台湾のインディー・シーンで注目を集める5人組、I Mean Usが初の日本ツアーを7月に行う。今回は、7月19日(水)に福岡BEAT STATION、同21日(日)に大阪SOCORE FACTORY、22日(月)に東京・新代田FEVERという3公演。各地でAttractions、揺らぎ、Luby Spsrksら、国内シーンの最前線で脚光を浴びているインディー・バンドが共演を務める。今回は、来日を控えたタイミングでI Mean Usと、東京公演に出演するLuby Sparksのリーダー、Natsuki Katoとのメール対談を行った。同じく英米のドリーム・ポップやシューゲイザーに大きな影響を受けつつ、男女ツイン・ヴォーカルと艶やかなギター・サウンドを絡ませながら、優美な世界を描く両者。それぞれの音楽的な背景を語ることから始まったやりとりは、やがてアジアン・インディーのこれからの展望についてへと深まっていった。

 

スーパーカーやCornelius……I Mean Usに影響を与えた日本の音楽

Natsuki Kato(Luby Sparks、ヴォーカル/ベース)「〈I Mean Us〉というユニークなバンド名の由来を教えてください」

Chun Zhang(I Mean Us、ギター/ヴォーカル)「僕はいつも誰かが〈I Mean Us(私と私たちは等しい)〉って言うとき、誰もが瞬時にこの小さなバンドのことを思い浮かべていると思っています。そこは気に入っていますね。このバンド名は、誰かが僕らの音楽を聴くとき、その誰かもまたこのパラレル・ユニバースを共有している。ということを表現しています」

Natsuki「I Mean Usの楽曲”死宝貝”からはスロウダイヴのようなシューゲイザー、”EYƎ”からはシガー・ロスといったポスト・ロックからの影響を感じました。強く影響を受けた音楽は?」

I Mean Usの2018年作『OST』収録曲” EYƎ”
 

Chun「Mandarkと私がI Mean Usのメインの作曲家です。他のバンド・メンバー、Hank Chen(ベース)とPP L(ドラムス)、Vitz Yang(ギター)は、それぞれバックグラウンドや好きな音楽が違っています。それが音楽の多様性を引き出しているんです。例えば、私は10代の頃、ポスト・ロックやシューゲイザーが大好きで、Sugar Plum Ferryやエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなどを聴いていました(ただお恥ずかしいことに、スロウダイヴの曲は一度も聴いたことがないんです)」

※台湾のポスト・ロックにおける先駆者的なバンド
 

Natsuki「“You So”は個人的にYkiki BeatやThe fin.といった10年代以降の日本のインディー・バンドとも共鳴していると思いました。実際に彼らのような日本のインディーも聴いていたりしますか? また、日本のインディー音楽のシーンについてはどんな印象を持っていますか?」

Chun「私にとって日本のインディー・バンドはすごく特別なものです。特にスーパーカーからすごくインスピレーションを受けていました」

Vitz Yang(I Mean Us、ギター)「インディー・ミュージックであるかはわかりませんが、私はCorneliusと平沢進をすごくリスペクトしています」

Mandark Liang(I Mean Us、シンセサイザー/ヴォーカル)「私が好きなのは、Spangle call Lilli lineやClammbon、宮内優里のような人たち。彼らの曲はとても日本的。作曲、マスタリング、リミックス――彼らの技術に感心してしまいます」

 

聴き手に自由な想像をさせる、I Mean Usの映像喚起力

Mandark「逆にNatsukiさんは、台湾の音楽や国にどんな印象を持っていますか?」

Natsuki「台湾にはまだ一度も行ったことがないんですが、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』(91年)は僕のお気に入りの映画です。また、Manic Sheepは僕たちが結成して初めて共演したバンドであり、それ以前から聴いていたバンドでもあるのでとても思い入れが強いです。最近ではThe Fur.もオールウェイズやスネイル・メイルを彷彿とさせ、サウンドが好みでした。台湾の音楽シーンはどんなサウンドが主流ですか?」

The Fur.の2018年作『Town』収録曲“We Can Dance”
 

Hank Chen(I Mean Us、ベース)「台湾ではドリーム・ポップ、シューゲイザー、サーフ・ポップのような音楽を作る人が増えてきていますね。良い傾向だと思いますよ。でも、いまいちばん多いのはやはり〈チル・フィーリング〉を持った音楽ですね。たぶん大きなプレッシャーを抱えて生きている人々が多いから流行っているんでしょうね」

Natsuki「I Mean Usのアルバム『OST』は架空のロード・ムービーのサウンドトラックというコンセプトで作られたそうですね。クロマティックスなどをリリースしてきたアメリカのレーベル、イタリアンズ・ドゥ・イット・ベターの作品のような発想で、とても素敵だなと思いました。このアルバムの〈架空のロード・ムービー〉とはどんな映画ですか?」

Hank「クロマティックス、大好きです。すっごく良いですよね。I Mean Usの曲を、誰かぜひロード・ムービーに使ってほしいです。これまで映画に曲を使われたことはないんですよ。〈楽曲を提供するから、あなたのメモリーや創造性を生かして素敵なロード・ムービーを作って〉というのが私たちの願いです」

Mandark「リスナーには曲を聴いて、どんなシーンや記憶でも創造できる自由がありますよね。〈架空のロード・ムービー〉は、楽しげであったり、忘れられないようなものであったり、ロマンティックであったりと、聴く人によってさまざまだと思いますが、このアルバムでは最後には2人のキャラクターがお互いから離れて、自由になります。なんの感情も説明もなしに。それが、〈I Don’t Need The Answer(答えはいらない)〉 という歌詞を持つ”死宝貝“をアルバムの最後に入れた理由です」

『OST』収録曲”死宝貝“のセッション映像

 

アジアのインディーはこれからどうなっていく?

Natsuki「僕たちLuby Sparksは、韓国のSay Sue Me、シンガポールのCosmic Child、香港のThud、そしてI Mean Usなどアジアのさまざまなかっこいいインディー・ロック・バンドと日本で共演することができています。Say Sue MeはPitchforkでも採り上げられたり、I Mean Usを含めみんなSXSWに出演したり、アジアのバンドがどんどん世界に進出していっていて、〈アジアにはおもしろい音楽がたくさんある〉というイメージが徐々についてきているように感じています。近い将来、アジアのインディー・ロックはどのように発展していくと思いますか?」

Hank「私はアジアのインディー・ロックが、私たちの想像をはるかに超えてもっともっと発展していくだろうと信じています。最近ヨーロッパのほうでもどんどん有名になってきていますし、評判もいいんです。みんな文化の違いだけでない、アジア圏の音楽の独自の魅力に気付きはじめていますし、西洋ではあまりない楽器を使ったり、作曲の仕方も少し違ったりするから、西洋の人は驚くんでしょうね。アジアの人にとっても、いままで見たこともなかったような音楽シーンを経験する機会にもなっているのではないでしょうか」

Chun「Say Sue Meは、Luby Sparksが東京での自主企画に招いたと聞きました。カッコいいですね! 彼らは台湾でもとても有名なバンドなので、そのときのことについてもっと教えていただけますか?」 

Natsuki「バンドで自主企画をやろう、と考えたときにゲストに呼びたいバンドが日本にはいなくてSay Sue Meを呼びました(笑)。僕はレコード屋でも働いていて、そこで彼らを知ったんです。韓国のバンドということを感じさせないサウンドや、海外で高く評価されていることなど、僕らがめざしていることを一足も二足も先にやれているアジアのバンド、として尊敬の意も込めての招致でした」

Say Sue Meの2018年の楽曲“B Lover”
 

Chun「この先も、他の国のアーティストと一緒に作曲をしたり海外ツアーをしたりすることを望んでいますか?(とても楽しそうだけど、かなりのチャレンジじゃないかなと思います)」

Natsuki「海外のアーティストと協力し合う、というのは常に考えていて、現に僕たちのこれまでの作品は全てイギリスのバンド、ヤックのマックス・ブルームにプロデュースしてもらっています。ファースト・アルバムの『Luby Sparks』(2017年)はロンドンの彼のスタジオで、次のEP『(I’m)Lost in Sadness』(2018年)は彼を日本に呼んでレコーディングしました。これからも海外のバンドとツアーしたりスプリット・シングルを出したり、それ以外でもリミックスをやってもらうなど、挑戦してみたいことはたくさんあります!」

 

今後、日本のインディー・シーンはどうなっていくべきか

Chun「日本のバンド・シーンの規模感は台湾よりもずっと大きいですよね。活動はしやすいですか?」

Natsuki「確かに日本の音楽シーンは大きくて、そこだけでビジネスが成り立っています。しかし大きくなるバンドや音楽ジャンルは限られていて、アイドル、J-Pop、BPMが速くてわかりやすい日本語で歌っているJ-Rockなどが、メインストリームを占めています。なので、僕らのような英語で歌う洋楽志向のバンドは大きくなりづらいですね。

少し前から日本では〈シティ・ポップ〉というジャンルがバンド・シーンで盛り上がっていました。それは先に挙げたどのジャンルとも違い、70年代〜80年代に日本で流行した音楽のリヴァイヴァルで、最初はインディー・シーンに限定されたものでしたが、(海外を含め)一気に火が点き、いくつかのバンドはフェスティヴァルなどでポップス・アーティストと肩を並べるようになりました。どちらかというと僕は、フェイヴァリットでもあるスーパーカーやFISHMANSが活躍していた90年代の日本の音楽シーンに憧れているんですけど、シティ・ポップの拡がり自体は僕から見ていても気持ちがいいもので、自分の活動にも勇気付けられる部分もあったんです。

ただ、日本の音楽シーンには、1つのジャンルが流行ると似たようなバンドや音楽が横行するという傾向があり、すぐにそういったサウンドが大量発生しました。そういった面を見ると、いまの日本の音楽シーンも決して大きいとは言えず、僕たちのようなバンドはまだまだインディーで、メジャーなものとは大きな隔たりがあります。Luby Sparksは、そういった壁をなくして、いい音楽であれば英語詞のバンドでも、海外のようにメインストリームと混ざれる、ということを証明したいです」

Luby Sparksの2018年のEP『(I’m)Lost in Sadness』収録曲“Cherry Red Dress”
 

Chun「これからの台湾は、大企業やレーベルと契約するのではなく、バンドが独自のキャリアを維持し、チームや企業を設立するようになっていくと考えています。日本も、そうなるんでしょうか?」

Natsuki「日本では自主でレーベルを立ち上げたり、バンド独自のチームを作ったりすることはそこまで浸透していなく、それをやるとすれば〈挑戦的なこと〉と捉えられると思います。多くのバンドが、大きなレーベルや音楽事務所との契約を結ぶことを目標に活動しているように思います。現に僕たちも自主でやるほどのキャリアや実績がまだなく、レーベルに所属しています。ただ海外のように、会社ではなく個人のマネージャーが付く、というのはこれから日本でもバンドにとって必要な流れではないかと思います。きっとそのほうが活動もしやすく、音楽家に直接対価が支払われるので、チームの規模が小さいほうが良い、というのはあるかもしれませんね」

 

I Mean UsとLuby Sparks――それぞれの譲れない美学

Mandark「私たちはLuby Sparksのヴィジュアル・デザインがとても好きです。アルバムのカヴァーもバンドの写真も “Tangerine”のMVも、ノスタルジックな雰囲気と、反抗的な若い感じが両方含まれていますね。こういった世界観はバンド・メンバーみんなで決めたんですか?」

Luby Sparksの2017年作『Luby Sparks』収録曲“Tangerine

Natsuki「バンドのアートワークやヴィジュアルは主に僕がディレクションしています。ジャケットやアーティスト写真は、常に時代感や国籍感を感じさせないものをめざしています。それは僕たちの作っている音楽も同じですね。観て/聴いたときに、90年代なのか80年代なのか、イギリスのバンドなのかアメリカなのかアジアなのか、一瞬では判断がつかないようなものにすることで、聴き手にそういった潜在意識を取っ払って聴いてもらえると思っています。

とはいえ、アー写やジャケットを見ただけでどんなサウンド化を想像できるほうがキャッチーだと思うので、自分たちの理想としているラッシュやスロウダイヴなど90年代のイギリスのバンドのアー写を参考にフィルムで撮って加工したりと、意識的ではあります。アルバムのカヴァーもそうで、ファースト・アルバムはC86に収録されているようなギター・ポップ・バンドの作品、最新のEPは4ADのデザイナー、ヴォーン・オリヴァーが手掛けてきたアートワークをめざしました」

Mandark「Luby Sparksの強気なヴィジュアルは、日本のバンド・カルチャーにおいて一般的なのでしょうか?」

Natsuki「日本のバンド文化において、強いヴィジュアルを売りにすることはしばしばあると思います。しかし、僕らのような音楽――シューゲイザーやドリーム・ポップをやっているバンドは、なぜかヴィジュアルにこだわりが薄いように感じています。本来シューゲイザーやドリーム・ポップはイギリス生まれで〈美しさ〉や〈心地よさ〉が特徴的な音楽ジャンルなはずなのに、ここ日本ではどうも〈ナード〉な音楽として捉えられることが多い気がします。そこに疑問もあり、僕達はヴィジュアル面では特に徹底して美しいものを作っています。I Mean Usもアーティスト写真でのファッションやInstagramにアップした写真などから、いずれも世界観が徹底されていて。美意識の高さを感じました。I Mean Usの譲れない美学とは?」

Mandark「うーん、どんなものにもスタンダードなルールなんて存在しないし、〈普通〉はどんどん変わっていく。新しい事柄もどんどん廃れていきますよね。ときどき復活することもあるけれど。私たちにとって美学とは、人生において学び続け、進化し続けていく必要を持った経験のことです」

 


LIVE INFORMATION
I Mean Us JAPAN TOUR

2019年7月19日(金)福岡 BEAT STATION
前売り/当日:3,000円/3,500円
出演:I Mean Us (from TAIWAN)/Attractions/Black Boboi/村里杏
DJ:DAWA(FLAKE RECORDS)/NON-DI/SAE

2019年7月21日(日)大阪 SOCORE FACTORY
前売り/当日:3,000円/3,500円
出演:I Mean Us/揺らぎ/Tsudio Studio

2019年7月22日(月)東京 FEVER
前売り/当日:3,500円/4,000円
出演:I Mean Us/Luby Sparks/17歳とベルリンの壁/Morningwhim(O.A.)

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