたし、むしろ、音数の少ない環境音楽を部屋の電気消して聴いたりとか。いや、別にスピリチュアリズムに傾倒していたわけではないですよ(笑)。でも、前作制作時にはハワイアンとかハワイのコーラス・アルバムとか、ハワイにまつわる音楽を聴いて、雰囲気に浸ったりしていたんですけど、今回はサンプリングネタを探す時以外、ハワイにまつわる音楽も聴きませんでしたからね」

――よく聴いていた環境音楽というのは?

「例えば、自然音のフィールド・レコーディングで有名なカナダのダン・ギブソンとか。昔、ムーグ山本さんがどこかで紹介していたんですけど、彼の作品に〈Solitudes〉シリーズというのがあって。世界各地でフィールド・レコーディングした音に息子のゴードンがイージーリスニングな音を足して、世界的なヒットを記録したシリーズ・アルバムなんです。それを夜中に聴いたりしていましたね」

ダン・ギブソンの85年作『Solitudes 10: Tradewind Islands』
 

――シンセサイザーの波のようなテクスチャーが広がるアルバム前半はそうした音楽の影響が大きいように思いましたが、近年、例えば、アーティストではジジ・マシンや吉村弘の再評価、レーベルだとミュージック・フロム・メモリーによる音源の発掘/再発によって、現代音楽やニューエイジ、環境音楽、アンビエントにスポットが当たっていますよね。

「そうですね。自分はそこまで熱心に追いかけてはいないんですけど、全世界的にそうした音楽が盛り上がっているムードをなんとなく察知はしていて」

――そうした再評価/再発は、ポスト・ダンス・ミュージックの文脈だったりすると思うんですけど、これまでダンス・ミュージックをプロデュースしてきたHALFBYが今回の作品でチルな音楽世界に辿り着いた流れと重なるものがあるように思いました。

「前作『innn HAWAII』の時もHALFBYを辞めようかどうしようか考えたんですよ。それまでは作りたい音楽を元気よく作ってきましたし、周りの友達も若くて、イヴェントをやって楽しく遊んでいた。だけど、それぞれが結婚して落ち着いたり、仕事や子育てに忙しくて、クラブに来なくなったり、周りの状況が変化するなかで、独り黙々と音楽を作り続けることに対して思うところが多かった。

『innn HAWAII』では、僕より下の世代のVIDEOTAPEMUSICやAlfred Beach Sandalに参加してもらったんですけど、そもそもが彼らの作品を聴いて、その音楽が醸し出すいい雰囲気に触発されたことで、〈自分も作品を作ろう〉と最後のやる気を振り絞って作ったアルバムだったんです。その出来に満足できたら、音楽辞めてもいいなと思っていたんですけど、『innn HAWAII』をいざリリースしたら、評判も良かったですし、前作の流れは自分のなかでまだ続いているように感じた。なので前作の続編として今回のアルバムに取り組んだんです」

『innn HAWAII』収録曲“Slow Banana”

 

ハワイのドローン映像に音の温度感を合わせた

――音楽家が行き着く先の楽園としてのハワイという意味では、マウイにはデッドヘッズのカフェ〈Stella Blue〉があったり、トッド・ラングレンやウィリー・ネルソン、スティーリーダンのウォルター・ベッカーらハワイに移住した音楽家も数々いますからね。

「はははは。僕はまだマウイには行ったことがないし、オアフでウロウロしてるひよっこなんですけどね(笑)。まぁ、でもハワイ島やマウイ島は観光地も少なく、火山とか大自然が広がっている感じなので、そこに楽園を見出して移住するようになったら、ある意味でヤバいかもしれない」

――今回のアルバムは、ハワイの大自然にHALFBYが独り対峙した作品ではないにせよ、ある種のメランコリーが作品に一貫して流れていますよね?

「そうですね。でも、メロディーは考えて作ったものではなく、自分であてどなくキーボードを弾いて、いいメロディーをなんとなく選んだだけなんですよ。前作でもよくやっていたんですけど、自分のデモをYouTubeの動画に当てて、キーボードを弾きながら、その映像の温度感に曲を合わせていくメロディーメイクの手法が影響しているのかもしれないですね」

――例えば、どんな映像を当てたんですか?

「ドローンで空撮したハワイの海辺の風景とか。あと、80年代のLAをコンセプトとしたロンドン発祥のスケート・ブランド〈Yardsale〉のスケート・ビデオがフィルターをかけた荒い映像で、使っている曲も古いソウルやジャズ・ファンクをスクリュードしたもので。その映像に自分の曲を合わせたりもしましたね」

 

Ahh! Folly Jet、王舟…ストレンジな箱庭感で通じるゲスト陣

――今回はAhh! Folly Jetの高井康生さんが“Diamond Head”と“くり返す”の2曲にギターで参加されていますよね。

「もともとは前作収録の“SLOW BANANA”のリミックスをXTALくんに頼んだら、彼から〈繰り返し聞いていたら、Ahh! Folly Jetの高井さんのことが思い浮かぶので一緒にリミックスしていいですか?〉って言われて。高井さんとはSNSで相互にフォローしあっているんですけど、直接面識がなかったし、一緒にお仕事する願ってもない機会だなと思った。なので、あのリミックスで初めて繋がりが出来たんです」

――高井さんいわく、そのリミックスは2000年以降、長らく活動を休止していたAhh! Folly Jetが復活を果たすきっかけになったそうです。昨年10月には、18年ぶりのシングル“犬の日々”をリリースされてました。Ahh! Folly Jetの音楽はリアルタイムで聴かれていたんですか?

「そうです。当時、Ahh! Folly Jetのライヴは〈ジャケットに映っているヌードの女性がダンサーとして踊っているらしい〉という噂がありましたよね。さらに、“シルヴィアを聴きながら”というタイトルが杏里の“オリビアを聴きながら”とスウィート・ソウルの女性シンガー、シルヴィアを掛け合わせたものらしいという話も最高だと思い、買って聴いていたんです。そして、リミックスをきっかけに接点が出来たので、今回ギターを弾いてもらった。〈ブリージーなバレアリック・テイストではなく、ブルージーな渋いニュアンスのギターが欲しい〉とビビりながらお願いしたら、快く引き受けてくれました」

――そして、前作にヴォーカルでフィーチャーしたAlfred Beach Sandalに続き、今回は“くり返す”にシンガー・ソングライターの王舟が参加しています。

「王舟は同じfelicityのレーベル・メイトでもあるし、彼が出したセカンド・アルバム『PICTURE』(2016年)を愛聴していて。ライヴでは弾き語りでやるようなフォーク、カントリーの要素もあるんですけど、拙い打ち込みによる宅録的な要素であるとかファンクっぽさ、70年代のトッド・ラングレンやハイ・ラマズみたいなポップ感覚がおもしろいバランスで同居していたので、次の作品を作る時にはぜひ歌ってほしいと思って、早くからオファーしていたんです」

――前回のAlfred Beach Sandalしかり、今回の王舟しかり、シンガー・ソングライターという枠には収まりきらないストレンジなセンスが共通していますよね。

「そうですね。知らず知らずのうちに、自分でもそういうストレンジな感覚を求めているんでしょうね(笑)。王舟も自分の世界の住人というか、そういう箱庭的な感覚がありますし、同じことがAhh! Folly Jetにも言えるかな、と。高井さんの場合は使ってる機材も含めて、もっとマニアックですけどね(笑)」

 

強烈なエゴを必要としない絶妙な距離感の音楽

――それ以外にも“くり返す”ではHandsomeboy Techniqueのベースをフィーチャーしたり、“Honeymoon”ではHomecomingsがコーラスを歌ったり、地元京都の仲間たちもヘルプで参加しています。

「Handsomeboy Techniqueの森野(義貴)くんに打ち込みでベースを入れてもらったり、Homecomingsに歌ってもらったりというのは、制作終盤の詰めの作業での思いつきです。それから元Hotel Mexicoの菊池(史)くんがギターを弾いてくれた“The Wonderful World Of Aloha”は、前作『innn HAWAII』リリースから1年くらい後にYouTubeでMVを公開したカヴァー曲ですね。ハワイの著名曲をカヴァーしたくて、ジャック・デ・メロ作のこの曲を取り上げたんですけど、そのヴァージョンをアップデートして、今回収録しました。

ジャック・デ・メロは、ハワイアン・イージーリスニングの分野でよく知られた人で、その時々のヒット曲ばかりをカヴァーしているポール・モーリアみたいなコンポーザー/アレンジャー。でも、カヴァーだけでなく、オリジナル曲も沢山発表していて、“The Wonderful World Of Aloha”もハワイアン航空に依頼されて作ったものなんですよ。この曲が象徴するように、今回のアルバムも最終的にイージーリスニングとして聴き流せる案配が目指しているところであって、1曲も頭に残らないような絶妙な薄さとジャケットを含めた完成度の高さが同居した作品になればいいなって」

『LAST ALOHA』に新ヴァージョンとして収録されている
 

――つまり、アーティスト・エゴが前面に出ていない控えめなところに音楽の旨みがあるアルバムということですよね。

「そうです。90年代にラウンジ・ミュージックが盛り上がった時、アメリカでは〈グランジからラウンジへ〉という謳い文句がありましたよね。その感覚と近しいのか、自分もシンセや打ち込みでダンス・ミュージックを作っても、いわゆるハウス、テクノにはならない。それ以前に聴いていたインディー・ポップやネオアコの要素もそこには残っているし、強烈なエゴを必要としない絶妙な距離感、温度感の音楽こそが自分のテイストなのかなって」

――トレンドには目もくれず、理想の音楽像をハワイというテーマに託して、制作の末に辿り着いたのが、そういう極々パーソナルな音楽世界だったというのは非常に興味深いです。

「今回のアルバムは『LAST ALOHA』というタイトルありきで作りはじめたんです。〈ALOHA〉という言葉には〈こんにちは〉という意味もあれば、〈さようなら〉という意味もあるんですけど、このアルバムを作り終えたことで全てを出し尽くしたというか、次の作品を作るかどうかも今は考えてなくて。ただ、今回のアルバムではエッジを立てないエッジーさを極めることができて、自分としては満足していますね」

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