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~互いのバンドのミュージック・ビデオを鑑賞しながらトーク・セッション~

クラムボン “yet”

松下「家で観たんですけど、間奏のところ(2分53秒頃から)の拍子が全然取れなくて。ちょっと変拍子が入ってますよね?」

伊藤「あれね、間違わないようにドラムのフレーズだけで憶えてるんだけど(笑)、基本4/4(拍子)で進行していると。4/4のなかで、決めが入っている状態。この曲に限らず〈あの曲のあそこは何拍子だ〉ってよく訊かれる(笑)」

松下「だんだん拍が減っていってるように聴こえるんですよ。ここの譜割りがわからない」

伊藤「かたまりで考えちゃってるところがあるからね。それに加えてストリングスのアレンジがさらに複雑に絡んでくる」

松下「クラッシュ(・シンバル)の位置とストリングスの決めは同じところに入ってるのに、カウンターで入ってくるベース・ラインがちょっと違ったりするじゃないですか」

伊藤「そこを深く考えすぎるとね……(苦笑)」

松下「このクラッシュが僕を惑わせるんですよ(笑)」

伊藤「ドラム的に考えるとわからなくなるかもね」

松下「そうですよね……分析します。伊藤さんのこのハイハットはいい音してますね」

伊藤「でも最近(ハットを)磨くかどうか悩んでるんだよね」

松下「あんまり磨かないほうがいいんじゃないですか?」

伊藤「ライド(・シンバル)のほうを磨いちゃったからバランスが悪くなっちゃって」

松下「スティーヴ・ガッドも絶対磨かなかったですからね」

伊藤「あと、ああいうタムの連打を10インチとフロア・タムでやるのは本当はおかしいのかもしれないんだけど……」

松下「でもサウンドしてますよね。ところで、僕らが録音しているオールアート・スタジオはちょうどこのドラム・ブースくらいの広さで、そこにヤセイのメンバー全員入ってせーので録るんですよ(笑)」

伊藤「それはいいね~」

松下「これMV撮るの大変だわ。決めがいっぱいある」

伊藤「ちゃんと楽器にマイクを立てたりしてますけど、実は全部〈演奏シーン〉のための演出です。エンジニアさんまで映ってるのに(笑)」 

 

Yasei Collective “radiotooth”

松下「ライヴで初めて演奏するにあたって久々にリハでやってみたら誰一人としてできなくて(笑)。10回くらい通しました(笑)」

伊藤「難しいもんね(笑)。この曲にはシンプルで太い線が一本通ってるけど、そのなかに細かいアイデアがいっぱい入ってる。イヤホンでゆっくり聴いても楽しいし、スピーカーで聴いても曲の主張がはっきりしてる」

松下「わー、嬉しい」

伊藤「シンプルなのに贅沢な感じもするよ」

松下「マジっすか。いや~、さっきのクラムボンのMVでの(原田)郁子さんは可愛かったなと……拓郎(ヴォーカルも担当する)を見て……横顔の差が(苦笑)。今回のMVは演奏シーンしか入れなかったんですよ」

伊藤「それはなにか意図があったの?」

松下「移籍して初のシングルなんで、特に演奏に焦点を当てたものにしようと」

伊藤「そりゃみんな(演奏しているところを)観たいもん」

松下「ドラムに関しては僕が作ったパターンじゃなくて、ギターの拓郎が組んできたフレーズなんです。僕の好きなドラマーをあいつも好きで、そのドラマーのやりそうなフレーズや彼が好きな打ち込み主導でやってる音楽、例えばスクエアプッシャーエイフェックス・ツイン、最近だとデイデラスあたりの曲からニュアンスを借りて打ち込んでくるんですよ。それを〈マーちゃんドラムで……〉って持ってこられて、〈できるかボケッ!〉って感じなんですけど(笑)、それをAメロのほぼ全部のパーツを揃えて譜面に書いて、そうしたら1拍5とか7とかで割って、そこを1個抜いたり、キックをちょっとずらしたり、スネアを速めたり、それをキーボードがループしてるなかで、僕だけ淡々と違うところに決めが入ったものをやる。さらにそれをよく聴くと足のパーツだけベースとユニゾンになるんですよ。だから僕がドラム・パートをコピーするということは、ベースの中西も同じことをやらなくちゃいけなくて。もうね、デモを聴かせたいくらい(笑)。一方でBメロは難解すぎて叩けなくて、ここは僕なりにヘンなことをやって何とか辻褄を合わせたんですけど」

スクエアプッシャーの2015年作『Damogen Furies』収録曲“Stor Eiglass”

 

伊藤「わからない、難しすぎて(笑)。でも、メンバーが本気で練習しなきゃライヴでやれないっていうのを聞いてすごく嬉しい。ただでさえすごい人なのに、そんな人が自分の限界に挑んでるから感動するのね、と。専門学校の学生やレッスンの生徒にいつも〈はい、がんばります、って言ったな、ならそんなもんじゃないぞ、もっとがんばれ、もっともっとがんばれ〉とか言いたくなっちゃう自分が無責任な奴に感じることがあるんですけど(笑)、そういうことって言葉で発表するものでもなくて、本人が努力や苦労と思わずにやるから素晴らしいのかもしれない。だから、まさにそれを実践している人と……会うのが怖いなと思っていたのかもしれない……」

松下「いやいやいやいや」

伊藤「そうやって、人の苦労も知らないで勝手に想像し合うのもおもしろいのかも(笑)。マサナオくんとは最近友達になったけど、そんな気がしないというか」

松下「僕もそうです」

伊藤「マサナオくんのことを〈すごく怖いドラマーがいる!〉と思っていたけど、それを、せっかく同じ土俵にいる人なんだから会ってみたい、という気になれたのはマサナオくんも僕を気にしてくれていたからだろうと思いたい。尊敬する同業者の刺激になり得る演奏をしていきたいなと思いますね」

松下「でも実際“radiotooth”はいまだにちゃんとできている感じがしないので、ライヴでやっていくうちに涼しい顔して余裕でできるようになるまでにはまだかかると思うんです。これまではライヴで曲を完璧にやれるようになってから録音して、アルバムにするという形を取っていたんですが、“radiotooth”はライヴでやっていないから、録音まではすごく大変で。このタイミングでACIDMANの事務所に所属したということで、いろんな人の意見を聞く時かなと思って今回は初めて外部の意見を採り入れたんです。制作の段階で大木(伸夫、ACIDMAN)さんの見るヤセイ観みたいなところから来る意見をもらって、4~5回キャッチボールしました。これまでだったらメンバー以外に音楽的な指摘を受けても〈なんでそんなこと聞かなきゃいけないんだ〉という感じでしたけど、大木さんはめちゃめちゃ尊敬しているミュージシャンというだけでなく、やっている音楽も作り方も違うというところがすんなり意見を聞き入れられた理由ではないかなと……。ヴォーカリストで、3ピースのロック・バンドをずっとやってきている人の意見は全然違いました。俺たちがこれまで言われてきたような〈もっとなんかこうしろよ〉というただただ抽象的なものとは違っていたし、細かい音楽的なことは言わないんです、逆に。〈もっとこういうふうにさ……〉って具体的に言われたことはあえて言いませんが、いつも良い感じに言ってきてくれて、それがとてもやる気に繋がって楽しかったですね」

ACIDMANのニュー・アルバム『Second line & Acoustic collection II』収録曲“リピート(Second line)”

 

――ACIDMANはクラムボンとはまた違う形でずっと続けてきたバンドですからね。

松下「大木さんは見てるところが全然違うんですよね。何歩も先を行っているというか、僕らが〈最近調子良くなってきて、こういう人にも聴いてもらえて……〉みたいにちょい自慢げに話すと、〈え? で? 全然まだまだだから〉っていう。それが全然嫌味じゃないんです、〈ですよね〉と思っちゃう。そんなところで足踏みしてちゃだめだ、ということを気持ちの良い形でいつも伝えてくれて。それは(浦山)一悟さんもサトマ(佐藤雅俊)さん(いずれもACIDMAN)もそうで。〈でも大丈夫だから〉って最後に必ず言ってくれる。こういう尊敬する先輩ミュージシャンと同じ事務所に所属できて、次のステージをめざす準備段階を共に過ごせるのはとてもありがたいことです」

――今回のシングルの後はアルバムの予定も?

松下「はい。今度のアルバムはほとんどがライヴでやらずにレコーディングするという、これまでにないプロセスで作っています。あと、音を絶対に被せないというのをルールにして、ヴォコーダー以外は一発録りできる素材しか使わないようにしています。すごくシビアな条件なんですけど楽しくはありますね。それにしてもクラムボンのこのMVカッコイイな……僕らもストリングス入れたい……(笑)」

――ハハハ(笑)。クラムボンの武道館公演ではミトさんが“バタフライ”(最新作『trilogy』収録曲)を〈一番難しい曲〉と紹介していましたが、実際に演奏は難しいですか?

伊藤「いやそんな……難しいですよ(笑)」

松下「こっち(“yet”)のほうが難しくないですか?」

伊藤「どれも大変なんで(笑)」

松下「違う大変さですよね。でも僕は逆に“はなれ ばなれ”のような〈ザ・クラムボン〉という感じの曲のほうが料理しにくいですよ。“yet”のMVもやっぱり自分だったらどう叩くかを考えながら観てましたが、これはある程度想像がつくんです。でもクラムボンらしい曲のほうが〈どうしよう……他の人に頼もう……〉ってなっちゃう(笑)。つまりクラムボンの3人じゃなきゃいけない曲になっているということで、それが理想ですよね。よく僕のパートを〈替わりに入るなんて無理っすよ〉みたいに言われたりするのは技術的なことを言っているだけであって、完コピするだけだったらいずれできると思うんです。そうじゃなくて、真の意味で〈やっぱりヤセイはマサナオじゃなきゃダメだよ〉となるまではまだ全然浸透していない。石若駿なんて〈ヤセイ、俺にやらせてくださいよ!〉とか普通に言いますからね。あいつだったら余裕でやると思うし」

伊藤「僕は、僕の替わりはいくらでもいるというつもりでやってきてますね。自分にしかできないことがある、とは考えない性分なんです。積み上げてきたものには自信があるんですけどね。卑屈な気分ではなく、替わりはいるのかもしれないからこそ、〈自分ならどうするか〉をとことん追求していきたいという意味合いで」

松下「でも確実に、他の人にはできないですよ」

伊藤「うん、やっぱりそうなんだけど、〈僕のやってることは替えが利かないので〉とは自分からは言わない」

――それは周りの人が判断することだと。

伊藤「うん。僕が出すことの良し悪しを判断するのは僕じゃない。〈自分がやりたいこと〉と〈作品の完成度〉は別問題だな、と」

松下「聴くのは他人ですもんね。〈このテイク超良く録れたんだよなー〉って思っても、絶対選ばれないですもん、僕なんて」

伊藤「僕も1回もないよ。これまでレコーディングしたものほぼ全部ね。でもそれは悪いことじゃないと思っていて。特に〈ドラム的〉〈ドラマー的〉なこだわりは全体の完成度と関係ないことのほうが多い気がする。だから僕は〈自分らしく〉とか〈ドラマー的には〉といったことにこだわりすぎないようにしているうちに、素直に(他人の言ってくれることを)聞けるようになってきた。〈いまのテイク、OK〉って言ってもらえたら〈チームに貢献できたんだ〉と、〈あなたの替わりはいない〉って言ってもらえたら〈そう思ってくれる人がいるのね〉とありがたく受け止めるようになった。〈自分らしい演奏〉だったか、〈自分らしいやり方〉だったか、とかそういうことはその後考える」

松下「スタンスとして、この曲は自分にしかできないという気持ちを持ってもいいと思うんですけど、それが驕りになってしまってはダメだと思うんですよね。真面目な顔してそういうことを言ってる奴はだいたい大したことないですから(笑)」

伊藤「そういう人がいるのかー」

松下「ドラムで武装できないからそうやって言葉で武装して、それが表現の一部だと思ってるんですよね。それで実際に演奏を見たら〈え?〉ってなるのがよくあるパターンで。僕もそれに近いことを言ったりするので、それを動画やライヴで観られて、大したことないじゃんと言われるのが嫌だから練習してきたというのも正直ある」

――ある意味、言葉で自分を追い込むことでみずからを高めるというか。

松下「それがいつかブランディングに繋がるんじゃないかと信じていた時もあって。いまは全然そういう感じはないんですけど。前は音楽をいつ辞めてもいいと考えていたので、その時に思ったことを全部言っていたんですが、僕が参加したとある対談記事をきっかけにウェブ上で叩かれたことがあって、それを読んだ僕の(ドラム・レッスンの)生徒、僕より年上の方なんですが、その人に〈この言い方を変えただけで伝わり方が違っただろうし、言ってる内容は僕だから理解できるけど、この(叩いている)人はそれが理解できないから反発しているのであって。言い方が悪いことが理由で勘違いされて叩かれる。これは無駄な反発でしょ?〉と言われたんです。その(発言をした)時は、そういうことを言って反発されてもしそれが理由でドラムを辞めなくちゃいけなくなっても別にいいと思っていたんです。でもこの一件があって、同じ頃にいろいろな出来事が重なって起きたことで、バンドを続けたい、ドラムをずっと続けたいという気持ちがすごく強くなった。あのアドヴァイスは物凄く勉強になりましたね。僕の言い方ひとつで言いたいことが伝わらずに敵になるのは不本意なので、ちゃんと言い方も勉強しなくちゃいけないなと思いますし、これまでそういう発言力は僕にはないと思っていたら、狭いドラムの社会ではいつの間にかそういう発言がちゃんと受け止められてしまう立場に置かれているので、〈ダメだこれ、居酒屋じゃねーんだ〉と(笑)、慎重に発言しないとなと思うようになりました」

伊藤「まあでもマサナオくんはさ、高い技術を持っていつつ、時には歯に衣着せない物言いもする〈言うだけのことはやる男〉という意味で有名になってるんだから」

松下「ハハハハハハ(笑)」

――無視できない存在という。

伊藤「そうそう。マサナオくんのことが好きな人はもちろん、思うところがある人でも、避けて通れない気分にさせられる人だと思う。それは、言うだけのことをやってるから」

松下「すげープレッシャーだし、ハードル上がりますね(笑)」

伊藤「自分からも進んでハードルを上げてるでしょう。だからカッコイイんだよね」

松下「伊藤さんには何も隠せない(笑)」

伊藤「ハハハハ(笑)。僕は言いたいことのすべてを言いきれる勇気はないし、〈ドラムで語る〉なんてほど技術も人生経験もない。自分でも思うけど、不器用を絵に描いたような人間なので。だからマサナオくんには憧れちゃう」

松下「いやいやいや」

伊藤「真似したくても絶対できないけど(笑)」

――でもこのタイプの違う2人がドラマーとしてリスペクトし合っているという関係性はすごくいいですよね。ドラマー界隈の縦横の繋がりを見せていくことで、ドラマーという存在を広く伝えていくのも大事だと思うので。

伊藤「意外に孤独なんですよ、ドラマーって。だから意味があってもなくても寄り集まっちゃうというのはあるかもしれない」

松下「〈ギター呑み会〉〈ベース呑み会〉ってあんまり聞かないでしょ? でも〈ドラム呑み会〉はありますからね。僕もオフの時とか、ちょっと誰かと話したいなーと思って電話するのはドラマーですから(笑)。そういう楽器なんでしょう」

伊藤「一人じゃ何もできないからね……」

松下「〈叩き語りツアー〉とかできないですからね(笑)」

一同「ハハハハハ(笑)」

伊藤「ドラマーは自分と向き合わないといけない時間が比較的多いから、そうやって同業者と集まることでバランスを取るというか。〈この気持ちわかってほしいな〉と思うとついついドラマーに電話しちゃう、みたいな。僕もそうですね」

松下「あとみんな楽器が好きなんですよ。僕ら、この後一緒に楽器屋へ行こうって話してて」

伊藤「モノに執着する感じも楽しいんだよね、ドラマーは」

松下「結局のところ、機材にはこだわらなきゃいけないんですよ(笑)」

 

Yasei Collectiveニュー・シングル“radiotooth” リリース・パーティー

日程:2016年1月30日(土)
会場:東京・代官山UNIT
開場/開演:16:30/17:00
チケット:前売3,000円/当日4,000円
ライヴ:Yasei Collective/FULLAROMOR
DJ:社長SOIL & "PIMP" SESSIONS)、仰木亮彦在日ファンク
オープニング・アクト:沖メイZa FeeDo
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