INTERVIEW

〈浪曲映画――情念の美学〉「浪曲映画」の発見と再発見:ユーロスペース・プロデューサー堀越謙三に聞く

Exotic Grammar Vol.63-2

座頭市物語©KADOKAWA

「浪曲映画」の発見と再発見
ユーロスペース・プロデューサー堀越謙三に聞く

 1929年、映画は無声からトーキーになった。1928年のラジオの全国放送化、SPレコードの本格普及で大ブレイクした寿々木米若の浪曲“佐渡情話”に目を付けた日活が浪曲「佐渡情話」(1934)を映画化して大成功を収めると、それを契機に各社はあたかも今日の映画界がベストセラー小説やマンガを映画化するように、浪曲口演付きや浪曲・講談演目を脚本とした映画を次々に製作したという。

 「浪曲は能や歌舞伎のようなひとつの型を守っていく形式ではなく、アレンジしちゃってかまわない世界」とは5年前からユーロライブで落語、講談、浪曲といった古典のアップデートを提唱している今企画のフィクサーでもある堀越謙三氏。もちろん浪曲がなんでもアリという意味ではなく、“今”という時代と向き合い体に入れ込んでいくという意味ですが。6月22日から26日まで、ユーロスペースでは“浪曲映画”15本、生演奏の浪曲を聴くことができる口演付きが8本という特集上映を開催する。

 今回の上映作品うちの2作「次郎長三国志」も「座頭市物語」も〈浪曲映画〉としてなんてみたことなかった。当時、ふたつともおもしろすぎてシリーズものを〈一気見〉みたいな感じでみてしまった覚えがある。今でいう〈ビンジウォッチング〉。おもえば何であんなに興奮してみたのか、同時代性もなく、別にリバイバルで流行った訳でもなかったのに。ただ出会っておもしろかっただけだった。手元に仕込み杖から抜いたドスを持った勝新太郎が正面にいて、開くと全面が艶っぽいピンク色のチラシがあり、左側に縦書きでコピーが書いてある。

 『映画』ミーツ『浪曲』=「浪曲映画」の再発見

 正直に告白すると自分は〈浪曲映画〉の再発見どころか、まだ発見すらしていない気がしている。まず、このプロジェクトは〈浪曲映画〉の再発見とあるが、映画と浪曲の出会い方の発見でもある気がする。出会い方はひとつではなく、映画や古典、音楽、もちろんライヴである浪曲といった複数のレイヤーや、まだカウントできていないレイヤーも存在している。多面的といってもいいかもしれない。ただしレイヤーはくっきり順番に分かれているわけではないので、どこから入っていってもさらに掘っていける。まだ日本映画が音をもたなかった時代、いわゆるサイレント映画期にすでに先行して一世を風靡していた浪曲との結婚は祝福すべき出会いであったであろう。映画にはいくつものターニング・ポイントがあり、サイレントからトーキー、モノクロからカラー、フィルムからデジタル・ビデオ、そして今また上映から配信と常に押し寄せ、その度に生き残るものと時代に即さないものは振り落とされるという残酷な面がある。

甲斐田「今回最多上映される「新佐渡情話」という映画、冒頭いきなり浪曲“佐渡情話”をヒットさせた浪曲師の寿々木米若の自己紹介からはじまります。物語と関係はなく、登場人物とは直接かかわりませんので、映画の役名ではなく自分の名前を語ります。また映画というのは時間芸術でもあるので、話を凝縮して語らねばなりません。ここで〈浪曲映画〉は大胆に力を発揮します。主人公が子供から大人になるのに、ただいたずらに成長はしません。〈音〉は浪曲で音楽と歌に解説の役割を持たせながら楽しませ、〈映像〉は大胆な省略を仕掛けてきます。幼馴染の男の子と女の子が川を渡りきるともう大人になっているという(まあワイプは使っていますが)、背景はまったく同じなのは気になるところではありますが。つなぎはさらに音をダイレクトにぶつけてきます、今では当たり前にみられるいわゆる説明なく入ってくるパターンです、ミュージカルのようなモダンさの先駆けの要素も堪能できますし、今みるとミュージック・ビデオの走りみたいな要素もみえますね」

堀越「「母千草」という映画、三益愛子の母ものってなっているけれど、実際はモダンなストーリーでね。伊丹秀子の浪曲がモーツァルトの“魔笛”のコロラトゥーラ・ソプラノってあるでしょ、まるでそれですよ(笑)。すごく綺麗でびっくりしました」

甲斐田「この映画も浪曲師の伊丹秀子本人が映画にでてきます。今は価値が多様化していて、共通概念を持つことが難しい時代ではあると思うのですが、今回の〈浪曲映画群〉はとにかく大胆さというか艶っぽさは共有できると思います。どうしてそういう気がするのでしょうかね」

堀越「物流を諏訪湖から富士川を下って送ると清水でしょ、清水は港だから荷を降ろす人夫が必要でしょ、そこに人が集まれば束ねる人間がでてくる。そうすればほら……。天保水滸伝はなんで千葉のって結局これも利根川なんですよ……」

甲斐田「これらは清水の次郎長の興りと天保水滸伝の舞台の話ですが、ちゃんと地に足がついた話ができるいい条件が揃っています。今回のプロジェクトは土地の名前がタイトルにでてくる作品がいくつもあるんですよね。清水、佐渡、番場、(強引にいえば赤穂も)これらはもちろんセットで撮影されているのですが、この時代は特に土地と映画は切り離せないものなのでしょう。この生活と社会状況がモロに反映する粘着力の強さは当時だったらイヤだったかもしれないが、今はひっくりかえってうらやましいところでもあります。余談ですが、2018年公開の日本映画タイトルをざっと調べてみたら東京&トウキョウしかない、いや、あと高崎がひとつだったかな(ドキュメンタリーはのぞいてですが)。東京とトウキョウは同じ街なのかはさておき、これは浪曲と映画の親和性にかかせない土地問題、まあボトムですね」

堀越「この企画をやる時に一番興味を持ったのが、夏目漱石や芥川龍之介や志賀直哉などの明治の文豪達が〈浪曲〉、のことを、身の毛もよだつといって嫌ったという話。それは日本が個というものを近代国家として生まれかわらなくてはいけない時に情だ涙だの、とんでもねぇ!と猛攻撃をくらったんだけど、どっこい大衆は支持し続けてね。日本に嫌気がさした画家の藤田嗣治がフランスで遺言をルイ・ヴィトンのような革ケースに包まれたテープレコーダーに吹き込んだのがみつかって、その端々になんと浪曲の節に乗せて語ったものだったとかね。浪曲は日本人に浸み込んでいたんですよ」

 ここまで聞いて、冒頭の2本の映画がなんでおもしろかったかがはっきりとしてきた。まず、でている人の顔がいいし、撮影もいい、光もいいし、美術も衣裳も……。別にリアルっていうことをいっているのではない。先程の土地とも通ずる話だが、あるべきところにあるということだろうか。おそらく勝新太郎演じる盲目の侠客である座頭市は天知茂演じる平手造酒の声で、音で心を許したのだろう。そして、のっぴきならない事情になった時、選択しなくてはならない。それがアクションへとつないだという気がした。そこに情があったからこそ動いたわけで、それをなかったことにはできない。そのアクションに当時みていた自分の心が動いたような気がした、きっと。それを獲得していた時代はすごい。つまりいろんな意味でそれをつかむには体力がいったのだから。もちろんひとりの人間の筋肉、体力というわけではない。おそらく、そのムードが捨てなくてもいいものも流してしまったのだろうと想像できるだろう、よくも悪くも。

甲斐田「このプロジェクトで冒頭にいっていたコピー、〈浪曲映画〉の再発見とあります。自分はもしかして、無意識に発見して、いつのまにか出会っていたのでしょうか。そういえばなぜかパッと思い当たったこと、現代にこういう〈におい〉ってあるかなぁと考えたところ、電気グルーヴのふたりががっちり肩を組んでる一枚の写真を思い出しました。これが現代のアップデートした〈節〉なのかはわからないですが。ただ人々の心を動かす何かがあったのは間違いない気がしています。“浪曲インベダー”なる曲でも仁義も切っていますしね」

堀越「今プロジェクト最大の〈浪曲〉ミーツ〈映画〉、舞台とスクリーンのレイヤーを溶かす出会い。浪曲の現在を牽引する玉川奈々福、玉川太福両氏による映画との呼応する浪曲の生演奏も一緒に楽しむことができる貴重な機会を見逃さないでいただきたい。渋谷と浅草では違う、渋谷派の浪曲とか考えてほしいと思っているんですよ」

 街は容赦なく変貌する。発見をした先には、今の情景がまた違って見えてくるだろう。そういえばユーロスペース/ユーロライブっていつも坂の途中にハコがある気がする。

 


堀越謙三(ほりこし・けんぞう)
映画プロデューサー。ユーロスペース代表。東京藝術大学名誉教授。1945年東京生まれ。1977年1月に「ドイツ新作映画祭」を初開催、ヴェンダースやファスビンダーらニュージャーマンシネマを日本に紹介する。1982年ユーロスペースを開館。1997年映画美学校を創立。2014年ユーロスペースの2Fに「ユーロライブ」をオープン。サンキュータツオをキュレーターとして起用した「渋谷らくご」の仕掛け人でもある。

 


寄稿者プロフィール
甲斐田祐輔(かいだ・ゆうすけ)

映画監督。1971年生まれ。『RAFT』(2001年)、『すべては夜から生まれる』(2003)、『砂の影』(2008)、『ロト』(2009年)、『MUGEN』(2009年)『明日「夏の視界」』(2011年)など。音楽家との交流から、ミュージック・ビデオ作品も多い。EFO-WRAPPIN'「あしながのサルヴァドール」、畠山美由紀「夜と雨のワルツ」、JAZZ DOMMUNISTERS「XXL」、中島ノブユキ「散りゆく花」など。

 


INFORMATION

浪曲映画──情念の美学 
Rokyoku Movie─The Aesthetics of Pathos

太宰治が翌朝も思い出して号泣したと書き残した、元祖・浪曲映画「新佐渡情話」など浪曲映画15本と、浪曲8口演で、日本映画と日本人のルーツをたどる!
○6月22日(土)-6月26日(水)
会場:東京・ユーロライブ/ユーロスペース
タイムスケジュールはこちらから

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