ライオンへの変身、一週間ファンクに続くスヌープの次の一手は……旧知のファレルといつになくエレガントに合体! ドギーでブギーなハッピー・ソウルで踊ろう!!

 「俺とファレルは深い友情で結ばれているんだ。〈タイミングを見てスタジオに入り、フル・アルバムを作ろうぜ〉ってそんな感じ。純粋に俺たちで大好きなことをやる、それだけだよ。素晴らしい音楽を作って、リスナーが気分良くなってくれるようなね。だからお互いの時間を調整してスケジュールを組んだ後はシンプルだった。ファレルと共に時間を過ごして、俺は何をすべきか的確に指示をもらうというイージーなプロセスだった。素晴らしい経験だったね」。

 問答無用の20年以上を業界の最前線で過ごしてきたスヌープ・ドッグは、ヴェテランというか重鎮、あるいはもはやリヴィング・レジェンドである。だからして、近年の彼が繰り広げる多様な活動の振り幅の広さは、無節操でもひとまずやってみようというフットワークの軽さの結果でもあるだろうし、同時にキャリアを重ねたぶんだけスマートに他人に〈担がれる〉術を習得した結果でもあるのかもしれない。そう考えれば、かつて共にヒットを連発してきた両名の久々のコラボレートも、以前と同じ姿であろうはずがない。ファレル・ウィリアムズがエグゼクティヴ・プロデューサーを務めるスヌープ・ドッグのニュー・アルバム『Bush』は、昨年の“Happy”旋風で位相を変えたファレルの庭にスヌープが足を踏み入れ、そのコーディネートに丸ごと身を委ねたアルバムとなった。

SNOOP DOGG Bush Doggystyle/I Am Other/Columbia/ソニー(2015)

 ファレルの〈i am OTHER〉チームが手掛けたアートワークからしていままでとは違う不思議な洗練を感じさせるが、今回の何よりのポイントはスヌープがラップよりも〈シンギング〉に意識を傾けていることだろう。言うまでもなくスヌープはもともと歌うようなメロディアスなフロウを持ち味としてきた人だし、これまでも歌で押し切る楽曲がなかったわけではないが、今回の取り組みはより自覚的なもののようだ。

 「自分の声が常に正しくあるよう気にかけた。ラッパーとしてだとヴォーカルは完璧じゃなくても良い。しゃがれていたり、ハードだったり、スムースだったり……何でもアリだ。でもシンガーは違う。準備の段階から歌う最中まで、身体のどこから声を出すかなど、細部に渡って考える必要がある。だからすべてにおいて細心の注意を払って、ベストなヴォーカルをめざした」。

 ここしばらく一つのトレンドと見なされることも多いソウル/ディスコ/ファンク系のスタイル援用だが、ファレルの手捌きにはそれらとは異なる独特のエレガンスがある。スヌープが全幅の信頼を置く〈アンクル〉ことチャーリー・ウィルソンも大半の楽曲に説得力を加味し、タイプの異なる3人の声が織り成すハーモニーも、やはりファレルのコーディネートに基づくフォーマルな装いに包まれている。ファレルが「俺の『G I R L』よりも良いアルバムだよ」とコメントしているのも、単なる監督の宣伝文句というばかりではないはずだ。

 スティーヴィー・ワンダーを迎えたオープニングの“California Roll”から10曲、41分のコンパクトなパフォーマンス。ゲストには、スヌープも「西海岸のクイーン」だと評するグウェン・ステファニーT.I.といったファレル寄りの人脈に、いずれも近作にスヌープを呼んでいたケンドリック・ラマーリック・ロスが名を連ねている。マイルドな先行カット“Peaches N Cream”や“So Many Pros”の味わいはチャーリーの存在意義を照らすものだし、グルーヴィーなディスコからハッピーなソウル・ポップまで文句の付けようがない出来映えだろう。あとはあなたがただ楽しむことで、この世界は美しく完成するのだ。