キャリアを総括し、揺るぎない〈自分〉を再確認

 前作『Aphrodite』(2010年)を引っ提げた約20年ぶりの来日公演を含む巨大ワールド・ツアーを大成功のうちに収め、その後、レア曲のみで構成した〈Anti Tour〉の開催やカタログのリイシュー、セルフ・カヴァー集『The Abbey Road Sessions』の発表をもって25年間に渡るキャリアを一旦締め括ったカイリー・ミノーグ。そして昨年、ロック・ネイションと新たにマネージメント契約を締結。このニュー・アルバム『Kiss Me Once』はさぞかしUS寄りの一枚になっているのだろうと思いきや、あくまでも揺るぎないカイリー・ワールドが展開されている。

 フェザーのように軽やかなヴォーカル・ワークと、それを最大限に活かした繊細で洗練されたプロダクション。ヨーロピアン感覚に則ったサウンドは、決して音圧や迫力だけで押し切ろうとはしない。ファレル・ウィリアムズがプロデュースを手掛けたイマなディスコ曲もあれば、インディー・シンセ・ポップにオーセンティックな美メロ・バラードなども収録。さまざまなスタイルで安定感を見せつけつつも、〈エッジーに駒を進めて見知らぬ扉を開けたい〉という意欲が感じられ、その点は2007年作『X』とも共通するところか。セックスにまつわる直接的な表現が多いのも特徴だが、決して下品にならないのは、彼女の放つ麗しい魅力とオーラの成せる業。色っぽくて、ユーモラスで、希望に満ち溢れた未来観──キラキラと光り輝く黄金ポップスが、シャンパンの泡のように軽やかに弾け飛ぶ。 *村上ひさし

 

KYLIE MINOGUE Kiss Me Once Parlophone/ワーナー(2014)

 

リアルなセックス表現も、品良く、美しく

 25年以上のキャリアを誇り、この新作『Kiss Me Once』は12枚目のオリジナル・アルバムとなる。数字上ではヴェテランだが、ヴォーカルは愛らしく、フレッシュ感いっぱいだ(この瑞々しさは凄い!)。ファースト・シングル“Into The Blue”は、過去を振り返りながらも力強く前に進もうという決意を歌ったバウンシーなポップソング。でも、大半は愛とセックスをテーマにしている。“Sexercize”や“Les Sex”といった曲にはリアルな表現もあるけれど、官能的すぎず、過剰に挑発することなく、むしろリアルだからこそロマンティックに響く。そこに彼女の〈美の追求〉が感じられ、女性シンガーも4文字言葉で煽る時代に迎合しない魅力にもなっている。

そして、やや意外な人選ではあるけれど、エンリケ・イグレシアスが共作&共演した“Beautiful”も、そうしたカイリーのスタンスにへの礼賛に聴こえて仕方ない。ちなみに、今作のプロデューサーやソングライターは若手中心のラインナップ。なかにはアマンダ・ワーナーやカレン・プールといった無名に近い女性アーティストも顔を並べ、その起用に好感が持てる。ファレル・ウィリアムズやカットファーザーによるキャッチーな80s調のエレクトロ・ポップもヒット・ポテンシャルが高くて捨てがたいが、個人的には囁くようなヴォーカルでカイリーの新たな魅力を引き出した、シーア製のミディアム“Kiss Me Once”での美しさに息を呑んだ。 *服部のり子