(C)Dario Acosta

 

11年ぶりに日本でリサイタル! ~アンナ賛江!

 アンナ・ネトレプコは間違いなく目下、世界の頂点に立つオペラのスーパースター、ディーヴァ(歌の女神)である。今年で10年目を迎えた米ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場のライブビューイングでも、出演回数最多の歌手として紹介された。それにもかかわらず、私たち日本の音楽関係者やファンは「ネトコ」の愛称で、最大の親しみをこめて呼び続ける。マリア・カラスビルギット・ニルソンら往年のプリマドンナたちが少なくともオフィシャルの場面で貫いた、みだりに人を寄せ付けない威厳はみじんもない代わり、つねにチャーミングな雰囲気で人の輪の中心にいる。

 初めて日本に現れたのは1996年。ヴァレリー・ゲルギエフ率いるサンクトペテルブルク・マリインスキー歌劇場の日本公演で「カルメン」(ビゼー)のミカエラを歌った。25歳だった。その際のレセプションで紹介された時の印象は清楚ながら、目力の強さに、後のブレイクを予感させた。2002年にドイツ・グラモフォン(DG)と契約、すこぶる意欲的なプロモーション・ビデオを携えて2004年に来日し、インタヴューで「あなたの声の質はR・シュトラウスに向いている」と指摘したら「私もそう思う。でもドイツ語が下手くそだから、まだダメなのよ」と、大笑いで自身の欠点を暴露した。その後、ドイツ語を公用語とするオーストリアの国籍を取得。10年後の2014年8月、ベルリンのフィルハーモニー・ザール(ホール)でダニエル・バレンボイム指揮ベルリン・シュターツカペレとライヴ録音したR・シュトラウス《4つの最後の歌》(DG)を聴くと、華やか極まりなく見えるネトレプコが実は、並々ならない努力の人であるとわかる。

 今シーズンの「METライブビューイング」第1作はヴェルディの『イル・トロヴァトーレ』(デイヴィッド・マクヴィガー演出、マルコ・アルミリアート指揮)だった。2015年夏に脳腫瘍との闘病を公表し、久々にステージ復帰がかなったルーナ伯爵役のバリトン、ディミトリ・ホヴロストフスキーに賞賛が集まった公演ではあるが、歌と演技の安定度において、レオノーラ役のネトレプコの存在は傑出していた。デビュー当時に比べれば容姿、声ともヴォリュームを増したのは当然として、何よりイタリア語の発音に情感がこもり、ドラマティックな迫力を失わないままアジリタ(装飾音型)を歌いこなす技巧の冴えに圧倒された。

 この素晴らしいディーヴァが2016年3月、英ロイヤルオペラの『マノン』(マスネ)以来6年ぶりに日本を訪れる。リサイタルは何と、11年ぶりというから聴き逃せない!

 


LIVE INFORMATION
アンナ・ネトレプコ スペシャル・コンサート in JAPAN 2016

○2016年3月15日(火)18:45開演
会場:愛知県芸術劇場コンサートホール

○2016年3月18日 (金) 19:00開演
○2016年3月21日 (月・祝) 18:00開演
会場:サントリーホール

出演:アンナ・ネトレプコ(S) ユーシフ・エイヴァゾフ(T) ヤデル・ビニャミーニ(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団
http://www.kajimotomusic.com/netrebko2016