タワーレコード新宿店~渋谷店の洋楽ロック/ポップス担当として、長年にわたり数々の企画やバイイングを行ってきた北爪啓之。彼の音楽嗜好は、50’s~90’sあたりまでのロック、ポップス、ソウル、ジャズなどを手広くフォロー。また邦楽もニッチな歌謡曲からシティポップ、オルタナティブ、ときにはアニメソングまで愛好する音楽の猛者である。マスメディアやweb媒体などにも登場し、その深い知識と独自の目線で語られるアイテムの紹介にファンも多い。退社後も実家稼業のかたわら〈音楽〉に接点のある仕事を続け、時折タワーレコードとも関わる真のミュージックラヴァ―でもある。

つねにリスナー視点を大切にした語り口とユーモラスな発想をもっと多くの人に知ってもらいたい、読んでもらいたい! ということで始まったのが、連載〈パノラマ音楽奇談〉です。第4回は西條八十について綴ってもらいました。 *Mikiki編集部

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今回は大正~昭和の詩人・西條八十と音楽

当連載のタイトル〈パノラマ音楽奇談〉は、第1回の締切直前に慌てて決めました。お気づきの方もいるとは思いますが、江戸川乱歩の小説「パノラマ島奇談」から借用しています。僕は音楽を聴くのと同じくらい読書が好きなので、できれば本から引用した連載名にしたいと思って、最初に山田風太郎の小説から取った〈夜よりほかに聴くものはなし〉というタイトルを提案しました。我ながらカッコいいと(パクリのくせに)悦に浸っていたものの、編集部から〈何の連載だかわかりにくい〉という至極当然な却下を受け、せっぱ詰まった挙げ句に思い浮かんだのが乱歩だったという次第です。

そんなこんなで今回は文人と音楽について書いてみようかなと思い、何かネタはないかとネットで調べたところ、7月27日に西條八十(さいじょう・やそ)の「あらしの白ばと」なる小説が復刊されるではないですか。関連書籍などたぶん10年に一度くらしか出ないほど過去の人なので、この機会に取り上げてみるのもいいかもしれません。

西條八十 『あらしの白ばと』 河出書房新社(2023)

西條八十は大正~昭和にかけて活躍した象徴派詩人ですが、その傍ら少女小説(いまでいうラノベ)も多く執筆していました。「あらしの白ばと」は少女冒険活劇モノらしく非常に面白そうな作品です。しかし彼の名は詩人や小説家としてよりも、“東京音頭”や“青い山脈”、“王将”ほか数え切れないほどの歌謡曲を手掛けた作詞家として最も知られているでしょう。ただ、Mikikiで取り上げるにはいささか古すぎる楽曲ばかりなので、ここではもう少し時代を下った音楽について書いてみます。

小唄勝太郎の1933年のシングル“東京音頭”

 

西條八十の詩「帽子」と角川映画「人間の証明」

母さん、僕のあの帽子、どうしたでしょうね?
ええ、夏碓井から霧積へ行くみちで
谿谷(けいこく)へ落とした、あの麦稈帽子ですよ

ある程度以上の年齢の方ならば、松田優作が語るこのナレーションを記憶している方も多いのではないでしょうか。そう、「犬神家の一族」(原作:横溝正史)に続いて1977年に公開された角川映画の第2弾「人間の証明」(原作:森村誠一)の、しつこいほど頻繁に流れていたTVスポットCMで使われていたアレです。郷愁的なのにどこかミステリアスな内容ゆえか、当時幼児だった僕でさえいまだに忘れ難いリリックなのですが、これがじつは西條八十の「帽子」という詩の一節なのです。

佐藤純彌, 松田優作, 岡田茉莉子, ジョージ・ケネディ 『人間の証明』 KADOKAWA(2019)

そして「人間の証明」といえば、映画にも出演しているジョー山中が歌った“人間の証明のテーマ”が欠かせません。全編英語ながらオリコンチャート2位を記録した大ヒット曲ですが、フラワー・トラヴェリン・バンドのボーカリストとしてロック・シーンでは勇名を馳せていたものの、一般的知名度はあまりなかったジョー山中にとっても大出世作となりました。歌詞を手掛けたのも彼自身ですが、それが西條八十の「帽子」を英訳したものだということは意外と知られていないかもしれません。まぁいま思えば〈Mama, Do You Remember~〉って出だしがそのまんまではありますが……。

大野雄二の1977年作『「人間の証明」オリジナル・サウンドトラック』収録曲ジョー山中“人間の証明のテーマ”

大野雄二 『「人間の証明」オリジナル・サウンドトラック』 Atlantic(1977)

作曲・編曲は大野雄二。「人間の証明」と同じ年に彼のライフワークとなるアニメ「ルパン三世」(TV第2シリーズ)がスタートしますが、当連載としては第2回に取り上げた佐井好子の名盤『胎児の夢』(全編曲が大野)もまた1977年のリリースであることを留意しておきたいところ。

なお、80歳記念ライブを収録した最新映像作品「大野雄二ベスト・ヒット・ライブ~ルパン・ミュージックの原点~」(2022年)では、2011年に亡くなったジョー山中に代わり、松崎しげるが堂々たる歌声で“人間の証明のテーマ”を熱唱しています。ちなみに同作の初回限定版に収められた大野雄二ロングインタビューの聞き手は北爪啓之こと僕なので、皆さまよろしくお願いいたします(宣伝)。

大野雄二の2022年作『大野雄二ベスト・ヒット・ライブ~ルパン・ミュージックの原点~』収録 松崎しげる“人間の証明のテーマ”

大野雄二 『大野雄二ベスト・ヒット・ライブ ~ルパンミュージックの原点~』 バップ(2022)