「恋する惑星」「ブエノスアイレス」「2046」など、世界を熱狂させてきた撮影の巨匠クリストファー・ドイル。「ドイルの現場が見たかった」と語るオダギリジョーとのタッグでの最新作!

 昨年公開された「エルネスト」ではキューバに渡って、実在した人物を演じたオダギリジョー。「宵闇真珠」では、香港に渡って唯一人の日本人キャストとして映画に参加した。監督は、ウォン・カーウァイ、ガス・ヴァン・サント、ジム・ジャームッシュなど個性的な監督との仕事で知られる撮影カメラマン、クリストファー・ドイルだ。オダギリは出演を決めた理由を「ドイルの現場が見たかったから」と語るが、ドイルとの仕事は大きな刺激になったようだ。

 「クリスは自由な精神で映画を撮っているんですよ。普通、映画を撮る時って、真面目に台本に書かれてある事を映像化しようとするじゃないですか。でもクリスにとって台本は最初のとっかかりでしかないんですよ。現場で生まれる即興やアクシデントを通じて、そこから広がっていくものを大切にしている。自分にもそういう部分があるので気が合いました」

 物語の舞台は〈香港最後の漁村〉。そこに住むひとりの少女は、子供の頃から肌の病気で昼間は自由に外を出歩けず、孤独な日々を送っている。そこにやって来たのが、オダギリが演じる謎めいた旅人だ。ドイルは役の解釈はオダギリに任せて、彼が感じるままに演技させたという。

 「〈台本は変わっていくから、台本に縛られないでほしい〉というのが最初にクリスから言われた事だったんです。実際、僕が演じた役も、最初はミュージシャンの設定だったのが、いつの間にかアーティストになっていて、完成した映画を見たら職業が何かさえわからなくなっていました(笑)。なので言われた通り台本はあまり読まなかったし、セリフもあまり覚えませんでした。そのうえで、〈現場で何が生まれるか〉という化学反応を大切にしたんです。スペイン語をみっちり勉強するところから始めた『エルネスト』とは対照的なアプローチでしたね」

 オダギリは役をイメージした衣装を自分で選んで日本から持って行き、ドイルはそのなかから衣装を採用した。そういうやりとりからも、ドイルがオダギリの感性を信頼していたことが伝わってくる。

 「何でも丸投げというわけじゃなくて、例えば僕が持っていったTシャツを使うにしても、〈裾をもう少し切っていいか〉って自分でハサミで切るんです。そういう細かいこだわりを持ちながらも、僕が持ってきた衣装を尊重してくれたのは嬉しかったですね」

 さらに映画のサントラには、オダギリが作った曲が使用された。

 「多分飲んでいる時に、クリスに聴かせたんだと思います。〈最近作った曲なんだ〉みたいな感じで。その時、製作途中の曲が5曲くらいあって、それを聴かせたら使いたいと言ってくれて。デモ状態だったので、それを仕上げて渡したんです。クリスは監督と役者という関係を越えて、お互いひとりのアーティストとして向き合ってくれた。お互いの感性を楽しむような間柄だからこそ面白く仕事ができるんだと思います」

 国や言葉を越えて、映画を通じて生まれた信頼関係。仕事に向き合うオダギリのストイックな姿勢が、ドイルを本気にさせたに違いない。そして、海外での仕事が、オダギリの役者としての魅力を磨きあげていくのだ。

 「誰も自分のことを知らない現場で、ゼロから自分の芝居だけで判断してもらうのが好きなんですよ。純粋でフェアですよね。日本人同士だとどこか甘えてしまうところがあるじゃないですか。知らない者同士のほうが相手を理解しようと必死になるし、ものづくりが深まっていく気がする。それが自分にとって心地良いんです」

 

映画「宵闇真珠」
監督&脚本:クリストファー・ドイル/ジェニー・シュン
音楽:ラング・ダート/オダギリジョー
出演:オダギリジョー/アンジェラ・ユン/マイケル・ニン/トニー・ウー/ジェフ・ヨウ/サム・リャン
配給:キノフィルムズ/木下グループ(2017年 香港・マレーシア・日本 97分) ©Pica Pica Media
◎12/15(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
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