ジャズ・ピアニストでありながらメタル・ファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は連載初のインタビューを実施しました。お相手は、西山さんが心打たれたというニュー・アルバム『日本のヘビーメタル』を4月29日(水)にリリースするTHE冠の冠徹弥さん。ジャズ・ピアニストがメタル・バンドのヴォーカリストにインタビューを行う……とだけ聞くと異種格闘技のようですが、実は関わりの深いお二人だけあって超ロング・インタビューになりました。はたしてどんな秘話が飛び出すのやら……。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


今回は、4月29日に『日本のヘビーメタル』をリリースするTHE冠の冠徹弥さんのインタビューをお届けします。

私は、現在発売中の『ヘドバン・スピンオフ 「日本が世界に誇るメタル」欧州進撃追跡レポート号』(シンコー・ミュージックMOOK)に掲載されるクロスレビューのために、一足お先に聴かせてもらったのですが、心揺さぶられる大傑作でした。

まずは1曲目に横溢する気概にノックアウトされ、コロナ禍のキャンセル地獄で弱っていた自分には刺さりまくって、泣きながら鼓舞され、〈おっしゃ頑張るぞ!〉と奮い立ちました。叫び、奮い立ち、泣き、笑い、喜怒哀楽の人生劇場メタルとも呼ぶべきTHE冠のメタルは、メタルとして最高なのはもとより、非常に〈豊かさ〉を感じる音楽なのです。エモーションの豊かさだけでなく、アレンジは非常に細かく変化するし、歌詞やアレンジに引用は多いし、バンドは上手いし、メタル強者の耳に耐えうるストロングな作品にも関わらずポップで楽しくおもしろい。完全にプロの所業です。

私もミュージシャンなので思いますが、音楽で〈おもしろい〉と感じるためには、非常に高度な技術と知識と経験が必要です。余裕でできないと、リスナーはおもしろいと感じることができない。ヘヴィメタルの場合、ミュージシャンもバンドも〈一芸必殺〉型が多いと思うのですが、冠さんの歌唱もバンドの演奏もアレンジも歌っている内容も、重層的で多面的で、非常に幅が豊か。かつ普遍的でドメスティックで、『日本のヘビーメタル』というタイトルに大納得の内容なんですね。

メタル強者でも、メタルを全く知らず初めて聴く人でも楽しめる、とりあえず全員にオススメしたい作品が、この『日本のヘビーメタル』です。これはぜひとも紹介させて下さいということで、インタビューを行いました。

THE 冠 日本のヘビーメタル ハイパーデスラーレコード(2020)


取材協力:高円寺メタルめし
 

西山瞳「今日はインタビューの機会を作っていただき、ありがとうございます。また、『New Heritage Of Real Heavy Metal II』のレコーディングに参加して頂いてありがとうございました(※)。おかげさまでジャズ・リスナーにも冠さんのシャウトを聴いてもらうことができましたし、トラディショナルなビッグバンドに近いスタイルのアレンジに冠さんの普段のメタルの歌唱で乗ってもらって、とても貴重な一曲になりました」

※ヘビーメタルをジャズ・ピアノ・トリオで演奏するプロジェクトの2016年発売アルバム。冠徹弥を迎えた“Decadence Dance”を収録

冠徹弥「いやー、声をかけてもらって嬉しかったですよ。どちらも普段通りでスタイルを変えず、全く流儀を変えてないっていうか、寄せないっていうかね」

西山「今回、新譜を聴かせてもらって感激して、インタビューを企画させてもらいました。制作は全部ご自分の個人事務所でやってらっしゃって、大変じゃないですか?」

「自分でやってます、めっちゃ大変ですよ。でも、もうチームみたいになってるんで。メンバーは勿論、エンジニアさんとか、デザイナーさんとか、ここ数年変わってないチームでやってます」

西山「私、訊きたいこと色々書いてきたんですけど」

「どんどん訊いてくださいよー! 誰も訊いてくれないんで(笑)。自画自賛しかできない」

編集部酒井「西山さんがたいそう感激されていたので、聴いてどういうところにグッときたのか知りたいです。今日は西山さんが企画したインタビューなので」

西山「ぶっちゃけ、一曲目を聴いて泣いちゃって。コロナ禍のキャンセル続きで心も傷んでいた時だったんで、グッと刺さっちゃいました。最初からめっちゃ怒ってるじゃないですか。これまでも最初から強烈なシャウトで始まるアルバムが多かったですが、今までのどれより圧が凄かった」

「タイトルが『日本のヘビーメタル』なんでね。大風呂敷を広げて」

西山「先に『日本のヘビーメタル』というコンセプトにしたいと思って制作したんですか? それとも結果的にこうなったんですか?」

「タイトルをそうしたいと思っていたんです、曲も出来てない頃から。もちろん、ヘビーメタルには根強いファンがずっといますけど、バンドの数も少ないし、突出してBABYMETALみたいなスターが生まれることもありますが、なかなかシーンも活性化しない。でも俺がこれを言うことによって、〈お前が言うな!〉みたいなことにならないかなあと思ったんです。〈いや、俺こそがメタルだぜ!〉って、若いやつでもおっさんでもいいんですけど。こんな格好して、クイズ番組なんかにも出て、そんなお前がメタルを語るのか?って、もっとかかってきて欲しいんですよね。もちろん自分も〈俺こそがヘビーメタルだ!〉って気持ちはあるんですけど、〈じゃあ、やりあおうぜ!〉みたいな。日本のヘビーメタルを盛り上げるために、わざわざ矢面に立つという感じですね」

西山「以前から〈ヘヴィ〉でなく〈ヘビー〉とずっと書いてますけど、それは何か意図してですか?」

「〈ヘビメタ〉っていう略をみんな嫌うじゃないですか。そういう固いこと言ってるから、狭まったシーンになるんじゃないかと思って。〈ヘビメタ〉でも〈メタル〉でもこだわりを持たずに、一般的にも当たり前にある音楽ジャンルとして〈ヘビメタ〉って言われてもええやんって。じゃあお前、カメラマンのことキャメラマンって言うか? シルク・ドゥ・ソレイユいうてるか? ボジョレーヌーヴォーなのか、ヴォージョレヌーボーなのか? どっちでもええやんって。それぐらい、一般に浸透してくれたらいいなと思って。〈ヘビー〉でも〈ヘヴィ〉でも、〈ヘビメタ〉でも〈ヘヴィメタ〉でもいいし。そういう想いがこもってますね」

西山「『傷だらけのヘビーメタル』(2009年)を出したときより、大分世間の見方は変わってるんじゃないですか? あの時こそもっとメタルは下火で、一般にメタルって言葉すらあまり聞こえてくる雰囲気ではなかった。私がメタルを離脱していた時期でもあるのですが」

「もう10年以上前やからねえ。まだBABYMETALもいなかったし。あの時は結構自虐が多かった」

西山「そうなんですよ。以前のアルバムは個人的な話の歌が多い気がしていたんですが、今作はシーン全体へのメッセージという感じがあって、気概がすごいなと思って」

「前のアルバムぐらいからですかね。もう己を蔑んでどうするんだっていう、てめえが撒いた種だろみたいなことを歌い出して。もちろん今でもたまに〈夏フェスで受けへん〉みたいな自虐的な歌も入ってるんですけど、自虐で蔑んでばかりっていうのはもう卒業していいかなって」

西山「やっぱり意識してらっしゃったんですね。全体に向けてのメッセージがとても強いなと思って」

「1曲目から飛ばしましたもんね」

 

【1曲目“日本のヘビーメタル”】

編集部酒井「西山さんが泣いてしまったポイントはどこなんですか?」

西山「とにかく1曲目ですよ。歌詞がヤバいんです。シーン全体を鼓舞するエネルギーに満ち溢れていて」

「LOUDNESSを彷彿とさせるこの入り口ですよね。『日本のヘビーメタル』なんで、大好きであるLOUDNESSに敬意を表して」

西山「普通シンガーって、1曲の中でも声色は多くて2色ぐらいのイメージなんですけど、1曲目から4色ぐらいあって、ハイ・トーンからグロウルまで入れてるじゃないですか。こういうのはテクニカルな見せ方も意識してるんですか?」

「曲に合わせて歌いつつも、サビはしっかりと歌うというのは前提としてあって。AメロBメロは、声をある種楽器のように使って、あとはメロディーに合わせて、この声出ちゃうから使おう、みたいな。歌詞も〈昭和で止まってんな〉とか、ちょっと毒づいてもいるんですけど、1曲目なんで力強くいこうかなと。帯にもあるけど〈令和の最先端ミュージック〉とか言うてますからね。〈無駄なものほど美しい〉とか」

西山「最初から、この曲は1曲目って決めてたんですか?」

「そのつもりで書きました。強い曲ができたし、1曲目から皆で合唱してもらいたいですね。HER NAME IN BLOODのIKEPYが、間奏でウォーって言うてます。あ、基本このアルバムのウォーって言うてるとこ、ほぼIKEPYがコーラスで参加してます(笑)」

西山「曲を書く時は、いつもバンドの皆さんと作業してるんですか?」

「まずは僕が仕上げて、長年やってるエンジニアさんとアレンジを考えます。あとギターのK-A-Zに投げることも多いですね。この曲もそうですけど、1コーラスだけ作ってK-A-Zに丸投げした曲が3曲ぐらいありました」

 

【2曲目“やけに長い夏の日”】

西山「ギター始まり、カッコいいですねえ。“Shy Boy”(デイヴィッド・リー・ロス)みたいで」

「“Shy Boy”と“Hot For Teacher”(ヴァン・ヘイレン)を混ぜて。マシンガンズ(SEX MACHINEGUNS)とツアーを回ってた時の打ち上げで、〈“Hot For Teacher”みたいなライトハンドでピロピロ始まる曲を作りたい〉って言ったら盛り上がって、K-A-Zが〈じゃあ俺ヴァン・ヘイレンみたいなことやるわ!〉って言って、俺が曲書いて(笑)。この曲の仮タイトル“Hot For 冠”でしたからね」

西山「(笑)。最近ロックでもポップスでもシャッフルってあんまり聞かなくないですか?」

「そうですよね。僕らも陽気なシャッフルソング、あんまりやってなかったなと思って」

西山「ライブでめっちゃ盛り上がりそうですよね」

「これは〈夏フェスで滑る〉っていう歌詞で、〈今日はこんな素晴らしいイベントに呼んでくれてありがとう〜! 俺らのこと知ってる人、手あげて!〉〈シーーン〉みたいな(笑)。歌詞はライブによって変えていこうと思ってるんです。絶対盛り上がるんで」

西山「そういうことが実際にあったんですか?」

「過去には(笑)。たまに全くジャンルの違うイベントに混ざると、客いっぱいやのに、地蔵しかおらんみたいなこともあって」

西山「歌詞は普段から書き溜めてるんですか?」

「一言一句しっかり考えてはいるし、たまに接続詞間違ったなーって時もあるけど、書き溜めたりはしてないんです。曲が出来てから書きます。アルバムに1曲くらいは歌詞を先に作る曲もありますけど、このアルバムだとさっきの“日本のヘビーメタル”ぐらい」

西山「(ギター・ソロ中に)あ、かっこいいー!」

「俺もギター・ソロ中に〈速弾きしてますよ〉とか、〈上手やわ〜〉言うてます。リスナーさんたちから、〈こっちが言わせてくれ〉って怒られそうですけど」

西山「他の曲もそうなんですけど、同じ部分でも後半でアレンジが変わってることが多いじゃないですか。実はすごく細かくアレンジが変わってますよね。あれ、ミュージシャン的には、ライブ前にバッチリ覚えるのが大変そうやなって思うんですけど」

「サポートメンバー達は苦笑いですよ。ややこしくしやがってって(笑)。〈どうせ2番も一緒やろ〉みたいなのは嫌いで」

西山「よく聴いてみたら、譜面に起こした時、結構長い譜面になりそうだなって思って」

「そうなんですよ。歌詞も繰り返したらいいのに全部違ったりするんで。レコーディングの時失敗したなって思いますよ(笑)」

 

【3曲目“ZERO”】

西山「アルバム1枚のレコーディングって、どれぐらいかかってるんですか? ちなみにジャズの録りは2日しかかかりません」

「まあ1か月ぐらいですかね。その前に、アレンジを全部固めるのにもっと時間かかるんですけど。なので、実は今作を録音したのは3月入ってからなんです。4月29日発売で3月録音って、めっちゃ遅い。何だかんだこだわって、いっつも締め切りギリギリになっちゃうんですよね。でも納期は絶対守ります(笑)」

西山「レコーディングスタジオを押さえるのもご自分で?」

「ギターとかは最近は離れていても録音できるけど、ドラムだけはスタジオで録らないといけないし。今時、ドラム生音でやってますからね。メタルバンドってどれも同じようなドラムの音で、あれが嫌いなんです。バチっと張り付いていて全部クリアで。〈またこの音か! そんなバカな!〉って。本当のドラムって絶対に強弱がつくし、2バスを踏んだら裏拍のほうがちょっとだけ弱くなるはずだし、なのにあんなしっかり全部聴こえるなんておかしいってことで、我々は生々しくやってます」

西山「じゃあ音作りは、製品としてバッチリ仕上げるという考え方じゃなく、ライブ感がそのままある方が好きなんですか?」

「もちろん多少直したりはしてますけど、やっぱり生の音でちゃんと聴かせられるメンバーだから、ライブ感も残しつつ製品としてもちゃんと聴かせられるものになってるってことですね」

 

【4曲目“キザミ”】

西山「この曲、テンポは速いけど仕掛けが多いですよね。どんどん変わっていくし作り込みが細かいです」

「普通に聴いてる人は流して聴けるけど、1番と2番でAメロのリズム展開は全部違うし、Bメロも変えてるし、でもそういうのは全部サビでパッと開くための緊張感で、サビをわかりやすく聴いてもらうためなんです。こんなポップなシンコペーションなんて、普段あんまり使わないんですけどね」

 

【5曲目“FIRE STARTER”】

西山「この曲もすごくおもしろくて、歌詞も今っぽくて」

「コロナ禍より前に書いた歌詞ですけど、ネット上でデマが流れて、今って何がほんまか分からないじゃないですか。そういう状況を、デマを流す側の立場で歌ってます。何でも社会のせいにして、わざとデマを流して炎上させるろくでもないヤツの様を歌ってます」

西山「本来であれば陰湿なテーマでも、メタルで歌うと本当おもしろくなりますよね。これも1曲のなかでの歌い方の変化が本当に効いていますけど、メタルでこんな歌唱のヴァリエーションあるシンガーって他にも沢山いるんですか? 冠さんが芸風広すぎなのか、こんな人、冠さん以外あまり思いつかない」

「それは昔からいろんな声を出そうと試行錯誤した結果ですね。ただガナるだけも嫌やし、デス声だけ、綺麗に歌うだけっていうのも嫌やし。活動していく中でちょっとずついろんな歌い方を編み出していったんです」


【6曲目“1分で”】

「さっきの“FIRE STARTER”で主人公を炎上させてた奴らもいるわけで、そいつらを叩きのめすために、次はこういうのをポンと用意して。〈かかってこんか~い〉ってやしきたかじん入ってたでしょ(笑)。K-A-Zにこの曲を投げたら2つギターが入ってて、片方はリフ、もう片方はずっとソロやったんですよ。それが来た時は〈おもろ~!〉と思って」

西山「しかも1分でバチっとオチがついて、お見事!」

「余韻まで入れたら1分2秒ぐらいになってしまったんやけど。『あしたのジョー』の力石徹の名言〈1ラウンドじゃねえ、1分だ〉ですよ。だって僕の入場のテーマは“力石徹のテーマ”ですからね(笑)。例えばライブで2、3分余ることがあるんですけど、そういう時にこの曲使えるなと思ってます。グワーっとやって終わる!」

西山「使えるし盛り上がる!」

 

【7曲目“大人の子守唄”】

西山「ライブでこういう曲もやるんですか? 裕次郎気取りというか(笑)絶妙な古さとリアルさがいいですよね」

「スナックの歌なんですよね。カウンターのママとお客さんとの物語。今回はレコーディングが大阪だったんですけど、その時はまだ歌詞が出来てなくて。西成の商店街のスナックに通りかかったらママとおっさんが歌ってるんですよ。その様がなんか良くて、〈こういう光景まだ日本にあるねんな、よしスナックの曲書こう!〉って。そういうところに癒されてる人もいっぱいおるわけで。ま、この歌詞のお客さんは迷惑な人なんですけどね(笑)。帰ろうとしないし、〈ここで眠らせてくれ〉って言って。ママからしたら〈はよ帰ってくれよ〉でしょうけど。そういうのもあって、この曲は特にクセ強めに歌いました」

西山「これ、普通にピアノで伴奏したら場末のスナックにピッタリの曲ですよね。“氷雨”みたいな演歌がメタルになったみたいで」

「ストリングスも入ってますからね。ミラーボールが回ってる感じで」

西山「冠さんのファンの方は、年齢的に〈銀座の恋をハモりましょう〉なんて歌詞わかるんですか? 私の年齢的にも世代ではないですけど、20代の頃に場末のクラブで死ぬほど弾いていて。“ボヘミアン”とか」

「どうだろうな~(笑)。いま〈ボヘミアン〉って言ったら、『ボヘミアン・ラプソディ』のほうやのにね。あのしゃがれた声でスナックからの“ボヘミアン”。この曲は終わり方も“天国への階段”(レッド・ツェッペリン)のようにして。声のかすれ具合とか、絶妙に残る感じとかは、実は何回も録り直していて。いい感じの汚さとか、ざらつきになるように意識しました。そんなところ誰も気付かないでしょうけど」

 

【8曲目“だからどうした”】

「毎回アルバムに何曲か入ってる、熱い感じの歌。年を重ねて、目も悪くなっていって、余計なものを見なくてよくなったとか、年を重ねることも悪くないっていう歌ですね。だからどうしたって言われるかもしれないけど、大人のおじさん、おばさんに響いてくれたらうれしいし、若い人たちにも大人って楽しそうやなって思ってもらえるかなって」

西山「老いの話でも、全然自虐じゃないですもんね」

「そうです。自虐というより大人の応援歌です。これも1番と2番でアレンジが全然違くて」

西山「いやー、これやっぱりバンドの方、ライブで暗譜すること考えたら大変ですよ……」

「冠バンド、実はどのメタルバンドより難しいかもしれない。速さとかじゃなくて、構成とか、間のフレーズとか、細かさとか。コピーしにくいと思います」

西山「メタルって基本同じことを繰り返して、強くしますもんね」

「そういうのは全然やらないですから。メタルファンは繰り返したほうが好きなんかなとか思いながらも、聴いてて1番と2番一緒なのはあんまり好きじゃない。だからアレンジは変化していても、サビのメロディーを変えないことで辻褄合わせていけたらいいかなって」

編集部酒井「メタルって、結構マナーがあるじゃないですか。その一方で、こういう〈老い〉みたいなテーマ的にも、さっきの演歌みたいな曲調的にも、何にでも合う大人の余裕みたいなのもありますよね」

「例えばBABYMETALでも型破りな曲いっぱいありますよ。ミクスチャー・ロックとかインド風とか。いろんなことをメタルでやっていいと思うんですよね。僕の場合は、歌謡曲みたいに好きなものを全部取り入れてメタルに昇華して出したい。いわゆる直球のメタルだけだと、聴いていても僕自身が〈またこの感じ?〉って思っちゃうし」

西山「ジャズもそうなんですけど、型が好きな人もいるし、骨子がしっかりしていたら何やってもいいと思う人もいるんですよね。ファンの中には骨子を見ずに外側だけ見て、〈これはジャズじゃない〉〈これはメタルじゃない〉って言う人も多いと思います。勿論、型も大事です。でもその型を乗りこなせる余裕も格好良い。冠さんの音楽はどれを聴いても骨子の部分でめっちゃメタルに真面目だから、だから皆好きになるんですよ」

「真面目さはありますよ」

西山「だから歌詞でどれだけ遊んでいても、そういう芯の部分はちゃんと聴いてる人には絶対伝わる」

「やっぱ好きですからね。なんやかんや言いながら、メタルの愛が詰まってますから」

西山「そういうところにグッとくるんです!」

 

【9曲目“FALLING DOWN”】

「滑ってますね(笑)」

西山「あ、これ滑ってる上司の歌だ。今回引用がすごく多く感じるんですけど、いつもより多いですか? 歌詞もアレンジもいろんなオマージュが感じられますけど」

「そこまでは意識してないですけど。これは“Sad But True”(メタリカ)とかコーンとかに近いヘビーなテンポです。この曲のエンディングなんて“Sad But True”ですからね」

西山「聴く人が聴けばわかるから楽しいですよね」

「そうですね。最初はバラードみたいな曲だったんですけど、いろんな要素を埋め込んでもっとヘビーな方にしたんです。そしてまさかの〈ぴえん〉で終わるという(笑)」

西山「冠さんのこの声で、ぴえんって(笑)」

 

【10曲目“メタリックロマンス”】

「この曲はもうバンギャたちが涙しますね。メタル女子に聴いて欲しい曲です」

西山「冠さんのファンの方の男女比はどんな感じですか?」

「女性が6割くらいかな、大体半々ぐらいです。前列は、髪留め解いてヘドバンも八の字にしたりぐるぐる回したりする系の人で。この曲でも多分やるでしょうねえ、歌詞もそうですから(笑)」

西山「歌のテクニカルな部分に興味があるんですけど、サビで冠さんが時々混ぜるこういうトーンってどういうところからの引き出しなんですか?」

「この曲は1曲目のパワフルなハイトーンと違い、ちょっと優し目のファルセットで歌ってます。女性の歌なんで、ガツンとやり過ぎず柔らかくしているし、キーもちょうど地声とファルセットの間ぐらいになるようにしてるんです。声の当て方をかえたり声を歪ませたらもっと男っぽくなるんですけど。この曲は弱すぎず強すぎず絶妙なトーンで歌ってます」

西山「ヴォイス・トレーニングはどこかの時点で受けたことはあるんですか?」

「昔ちょっとだけ、素直に声を出すやり方を習いました。初めての舞台の仕事がロングラン公演で、いつもの歌い方じゃ持たないなと思って、長く歌えるやり方を教えてもらいに行きました」

西山「それはスタミナの問題で?」

「んー、スタミナというより歌い方ですね。以前は喉で歌ってた部分があって、すぐ声が枯れてたんです。2~3日連続で歌うともうその週はカスカスみたいな。でも舞台は2~3か月あるのに、これはまずいなって」

西山「それで声が持つようになったんですか? メタルのシンガーって喉潰す人も多いじゃないですか」

「持つようになりましたよ。やっぱりツアーが長かったり体調悪かったりすると、カスカスの時ありますよ。そういう時はなんとかパフォーマンスで誤魔化すしかないですよね」

 

【11曲目“どないやねん”】

「いよいよ終わりの曲です」

西山「この前、雑誌〈ヘドバン〉のクロスレビューでこのアルバムのことを〈人生劇場メタル〉って書いたんですよ。こういう曲があるからそう思うんですよね」

「〈ああしたい、こうしたい、ならば自分の思うようにやればいいんだ〉ってね。散々メタルやっといてこんなんで終わるって、どないやねん!って言われるかもしれないけど、自分の好きなものを集めてメタルにすれば、THE冠になるんやろうと。実はこれもリズムとかの面で難しいことをやってるんですけどね、そんなこと気にせず聴いて欲しいんです。サックス・ソロまであって、遊んでると思っていただければ」

西山「〈カモン! サクソホン〉って言ってサックス来ますからね(笑)」

「〈どないやね~~~ん!〉ですよ」

西山「でも今、皆さん音楽にめっちゃ飢えてるだろうから、こういう中でのリリースってとても嬉しいと思いますよ。全体で特に思い入れのある曲はありますか? 私はやっぱり1曲目(“日本のヘビーメタル”)ですけど」

「やはり1曲目は今回のアルバムを象徴する曲なので、歌詞も音もとにかく熱いです。面白さで行ったら2曲目(“やけに長い夏の日”)かな、ハードロック・ファンが喜ぶような曲で。歌詞の強さとか気持ちの意味でいうと、4曲目の“キザミ”は自分の今の立ち位置を歌っているので思い入れは強いです。1曲目と近いような内容ではあるんですけど、メタルを続ける上での気概が詰まってる曲ですね」

西山「なるほど。あと、やはり歌のことで他にも訊きたいことがあるんですけど、歌い方って年齢によって変化はありました? よくメタルファンの人は、〈声が出なくなった〉とか、〈キーを下げた〉とか、いろんなことを言うじゃないですか(笑)。ジャズだったら、経年変化が良いこととされるんですけど、メタルのリスナーって厳し過ぎるなあと思って」

「キーに厳しいです(笑)! あんなんね、20代で売れた、例えばオジーでも誰でもいいですけどバンドのヴォーカルが、60歳超えて同じ声で歌えるわけがないんですよ。皆さんいつまでも中学高校で聴いたイメージがずっと続いているんでしょうけど、それは難しい。海外アーティストなんて数年に1回しか見られないから分からないんですよ。緩やかな衰えを(笑)。いつもCDで聴いてる20代の声と今現在の60代の声を聴き比べたら、そら違うやろって。僕ももう20代の時の歌い方はできないですし」

西山「やっぱりキーは下がってくるものですか」

「地声の幅は流石に下がってきますが、例えば低音を太く響くように出したりとか、若い頃では出せなかったトーンを出したりとか。そこは20代のSo what?(※95年にデビューした冠の最初のバンド)の頃の高音は出ないかもしれないけど、歌い方を変えれば20代より幅広く歌えますから。昔は高い声こそ格好良いと思っていたけど、今は高い部分と低い部分とメリハリがついた方が格好良いし、どっちも出た方がいいな」

西山「普段はどういう練習をされているんですか? ツアー前の体づくりとか、ツアー中のリハとか」

「ツアー前は練習します。歌いやすい低いキーの曲からやって、超絶シャウトみたいなのはライブの時まで取っておく。全部歌ってると喉が消耗するので。それ以外はサウンドチェック程度ですね」

西山「バンドの皆さんも年齢は近いですか?」

「そうですね。5~6歳の幅はあるんですけど、はたから見たらおっさんしかいない。メタルバンドだと中堅ですかね。昔で言ったら50歳ぐらいのメタルバンドなんて、おじさんすぎておっかねーと思ってたけど、今こんなんですよ。〈ぴえん〉とか言うてますから(笑)」

西山「日本でも年上の方も沢山おられますもんね。冠さんより下の世代はどうですか? メタルメタルって言いまくってる人ってどれぐらいいますか?」

「HER NAME IN BLOODは〈俺たちはメタルだ〉って言うてます。Phantom Excaliverも真面目ふざけでメタルって言ってる。僕の〈戦う魂 貫く心〉(“最後のヘビーメタル”より)っていうフレーズを〈僕らも使っていいですか?〉って言うから、いいよって答えたら、今はまるで自分のように使ってますよ(笑)。でも、まだまだ年下のメタルバンドはそんなにはいないんで、〈我こそは!〉っていう人たちはどんどん出てきてもらいたいですね。楽しくなるでしょうね~」

西山「メタルのシーンは10年ぐらい前から広がってますか?」

「そうですね。90年代っていうのは、ミクスチャー・ロックとかグランジに影響されてメタルが消えてしまった時代だった。メタルがグチャグチャになって、僕はそれぐらいの時にデビューしたので、そこから考えたら今は〈こんな幸せな時代はないな〉と思いますよ。当時はヘビーメタルという言葉を出すのもちょっと……でしたけど、でも、メタルファンはずっと生きてるんですよ。あの時は身を潜めながらメタルファンやってる人もいっぱいいた。昔はメタル好きだったのに、ある時から〈ラウド好き〉って言ってね。そう言っておけばパンクもハードコアもミクスチャーも入ってるからって誤魔化して。逆にメタルメタルって言ってるやつがいなかったから、いい続けたら一人勝ちできるんじゃないかと思って。そういう意味もあって、『傷だらけのヘビーメタル』とか『帰ってきたヘビーメタル』とか『最後のヘビーメタル』とか勝手に言ってるんですけど、そろそろ皆も言ってよって思ってます」

西山「メタルって言葉を言い続けること自体、大事なことなんですね」

「言い続けてたら〈ああメタルの人やな〉〈メタルの変なおじさん〉って徐々に徐々に浸透してきましたよね(笑)。そんなんでいいんです。何年かに1回、聖飢魔IIがブレイクして、SEX MACHINEGUNSがきて、BABYMETALがきて、何年か周期で爆発はするんですよ。その爆発を期待して僕はメタルを守り続ける。常に薪をくべている感じですよ(笑)。そんな僕みたいなやつがいてもええんちゃうかなと思ってます」

 


くべられましたよ、薪を。
私の魂に。
強く!!

薪をくべているのはシーンに対してだけでなく、聴いた一人一人の心にも薪をくべてらっしゃいますからね、確実に。

私は最初に書いたとおり、コロナ禍の仕事キャンセル地獄で参っていたところ、この『日本のヘビーメタル』を聴いて、〈まだ立ち上がれるんだ!〉という気持ちになれました。

聴いて楽しむだけではなく、怒っていい、悲しんでいい、自分のことを哀れんでもいい、そんな豊かな感情を爆音で増幅してくれる。なんというか、愛ですよ、愛。

そして、『日本のヘビーメタル』という大看板は、アルバム1枚聴き終わった時には当然の大看板だと納得できるものだと思います。

これは本当に皆さん聴いて頂きたい。大傑作の人生劇場メタルです!

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

 


LIVE INFORMATION
現在私のライヴは5月半ばまで全てキャンセルしており、この後のスケジュールも情勢を見て判断します。
ライヴはしばらくありませんが、6月10日にソロアルバムが出ます。予約も始まっていますので、こちらぜひチェックして頂けると嬉しいです。

★ライブ情報の詳細はこちら

西山瞳 ヴァイブラント MEANTONE RECORDS(2020)