ジャズ・ピアニストでありながらメタル・ファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。ありがたいことに、前回の〈ヘヴィメタルの歴史的に絶対聴いておかないといけない3枚〉が大きな反響を呼びました。その記事内で、西山さんがこう言っていたのを覚えていますでしょうか。〈ヘヴィメタル初心者に、まずはこれを聴くべき3枚〉を訊かれたら〈きっと私ならこうします。1枚目「イングヴェイ」、2枚目「イングヴェイ」、3枚目「イングヴェイ」〉と……。ならば西山さん、今回はイングウェイの聴くべき3枚を教えてください! そしてイングウェイ愛をどっぷり語ってください! イングヴェイ・マルムスティーンって何がどうスゴイんですか? あれ? 聞いてはいけないことを聞いてしまいました!? *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


前回の記事が、思いのほか沢山の方に読んで頂けたようで、ありがたいことです。

〈ヘヴィメタルの夜明け〉ということであの3枚を選びましたが、ヘヴィメタル黎明期から年数を経るごとに革新していった歴史的名盤はまだまだ沢山あり、またいつか書きたいと思います。

が!

今回、ヘヴィメタル・ビギナー編集酒井さんから前の記事を受けて次のお題として提案されたのが、

〈「イングウェイ」「イングウェイ」「イングウェイ」で3枚選ぶのだったら、何なんですか?〉

 

聞きましたね?

聞きましたね?

良いんですね?

 

はい、ということで今回は〈私のオススメ:イングヴェイ3点盛り〉で行きます。順不同、全部1位の3枚。というか、イングヴェイならなんでも1位です。(※注 私はイングヴェイならなんでも圧倒的全肯定精神でやってます)

最初に申し上げておきますと、イングヴェイ・マルムスティーンはスウェーデン出身のヘヴィメタル・ギタリストで、何度かこの連載でも言及したり、新譜のレビューをしたりしていますが、〈ヘヴィメタルの速弾き〉の代名詞のようになっている存在。また、そのキャラクターがなかなか凄い俺様キャラで、そちらもよくネタにされます。

詳しくは、昨年の『Blue Lightning』の回でどうぞ。

 

私はピアノをやめていた期間、イングヴェイの音楽に救われてきたので、まあ端的にいうと命の恩人みたいなものです。(※注 私はイングヴェイならなんでも圧倒的全肯定精神でやってます)

それでは3枚、いってみます。

 

●『The Seventh Sign』(94年)

YNGWIE MALMSTEEN 『The Seventh Sign』 キャニオン・インターナショナル(1994)

まあ最初に挙げるのは、間違いなくこれ。

私のプロフィール写真の元ネタのアルバムですね。これは日本盤オリジナルのジャケットで、本人はこの日本盤ジャケットが気に入ってなかったらしいですが、私は高校の時にこれを聴いてイングヴェイにハマった聖典のような存在。ですから、本人が否定しようと、このジャケット以外考えられないんです。

1曲目“Never Die”のような高速曲での、その高速のギター・ソロが取り上げられますが、実はこのアルバムは様々なタイプの名曲が多く、“Meant To Be”のような簡単な構成なのにドラマチックなミディアム・テンポ曲や、キャッチーなハードロック“Hairtrigger”、ど・ブルースな“Bad Blood”、ヘヴィーでリッチー味というか“Child In Time”の直系“Pyramid Of Cheops”みたいなものとか、イングヴェイを構成する色々なテイストが散りばめられていて、どの曲も非常に曲、演奏のクオリティが高いのです。

タイトル曲“The Seventh Sign”は、イングヴェイの代名詞〈ネオ・クラシカル・ヘヴィメタル〉を完璧なまでに体現し、非常に密度の濃い楽曲となっています。

とりあえずイングヴェイを聴くのならば、このアルバムからで良いのではないでしょうか。

 

 

●『Rising Force』(84年)

YNGWIE MALMSTEEN 『Rising Force』 Polydor(1984)

 イングヴェイのデビュー・アルバムです。

私はリアルタイムでこのアルバム発売時の衝撃を体験していないのですが、1曲目“Black Star”から、明らかにギターの音が美しく官能的で、他のギタリストで聴いたことのない美意識と圧倒的な技術があるとわかります。そのフレーズの速さも驚きなのですが、音の粒立ちの良さ、明確さに、技術が突然ウルトラCランクになった感じがあったんじゃないでしょうか。

勿論、先行するギター・ヒーロー、ヴァン・ヘイレンがあっての登場。ワイルドで少し近未来的、パーティー感溢れるヴァン・ヘイレンに対し、正確でクラシカルで官能的で超速の新人の登場は、きっと当時大きな驚きがあったのではないかなと想像します。1984年の頭に『1984』があり、1984年の終わりに『Rising Force』が発表されるわけですよ。

その後、速く弾ける人は沢山出てきましたが、速いけれどフレーズが滲んでしまう、タイムが突っ込み気味、機械のように演奏する人は沢山おり、イングヴェイの速弾きのキモは、正確さとそれを超える官能性であることだと思っています。

2曲目の超名曲“Far Beyond The Sun”でオルガンとソロのバトルがありますが、鍵盤楽器とバトルしているのに全く遜色ない正確さと、そこに加えられる情感は、鍵盤楽器奏者として非常に憧れるものでもあります。アコースティック・ピアノは精密機械であり、EとFの間の音が出せないので、だからこそ私はギターに憧れるんですよね。

3曲目“Now Your Ships Are Burned”と6曲目“As Above, So Below”のみ歌が入っていますが、これもほぼインストゥルメンタル曲といっていいでしょう。“Now Your Ships Are Burned”イントロの高速リフが異常に格好良かったり、“As Above, So Below”ではイングヴェイの音楽のヴィジョンにシンガーがついていく熱演になっていたり、〈インストのクオリティで歌の曲ができる〉というプレゼンをされているようで、歌の曲を一段上に押し上げたように聞こえます。

 

●『Live Sentence』(84年)

ALCATRAZZ 『Live Sentence』 Octave/Cherry Red(1984)

アルカトラスの1984年中野サンプラザでのライブ盤ですが、これはイングヴェイ・ファンとしては、イングヴェイのアルバムに入れて良いでしょう。

他を選んでも良かったんですが、ギター・プレイの明らかな素晴らしさ、天才性を聴くには、これが一番良いと思います。とにかくギタリストとして、華やか。

 

アルカトラスのリーダーでヴォーカルのグラハム・ボネットはこの時、曲によっては正直絶好調とは言えないんですけども(MSGの『Assault Attack』とかはもう凄いです! これはまたいつかの回で)、とにかくイングヴェイのプレイが凄いんですよ、このライブ盤。

どこからどう聞いても〈スターの出現!〉という華やかなオーラが充満していて、このコンサートに行っていた皆さんが羨ましい。きっとものすごい興奮だったのでは。こんなライジング・スター、いますか?

これだけ弾けたら、俺様キャラになって当然ですよ。それだけの演奏をしてますもの。

 

高速プレイだけではなく、2曲目“Hiroshima Mon Amour”のプレイの色気も注目して聞いてください。

どんなジャンル、どんな楽器のミュージシャンでも、地の力というのはロングトーンに出ると思っています。イングヴェイのそれは、圧倒的に情感とスターの風格がある。

イングヴェイは沢山の音数が弾けるから素晴らしいのではなくて、それがメロディーとしてとても頭に残るし、速くても遅くても、ちゃんと歌ってるんですね。〈ネオ・クラシカル〉が取り沙汰されますが、下地のブルースの力というのがかなりあって、それはこの連載の『Blue Lightning』の時にも触れましたが、あまり詰め込んでいないときの歌心とか、本当ゾクゾクしちゃいます。

 

 

以上3枚挙げましたが、以前載せましたがもう一度、私が古本屋でゲットした1984年のヤングギター誌の2ページ目を見てみましょう。

〈気分の乗らない時にこそ、練習すべきなんだ。それが巧くなる秘訣さ。〉

 

俺様キャラの後ろには、ちゃんと練習があるんですよね。

(※注 私はイングヴェイならなんでも圧倒的全肯定精神でやってますが、今回の3枚は、誰も文句言わない作品だと思われます。)

 


LIVE INFORMATION
6月7日(日)の15:00~16:00 自宅からソロでライブ配信します。Facebookページからの配信です。ぜひご覧下さい。https://www.facebook.com/hitominishiyamapianist/

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

西山瞳2作目のピアノ・ソロ・アルバム『Vibrant』6月10日(水)リリース!

西山瞳 ヴァイブラント MEANTONE RECORDS(2020)