2018年12月、幕張メッセで星野源とマーク・ロンソンのダブル・ヘッドライナー・ショーを観た。その数日前、ロンソンは体調不良でアメリカでの公演をキャンセルしたと伝えられていたのでちょっと心配したが、ふたを開けてみればそんな様子は一切見せず、アッパーなセットでライヴを貫き通した。その夜の出来事でよく覚えているのは、女性が大半を占める星野ファンのほとんどが客席から立ち上がり、踊っていたこと(その後、星野とロンソンは「rockin'on」の表紙を飾った)。

ライヴの前月にリリースされたシングル“Nothing Breaks Like A Heart”は、その日もハイライトとしてプレイされた。タイトなヴィンテージ・サウンドを追求していた彼のこれまでの仕事やディスコグラフィー(詳しくは筆者がCINRA.NETに書いたコラム〈星野源とツーマンで幕張を沸かせた、マーク・ロンソンを深掘り〉を参照されたい)と比べると、同曲は異色の音。ビートはシンプルにハウスだが、マイリー・サイラスの深みのある歌声が象徴するとおりにシリアスで、分厚いストリングスがシアトリカルに響く。来たる新作では前作『Uptown Special』(2015年)とまったく別のことをしようとしているのだろう、という予想はついた。明るいアルバムではないのだろう、とも思った。

果たして届けられた新作『Late Night Feelings』は、やはり前作のハッピーなフィーリングとは対照的だ。bounceの記事によれば、元妻ジョセフィーヌ・ドゥ・ラ・ボームとの離婚、そしてXXのロミーとサッド・バンガー(〈切ないアゲ曲〉)ばかりをプレイするパーティーからの影響が反映されているという。ゆえに、彼の作品でもっともパーソナルで、かなしみが込められたアルバム――つまるところ、『Late Night Feelings』にはロンソンのサッド・バンガーが詰め込まれている。だからこそ聴き手のハートに寄り添う、という感想はあまりにも短絡的だろうか。

それ以上に、プロダクションの変化が大きなトピックになっている。一言でいえば、モダンになった。彼らしいヴィンテージ・サウンド(例えば、60年代のリズム・アンド・ブルースっぽいギターのカッティングやドラムのビート)は一つの要素として、後景で鳴らされている。全体的にリヴァービーで、もやがかかったような音像だが、同時にエレクトロニックな音が増えたために絶妙なバランスのサウンドを生んでいることが感じられる。

サウンドの変化と相似形で、本作に参加したヴォーカリストたちはリッキー・リーやカミラ・カベロ、キング・プリンセス、さらにはエンジェル・オルセンと、ジャンルを問わずにいまのシーンの重要なシンガーが集っている(しかも、全員が女性)。そして、カミラとの“Find U Again”キング・プリンセスとの“Pieces Of Us”オルセンとの“True Blue”PitchforkがBest New Trackに選んでいた)は、いずれも素晴らしいサッド・バンガー。それぞれの歌い手の魅力を引き出した見事な手腕だ。

かように本作は、ロンソンにとってのハートブレイク・アルバムである。ここには、あの素晴らしい“Uptown Funk”はない。彼のエモーションが『Uptown Special』の続編を作らせなかったのだと考えると、なんとも正直なアーティストだと言わざるをえない。だが同時に、『Late Night Feelings』はダンス・レコードでもある。深夜、過去の恋愛やいまさらしても遅い後悔、うまくいかない現実を思いつつ、一人ヘッドフォンをして踊りながら聴きたいアルバムだと思った。

泣きながら踊る――そんな矛盾が成り立つこと、それによって少しは思いが救われることを、ダンス・ミュージックに思い入れのあるリスナーであればわかってもらえるはずだ。