©Takashi Homma

クラウス・オガーマンのアレンジを探求、伊藤ゴローが新たにオーケストラ編曲にチャレンジ!

 『アモローゾフィア ~アブストラクト・ジョアン~』は、一昨年に死去したジョアン・ジルベルトの『Amoroso(邦題:イマージュの部屋)』(76年)をモチーフとした作品。クラシックの作曲家でもあったクラウス・オガーマンが手掛けた同作のオーケストレーションに焦点を当てつつ、ジョアンを軸にオガーマンとアントニオ・カルロス・ジョビンの三者にオマージュを捧げたアルバムだ。

伊藤ゴロー アンサンブル 『アモローゾフィア ~アブストラクト・ジョアン~』 Verve/ユニバーサル(2021)

 『Amoroso』から取り上げられた曲は、ジョビンの“ウェイヴ”と、60年代初頭にイタリアのブルーノ・マルティーノが歌った“エスターテ”。“ウェイヴ”は、オガーマンが編曲・指揮したジョビンの『Wave』(67年)の表題曲としても有名だが、ここでは『Amoroso』のヴァージョンが参考にされている。また、本作には、ジョビンの“三月の水”も収録されている。これら3曲以外は、伊藤ゴローのオリジナル曲だ。そのうち、〈Amoroso〉をもじった表題曲“アモローゾフィア(Amorozsofia)”は、三部構成の組曲。本作には、30名を超えるオーケストラ版と、室内楽的アンサンブル版の2ヴァージョンが収録されている。

 ジョアンとジョビンは、盟友だった。ジョアンの重要なレパートリーでもあった“三月の水”は、彼の存在を抜きには生まれなかったと言われている、また、オガーマンは、ジョビンの関連作に幾度も関わり、信頼関係を築いた。一方、ジョアンとオガーマンの顔合わせは、『Amoroso』が最初で最後。のちにジョアンは、編曲に対して不満を述べている。

 このように『Amoroso』をめぐる人間関係は複雑だが、もちろん、伊藤ゴローはより複雑な音世界そのものを分析し、独自の解釈に基づく〈引用〉を織り込みつつ、『アモローゾフィア~』として再構築している。これは、音楽の迷宮に時空を超えて足を踏み入れ、その謎を鮮やかに紐解いた一級のミステリーのようなアルバムだ。