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文筆業はしっちゃかめっちゃか、毎回傷だらけ

――2016年に詩集「さばーく」を発表以降、「文學界」で連載「きれぎれのハミング」を始められて、文筆家としても忙しくなってますよね。執筆活動についてはどういう意識でやってるんでしょうか。

「そうですね……崖っぷちみたいな感じというか(笑)。音楽もあいかわらずうまくならないけど、それ以上に文章は初心者なので、話をいただいたら一生懸命書くしかできなくて。そのなかで発見や実験はあるんですけどね」

――例えば?

「例えば、文章でなら自分はちょっとエモーショナルにいけるし、意外とそれがウケるなとか(笑)。あと、エッセイはちゃんと感情を書いたほうが伝わりやすい感じがします。音楽にしても文章にしても、コミュニケーションだと思いますしね」

――そういう意味では、音楽活動と執筆活動は繋がっているという感覚?

「うーん、どうだろう。書くことは音楽以上に〈どうしてこんなことになっているのかわからん〉みたいなところがあるので……小さい頃から作文がとにかく苦手で、恐怖すらあったんですよ。そんな私が文章を書くことになるとは思わなかった」

――執筆は辛い作業でもある?

「いや、もちろん楽しい作業ではありますよ。文章はいろんなリズムを試せるので楽しくて。けれど、登り方がわからないからしっちゃかめっちゃかで、毎回傷だらけって感じです(笑)。音楽についてはもう少しだけ登り方がわかってるので、傷少なめという」

――執筆活動をするようになってから、書く歌詞に変化はありました?

「自分としては意識してなかったんですけど、一曲の歌詞が長くなりましたね、そういえば。今までは2分半ぐらいの曲が多かったんですけど、今回は4分以上の曲も多くて。なぜだかわからないんですけど」

――伝えようと思ったら、それぐらいの曲の長さが必要だった?

「いやー、どうでしょう。時間の感覚が長くなってる感じがしますね。文章を書くときは毎回手書きで始めるんですけど、それをパソコンに起こすんです。そのほうがノリがよくて。エッセイにしても歌詞にしても、書いていて〈気持ちいい〉っていう感覚がないと、あんまり楽しくないんですよ。これからいろんな方法が出てくると思うんですけど、いまのところは手書きで始めるのがいちばん気持ちいい」

 

全員幸せになるぞ

――今回の新作についてなんですが、まず、『がんばれ!メロディー』というタイトルはどこからきたんでしょうか。

「前作を作り終えたあと、演奏してくれた方々やプロデュースのみなさんの仕事ぶりを見ていて、心底すごいことをやってもらったなと思う一方で、自分は頑張りきれなかったという感覚があったんですね。メロディーを作ることもそうだけど、歌うこと・メロディーを伝えることももう少し意識的に頑張れれば、もっといいアルバムができるんじゃないかって。今回のアルバムを作るうえで、『がんばれ!メロディー』という言葉をテーマとして考えていたんです」

――柴田さんはどちらかというと〈言葉の人〉というイメージがあったんですが、今回はよりメロディーに対して意識的になったわけですよね。このタイトルがそうした意識の変化を象徴している感じがします。

「言葉というより、気持ちを重視してきたという感じはありますね。でも、気持ちって伝わりにくいし、変わりやすいものでもある。それをそのまま吐き出すだけというよりは、物理的にメロディーや音のほうがよく伝わりやすいのではという思いもありました」

――今回のアルバムですごく感じたのは、柴田さんの声の強さだったんですよ。以前は独り言みたいな部分もあったけど、先ほどもお話されていたように、〈伝えたい〉という意識がよりはっきり伝わってくる声ですよね。

「最近、歌うのが楽しくて(笑)。一昨年ぐらいからデカ箱で立て続けに歌姫のライヴを観たんですよ。ローリン・ヒルに始まり、去年は安室(奈美恵)ちゃんと宇多田ヒカルを観て、〈歌ってこんなにもみんなで楽しめるものなんだ〉っていう驚きがあった。〈歌い手の端くれとして、私もやるぞ!〉という気持ちが湧き上がってきたんです。〈全員幸せになるぞ〉っていう」

――おおー。

「〈勝手に幸せになるぞ、私もみんなも勝手に幸せになるぞ〉って。それだけを旗印に頑張っていこうと思うようになりました」

――まさか柴田さんからそんな言葉が出てくるとは。

「私、年とったのかな(笑)。怖いものがどんどんなくなってきてるんですよ。たまに不安で泣いたりもするけど……あはは」