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【ろっくおん!】第68回 エリック・タッグ『Rendez Vous』メロウ・グルーヴの隠れ名盤が、40年の時を超えてトム・ミッシュやジョーイ・ドーシックと共鳴する!

ロック好きの大学生が集まって放課後タイムにダラダラおしゃべり! 専攻科目よりも皆さんロック史の研究に夢中なようですね!!

 茜色に染まった雲が秋の深まりを感じさせるある日の放課後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。

【今月のレポート盤】

ERIK TAGG Rendez Vous Poker/Pヴァイン(1977)

 

鶴見智奈子「あら、珍しくイマドキのお洒落なメロウ・ポップを聴いているわね」

八丁光夫「ヒヒヒ、鶴見級長でも答えを間違えることがあるんやね。これは77年にエリック・タッグがリリースした『Rendez Vous』っちゅうアルバムや」

鶴見「え!? ジョーイ・ドーシックやホンネに近い聴き心地だけど、もう40年以上も前のアルバムとは驚きね。しかも初めて耳にする名前だわ。これはお茶でも飲みながらじっくり調査する必要があるわね」

八丁「この男が注目されるきっかけになったんは、ヴォーカリストとして参加したリー・リトナーの80年作『Rit』らしいわ」

鶴見「ということは、『Rendez Vous』を世に出した頃はまるで無名だったってことかしら?」

天空海音「世界的には無名ながらも、オランダではそこそこ知られていたでござる。彼はイリノイ生まれでござるが、音楽キャリアをスタートさせたのはオランダから。放浪の旅の途中で文無しになったため同地に長期滞在し、2つのご当地バンドにも在籍していたようでござるよ」

八丁「黙ってたから知らんのかと思いきや、むっちゃ詳しいですやん!」

天空「ちなみに、初のソロ作は75年の『Smilin' Memories』でござる。リトナーをはじめ、デヴィッド・フォスターやTOTOのポーカロ兄弟も参加していて、ローカル制作にしては華やかでござるな」

鶴見「すると、『Rendez Vous』が2作目ということですね? どちらのアルバムもオランダ国内だけの流通だったのでしょうか?」

天空「そのようでござる。トッド・ラングレンやホール&オーツとも仕事をしている実兄でギタリストのラリー・タッグをはじめ、故郷ダラスの演奏家たちと作っているせいか、クレジットだけ見ると本作は地味でござるが、前作よりも格段にメロウかつグルーヴのある音に仕上がっているでござる」

八丁「77年って言うたらAORが本格的に台頭してきた時期やから、その波に乗ったんですかね?」

天空「スティーヴィー・ワンダーに傾倒していたようなので、その影響を彼なりのポップスに消化したら、たまたま時代とマッチしたんじゃないかと考えられるでござるよ」

鶴見「いずれにせよ、リリース当時、オランダ以外の国の人々には聴かれていなかったのが残念ですね」

天空「それもあって、長い間、陽の目を見ることはなかったのでござるが、本作が再発見されたのは何を隠そう90年代の日本なのでござる」

八丁「フリーソウル目線でAORが再評価された時期?」

天空「そうでござる。以降、日本ではグルーヴィーなAORの傑作として評価が定着しているでござるよ」

鶴見「でも、いまの耳で聴くと〈インディーR&B〉とか〈ネオAOR/シティー・ポップ〉などのタームで括られているような音楽との親和性があるように思います」

八丁「きっと適度にソウルフルで、暑苦しくなくて、柔和なヴォーカルのせいやな。いまってサウンドは黒っぽいけど、歌声はソフトで押しの弱い感じが流行りやろ?」

鶴見「あと、活動の拠点がオランダだったからでしょうか、西海岸AORのような開放感や大らかさと言うよりは、どこかヨーロッパ的なエレガントさや繊細さを感じるサウンドですよね」

八丁「そのあたりもトム・ミッシュやジェイミー・アイザックら、今年ブレイクしたサウス・ロンドンに住む若きクリエイターたちと近い部分かもしれへんね」

鶴見「歌に重きを置いたベニー・シングスの最新作『City Melody』にも通じるわよね。彼もオランダだし……あれ、妙に静かだと思ったら天空先輩が寝てるじゃない!」

八丁「恐るべきロックの知識を持っとるくせに、どんだけマイペースな人なんや!」

 果たして天空さんは先輩としての威厳を1年生コンビに見せつけることができたのでしょうか。とりあえず、おやすみなさい。 【つづく】

 

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