バンダ・マグタ。一番右が小川、一番左はNY在住のヴィブラフォン奏者・三村未佳

 

バンダ・マグダからマリア・シュナイダーまで、数々の共演歴

――スナーキーはどれだけ精力的なんだって感じですけど、小川さんもいろいろ活動されてますよね。まずはバンダ・マグダ。

「バンダ・マグダはスナーキーと正反対ですね。ヴィジョンがしっかりしていて、アレンジもカッチリしてます。サウンドに凄くこだわっているので、最近はめちゃくちゃ忙しいからリハする時間もないですけど、基本的には(リハを)やりますね」

――メンバーはどういう感じで集まったんですか?

「最初のコア・メンバーはバークリー時代から一緒だったので、もう10年近い付き合いなんですよ。スナーキーの奴らはノース・テキサス大学の出身で、バンダ・マグダはバークリー出身。どちらもファミリー・バンドみたいな感じなんです。バークリーの頃からの仲間がみんなNYに引っ越して、ローカルで演奏しているうちにバンドとして活動するようになったのがバンダ・マグダですね。メンバーそれぞれがいろんな国の音楽の影響を受けてるので、それがバンドのサウンドに繋がっています」

――曲作りのプロセスは?

「まずはヴォーカル/アコーディオンのマグダ・ヤニクゥが、新しい曲のメロディーとハーモニーと雰囲気をピアノで弾いて、それを聴いたメンバーがアイデアを出し合って、最終的に曲が出来上がっていく感じです。それでリハを重ねて。いまでも新しい曲が出来たら結構入念にリハをするほうですね」

――『Yerakina』はどんなコンセプトで作られたアルバムなんですか?

「いろんな国の音楽を、バンダ・マグダのアレンジで仕上げたアルバムですね。実は、このアルバムからスナーキーのメンバーも一緒に録音するようになったんですよ。だから最近、スナーキーとバンダ・マグダは兄弟バンドみたいな感じで、一緒にツアーも回っているんです」

バンダ・マグダの2014年作『Yerakina』収録曲“Sabia”

 

――『Yerakina』ではマイケル・リーグが共同プロデュースを務めていて、ビル・ローレンスなどスナーキーのメンバーも参加していますが、そういう事情があったんですね。

「いやー、もうファミリーみたいな。親友の塊みたいな感じですね、本当に」

――他には、オースティン・ペラルタも過去に参加していたゴー・オーガニック・オーケストラとも接点があったみたいですね。

「あれは、アダム・ルドルフというパーカッショニストのおっちゃんがメインでやってるプロジェクトで、メンバーは40人くらい。毎年ひと月だけレジデンシーがあって、毎週月曜日とかにブルックリンのルーレットというギャラリーみたいなスペースでライヴしていますね。3、4年前に〈慶太、ちょっと叩きに来ない?〉と誘われて、そこから一時期、毎週参加してました。俺は『Can You Imagine The Sound Of Dream』と『Sonic Mandara』という2枚のアルバムに参加してます」

小川が参加した、ゴー・オーガニック・オーケストラのパフォーマンス映像

 

――あとは話の最初に出てきた、ジェシ・フィッシャーやスライ・フィフス・アヴェニューとも共演していますよね。スライ・フィフス~のアルバム『Akuma』にも参加していたり。

「あのアルバムに参加したときは、スライもプリンスのバンドなどでちょっと忙しくなっていた時期ですね。最近また自分のプロジェクトをやり始めたっぽいんですけど」

――彼はこの前、クアンティックのサポートで日本にも来ていましたよ。インディペンデントな活動をしていますよね。

「自分のプロジェクトをやりつつも、経済的に大きい仕事が入ればそっちに行ってお金を稼いで、また時間ができたら自分の活動をやって、みたいな人は多いですからね」

小川が参加した、ジェシ・フィッシャー&スライ・フィフス・アヴェニューのライヴ映像。スライ~はプリンスのツアーやクアンティックの2015年作『A New Constellation』にも参加したサックス奏者、シルヴェスター・オニェジアーカによるプロジェクト

 

スライ・フィフス・アヴェニューの2015年作『Akuma』

 

――スライとは、どんな感じで知り合ったんですか?

「彼もスナーキーと同じノース・テキサス大学の出身なんですよ。俺がスライと知り合ったのは、NYで活動しているギターの吉田はじめのグループがきっかけでした。はじめちゃんもノース・テキサス出身で、彼のグループでやりはじめたときにサックスがスライで。そこでレコーディングしたときは、彼と俺にスライと、あともうひとり但野友香というベーシストがいて、彼女もノース・テキサスの出身ですね。その縁がきっかけで、スライが自分のレコーディングにも呼んでくれたんです」

――ノース・テキサスの出身ミュージシャンは多いんですね。

「NYにたくさんいますよ。ジャンルにも拠るんですけど、コンテンポラリーで、ちょっとファンキーなことをやっているミュージシャンにはノース・テキサス出身が多いです。学校のカラーがありますね」

――へー、おもしろいですね。

「ニュースクールもまた全然違うし、バークリーだって違う。ジュリアードはもっと全然トラディショナルだし、という感じですかね。俺の場合はNYに移ったときに、スナーキーなどノース・テキサスの連中と仲良くなったから、周りはノース・テキサス出身のミュージシャンが多かったです」

――どんな感じで知り合うんですか?

「まずは仕事で一緒になって、そこから繋がっていくパターンがほとんどです。だからこそ横の繋がりは大きいですよ。マイクと知り合ってからスナーキーの連中と繋がって、スナーキーからまた別のノース・テキサスの連中と広がって、みたいな感じですかね」

――最近は他に、どういったお仕事をされました?

「日本での仕事が多くて、伊藤ゴローさんに呼んでもらって原田知世さんのライヴに出演させてもらったり。今年はバンダ・マグダやスナーキー・パピーともっとやりたいですね」

※伊藤ゴローがプロデュースした、原田知世の2015年作『恋愛小説』のレコーディングとツアー・ファイナル公演(2015年9月27日)に小川もドラムスで参加した

――高橋幸宏さんも『恋愛小説』での小川さんのプレイを絶賛していたそうじゃないですか。そういえば最近アップされていた、ペトロス・クランパニスとの共演動画も観ましたよ。ギラッド・ヘクセルマンシャイ・マエストロも参加していて、ヤバイですね(笑)。 

「それは昨年12月の頭にやったライヴです。ペトロスの次のアルバム(『Chroma』)のティーザーで、いい作品になると思いますよ」

――マリア・シュナイダーとも一緒にやってましたよね。

「マリアは1回だけ、一昨年12月のブルーノート公演ですね。たまたま2日間だけ原田知世さんのレコーディングで日本に来る機会があったんです。そのときにマリアがパーカッショニストを探していて、それを聞いた中村恭士くんが〈慶太が日本にいるらしいよ〉ってクラレンス・ペンマリア・シュナイダー・オーケストラのドラマー)に教えて、クラレンスが俺をマリアに紹介して、マリアから連絡が来て……という流れですね。成田に着いた日にそのまますぐブルーノート東京へ行って、セットアップだけして、リハをする時間はないから曲だけ先に送ってもらって、それを聴いて演奏の準備をしました」

――すげー! マリア・シュナイダーの曲って超難しそうじゃないですか。

「ブラジル音楽っぽい曲(“Lembranca”)があって、その1曲だけパーカッション・フィーチャーでやってほしかったらしくて。1曲といってもちょっと長めなんですけど、それを(小川が参加できた)2日間だけ演奏したみたいですね」

――音だけ聴いて、そのまま演奏するケースも多いんですね。

「最初からできたわけでもないんですけど、やってたらできるようになったんですよ」

――経験の蓄積で、ということですよね。

「そうですね。俺は上手いごまかし方をしてるんです(笑)。でも、周りに恵まれているなと思いますね。凄いミュージシャンと演奏できる機会があって、同世代に大先輩、レジェンドとも一緒に演奏する機会があって。そんな現場で学んだというか、一緒に音を出しながらいろんなことを学べるから、そのなかで経験したことが全部活かされているんですよ。だから、パッと行ってすぐ演奏できるのかな」

――そういえばロバート・グラスパーも、『Black Radio』は全部一発録りで、重ねたり編集したりはしていないと強調していました。

「NYのミュージシャンはみんな速いですからね。レコーディングもだいたいワンテイクでOK。セーヴ(保険)で2テイク目って感じ。多くて3テイクで、4にはもういかない」

――それだけでスタジオ・レコーディングの完成形を作れるということですもんね。

「そうですね。だからスナーキーのアルバムだって、アイデアというかコンセプトとしては一発で録るじゃないですか。エディットもオーヴァーダブも全然してないので。あれだけ人数がいても、一発であのクォリティーが出せるから凄いですよね」

スナーキー・パピーの2014年作『We Like It Here』収録曲“Lingus”。2010年作『Tell Your Friends』以降のアルバム(コラボ作除く)ではライヴ・レコーディングを採用し、CD+DVDの2枚組仕様でリリースされている

 

――そのレヴェルのミュージシャンと一緒にやっていくのは、大変じゃないですか?

「いやー、楽しいですよ。そういう連中と一緒にやってると、音を出していても凄く気持ち良いし、自分もパワーアップしたみたいな感覚になるんですよ。〈あれ、俺のサウンド、グッドじゃん?〉みたいな。周りがサウンドグッドだから、何をしてもサウンドグッドになるんじゃね?みたいな(笑)」

――そのサウンドにも、いろんなものが混ざってるじゃないですか。

「NYだといろんな音楽が身近で聴けるし、ミュージシャンが持っている音楽のレパートリー自体が多いんですよ。デフォルトの数が半端ない。そういうミュージシャンと一緒にやると、さらにレパートリーが交換できるし、常にそういったことができる環境があるので、やっぱりNYはいいですね」

――スナーキーやバンダ・マグナもそうですけど、いろんな要素が入っていて、さらに新しい感じのする音楽が最近はどんどん出てきていますよね。NYに限らずアメリカ全体で。

「そうですね、みんな近いところで友達がおもしろいことをしていたら影響を受けるので。そういう意味で、みんなが一緒に新しいものを作っている感じはありますね。同世代のNYにいるミュージシャンはそんな感じで、いま凄くおもしろい気がします」

 


 

バンダ・マグダ
日時/会場:1月18日(月)~20日(水) 東京・丸の内コットンクラブ
・1stショウ 開場17:00/開演18:30
・2ndショウ 開場20:00/開演21:00
料金:自由席/6,000円
※指定席の料金など公演詳細はこちらを参照