タワーレコード新宿店~渋谷店の洋楽ロック/ポップス担当として、長年にわたり数々の企画やバイイングを行ってきた北爪啓之。彼の音楽嗜好は、50’s~90’sあたりまでのロック、ポップス、ソウル、ジャズなどを手広くフォロー。また邦楽もニッチな歌謡曲からシティポップ、オルタナティブ、ときにはアニメソングまで愛好する音楽の猛者である。マスメディアやweb媒体などにも登場し、その深い知識と独自の目線で語られるアイテムの紹介にファンも多い。退社後も実家稼業のかたわら〈音楽〉に接点のある仕事を続け、時折タワーレコードとも関わる真のミュージックラヴァ―でもある。

つねにリスナー視点を大切にした語り口とユーモラスな発想をもっと多くの人に知ってもらいたい、読んでもらいたい! ということで、北爪啓之が独自の目線で語るジャンルレスな〈音楽〉やどうしても語りたい〈コト〉を紹介していく連載〈パノラマ音楽奇談〉がスタートします。

Mikiki読者の皆さんの興味の幅をさらに豊かにしてくれること請け負い……となることを願いつつ、プロローグとなる第1回は、ご挨拶を兼ねて本人の音楽原点でもあり、今年でリリース50周年を迎えた『アメリカン・グラフィティ』のサントラを自身の体験とともに綴ってもらいました。 *Mikiki編集部

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北爪啓之の音楽的ルーツ『アメリカン・グラフィティ』

はじめまして、北爪啓之です。このたび、なぜか無名の音楽ライターが連載を持つことになりました。でもMikikiとまるで関係がない人間というわけでもありません。というのも僕は数年前までタワーレコードのスタッフとして働いていました。その間にbounce誌やTOWER PLUS+誌ほかタワーレコードの媒体でレビューやコラムを書いており、それがまたMikikiにも掲載されたりしていたわけです。万が一僕を知っているという人がいるならば、どこかで拙文を読んで頂いていたのかもしれません。

ともあれそんなご縁がこの連載に結びついたわけですが、それにしても世間的にはまったくの〈無名人〉をよく抜擢したもんだなあと、Mikiki編集部の無謀なチャレンジ・スピリットには敬服せざるを得ません。ただ、連載が始まってしまった以上は無責任な立場を取るわけにもいかないし、まずはみなさんに僕のことを多少なりとも知って頂くことが先決だと考えました。そこで第1回では自身の音楽のルーツとなったアルバムを紹介します。それは今年2023年に記念すべき公開50周年を迎えた、ジョージ・ルーカス監督の映画『アメリカン・グラフィティ』のサントラ盤です。

VARIOUS ARTISTS 『41 Original Hits From The Soundtrack Of American Graffiti』 MCA(1973)

 

不良の音楽=50’sオールディーズに夢中だった中学時代

僕が洋楽を聴くようになったのは中学二年のころ。たぶん当時はデュラン・デュランとかボン・ジョヴィが流行っていたはずだけど、僕はオンタイムの音楽はまったく知りませんでした。最初にいいなと思ったのはチャック・ベリーの“Johnny B. Goode”やニール・セダカの“Breaking Up Is Hard To Do”といった50年代のロックンロールやティーンポップ。つまり、そのころすでに〈オールディーズ〉と呼ばれていた古い音楽たちでした。なぜ唐突にそんなところから入ったのだと思うでしょうが、それはそれなりに理由がありました。

チャック・ベリーの59年作『Berry Is On Top』収録曲“Johnny B. Goode”

ニール・セダカの63年作『Neil Sedaka Sings His Greatest Hits』収録曲“Breaking Up Is Hard To Do”

いま思えば奇特な気もするけれど、当時わが中学の不良予備軍的な連中のあいだではクリームソーダ~ピンク・ドラゴン系の50’sファッションが流行していました。クリソーやペパーミントの長財布に開襟シャツとラバーソウル。そして彼らが好んで聴いていたのが50’sのオールディーズだったのです。僕もあまり品行の良い生徒ではなかったので不良仲間の家でよく麻雀をしていたのだけど、そのときのBGMがつねにイカしたロックンロールなのだから、それはもう〈好きにならずにいられない〉のでした。

そういえば、友だちが貸してくれた自選のカセットテープも忘れられません。そこにはポール・アンカの“Diana”はじめ有名曲がたくさん収録されていたのだけど、なぜか録音時にレコードの回転数を間違えたらしく全曲やたらテンポが速かったのです。なんか違うな? と思いつつもそれはそれでカッコいいので聴いてましたが、後年、セックス・ピストルズやダムドに接したときも大して衝撃を受けなかったのはあのテープのせいでしょう。

ポール・アンカの1957年作『Paul Anka』収録曲“Diana”