マルグリット・デュラスが、いま、この列島でどれだけの知名度を持っているかはわからない。だが、確実に時間は経ち、ひとりの作家は歴史のなかに位置づけられる。それでいながら、本との出会いはそのときどきでつねに新たなものとして、ある。

 今年、2014年は、このフランスの作家の生誕100年にあたる。フランスではプレイアード版全集4冊も完結し、立教大学では丸一日かけてのシンポジウムもおこなわれた。

 書籍も、この9月から連続して河出書房新社より新刊がつづく。

VARIOUS ARTISTS マルグリット・デュラス 生誕100年 愛と狂気の作家 河出書房新社(2014)

  すでに書店にならんでいるのは『マルグリット・デュラス 生誕100年 愛と狂気の作家』。何人ものエッセイや論考とともに、デュラス自身の対談や未訳の文章を収めたもので、金原ひとみ訳『モデラート・カンタービレ 第七章』や、関口涼子訳『ドーヴィルと死』、小林エリカの絵をともなった絵本の拙訳『あぁ!エルネスト』など内容は多岐にわたる。

 10月と11月、それぞれに翻訳・刊行されるのは『ヒロシマ・モナムール』と『わたしはなぜ書くのか』だ。

 『ヒロシマ・モナムール』は名訳者・工藤庸子による新訳。『二十四時間の情事』なる奇妙な邦題がつけられたため、興行的には失敗してしまったけれども、アラン・レネの監督作品として世界的にも名高い映画のシナリオである。かつて刊行されていた詩人・作家の清岡卓行による 『ヒロシマ、私の恋人』という翻訳もあったものだ。

【参考動画】映画「Hiroshima Mon Amour」トレイラー

 

 『わたしはなぜ書くのか』は北代美和子訳で、レオポルディーナ・パッロッタ・デッラ・トッレによる作家へのインタヴュー。これまでグザヴィエ・ゴーティエ(1974)、ミシェル・ポルト(1976)、それぞれとの対話が単行本になっているが、これは1987-89年という、『愛人ラマン』の成功の後におこなわれたもの。その意味でも貴重だし、読み応えのあるものだろう。イタリアで一度だけ刊行されたものの、以後長らく絶版だった本書。新しく光があたるのもうれしい。 

 この単行本2冊については、ともに、フィクションと対話という違いはあっても声とかかわっていること、また、作家デュラスと同性の翻訳者の手によっていることは特記しておくべきことだろう。

 21世紀になって、これまでとは異なった側面も続々とあらわれてきているデュラス。これらの書籍から、どこか少しでも、あなたに引っ掛かるところがあれば、と、永年の一愛好者としては、おもう。