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【ろっくおん!】最終回 プリファブ・スプラウト『I Trawl The Megahertz』パディ・マクアルーン唯一のソロ作が16年の時を経てバンド名義で再登場 

ロック好きの大学生が集まって放課後タイムにダラダラおしゃべり! 専攻科目よりも皆さんロック史の研究に夢中なようですね!!

 春の訪れを感じる柔和な陽光が心地良いある日の午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。どうやら新入生勧誘の準備をしているみたいですね。

【今月のレポート盤】

PREFAB SPROUT I Trawl The Megahertz Liberty/Sony UK/ソニー(2003)

 

三崎ハナ「来期は2人がロッ研を引っ張るんだからね。特にノビ新会長、期待してるよ!」

野比甚八「がってん承知の助でさあ」

天空海音「そんなことより、いまはこれを聴くでござるよ」

三崎「もう、マイペースだな~……って、プリファブ・スプラウトの新作?」

野比「ん? 『I Trawl The Megahertz』と言えば、プリファブのフロントマン、パディ・マクアルーンが2003年にリリースした唯一のソロ・アルバムだよな?」

天空「そうでござる。このたび最新のリマスタリング仕様で再登場したでござるが、名義をグループに変更し、ジャケも新装したのでござるよ」

三崎「グループと言ってもいまは実質パディのワンマン・ユニットだもんね」

野比「この作品はもともとのプレス枚数が少なかったせいか、市場に出回っていた時期も短かったらしいから、めでてえリイシューじゃねえか」

天空「本隊とは異なってインスト中心の作品ゆえ、当時は困惑したファンも少なからずいたようでござる。まあ、とりあえず聴いてみるでござるよ」

三崎「うわ~、1曲目のイントロからして溜め息が出るほど美しいね。これはまぎれもないパディ節!」

天空「アルバム収録時間の半分近くを占めているこの長尺曲は、メイン・テーマ的な存在でござるね」

野比「ストリングスやホーン、ギターなどさまざまな音が溶け合う瀟洒なサウンドに、淡々とした女性のナレーションも被さって不思議な安らぎ感があるな。ある意味〈アンビエント〉と言ってもおかしくねえや」

三崎「うんうん、なぜかハナは泣けてきたよ!」

天空「他の曲はさらにメリハリがあって、どれもメロディーが際立っているでござるよ」

野比「流石は本国UKで〈ニューウェイヴ以降に登場した最高のソングライターのひとり〉と称されているだけあるな。インストなのに歌モノのように饒舌だぜ」

三崎「あっ! アルバムの終盤でついにパディのヴォーカル曲がキター! 不意に彼の柔和な歌声が聴こえてきたから、またしても涙が……」

天空「歌入りの曲はこの“Sleeping Rough”のみ。絶妙なアクセントになっているでござるよね」

野比「こうしてアルバムを通して聴くと、当時、網膜剥離で闘病中だったパディの心象風景を静謐に描いた映画のような感じっつうか。その擬似サウンドトラック的っつうか」

天空「架空のサントラっぽい雰囲気は、以前のプリファブ作品にもあったでござるしね」

三崎「確かにいつもの作りとは少し違うんだけど、でもこの煌めくように美しいサウンドはやっぱりプリファブなんだよね! そう思うと、今回のリイシューに合わせて名義を変更したのも納得だよ」

野比「2010年代になってからもヴァイオレンスやロマン・ア・クレのように、プリファブを引き合いに出されるバンドって数多いけど、彼らのファンにもこの作品を聴いてもらいてえな」

天空「本作に限って言えば、チルウェイヴ以降のアンビエント・ポップを先取りしたような要素も仄かに感じるでござる」

野比「ポスト・クラシカルに繋がる趣もあるぜ。いま思えば時代の少し先を行ってた音なのかもしれねえな」

三崎「この機会に再評価されてほしい作品だね!」

天空「言いそびれていたでござるが、今年の9月頃にプリファブのニュー・アルバムが出るなんて噂もあるござる」

三崎「めちゃくちゃ楽しみ! 気が早いけどお茶で祝杯をあげよう!」

天空「いつも通りの展開で、まったく最終回っぽくないのが〈ろっくおん!〉らしくて良いでござるな」

野比「ん、何か言ったか?」

天空「何でもないでござる」

 2012年にスタートした当連載も今回で最後を迎えることとなりました。いつかまたロッ研の部室で再会できることを楽しみに、どうか皆さんお元気で。 【おしまい】

 

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