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世界一美しい都市・パースはサイケ桃源郷? メチル・エチルに訊く、オージー・インディー震源地のいま

世界一美しい都市・パースはサイケ桃源郷? メチル・エチルに訊く、オージー・インディー震源地のいま

オーストラリアの音楽シーンを追い続けてきたリスナーにとって、2019年は長年の愛が報われるご褒美イヤーとなるに違いない。テーム・インパラがついに米〈コーチェラ〉のヘッドライナーとして抜擢され、〈フジロック〉にはシーア、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード、さらに注目の新人シンガー・ソングライター、ステラ・ドネリーらが決定。一方の〈サマーソニック〉には、2月14日の発表でフルームとサイケデリック・ポーン・クランペッツ(以下、PPC)が追加されたばかりだ。キング・ギザードは海外でもヘッドライン級の人気を誇る大所帯バンドだけに待望の初来日と言えるが、このタイミングでPPCを呼んでしまうサマソニの先見の明はハンパじゃない(そもそも、インパラとその兄弟バンド、ポンドの初来日はどちらもサマソニという実績がある)。

サイケデリック・ポーン・クランペッツの2018年の楽曲“Social Candy”
 

インパラ、ポンド、PPCの共通点として、〈サイケデリック・ミュージック〉であること以外にもうひとつ、〈パース出身〉という事実が挙げられるだろう。西オーストラリアの州都としても知られるパースは、大自然と歴史的建築物、そしてアートが共存することから〈世界でいちばん美しい街〉と称されるが、その一方でアメリカ本土や西欧諸国からの距離が非常に遠いこともあり、〈世界でもっとも孤立した都市〉という不名誉なレッテルも貼られている。でも、だからこそアーティスト/コミュニティー同士が強く結び付き、特異なサウンドが次々と生まれる磁場があるのかもしれない。本稿の主人公=メチル・エチルもまた、そんなパースの新たな顔役となるポテンシャルを秘めたサイケ・ポップ・バンドだ。

 

中毒性抜群の美メロと、ジェンダーレスなヴォーカル

メチル・エチルは、2013年にフロントマンのジェイク・ウェブ(ヴォーカル/ギター)によるベッドルーム・プロジェクトとしてスタートし、2014年には2枚のEP『Guts』『Teeth』を自主リリースした。その後、不定期でライヴ活動をサポートしていた友人のトム・スチュワート(ベース)と、地元のライヴハウス〈The Bird〉でエンジニアも務めるクリス・ライト(ドラムス)が正式メンバーとして加入。2017年にはキーボード奏者のヘイミッシュ・ラーンも加わった4人編成となり、ポンドのUKツアーでサポート・アクトを務めた。〈メチル・エチル〉とは、ジェイクの父親が仕事でファイバーグラスを作るために使っていた科学化合物、メチルエチルケトンペルオキシドに由来するのだとか。

2016年作『Oh Inhuman Spectacle』収録曲“Rogues”
 

彼らの武器は、何と言ってもホット・チップやメトロノミーにも通じる中毒性抜群の美メロと、きらめくようなギター・リフの上で舞い踊るジェンダーレスなヴォーカルだ。2015年にメルボルンのリモート・コントロールからリリースしたデビュー・アルバム『Oh Inhuman Spectacle』は、〈オーストラリア版マーキュリー・プライズ〉と称されるAMP(オーストラリアン・ミュージック・プライズ)において、テーム・インパラの『Currents』やコートニー・バーネットの『Sometimes I Sit And Think, Sometimes I Just Sit』と並んでノミネートされるなど、いきなりのスマッシュ・ヒットを記録。

その後イギリスの名門4ADに移籍し、2017年にはジェイムズ・フォード(シミアン・モバイル・ディスコ)を共同プロデューサーに迎えてキャッチー&リズミカルに振り切ったセカンド・アルバム『Everything Is Forgotten』を発表すると、ここ日本でもインディー・ロック・ファンを中心に大きな話題となった。そして、つい先週2月15日にリリースされたばかりなのが、通算3作目のニュー・アルバム『Triage』だ。

2017年作『Everything Is Forgotten』収録曲“Ubu”
 

1月に開催された4ADのショーケース・イベント〈Revue〉と同時期に、奇しくもプライヴェートで来日していたジェイクにインタヴューを敢行。ここからは、彼の発言を引用しながら新作の魅力や、オージー・サイケの震源地となりつつあるパースの音楽シーンについて迫っていきたい。

 

METHYL ETHEL Triage 4AD/BEAT(2018 )

精神的に不安定なときこそ物事がクリアに見える

前作におけるジェームス・フォードとの9日間におよぶスタジオ・ワークで何かを掴んだのか、ファースト・アルバムと同じくセルフ・プロデュースで仕上げたという『Triage』。筆者は、バンド史上もっともグルーヴィーで踊れるサウンドでありながら、宇宙船から醒めた目で世界を見ているような〈孤独〉や〈疎外感〉を感じる瞬間もある、不思議なアルバムだなという印象を受けた。

「すごく興味深い意見だね! 僕はたまに情緒不安定になって、この世界からズームアウトしたような気分になることがあるんだよ。でも、精神的に不安定なときこそ、物事ってクリアに見えるじゃないかとも思うんだ」

その不安定さというか、アンバランス感を味わえるのがリード・シングルの“Trip The Mains”だろう。デヴィッド・ボウイの“Ashes To Ashes”(80年)とキュアーの“Let's Go To Bed”(82年)が下敷きになったという同曲は、ジェイクが椅子と戯れたり、スマホで自撮りしながらベッドにダイブしたりする浮遊感たっぷりのMVが、的確に今作のムードを捉えている。

「あのビデオはたったの2日間で作ったんだよ(笑)。2週間前(取材当時)にアップしたばっかりなのに、もうみんなが話題にしてくれてるのが嬉しいよね。で、〈踊れるサウンド〉っていう点では、僕はスタジオでレコーディングするときもずっとカラダが動いちゃうタイプなんだ。僕自身はドラムもプレイするんだけど、〈聴いていて楽しい〉グルーヴってすごく大事だと思っていて。僕らのライヴでケンカするぐらいなら、踊ってくれたほうがずっといいだろ?」

終盤で繰り返されるフレーズがマントラのように脳内を満たしていく“Scream Whole”はメチル・エチルの十八番というべきサウンド。そして、“Post-Blue”でどこまでも高く舞い上がるヴォーカルは、文字通り性別を超越するかのように凄まじい。ジェイク本人は、みずからの声をどう評価しているのだろうか?

「この声を持って生まれたことは、かなりラッキーだと思っている。ジェンダーレスというか、男と女どちらにも断定できない声というかね。僕としては、純粋に(声を)楽器みたいに使えたらと思っているんだ。いろんな音階を出せるっていうことは、選択肢がありすぎて逆にどれを使ったら正解なのかわからないっていうジレンマもあるけどね(笑)。これといったロールモデルは思いつかないんだけど、ただ歌が上手だったり、キレイだったりっていうよりは、その人のキャラクターが感じられる声が好きだな」

 

ミキシング・エンジニアは、フランク・オーシャンやCHAIの作品も手がけた才媛

映画「サスペリア」風の不穏なピアノで幕開ける“Hip Horror”も秀逸だが、ラストの“No Fighting”では、日本でも問題となっているネット炎上/自警団を連想させる言葉が辛辣だ。現代の世界情勢や政治に対する怒りや諦めが、今作のコンセプトに少なからず影響を及ぼしているような気がしてならない。

「うんうん、トム・ヨークが手がけた『Suspiria』のサントラはすごく良かったよね! さておき(笑)、それぞれに込められたメッセージというのは確かにあって、そういった意見をもらえるのは嬉しい。インタヴューでもよく〈この曲はどういう意味ですか?〉〈これってどういうことですか?〉って訊かれるんだけど、その答えってすでに曲のなかに込められているんだよ。〈諦め〉という気持ちは全然なかったけれど、フィーリングとしては微かに残っているのかもしれないね」

今作のエンジニアを務めたのは、ビョークやフランク・オーシャンの作品にも関わるほか、なんとCHAIがリリースしたばかりのセカンド・アルバム『PUNK』に収録した“ファッショニスタ”のミキサーも務めた才媛、マルタ・サローニである。

「実は、これまでの3作ですべて違う人にミックスをお願いしているんだ。なぜかと言うと、長期間同じプロジェクトに関わっていると視野が狭くなりがちだし、アルバムが大詰めの頃って第三者的な新しい視点もあったほうが良いからね。音楽業界って年配の男性が多い印象だけど、彼女はとても若くて才能があるエンジニアだと思うよ。いままではミキシングってつまらないプロセスだと感じていた部分もあったんだけど、結果的にはすごく楽しめたから」

タイトルの『Triage』とは、〈患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行うこと〉を意味する医学用語とのことだが、言い換えれば、それはジェイクの意思決定の速さ/編集能力の高さと直結するのかもしれない。ジェイクは「僕って作曲中毒だから、もう新曲を作りたくてウズウズしてるよ!」と笑う。今作は、制作中に30歳という節目を迎えたジェイク=メチル・エチルの成長を刻んだスナップショットとして長く愛せる1枚となりそうだ。

 

ジェイクがオススメする、パースの音楽スポット

ちなみに、プライヴェートでの来日は今回で2回目だというジェイク。9月からANAが成田→パースの直行便を就航することを伝えると大興奮の様子だったが、我々日本のリスナーにとってもグッと訪れやすく身近な都市となることは間違いない。最後に、パースでオススメのスポットやアーティストについて教えてもらった。

「観どころといっても8か所くらいしか無いから、すべて観て回るのにさほど時間はかからないと思うよ(笑)。個人的には街から出てビーチでチルアウトするのがオススメだけど、現地の音楽シーンを観たいならフリーマントルの〈Mojos Bar〉かなあ。僕らの友人連中はいつもあそこでハングアウトしているし、ステラ・ドネリーもしょっちゅうショーをやっているんだよ! 

パース出身のアーティストなら、カーラ・ジュネーヴはとても才能豊かなシンガーだし、タナヤ・ハーパーはちょっと前まで書店員として働いていたっていう噂だね。日本のシーンには名前がおもしろいバンドが多いから、サイケデリック・ポーン・クランペッツは結構ウケるんじゃないかな(笑)。もしよければ、RTRFMっていうラジオをチェックしてみてよ。地元のアーティストの曲がいつも流れてるからさ」

ステラ・ドネリーの2019年の楽曲“Old Man”
 

勝手に〈サイケデリック桃源郷〉のような場所だと思い込んでいたが、パースには地域に根ざしたミュージジャンの強固なネットワークと、それを育み世界に送り出す豊かな土壌があるようだ。最近はカニエ・ウェストやカリ・ウチス、トラヴィス・スコットらの作品でも引っ張りだこのケヴィン・パーカーことテーム・インパラも夏にはニュー・アルバムをリリースする見込みだし、オーストラリアの音楽シーンがいま以上に欧米のトレンドと共鳴したとき、どんな化学反応が起こるのか……。引き続きウォッチしていきたい。

 

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