(左から時計回りに)ディアハンター、エクス:レイ、ギャング・ギャング・ダンス

耽美で幽玄――独自の美学を持つレーベル4AD

ディアハンター、ギャング・ギャング・ダンス、エクス:レイが一堂に会する4ADのイヴェント〈Revue〉が、2019年1月21日(月)に大阪・心斎橋BIGCAT、翌22日(火)に愛知・名古屋Electric Lady Land、最終日の23日(水)には東京・渋谷TSUTAYA O-EASTで開催される。4ADのレーベル・ショウケースが、ここ日本で行われるのは今回が2度目。初回は2011年1月に東阪で開催され、ディアハンター、ブロンド・レッドヘッド、アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティの3組が出演し大好評を博した。

79年、ベガーズ・バンケットからの資金援助のもと、アイヴォ・ワッツ=ラッセルとピーター・ケントにより設立された4ADは、その独特の美学を貫くことにより、現在に至るまでシーンを牽引。インディー・ロック界の総本山的レーベルとして君臨し続ける稀有な存在である。

4ADの〈独特の美学〉とは何か。アイヴォの誘いによって加わったグラフィック・デザイナーのヴォーン・オリヴァーが、フォトグラファーのナイジェル・グリーアソンと結成したデザイン・チーム〈23エンヴェロープ〉の生み出すアートワークがそれを象徴していると言えよう。どこかグロテスクかつ退廃的でありながら、美しくスタイリッシュなそのデザインは、80年代に所属していたアーティスト、例えばコクトー・ツインズやバウハウス、デッド・カン・ダンスらのサウンドと結びつき、他のレーベルにはない統一されたカラーを強く打ち出していたのだ。

23エンヴェロープが手掛けたアートワーク。(左から)コクトー・ツインズの83年のEP『Sunburst And Snowblind』、ディス・モータル・コイルの84年作『It’ll End In Tears』

なかでも、解散したいまなお英国の国民的バンドとして、カリスマ的な人気を誇るコクトー・ツインズと4ADの親和性は非常に高く、バンドのリーダーであるロビン・ガスリーの奏でる幽玄なギター・サウンドと、歌姫エリザベス・フレイザーによる天上の調べのようなヴォーカルは、〈4ADの顔〉としてそのイメージ作りに大きく貢献してきた。

コクトー・ツインズの84年のEP『The Spangle Maker』収録曲“Pearly-Dewdrops’ Drops”

以降も4ADは、スローイング・ミュージズやピクシーズら米国のオルタナティヴ勢も積極的に紹介しつつ、ARケインを中心に結成されたM/A/R/R/Sの“Pump Up The Volume”(87年)で全英1位のヒットを飛ばすなど、多岐にわたり展開し続けた。最近ではナショナルやグライムス、TV・オン・ザ・レディオ(現在は移籍)、レモン・ツイッグス……などなど、初期のイメージだった〈耽美〉や〈幽玄〉とは違うタイプのアーティストをも次々と紹介するようになっていく。

アイヴォが退き、親会社だったベガーズ・バンケットとトゥー・ピュアを吸収する形で運営を続ける4AD。〈4ADサウンド〉などと言われるほど、レーベル・イメージがサウンドと分かち難く結びついていた80年代とは違い、多種多様なアーティストが在籍している現在の彼らだが、容易にカテゴライズが不能かつ不要な才能を呼び寄せているという点では、40年前の発足から何一つ変わっていないのだ。

 

DEERHUNTER
生と死の境界線で自己と対峙し続けるUSサイケのカリスマ

では、今回のイヴェントに出演するバンドを紹介していきたい。ディアハンターは、2001年にジョージア州アトランタにて結成されたバンドである。リーダーはブラッドフォード・コックス。ラモーンズのジョーイ・ラモーンと同じ、先天性の疾患、マルファン症候群を抱える彼の音楽は、常に生と死の境界線にある自己との対峙により生み出されたもの。〈マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとヴェルヴェット・アンダーグラウンドの交差点〉などと呼ばれた2008年の傑作サード『Microcastle』も、今回リリースされる通算8枚目の新作『Why Hasn’t Everything Already Disappeared?』も、サウンドのアプローチこそ違えど、その点ではまったく変わっていない。

DEERHUNTER 『Why Hasn’t Everything Already Disappeared?』 4AD/BEAT(2019)

ちなみに新作は、ソフト・ロック〜サイケデリア路線へと大きく舵を切ったキャリア史上最高クラスの傑作だ。プロデューサーにはバンドに加え、ウェールズ出身のシンガー・ソングライター、ケイト・ル・ボン、ナールズ・バークレイやアニマル・コレクティヴなどを手がけてきたベン・H・アレンIII、前作にも携わったベン・エッターが加わっている。この、新たな楽曲たちがライヴでどのように鳴らされるのか、いまから楽しみでならない。

『Why Hasn’t Everything Already Disappeared?』収録曲“Death In Midsummer”

ところで、ジャン=マルク・ヴァレ監督作「ダラス・バイヤーズクラブ」(2013年)にも、ジャレッド・レトの恋人役として出演し話題となったブラッドフォードは、大変な変わり者としても有名だ。筆者も何度かインタヴューをしたことがあるが、彼ほど気分屋の人物を他に知らない(溢れんばかりの笑顔でフレンドリーに接してくれたかと思えば、次に会うと終始仏頂面で、相棒のロケット・プントに話をすべて振る、なんてこともあった)。

彼は、ソロ・プロジェクトであるアトラス・サウンドの音源も、4ADから数枚リリースしている。こちらはディアハンターよりもさらに内省的かつアブストラクトな作風。なお、ディアハンターのギター・サウンドの要であるロケットも、ロータス・プラザという名義でソロ活動を行なっている。