柴田聡子のニュー・アルバム『がんばれ!メロディー』が素晴らしい。冒頭曲“結婚しました”やカラフルなミュージック・ビデオも話題を集めている“涙”を筆頭に、ポップにハジけた楽曲がズラリと全13曲。すべての楽曲に外向きのエネルギーが溢れるその内容は、化粧っ気のない初期作品を知る方には驚きを持って迎えられるだろう。また、文筆家としても精力的に活動するなど〈言葉の人〉というイメージの強かった彼女の、ヴォーカリスト/ソングライターとしての魅力も開花。しなやかな歌唱とグッドメロディーが全編に散りばめられている。

近年の柴田はイトケン(ドラムス)、かわいしのぶ(ベース) 、岡田拓郎(ギター)、ラミ子(コーラス)を中心とするバンド、柴田聡子 in FIREとしてもライヴを重ねてきたが、今回のレコーディングにはそのメンバーも参加。アルバムに豊かなグルーヴをもたらすと同時に、彼らとの共演によって、リズムに対する柴田自身の意識も変わったという。

5作目のアルバムにして、シンガー・ソングライターとして一皮も二皮も剥けた柴田聡子。その変化をもたらしたものとはいったい何だったのか。イ・ランとのコラボレーション・アルバム『ランナウェイ』もリリースされるなど、一段と活動のギアを上げている柴田にじっくり話を伺った。

柴田聡子 『がんばれ!メロディー』 Pヴァイン(2019)

投げっぱなしはやめて、コミュニケーションをしたい

――今回の新作『がんばれ!メロディー』は、いままでの柴田さんのアルバムのなかでもっともポップな作品になりましたが、そうした方向性の萌芽は前作『愛の休日』(2017年)からありましたよね。あのアルバムにもまた、すごく開かれた印象がありました。

「確かにそういう意識は前作から強くありましたね。思っていることを伝えようと思ったら、頑張って伝えていかないといけない。音楽だけじゃなくて、コミュニケーションについてもそういうことを考えるようになりました。〈伝わる人にだけ伝わればいい?〉みたいに言われることがよくあるんですけど、そんなことは全然なくて」

――〈伝えたいこと〉とは、例えばどういうことなんですか?

「どんなことでもいいんですよ。もちろんその内容を正確に理解してもらうのは無理だとしても、それを一度受け取ってもらって、それに対して反応してもらうというコミュニケーションをしたくて。投げっぱなしはやめにしたいんです。でも、前のアルバムでは、私の意識のあり方で、音楽的にそこまでいけなかった」

――前のアルバムには山本精一さんや岸田繁さんがプロデューサーとして参加されていましたが、山本さんと岸田さんから学んだことも多かったんじゃないですか。

「山本さんと岸田さんからはまったく別のことを教わった気がします。岸田さんからは曲をアレンジするということ、録音物として完成させていく、その過程がこんなにも楽しいことなんだ、ということを学びました」

2017年作『愛の休日』収録曲“ゆべし先輩”。プロデュースは岸田繁

――それまで曲のアレンジやレコーディングは楽しい作業ではなかった?

「追われる作業というか、〈とにかく終わらせないといけないもの〉という感覚でした。曲を仕上げていくという作業がこんなに豊かなものなんだということを教えてもらったんです。

山本さんは……なんて言えばいいんだろう、音楽って基本的に謎のものだと思うんですけど、謎を謎のままやっていく楽しさを教えていただいてる感じがあります。山本さんとは前の前のアルバム(2015年作『柴田聡子』)で一枚丸々ご一緒させていただいたのと、その曲でベースを弾いてくださった須藤俊明さんもずっと前から演奏してくださっていたので、それを踏まえておおらかにやれたと思います」

2015年作『柴田聡子』収録曲“ニューポニーテール”。プロデュースは山本精一