Photo by Otsuka Shinjiro

 

何だかいま、ダンサーやいわゆるクラブ・ミュージックのリスナーではない人たちの間で〈シカゴ・フットワーク〉というキーワードが飛び交っているようです。なぜジューク/フットワークという音楽を知らない層にも話題になっているのか。元を辿れば、EXILEのパフォーマー・USAがシカゴに渡って現地のフットワーク・ダンサーに勝負を挑んだことから始まり、最近ではGENERATIONS from EXILE TRIBE小森隼がシカゴ・フットワークを本格的に採り入れているそうで、そういった影響もあって注目されはじめているようです。僕は音楽を通してこのダンスを知ったので、ダンスを通して音楽を知る人もたくさん増えてほしいなと思います。

そして6月21日(日)には、東京・恵比寿のKATAでシカゴ・フットワークのチャンピオンを決めるトーナメント〈Battle Train Tokyo -footwork battle tournament-〉が開催。このイヴェントはシカゴ・フットワークというダンスにフォーカスしたもので、創設のきっかけは確かシカゴのRP・ブーが来日した際、〈年に1回チャンピオンを決める大会をやろう〉と言ったことが発端だと記憶しています。レギュラーの〈Battle Train Tokyo〉は月イチで行われており、ダンサーとクラバーの交流の場になっているのです。

※〈Battle Train Tokyo -footwork battle tournament-〉の詳細はこちら

【参考動画】2009年の〈Battle Train Tokyo〉での練習風景。
シカゴのトップ・ダンサー、キング・チャールズが訪れて白熱したひとコマ
映像:Tokunaga Kizamu

 

今回のチャンピオン大会は天下一武道会ばりにワクワク感満載です。その要因のひとつは、今年に入って日本のフットワーク・ダンサーの図式が出来上がりつつあること。シカゴ・フットワークは素人目にはすべて同じダンス・スタイルに見えますが、クルーによって活動の仕方が異なり、流派みたいなものが確実にあります。なんと日本の主なダンサーは現地アメリカのクルーに所属していて、しかもそれぞれ違うクルーに入っているのです。

 

TAKUYA & プリンス・ジェイロン (ハヴォック)

 

日本人で初めてシカゴのクルーに入ったのは〈Battle Train Tokyo〉で2連覇を果たしているTAKUYAで、ハヴォック(HaVoC)というクルーの一員です。ここのリーダーであるプリンス・ジェイロンマドンナのバック・ダンサーを筆頭に数々の実績がありながら、いまもストリートに足を運び、現地シカゴでもリスペクトを得ている凄い人。動きがしなやかでキレがある、個人的には一番好きなダンサーです。

 

Jaron Boydさん(@princejron)が投稿した動画 -

【参考動画】プリンス・ジェイロンのパフォーマンス映像

 

 

WEEZY&ライト・バルブ(ジ・エラ)

 

また、シカゴのサウス・サイドに出向き、現地のダンサーと交流を深めてクルーに入ったのは、日本のジューク黎明期からフロアを盛り上げてきたWEEZY。彼はジ・エラ(THE王RA)に所属しています。ここは一言で言えば音楽現場主義。テックライフから派生したダンス・チームで、リーダーのライト・バルブは昨年行われたハイパーダブの日本ツアーにも帯同しており、そのダンスのスピードに圧巻された人も多いのでは。彼らはこれまでになかったスタイルを作ろうとしているクルーです。

【参考動画】ライト・バルブとジ・エラのクルーによるパフォーマンス映像

 

 

YAMATO&キング・チャールズ(クリエイション)

 

最後に、シカゴを離れて現在はロサンゼルスに拠点を置く、クリエイションというクルーに所属するYAMATO。このクルーはジ・エラとは対照的にダンス・シーンを活動の主としていて、シカゴ・フットワークのワークショップやショウケースを積極的に行う集団です。このクルーのリーダーは日本でも名を馳せるキング・チャールズ。この人はハヴォックのジェイロンと共に、メジャー・シーンにシカゴ・フットワークを知らしめた功労者です。さらに、ここにはもうひとり日本人のクルーが――それが前述したGENERATIONS の小森隼です。

【参考動画】キング・チャールズのパフォーマンス映像

 

TAKUYA、WEEZY、YAMATOの3人はそれぞれのクルーを背負っており(プレッシャーをかけるわけではないですが……)、彼らの師匠同士もそれぞれのシーンを背負うライバル的存在というわけです。おもしろいでしょ!

〈Battle Train Tokyo -footwork battle tournament-〉ではこの3人のみならず、独学で学ぶ強者ももちろんエントリーするはずなので、誰が優勝するのか非常に楽しみです。

【参考動画】〈Battle Train Tokyo -footwork battle tournament-〉のトレイラー映像

 

でも、勝敗を決めることも楽しみのひとつだけど、僕が思うシカゴ・フットワークの魅力というのはやはり、ジュークという音楽とセットで楽しめるところだと思うんです。ヒップホップ創世記のブレイクダンスのシーンを見てるみたいだって言われることも実際にあります。

これは僕が初めて見たシカゴ・フットワークの動画です。

〈シカゴではジューク・トラックに合わせて足をハタハタ動かすのが流行ってるらしいよ〉――当時よく一緒に活動していたDJ FAMILYがそう言ってこの動画を見せてくれたのは2006年頃の話。Threepee BoysDONSTAさんも自身のブログでこのダンスを紹介していたので目にする機会はあったのですが、音楽にしか興味がなかった僕はあまりピンときていませんでした。でも、みんながよく知ってるダンス・バトルの動画が頻繁にアップされ始めた頃からそのおもしろさにハマり、いつかこんなことが日本で起こったらおもしろいだろうなあと、ぼんやり思っていたのです。

2012年5月に行われた〈Outlook Festival Japan Launch Party〉の際に出演オファーがあり、自分のDJをたくさんの人にアピールできるチャンスをいただいたのですが、ふとひらめいてBooty Tuneメンバーでひとつの作戦(というかある種のテロ行為)を目論みました。それは、お客さんが集まったフロアの真ん中にもしサークルができたら、みんな飛び込んでフットワークを踊る。そしたらシカゴのダンス・バトルさながらの雰囲気を作れるんじゃないかということです。

しかし、Booty Tuneはメガネ率高めの運動音痴集団。友達で唯一ダンスができるのはWEEZYただ1人でした。でも、踊れなくてもいいから飛び込んで踊ろう!とみんな覚悟を決め、各地のメンバーが東京に集結。レーベルTシャツも作ってスタートに備えます。僕がDJするのはエントランスを入ってすぐのサブ・フロア的な場所。DJがスタートし、D.J.Aprilがマイクで〈はいどうもー〉と言うと、何が始まるのかとお客さんが続々と集まってきました。そしてWEEZYがフロアの真ん中で人々を掻き分けるようにぐるっと一周すると、直径3メートルほどのサークルが出来る。そこへ一人づつ飛び入り、見よう見まねのフットワークを披露するとお客さんからはワーッと歓声が上がる。すると全然知らない人たちまでもがそこに飛び込んできてダンスを始めるというハプニングが! なかにはヒールを履いた女性やブレイクダンサーまで。その頃にはフロアはパンパン状態で、僕はDJに必死でしたが、DJブースにメガネが飛んできたことは記憶しています。

この様子を動画にアップするとたくさんのリアクションがあり、日本のジューク/フットワーク・シーンには音楽だけじゃなくダンス・シーンも存在すると海外のメディアに取り上げられました――ただ、実は踊れる人は1人だけだったという。

【参考動画】〈Outolook Festival 2012 Japan Launch Party〉の模様

 

その後このスタイルが東京で定着し、v.o.c(Vibes Only Crew)という踊れないけど踊って楽しむ専門のクルーまで登場。そこにTAKUYAやYAMATOのようなガチのダンサーが飛び込み、ダンサーと素人が一緒になって盛り上がるスタイルが定着しています。

しかし、その一連の盛り上がりはまだ東京だけでしかなく、僕の住んでいる大阪やその他の地域では僕らのような踊れない奴らがワチャワチャやってるだけに留まっています。いわば、ヒーロー不在。地方のジューク・パーティーはショッカーに好き勝手されてる状態です。このままでいいんでしょうか。僕はショッカー役に徹しながら密かに仮面ライダーの登場を心待ちにしているのです。

 

PROFILE:D.J.Fulltono


 

 

関西を拠点に活動するDJ/トラックメイカー。ジューク/フットワークを軸に ゲットー・テックエレクトロシカゴ・ハウスなどをスピンする一方、自身のレーベル=Booty Tuneを運営。パーティー〈SOMETHINN〉も主催する。また、プラネット・ミューやハイパーダブでリリースされたジューク・関連作品の日本盤特典ミックスCDを手掛けるほか、国内外の音楽メディアへジューク関連記事を多数執筆。2014年に5作目のEP『My Mind Beats Vol.01』をリリースしている。6月21日には大阪・CIRCUSにて主催パーティー〈SOMETHINN vol.11〉を開催。また6月24日にリリースされるDALLJUB STEP CLUBのニュー・アルバム『We Love You』にてリミックス参加している。