INTERVIEW

birdと冨田ラボが向かった〈音を目で見る〉時代の歌、リズム

デビュー20周年の新作『波形』を語る

birdと冨田ラボが向かった〈音を目で見る〉時代の歌、リズム

birdと冨田ラボ。その組み合わせで新作が出ると聞くと、いやおうなくドキドキする感覚がある。2015年に発表、冨田ラボこと冨田恵一が全面プロデュースしたbirdの前作『Lush』は、それほど画期的なアルバムだった。最先鋭のジャズ/R&Bイディオムを大胆に取り入れ、他に介入者を作らず完全に2人だけで作詞・作曲・アレンジ・録音に至るすべてを行った、あのアルバムの次に来るものは、いったいどんな作品なのか。思わずドキドキしてしまうのだ。

その答えは、今年デビュー20周年を迎えたbirdが冨田と作り上げた新作『波形』で明かされる。初の冨田プロデュースとなった楽曲“うらら”(2002年のアルバム『極上ハイブリッド』収録曲)から数えれば17年。初の冨田フル・プロデュースによるアルバム『BREATH』(2004年)からは3作目。信頼関係の積み重ねがあるからこそ、音楽的なチャレンジにも大胆な変化にも踏み出せる。そんな強さは、2018年11月に行われた冨田ラボ『M-P-C』リリース・ライヴで彼女が歌った“道”からもはっきりと伝わってきた。

もはや盟友とも言える2人が約4年ぶりにがっちり組み合った新作『波形』。今回は、この作品の制作過程や、〈語るように歌いたい〉〈波形〉といったワードを通じて見えてくる新作の根幹について、2人に語ってもらった。

bird 波形 Sony Music Direct(2019)

 

 既成のフォームに依存しない構成のポップスをめざした

――新作『波形』は、birdさんのソロ・アルバムとしては今回と同じく冨田ラボとコラボした前作『Lush』以来、4年ぶりのリリースとなります。

bird「そんなに経ってるんですね(笑)。冨田さんと今回のアルバムのやりとりを始めたのは、結構前ですもんね」

冨田恵一「僕ら、いつもそんな感じだよね(笑)。僕は自分のアルバムを含め、いつもたくさんのことを並行してやってるし、birdさんもライヴをたくさんやってるから」

bird「『Lush』を出して2年経つか経たないかくらいに〈また一緒にやりましょう〉みたいな話をしましたよね」

冨田「それで具体的に作業を始めたのが、1年くらい前かな」

――ということは、制作の発端から数えれば2年がかり。

bird「そうですね。冨田さんもおっしゃったように、2人とも忙しかったので、急いで作る感じではなかったですね。でも、止まってた感じもなかった」

――冨田ラボとしての最新作『M-P-C』リリース・ライヴ(2018年11月2日、東京・マイナビBLITZ赤坂)を拝見しました。あの夜はいろんなシンガーが『SUPERFINE』(2016年)と『M-P-C』の曲を歌っていく構成でしたが、アンコールにbirdさんが登場して“道”を歌ったとき、〈歌い続けている〉がゆえのしなやかさというか、冨田さんとの交わりの長さや繋がりの強さをすごく感じたんです。

冨田「あのときはアンコールは堀込泰行くんとbirdさんでしたね。その2人は旧知の関係でもあったし、birdさんに関しては『Lush』を出したときにアルバムを再現するツアーを東京・大阪でやっていた」

bird「〈GREENROOM FESTIVAL '16〉でもご一緒しました。あのときも『Lush』バンドでしたよ」

冨田「あ、行った! 宮崎のジャズ・フェス〈UMK SEAGAIA JamNight 2017〉にも行ったね。あれは楽しかった。そう考えると(birdとは)すごく一緒にやってますね」

――なおかつ、あの『M-P-C』ライヴの頃にこの新作の制作も進行中だったと考えると、あの舞台にもひとつポイントが提示されていたんだなと思います。

冨田「birdさんと僕がアルバムを作るのは、今回で3枚目?」

bird「はい。最初が『BREATH』(2006年)」

冨田「その前にも一曲“うらら”を僕がプロデュースしてるよね」

bird「それが2002年で、いちばん最初です。その後で、冨田さんのアルバム『Shipbuilding』(2003年)で“道”を歌いました」

冨田「そう考えると、birdさんのことも結構プロデュースしてきたんだな。キリンジで4枚半くらいだから」

――となると、birdさんとの関係は今年で17年目に及ぶということになります。

冨田「そうですね。birdさんとはすごく長くやってますね」

2002年作『極上ハイブリッド』収録曲“うらら”
 

――なかでも2015年の『Lush』では、曲やサウンド面が現行のR&Bやジャズの要素を大きく取り入れたという変化はあったと思うんですが、今回の『波形』はどうでした? 大きな変化を感じた場面はありました?

bird「冨田さんとの歌入れはいつも基本的に一緒で、診察に行って受診しているような感じなんですが、今回は言葉の響きとかリズムについての提案がありました。冨田さんはいつも作詞についてはお任せしてくれていたんですけど、今回は指示やアドバイスが結構多くて。それを受けて私がまた書き直して、どんどん変わっていく感じが新鮮でしたね」

冨田「ダメだから直すというのではなかったんだけど、響きとかアクセントがより喋り言葉に近くなるように、というのをいつもより気にしたところはあるかな。というのも、birdさんと今回のアルバムに向けて話していたときに、〈語るように歌うメロディー〉っていうワードが出てきていたんですよ。僕はその考え方はいいなと思ったんです。

birdさんの声の個性とか魅力っていろいろあるけど、わりとアタックに集約されているところがある。音が出た瞬間、声をワッと出した瞬間にbirdさんの特徴はすぐわかると思う。そういう声だから、〈語るように歌う〉というのはすごくいいアイデアだった。それで、今回の曲を作るときにもそのことはずっと頭にあったんです」

bird「アドバイスを受けて歌詞を書き直すと、やっぱりそこがいい感じに際立ってきました。それは冨田さんとのやりとりのなかで生まれてきたことでしたね」

――『M-P-C』が、ラップを取り入れるなど、まさに言葉への関心が出た作品であったことともシンクロしているように思えます。

冨田「そうですね。でも歌メロへのラップの影響に関しては、もはや無意識レヴェルに近いんじゃないかな。世界的にもそういったメロディーは多いし、少なくとも僕個人に関してはそう。birdさんの言った〈語るように歌いたい〉もまさにその言い換えですもんね。『M-P-C』でのラップや、さらにその前の『SUPERFINE』でのYONCEくん(Suchmos)の曲“Radio体操ガール”はラップを音符化したものだったり、というのも含めて、数年前からやってきたことが血肉化してきた感覚はありますね」

――『Lush』リリース時のインタヴューでは、マーク・ジュリアナやクリス・デイヴの作るリズムがホットな話題として語られることも多かったですが、そういう意味で、今回『波形』のキーになっていった音楽的なアイデアというのはあるんですか?

冨田「そのことをいろいろ考えていたんですよ。『Lush』のときは、〈なまったリズム〉や〈奇数連符〉をポップスで、というトピックがあって、わりと説明がしやすかったんです。だけど、それこそさっき話していた〈ラップの音符化〉もそうだけど、〈なまったリズム〉ももはや一般化して選択肢のひとつという感じですからね。〈確かになまってはいるけど、で?〉てなもんで、リズムがなまったところで音楽自体に魅力がなければまったくアピールしてこない。たぶんこれからも有効な選択肢ではあると思うけど、いかに効果的に使用するか、また他の音楽手法とどう絡めるか、みたいなことが重要になっていますね。自分ではその辺が成熟してきたと思ってますけど。

『Lush』の表題曲
 

そうすると、今回トピックになっていたのは、既成のフォームに依存せずポップスの構成を再考してみることとか、メロディーのフォルムを変化させていくだけでどれだけ満足感が得られるか、みたいなことですかね。もちろん、和声のことも含めてですけど、伝統的かつ音楽的な部分、メロディー、ハーモニー、リズム、曲の構成を吟味しようという意識が強かったです。

少し前までは音色や音像といった時間経過よりも瞬間で判断しやすいほうに、意識が向きがちだったと思うんですよ、みんな。そこでは当然最適なアプローチをしたつもりですけど、時間経過に関する伝統的な音楽手法を簡略化、複雑化の両方向で再考する時期だと思っていました」

 

〈音を目で見る〉時代のポップス

――birdさんは、今回、冨田さんから来た曲を聴いたとき、どのような変化を感じましたか?

bird「最初は、冨田さんから〈歌詞を書いてください〉って言われたんです。それで歌詞先行で始めた曲が“波形”だった。冨田さんとも今回の〈語るように歌う〉というテーマは話していたので、なんとなくいつもの歌詞よりはそれを意識しながら書いた歌詞ではありました。この曲の歌詞に、今回やろうとしていることがすべて収まっている気がします。息が音になって、言葉になって、リズムがあって」

――そのなかで重要なワードとしてbirdさんのなかで浮上してきた言葉が〈波形〉だったという。

bird「そこに後から冨田さんが曲をつけてくれたときに、今回やろうとしてる言葉のリズムの流れがかっこよく感じられて、〈あ、(アルバム作りが)始まったんだな〉って思いました」

冨田「最初から波形という言葉をアルバム・タイトルにしようと思ってたの?」

bird「そうじゃないんですよ。だんだん〈これなんじゃない?〉となってきて」

――曲名としてもアルバム・タイトルとしても素晴らしいですよ。

bird「波形って、冨田さんにとってはものすごく親しみ深いものですよね。たぶん、毎日すごい数の波形を見てると思うんです(笑)。昔、冨田さんがBillboard Live TOKYOで〈即興作編曲SHOW〉(2014年)をやられたときも、大きいステージのスクリーンに波形が映し出されておもしろかった記憶があります。だけど、いまの人って、スマホのボイスレコーダーとかで普通に波形が見れるじゃないですか。それくらい身近なものになってきてるなとも思っていて、今回そういう意味ではタイトルでもいいのかなと。いまこうやって喋ってることも全部波形という形になるわけじゃないですか。そういう波形が街に溢れていて、重なっていくことで、ひとつの世界が成立してるなと思ったんです」

冨田「いまは(スマホとかで)波形が見えるからね。普通の人でもイメージしやすいよね。サンプラーではもっと前から見てたけど、一般的にディスプレイで波形を見はじめたのはゼロ年代にPro Toolsが出てきて以降だから」

――でも、それは新しいテクノロジーだったけれど、もともと備わっていたけど目には見えなかったものを発見した可視化のプロセスでもあったんですよね。それによって音楽におけるメロディーもリズムも言葉も変化した部分も大きいですし。そういう意味では、〈波形〉っていうワードは、birdさんと冨田さんがやってきた音楽の可視化でもあると思いました。

冨田「記号化というか、図形化だよね。〈音を見る〉ことができるというのが重要。視覚のほうが認識力が(聴覚より)高いから。同じ音を聴いても理解できる力は人や音量によって変わるけど、見ればわかる、というのはある。可視化されたということはやっぱり大きい」

 

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