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【ろっくおん!】第69回 バッドフィンガー『Wish You Were Here』不運続きで時代に埋もれたワーナー在籍時の作品は、実はアップル期をも凌ぐ力作だった?

ロック好きの大学生が集まって放課後タイムにダラダラおしゃべり! 専攻科目よりも皆さんロック史の研究に夢中なようですね!!

 落ち葉が舞い散るある日の放課後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。

【今月のレポート盤】

BADFINGER Wish You Were Here:Expanded Edition Warner Bros./Real Gone/ATOZ(1974)

 

穴守朔太郎「ハナはポール・マッカートニーの来日公演に行って以来、ずっと呆けたツラしてらいな」

三崎ハナ「だって最高だったんですもん! 先輩も行くべきでしたよ~!」

穴守「オイラはビートルズの〈White Album〉の50周年記念版で貯金を使い果たしたから無理だい」

三崎「もうすぐ社会人だっていうのに……。たまにはハナに学食で奢るくらいの男になってくださいよ!」

野比甚八「ちょいと皆さん、ポールもビートルズも素晴らしいのは承知していやすが、いま聴くべきはバッドフィンガーじゃねえですかね?」

三崎「ビートルズの弟分的な存在だったことは知っているけど、なぜいま?」

野比「ワーナー移籍第2弾にして、オリジナル・メンバーでのラスト作品となった74年の『Wish You Were Here』が、最新リマスターかつボートラを9曲も追加してリイシューされたんすよ! しかもプロデュースは〈White Album〉にも関わっているクリス・トーマス! いまこそ聴くべし!」

穴守「けどよ、彼らの全盛期って言ったらどう考えてもアップル時代だんべえ」

野比「セールス的にはそうなんすけど、熱心なファンの間ではこれを最高傑作に推す人も少なくないんですぜ!」

三崎「え~。だったら、もっと知られていてもいいよね? ハナはいままでジャケすら見たことなかったよ」

野比「それには深い理由があるんすよ。この頃に悪徳マネージャーと契約しちまったことで、ろくなプロモーションも行われず、しかも多額の経費まで横領される始末。加えてワーナーは契約違反を理由に、本作と、さらに同じ年に出た前作『Badfinger』をすべて回収したんでさあ」

穴守「金銭問題やメンバー間の不和が原因で解散したっていうのは知っていたけんどよ、そんな酷い内幕があったんかい……」

野比「そして気を病んだリーダー格のピート・ハムは、マネージャーへの恨みを遺言に記して自殺しちまうんすよ」

三崎「えええ! あまりにも悲惨なエピソードにハナは泣きそうだよ! 野比君、よくわかったからすぐに聴いてみよう!」

穴守「(アルバムを聴きながら)う~む……こりゃ確かに力作だいな。アップル時代ほどビートルズっぽさがない代わりに、“Just A Chance”や“Dennis”あたりはポールの、“Got To Get Out Of Here”はジョン・レノンのソロを彷彿とさせるのが興味深いんさ。それにアヴェレージ・ホワイト・バンドのホーン隊が参加しているのも意外だいな」

三崎「明るいパワー・ポップの“Know One Knows”が良いね! 日本人女性の語りが入ってるのもおもしろい!」

野比「その声の主はサディスティック・ミカ・バンドの加藤ミカなんすよ。よく見ると彼女はジャケにも写っていやす」

穴守「ポール直系のドリーミーなバラード“Love Time”もたまんねえな」

野比「超名曲っすよね! 世間的には無名のナンバーっすけど、あっし的には〈ポール風ソング〉史上屈指の出来だと思うんすよ」

穴守「これだけ良い曲が揃っているんだからよ、諸々のトラブルさえなきゃ〈バッドフィンガーの代表作〉って評価になっていたかもしんねえべなあ。〈全盛期はアップル時代〉っていう前言は撤回するんべえ」

三崎「そう言えばニルソンやマライア・キャリーのヴァージョンで有名な“Without You”も、オリジナルは彼らなんですよね。それすらさほど認知されていないんだから、つくづく悲運なバンドだな~」

野比「だからこそ、この機会にせめてロッ研だけでもバッドフィンガーとこの『Wish You Were Here』を大いに盛り上げようって寸法じゃねえですか!」

三崎「よし! 部長権限でみんなに一枚ずつ強制配布しよう! お金は部費から勝手に出すよ!」

穴守「それじゃ悪徳マネージャーと変わらねえべ!」

 やたらと熱くなっている3人が微笑ましいですが、確かに良い作品ですね。再評価されることを遠くから願っています。 【つづく】

 

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