天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。はい。〈カニエ通信〉の時間がやってまいりました」

田中亮太「恒例にしないでくださいよ……」

天野「だって、他には〈トレント・レズナーが自分の曲をサンプリングされたリル・ナズ・X“Old Town Road”について、ついに語った!〉くらいしか話題がないんですもん。というわけで、〈出す出す詐欺師〉のカニエ・ウェストが、ようやくニュー・アルバム『Jesus Is King』をリリースしました。〈10月25日に出す〉と宣言しておきながら、リリース日の当日になっても3曲のミキシングをやっていて、〈本当に何を考えているんだろう、この人は?〉と呆れました。完璧主義者なのか、計画性がないのか……」

田中「どっちもありそうですね(笑)。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. The 1975 “Frail State Of Mind”
Song Of The Week

天野「そんなわけで、〈SOTW〉はカニエ・ウェスト……ではなくて、1975の“Frail State Of Mind”です! 読者のみなさまの期待を裏切って申し訳ございません!!」

田中「期待されていたんでしょうか(笑)。この曲は、彼らが2020年にリリースする予定の新作『Notes On A Conditional Form』から発表されたセカンド・シングル。ファースト・シングル“People”は8月に紹介しましたね

天野「パンクを演じた感じもあった“People”にはそこまでノれなかったんですが、“Frail State Of Mind”は〈なんていい曲なんだろう〉と感動しました。僕はもう、先週からこの曲を50回くらい聴いていますよ。それにしても、ヴォーカリストのマッティことマシュー・ヒーリーは本当にすばらしいリリシストだと思います。曲名を直訳すると、〈もろくて悪に誘惑されやすい心の状態〉。〈僕はいつも心がもろいんだ〉というリフレインは、不安定なマッティの精神状態がそのままトレースされているかのよう。そして自身の弱さ、もろさを告白する歌詞には、ヘロイン中毒に陥った過去や社会に対する不安がストレートに反映されています。また、〈Oh boy don't cry〉というフレーズはキュアーの“Boy's Don't Cry”(79年)や、それを引用したフランク・オーシャンとの共振を感じさせますね。歌い回しやメロディーは前作『A Brief Inquiry Into Online Relationships』(2018年)の曲とそっくりで既聴感があるんですけど、なんといってもこの曲は、UKガラージ/2ステップ~ダブステップのビートを借用しているのが話題です」

田中「ブリアルっぽいですよね。まあ、〈なんでいまさらガラージなんだろう?〉とも思って、フレッシュさより懐かしさを感じちゃいました。ただ、バンドがノっているのが伝わる曲ではあります。マッティの不安感は当然、社会にも向けられていて、新作の1曲目になると予想されている“The 1975”では気候変動問題に警鐘を鳴らす環境活動家、グレタ・トゥーンベリの演説が引用されていました。アクチュアルであろうとするマッティの姿勢を強く感じます」

 

2. Doja Cat “Rules”

天野「2位は米LAのラッパー、ドジャ・キャットの“Rules”。ノヴェルティー・ソング“Mooo!”(2018年)がヴァイラル・ヒットして話題になったラッパーで、メジャー・デビュー・シングル“Tia Tamera”“Juicy”(2019年)でもヒットを飛ばしていて、今年の顔って感じがします」

田中「かっこよくてセクシーでもあるのですが、どちらかと言えばユーモラスなキャラクターで親しみやすいですよね。ウィキペディアによれば、南アフリカ出身のお父さんとユダヤ人のお母さんの間に生まれた、とあるので、そのあたりの出自もユニークです」

天野「ドジャ・キャットは、やっぱりラップがおもしろいと思うんです。たぶん、ニッキー・ミナージュからは相当影響を受けていて、たたみかけるようなライミングやフロウ、一曲のなかで声色をいろいろと使い分ける感じは、めちゃくちゃニッキーっぽい。ただ、そういうのはもちろんスキルやテクニックがないとできないので、コピーキャットだと言いたいわけではないんですけど。彼女はリズム感がすごくいいと思います」

田中「かわいこぶった声や甘い声から、一瞬でドスの効いた声に切り替わるのがおもしろくて、くるくると表情を変えているようですよね。プロダクションの面では、〈チャーン〉というギターのフレーズのループが耳に残ります。この“Rules”が収録されるアルバム『Hot Pink』は、来週11月7日(木)にリリース。今年9月の来日公演も話題でしたし、新作をきっかけに日本でも人気が出そう」

 

3. Davido feat. Popcaan “Risky”


天野「3位はダヴィドがポップカーンを客演に迎えた“Risky”。ダヴィドは米アトランタ生まれ、ラゴス育ち、ナイジェリアの大学で学んだ、という経歴の持ち主で、2011年に『Omo Baba Olowo』でシンガーとしてアルバム・デビューを果たしています」

田中「彼はアフロビーツと呼ばれているジャンルの代表的な歌手ですね。〈アフロビーツ〉というのはフェラ・クティの〈アフロビート〉とはまた別の音楽で、ナイジェリアやガーナで発展し、UKでも流行しているサウンドです。70年代や80年代のアフリカン・ポップスが打ち込みなどを取り入れていって、ヒップホップやR&B、レゲトンと出会い、混ざり合ったような音楽、と言えば伝わるでしょうか」

天野「アフリカっぽい音楽なんですけど、ものすごく折衷的なんですよね。それはどんなポップ・ミュージックもそうかもしれませんけど。でも、この曲はそんなにアフロビートっぽくなくて、かなりレゲエの要素が強いですね」

田中「ビデオはシリアスでもありますが、サウンドは柔らかい日差しを感じさせるような、温かいものですよね。フィーチャーされているポップカーンはジャマイカのダンスホール・シンガーなので、彼の色もたぶんに入っているのかも。まさに〈ナイジェリア × ジャマイカ〉な一曲で、めちゃくちゃフレッシュですね! 11月22日(金)にリリースされるダヴィドの新作『A Good Time』は、これまで以上にいろいろな音楽の要素がマーブル状に混ざった、エクレクティックな作品になっていそうです」

 

4.  Quin NFN feat. NLE Choppa “Poles”

天野「4位はクイン・NFNがNLE・チョッパーをフィーチャーした“Poles”!」

田中「あの、一つ言ってもいいですか……? 〈NFN〉とか〈NLE〉とか、〈YBN〉とか〈NBA〉とか、もうわけがわかりません!」

天野「そうなんですよね。僕もよくわかっていません(笑)。〈リル(Lil)なんとか〉っていうステージ・ネームの流行が一段落して、結構前から何かの頭文字を3つ使った名前がラッパーたちの間で流行っているようです。それはさておき、クイン・NFNは米テキサス州オースティンのラッパーで、2018年11月に発表したシングル“Talkin' My Shit”をヒットさせた、いま注目の一人。まだ18歳という若さで、言葉を詰め込みながらがなるようなラップのスタイルはめちゃくちゃ勢いを感じますね。彼の勢いまかせなフロウは、〈エモ〉や〈チル〉の流行から一歩先に行っている感じがします」

田中「対するNLE・チョッパーは、クイン・NFNよりもさらに若い16歳。最近、よく名前を目にするラッパーですが、注目を集めたのは今年1月の“Shotta Flow”という曲でした。ちなみに、“Shotta Flow”のYouTube動画の再生回数は現在1億回以上! そんなフレッシュすぎる2人の共演曲が、この“Poles”。プロダクションは、骨組みがむき出しになったような無骨なトラップ・ビートと、ほぼピアノの単音だけで構成された不穏なもの。こういうサウンド、いま流行っていますよね。“Poles”ではクイン・NFNとNLE・チョッパーのヴァースが交互に飛び出してくるので、掛け合いっぽい感じもおもしろいです」

 

5. Kanye West “Follow God”

天野「さて。今週最後の一曲になりました。5位はカニエ・ウェストの“Follow God”です」

田中「この順位、低くないですか? カニエに対する愛憎入り混じった感情をいつも吐き出している天野くんにしては、なんとも微妙な位置ですよね」

天野「う~ん……。いまのカニエはあまりにも宗教色が強すぎて、ライヴ・パフォーマンスの〈Sunday Service〉を初めてからは、どうもノれないんですよね。リル・パンプとの超馬鹿馬鹿しい“I Love It”(2018年)にも、別にノれてはいませんでしたけど(笑)。『Jesus Is God』は、どう受け止めていいのかがよくわからなくて。この順位も消極的な感じです」

田中「めんどくさいですね(笑)。アーティストのファンというのは、めんどくさいものなのかもしれませんけど。新作『Jesus Is God』はゴスペルの要素がかなり強いのに、一曲が短いのが気になりました。ゴスペルの宗教的体験って、時間の長さやトランス感に依拠するところが多いと思っているので。で、この“Follow God”は新作『Jesus Is God』のなかでも比較的シンプルなラップ・ソング。これまでのカニエらしさが感じられる曲です。2分足らずの曲に言葉を詰め込みまくったラップからは、なんとなく余裕のなさも感じます。最後に叫び声を上げてブツっと切れる感じは、ちょっと怖い……。YouTubeだとリリックの日本訳も字幕で読めますね。カニエらしい尊大さと盲目に神を信じている様子がごちゃ混ぜになったリリックは、なんとも複雑です。〈側にいる人はわかってくれる/これが俺さ〉という後半の一節は、カニエらしいとしか言いようがありません」