ジャズ・ピアニストでありながらメタル・ファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。実は前々回より担当編集が変更になりました。27回目となる今回のテーマは、そんな編集(私)の要望を聞いていただき、〈ヘヴィメタルの歴史的に絶対聴いておかないといけない3枚〉です。西山さん、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします……。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


Mikikiで2年間この連載をやっていますが、そもそもMikikiはヘヴィメタル成分があまりないメディアでして、私の本職はジャズ・ピアニストですから、わりと変な連載を続けているわけなんですね。私の連載のバナーだけ黒くておしゃれじゃないし。

私とMikikiとの元々のご縁は、アニメのキャラソンをレビューする連載でなぜか声をかけて頂いたのが始まりで、NHORHMのCDリリースでインタビューや対談もある中、BABYMETALの記事を単発で書いたりしているうちに連載が始まったのですが、この4月から担当編集さんが代わりました。

しかし、その編集さんがヘヴィメタルをほとんど知らない人で、「僕みたいなヘヴィメタル初心者に、西山さんが思う、まずはこれを聴くべき3枚みたいな記事を書いて欲しい」という話をいただきました。

 

これ、わりとあるオーダーかもしれないですが、実は一番難しいです。
というのも、メタルはサブジャンルが非常に多く、切り口が多すぎて、3枚じゃ全く足りない。
足りないので、きっと私ならこうします。

 

1枚目「イングヴェイ」、2枚目「イングヴェイ」、3枚目「イングヴェイ」

 

おそらく、
1枚目「メタリカ」、2枚目「メタリカ」、3枚目「メタリカ」
の人も地球上にごまんといるでしょう。

 

そのような、他所から見ると面倒臭い忠誠心を持った人の多いジャンルではあると思います。

聴くべきが10枚でもきっと足りないですね。
そして、もし10枚選んだとしても、そのうちの半分は、その人にとって絶対大外れになり、逆に「メタル、やめとくわ」になるリスクが大きすぎる。
意外と〈最初の何枚〉みたいなのが難しいのが、メタルです。

人によってハマる場所は色々。でも、大きなジャンルとしても好きだから、メタルファンは皆結構広く歴史を遡って聴いていて、ヘヴィメタルというジャンル全体をリスペクトしています。

常々思いますが、歴史をたどって聴いたり、メンバーをたどって聴いたり、サブジャンル的な括りで聴いたり、ジャズと掘り方はよく似ています。

 

ということで、本来書きにくい話題なのですが、〈おすすめ〉ではなく〈絶対歴史的に聴いておかないといけない3枚〉を今回書こうと思います。

聴いて気に入らなくても、一度聴いたことが大事。何年も後で聴き返したら「すげー! 当時からこんなすげーことやってたんだ!」と思うのが、歴史的名盤というものです。

 

●『Black Sabbath 黒い安息日』ブラック・サバス(70年)

ブラックサバスの1枚目は、これがないとヘヴィメタルというジャンルが始まらなかった、超重要アルバムです。
もちろん他にも有名なアルバムが『Heaven & Hell』とか『Paranoid』とかあるんですが、最初のこの1枚は、ジャズだとチャーリー・パーカーを聴くようなものだと思って下さい。マストです。

13日の金曜日にリリースされ、この後のヘヴィメタルというジャンルに繋がる悪魔的な世界観を提示したアルバムとして有名ですが、これはジャズファンも非常に聴きやすいと思うんですよ。

それは、ほぼライブ録音に近い同時録音だったため、演奏にかなり自由度があり、ジャズにも近いエネルギーを感じることと、ほぼ全曲一つのモチーフ=リフの展開でできているので、曲中のドラマや物語性ではなく一瞬ごとに変わっていく変化を楽しめるからです。ひと所に落ち着かないおもしろさがある。計画性というよりは、メンバー一人一人の天才性と、その選択とエネルギーを感じるアルバムです。

フリージャズやアブストラクトなサウンドのジャズバンドでこういうの聴いたことあるなあと思う人もいるでしょう。そういう意味でも、ジャズミュージシャンとしても、これはお勧めします。

 

●『Iron Maiden 鋼鉄の処女』アイアン・メイデン(80年)

この後の〈ヘヴィメタル的な格好良さ〉を提示したアルバムだったと思います。
それは劇場型で、テンポが速く、攻撃的で、圧倒的な美学があるという点。
この美学というのが大事で、美学がないとメタルじゃないんですよ。

それは、ある角度から見たら、めちゃくちゃダサいかもしれません。しかしこれを貫き通すという美学に包まれるということが大事。これはそういう意味で、ハードロックではなくメタル的美学の嚆矢である重要なアルバムだと思います。

この頃からNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)というメタル勃興ムーヴメントが起こるわけですが、ヘヴィメタルの骨子はこの時代に確立し、このアルバムはジャズで例えるなら、マイルスの『Kind Of Blue』を聴くようなものだと思ってください。マストです。

個人的に好きなのは“Transylvania”。格好良いと思うことが本当詰まってる。圧倒的世界観の貫徹をどうぞ。

 

●『Long Live Rock 'n' Roll バビロンの城門』レインボー(78年)

ハードロックに分類されると思いますが、これもヘヴィメタルに繋がる非常に大事なアルバムです。

まず1曲目からどうですか、お気楽そうなシャッフルですが、ギターの音色作り、ドラムの球数の多さとはち切れんばかりのエナジー。そしてこの歌、ハイトーン、ロングトーン、シャウト、圧倒的な上手さと尋常じゃない熱量、これこそが、ヘヴィメタル・シンガーですよ。

私もこのアルバムは本当に大好きで何度も何度も聞いていますが、“Gates Of Babylon”と“Kill The King”の流れで、ヘヴィメタルの夜明けをすごく感じるんですよね。この2曲続けてドラムに注目して聴いてみて欲しいんです。“Gates of Babylon”はあまり何も変化してないのにこのエネルギーと緊張感が素晴らしく、ギターソロ中も一瞬もドラムから耳を離せなくて、そこからの“Kill The King”は、きたーー!!!!と叫ばざるを得ない、緊張感と解放のめちゃめちゃ格好良いドラムです。

リッチー・ブラックモアの世界観とメンバー個人の技量が結集した、ハードロックからヘヴィメタルへの萌芽に満ち溢れたアルバムなんですよね。

これ、ジャズで言うと何だろうなあ、ちょっとこじつけですが、ビル・エヴァンスの『Portrait In Jazz』かな。ちょっと違うかもですが、なぜこれを選んだかというと、従来の管楽器・単旋律主体のジャズからハーモニーと楽器の役割分担の考え方を転換した〈ジャンル内でのイノベーション〉という意味で、無理やり選びました。

 

3枚だけだと「あれが入ってないじゃないか!」、「これは入れないのか!」と怒られる感じになるのも、ジャズとメタルの共通するマインドかもしれませんが、とりあえずこれを聴いていたら、ヘヴィメタルの夜明けの大事な一部は押さえることができると思います。マストです。

 


LIVE INFORMATION
6月もライブがどの程度開催できるか不明なので、オフィシャルサイトでご確認頂ければ幸いです。
http://hitominishiyama.net/

そして、Facebookページ内で、ライブ配信も始めました。
開催予定日
5月24日(日)3:00pm~4:00pm
5月31日(日)3:00pm~4:00pm
6月7日(日)3:00pm~4:00pm
どなたでもご覧頂けますので、好きなタイミングで見て下さい。
自粛期間中の、ひとときの気晴らしになれば幸いです。https://www.facebook.com/hitominishiyamapianist/


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

西山瞳2作目のピアノ・ソロ・アルバム『Vibrant』6月10日(水)リリース!

西山瞳 ヴァイブラント MEANTONE RECORDS(2020)