ジャズ・ピアニストでありながらメタル・ファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、THE冠の冠徹弥さんにインタビューした際にも使わせていただいた、メタルご飯処「高円寺メタルめし」を西山さんが再び訪れ、店主のヤスナリオさんに最近の〈メタル模様〉を伺います。はたしてどんなメタル談議が飛び出すのか?……でもこれって、メタル談議というよりも、(本文中にもある通り)いつもお店で見られる常連と店主の光景なのでは!? *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


今回は、満を持して、私の愛する〈高円寺メタルめし〉について書きます。

それは高円寺駅南、パル商店街を下り、西に折れて少し行ったところにあるご飯屋さん。ヘヴィメタルのバンドや曲名にちなんだメニューを取り揃え、ヘヴィメタルがかかっていて(注:優しい音量で)、メタルを愛する人が集まるご飯屋さんです。

〈高円寺〉〈メタル〉〈めし〉
三語全て、なにやらヘヴィで強面そうなオーラが伝わってくるワードですが、実態はかなりユルい、穏やかなオーラしかないお店です。

〈高円寺〉と〈メタル〉、〈メタル〉と〈めし〉、〈高円寺〉と〈めし〉、どれか二語に引っかかったら、ぜひ行って下さい。

 

出会いは2015年。

高円寺ウォッチャーの夫が「おもしろいお店ができるみたいだよ、好きかもよ」と、開店前のネット記事を見せてくれました。

出てきた記事に〈高円寺〉〈メタル〉〈めし〉の三語と、えらく可愛い店内の写真。そして壁に描かれたユルい絵に、漫画みたいなニッコニコのマスターの顔。

店内壁面に描かれたメタル・ヒーローたちの最後の晩餐の絵
 

夫は全くメタラーではないので、純粋に「このお店、なんか雰囲気良さそう」と思ったみたいですが、私としては自宅から自転車圏内で、こんな楽しそうなお店ができるならば、すぐにでも行かなければいけないと思い、情報を知ってすぐ行ってみました。

大体こういうお店って、中が見えなかったり暗かったりして入りにくいじゃないですか。ところが、路面のお店で、お店の中もめっちゃ見えてます。そして可愛いし、ユルい。

明るい店内に、メタル用語やアーティスト名をもじったメニュー
 

開店当初、メタルTシャツを着て行ったらサービスがあると聞いて、恐る恐るブラジルのメタルバンドANGRAのTシャツ(サッカーのブラジルチームのユニフォームにしか見えない黄色のもの、黒Tはビビって着なかった)で行きました。

心配無用でした。

先にお一人お客様がいらっしゃって、全くメタラーに見えない静かな男性でしたが、よく見たら人間椅子Tシャツでした。

 

いつも笑顔の店主・ヤスナリオさん
 

ニッコニコの店主ヤスナリオさんは「料理勉強家」と名乗り、この妙な謙虚さがなんかメタラーっぽい。実はこのヤスナリオさん、2014年に「メタルめし! 飢えたメタラーたちに捧ぐ、究極のガッツリヘヴィメタルレシピ」という料理本を出版されて、その流れでメタルめしを出す実店舗を出されたとのこと。

ヤスナリオ 『メタルめし! 飢えたメタラーたちに捧ぐ、究極のガッツリヘヴィメタルレシピ』 DU BOOKS(2014)

メタルはサブジャンルが細分化されており、メタル好きといっても切り口は色々。

ヤスナリオさんが凄いのは、来るお客さんメタラーの話の全てにリアクションをしていて、それがLAメタルだろうが、デスだろうが、V系だろうが、メロスピだろうが、全て千本ノックのように打ち返す。

開店から今まで、結構な回数お店に行っているのですが、「知らない」と返しているのは記憶にないし、また、お客さんの好みをうまくキャッチして、全て結果的に明るく楽しい会話になっているのは、客観的に見て結構すごいことだと思います。

だって、メタラーは皆、嫌いなメタルってありますよ。そんなつもりなくても、ちょっとネガティヴなこと言っちゃったりするんですよ。そういうところ、お店で一度も見たことがないんですよね。

 

私が最初にお邪魔したオープン初日から5年が経ち、今月で6年目のスタートを迎える高円寺メタルめし。

もうお店や料理の紹介は散々他のサイトでされているので、今回こちらの店主ヤスナリオさんに、5年終えてのお店での〈メタル模様〉を聞いてきました。

まあ、ただの常連と店主の会話です。

お客さんの前でチーズをすりおろす、高速チーズ・ソロ
 

【来客するメタラー】

西山「シーズン5終了おめでとうございます(5年終わったという意味)。この5年間で集まったお客さんメタラーは、開店前に想像してた通りだった?」

ヤスナリオ「もっとガチなメタラーが来ると思ってたよね。ガンガンお酒飲んで大声で話して灰皿ないの?っていう人は、来ても1回。来ると〈あ、違うか〉って思うんだろうね、お店の雰囲気がゆるいからねー。常連さんメタラーは、穏やかで静かな人が多いよね。男女比も半々、少し女性の方が多いぐらいかも。女性ばっかりになる日もあったよね」

西山「あったあった。女一人でも気軽に入りやすいし、行きやすいもん。新しいお客さんが来たときに、パッと見で〈この人こういうメタル聴いてそう〉っていうのはわかる?」

ヤスナリオ「女の人の方がわかりやすいかなあ。ブラックメタルとか、デスメタルしか聴かないって女の人は、雰囲気で大体わかる。摩天楼オペラのファンの人はすぐわかるよね。男の人の方がわかりにくいかな。正体がわからないように来る。初めての時はだいたいフェイバリットTシャツを着て来てくれるけど、冬場は特に着込んでるから、シャツが見えないしわからない。この5年間で、メタル・プロファイリングが鍛えられた」

西山「メタル・プロファイリング(笑)。いろんなメタルを聴く人が来てるけど、全部ちゃんとそのバンドの話を返せるし、打ち返してるじゃないですか。いつもあれを見てて、何気にすごいなと思ってるんですけど」

ヤスナリオ「若い子が来ると、たまに〈ブラックメタルしか聴かない〉っていう子が来たり。そういうのはさすがに何も返せずに、〈へえ〜〜教えて!〉って言うよ。辺境ブラックメタルが好きとか。流石にそういうのはわからないけど、家に帰ってからビール飲みながらネットで調べて研究してる」

西山「料理以外の勉強もしないといけないですね」

ヤスナリオ「さすがに辺境メタルは不勉強ですね」

西山「どんな好みのメタルが来ても、絶対否定しないですよね」

ヤスナリオ「メタルの流派の違いの言い合いは、お客さん同士に任せる。そういうのが始まったら、自分は引く」

 

【メタル布教活動】

西山「オープンから5年経って、お店は思った通りになっている?」

ヤスナリオ「思ったよりもメタラーじゃないお客さんが多く来てくれて、半分ぐらいはそうかな。高円寺好きな女性とか。ただご飯食べに来る人が多くなったかな」

西山「その人がだんだんメタルを聴くようになるとかは?」

ヤスナリオ「一切ない

西山「ないのか!」

ヤスナリオ「それが目標かな。〈ここに来てるからメタルにハマった〉っていうお客さんができたらいいな」

西山「種を蒔いてはいるんですよね、だからいつか突然気付くかもしれない。〈メタルめしで流れてた曲だ! 格好良い!〉って」

ヤスナリオ「メタラーの人で、お客さん同士の会話とかBGMとかで新しいメタルを知るっていう人は多いよね」

西山「メタル文化交流

ヤスナリオ「ああ、でも映画『ヘヴィ・トリップ』の時が一番来たかな、メタルは聴かないけど、映画を観て行ってみようと思いましたって人。映画好きの人ね。あの映画は、映画好きの人も楽しんでくれる映画だったみたい」

(注:私もヤスナリオさんも先に試写で拝見していて、笑いたいのに周りにメタル文脈の人がおらず、誰も笑っていなかった)

西山「私たち、完全に内側の目線であの映画を観て面白いって思ってたから、メタルを聴かない人があの映画をどう思うかわからなかったですよね。皆、奥手な感じが」

ヤスナリオ「あの映画に出てる人に近い客層かもしれない。穏やかで、ちょっと世間から隠れてて、シャイで真面目」

西山「ああそうかも、ステルス・メタラー。納得」

 

【こだわりのメタラー】

西山「メタラーってライブ会場以外でそうそう集まらないじゃないですか。だから、こういう場所でどういうメタル生態系が見れるのか、お聞きしたいんですよ。例えばBABYMETALファンの人って、多いですか?」

ヤスナリオ「基本的にBABYMETALが好きな人は多いよ。〈BABYMETALも好き〉と思えるメタラーの人が多いかな」

西山「ああ、割とそれって試金石かも。ベビメタを許せない人は、ここのお店の雰囲気も合わないかもしれませんね。〈あれも面白いやん〉って思える人じゃないと。嬢メタル系のファンの人も沢山いますよね」

ヤスナリオ「いっぱいいるよ。でも〈女がメタル歌うなんて許せない。浜田麻里の頃からダメなんだ〉って人も来たかな」

西山「そのまま元気に頑張って欲しいですね

ヤスナリオ「そういう人もいないとね」

西山「頑固な人がいないと盛り上がらないですもんね」

ヤスナリオ「でも、こういう人がコロッとハマっちゃうと凄いんだぞって」

西山「うんうん。まあ今のうちに言うとき、って感じですね」

ヤスナリオ「その後、〈ジャパメタは絶対聴かない〉って人も来た。〈ラウドネスしか認めない〉って」

西山「そちらもそのまま元気に頑張って欲しいですね。でも、90年代を耐えて00年代を耐えてそれを言えるって、すごいですよ。筋が通ってる」

ヤスナリオ「最近そういう人も減ったから、久々だったけど頑張って欲しいよね。そういう人がいると刺激になるよね」

 

【最近のメタル風景】

西山「最近お客さんの間で流行ってるメタルって何かあります? お店にいてると、流行りって結構感じるのかしら」

ヤスナリオ「あるある、とてもある。去年はもうゴースト(Ghost)を皆聴いてたよね。あと人間椅子。人間椅子がすごくキテて、流行ってる実感があった。〈最近ハマったんですよ〉って人も多かったな。若い子も人間椅子を知って、メタラーじゃない子がここに来てたよ」

西山「それは素晴らしい話! 胸熱ですね」

ヤスナリオ「あと最近だと、雑誌に載っていたあるバンドがとても期待値が高かったんだけど、ここに来て〈どう思った?〉って皆で話して、〈ピンとこなかったよね〉、〈やっぱりそれでよかったんだ、自分が気に入らないだけかと思ってた〉、〈でもそこまで悪くはないよね〉みたいな確認をしてたり。そういうことはよくあるし、皆それは聴いてるんだなってわかる」

西山「ヤスナリオさんが最近聴いているメタルは?」

ヤスナリオ「80年代の北欧メタルを聞いてるよ。ヨーロッパ(Europe)、トリート(Treat)、TNT、タリスマン(Talisman)、イングウェイ・マルムスティーン(Yngwie Malmsteen)。あと、ここ1年でバイキング・メタルとかフォーク・メタルの良さがわかってきた。民謡チックなメロディが皆好きなのね。ブラック・メタルはまだ早い。多分5年後」

 

【ふざけメタル】

西山「メタルの面白がりとかそんなやりとりって、面白いですよね。前回前々回の記事も、〈ヘヴィメタルビギナーの編集・酒井さんに向けて〉って書いたら、どなたかのリツイートで一緒に〈酒井が初心者だったらまずいだろ!〉っていうコメントがあって、一本取られたと思いました」

(注:メタル、お名前でググってください)

ヤスナリオ「面白い!」

西山「なんなんでしょうね、ダジャレとかメタルの面白がり文化って。ジャズだったら絶対ないですもん。目線が独特というか」

ヤスナリオ「海外でもそうなのかな、変な人多いし、実際面白いもんね、メタル」

西山「料理の名前がダジャレになっていることについて、面白い反応ある?」

ヤスナリオ「シンプルなやつのほうが反応ある。パインキラーとか、カイ・ハンペンとか、シンプルなやつ。頑張って考えるよりそういう方がいいんだよねえ」

西山「スピード感大事ですね。スピードメタル

 

【メタルめし、これから】

西山「この後の目標とかあります?」

ヤスナリオ「やりたくてやれてないのは、お店のテーマソングを作りたい」

西山「!!!!」

ヤスナリオ「作ってもらいたい。Tシャツとかより、テーマソング」

西山「それはぜひ!!!!! 絶対良い!!! 都立家政のブックマートみたいな」

(注:わりと近くにある、店長がメタラーの古本屋&なんでも屋です。メタルグッズ多し。ヤスナリオさんも私も仲良くしてます)

ヤスナリオ「MVもね」

ヤスナリオ「あと、シーズン10(10年)までは行きたいね」

西山「コロナ禍の中でも割と早い時期からテイクアウトもやってたけど、これからもずっと続けるんでしょう」

ヤスナリオ「そうね、テイクアウトはずっと続けるよ」

お昼も夜もテイクアウトをやっています。ちなみに私はこの日もザ・ヌードル・ライスをテイクアウトしました
 

西山「何か言いたいことあります? 世の中にでも、メタラーにでも」

ヤスナリオ「この前も何かの記事で〈メタルを聴くと免疫力が上がる〉って見かけたけど、皆メタルを聴けば何らかの効能があるよ。いいんじゃない、この時期に聴いてみたら。メタルはいいよ!」

西山「ありがとうございました」

 


LIVE INFORMATION
西山瞳トリオ・高音質配信ライヴ決定
メンバー:西山瞳(ピアノ)、佐藤ハチ恭彦(ベース)、池長一美(ドラムス)
日時:2020年7月19日(日曜)1st 19:00~、2nd 20:30~ 各1時間弱の演奏
チケット:各 1,500円
URL:https://dede.ima-ticket.com/hitomi_nishiyama

東京のジャズ・ミュージシャンから全幅の信頼を置かれるレコーディング・スタジオ「Studio Dede」からの、レコーディング・クオリティの高音質、高画質配信ライヴが決定。
2011年『Music In You』(MT-02)の録音以来、9年ぶりにこのトリオでスタジオに戻り、ライヴ配信をします。
普段のジャズクラブでのライブと同じスタイルで、1時間×2セット演奏します。
チケットはそれぞれ1,500円。通しで聴く方は両方チケットをご購入下さい。

アーカイヴを残しますので、当日以降のご購入と聴取も可能です。
詳細はこちらをご覧ください。
https://dede.ima-ticket.com/hitomi_nishiyama


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

西山瞳2作目のピアノ・ソロ・アルバム『Vibrant』好評発売中!

西山瞳 ヴァイブラント MEANTONE RECORDS(2020)