昨年3月結成のガールズ・ロック・バンド、CASPAがファースト・ミニ・アルバム『さよなら世界』でついにデビュー。同作は、HAWAIIAN6安野勇太がサウンド・プロデュースのみならず、全曲の作詞・作曲も手掛けたという話題の一枚だ。HAWAIIAN6を思わせるロック・ナンバーはもちろん、モータウン・ビートがハジけるポップ・ロック・ナンバーの“みえない”、エモーショナルかつヘヴィーなバラードの“静寂と光”など、多彩な全7曲を収録。シンプルに思えて実は変化に富んだアレンジは安野らしいものながら、全力でそれらの曲にぶつかっていった平均年齢22歳の4人組の姿を、飾らずに、メンバー全員で重ねるハーモニーと共に捉えたところが一番の聴きどころだ。メンバーも〈全力の演奏と歌が詰まっている〉と胸を張る。

目標は日本武道館公演。『さよなら世界』のリリース後はライヴの機会も増えていきそうだ。今回は、大きな一歩を踏み出したCASPAの4人に、結成の経緯や安野とバンドが一丸となって取り組んだアルバムのレコーディングなどについて訊いた。

CASPA さよなら世界 TOWER RECORDS(2016)

 

――結成からまだ1年経っていないそうですね? 大阪の音楽専門学校に通っていたリーダーのAikaさんが後輩のMiyuさんを誘ったことがそもそもの始まりだったと。

Aika(ドラムス)「ずっとガールズ・バンドをやりたいと思っていたんです。それで、学校のイヴェントでMiyuが歌っているところを見て〈この子のヴォーカル、いいな〉と思って声をかけたんです」

Miyu(ヴォーカル)「私はそれまでバンドを組んだことがなかったんですけど、声をかけられた時、何か新しい一歩になるかもしれないとピーンと来るものがあって、一緒にやりたいと思いました」

――〈ガールズ・バンド〉にこだわりがあったんですか?

Aika「ずっと憧れていました。ガールズ・バンドって、可愛い面やカッコイイ面など、いろいろな魅力を出せると思うんです」

――そしてTokoさんを誘ったと?

Aika「Tokoは同じ学校の東京校に通っていたんです。だから彼女がステージに立っているところも観ていたので、左利きのベーシストって珍しいし、カッコイイですよね」

Toko(ベース)「学校のイヴェントで共演したこともあったんですよ。その時、私はバック・バンドでベースを弾いていたんですけど、Aikaはヴォーカルで。ライヴが終わったあとに話をしたら、〈今日はヴォーカルだったけど本業はドラムなんです〉と言っていたんです。その後、〈東京に行くから一緒にバンドをやりませんか〉と誘ってくれて、歌えるドラマーって武器だなとその時に思いました。全員がコーラスのできるバンドをやりたいと思っていたので」

Natsumi(ギター)「私はもともと3人とは違う音楽の専門学校に通っていて、そこの先生からガールズ・バンドがギターを探しているみたいだと聞いたんです。それでスタジオに行ってみたら、お互いに……」

Toko「〈あ、知ってる〉って(笑)」

Natsumi「話したことはなかったけど、顔は知っていたので親近感が湧いて」

Toko「4人揃ってからは切磋琢磨というか、みんなで本当にたくさん練習したと思います」

Natsumi「それぐらい刺激し合えるメンバーが揃ったというのは大きかったです」

――じゃあ最初からバンドの雰囲気は良かったわけですね?

Natsumi「AikaとMiyuは先輩後輩だしね」

Toko「私だけちょっと歳が離れているんですけど(笑)、いい子たちだなって思いました」

Miyu「Tokoはお母さんみたいな存在なんです(笑)」

Toko「お母さん(笑)? 中学時代、こんな後輩たちがいたら可愛がっていたと思います。そう思えるぐらい素直で、真面目で。やっぱり年上だから多少経験があるので、〈ここはこうしたほうがいいんじゃない?〉ってアドバイスすると〈わかった、そうしてみるよ〉とすごく素直に聞いてくれる。そこがホント、いい子たちだなと。いつもああだこうだ言っていますけど、この場を借りて、それは言っておきたいです(笑)」

Aika「ありがとう(笑)」

Miyu「いいメンバーに出会えました(笑)」

――じゃあ、リズム隊の2人は精神面でもバンドを支えているわけですね?

Aika「え、そうなの?(笑)」

Toko「そうだよ。CASPAはコーラスがとても重要なんですけど、Aikaは歌えるということもあって、ドラムを叩きながら〈ピッチ悪いよ〉みたいな。聖徳太子かよって(笑)。もうすごいんですよ」

Aika「いやいやいや(笑)。でもバンドをやるためにみんな集まってくれたということが中心にあるので、揉めることもないよね」

Toko「みんな自分にはないものを持っている者同士だから尊敬し合っている。それが大きいかもしれないです」

――ところで、4人揃った時にどんなサウンドをめざしたんですか?

Aika「ざっくり〈ロック〉ということしか最初はなかったんですけど、〈○○が好きなんだよね〉みたいに好きなアーティストの話をするなかで、HAWAIIAN6さんの名前が出て、全員好きだということがわかったら夢のような話が訪れたんです。もう考えられないよね?」

HAWAIIAN6の2014年作『Where The Light Remains』収録曲“Forever Young”

 

Natsumi「意味がわからなかった(笑)」

Aika「私たちのマネージャーが安野さんとお友達だったんです。安野さんにプロデュースをしてもらえることになった時は、うちらも(安野を)リスペクトしていたので、ぜひ!って」

Natsumi「ステージ上の憧れの人がそこにいる、ということが信じられなくて、始めは安野さんの前でギターを弾くのが正直嫌だなと思いました」

Toko「リハーサルを観にきてくださるんですけど、いまだに緊張しますね。やたらに間違えちゃう(笑)」

――最初に〈こういう曲を作ってください〉みたいな話はしたんですか?

Aika「いえ、そこはもう安野さんにお任せして。私たちは安野さんが作ってくださった曲、歌詞を理解したうえで、いかに演奏するかということに集中しました」

Natsumi「自分たちもロックをやりたいというのがあったので、そこは最初から合致していたのかな。話し合わなくても、っていうのはありましたね」

Toko「とんでもなく難しい曲が来るんだろうなとは思いましたけど(笑)」

Aika「ギターのNatsumiは特に思っていたんじゃないかな」

Natsumi「自分が作ったり弾いたりしていたものとは全然違ったので……コードの弾き方から違うというか。押さえ方も〈こっちのほうがやりやすいよ〉、みたいなところから始まったので、それまで弾いていたものとはガラッと変わりましたね」

Toko「マンツーマンで指導してもらえたんですからね。ファンとしては羨ましかったですよ。〈何ですかそれ? 特典なんですか?〉って(笑)」

Natsumi「やっぱり最初は忠実にコピーしたいと思ったので、全部安野さんに訊いて、ここはこう、ここはこうって細かく指導していただいて、そのうえで自分がどう弾くかを考えました」

Toko「iPhoneで安野さんがギターを弾く手元の動画を録ってたもんね」

――安野さんが作った曲を最初に聴いた時はどんなことを感じましたか?

Miyu「私は安野さんの想いを私なりの表現でたくさんの人に伝えていきたいと思いました」

Toko「私は、HAWAIIAN6とは違うものなんだけど、安野さんが作る曲だとわかるところが感じられて、〈え、これをやれちゃうんだ! 光栄です〉と(笑)」

Aika「ドラムは、これを叩けたらカッコイイだろうなというフレーズが多くて、さて、それをどうやろうというところからのスタートでした。ツイン・ペダルもほとんど使ったことがなかったので、それも含めてレコーディング前は猛練習しました」

Toko「私もずっと指弾きだったんですけど、安野さんから〈ピックのほうがいいんじゃない?〉って言われて、そこから教えてもらいながら必死に練習しました。リハーサルにも立ち会っていただいたんですよ」

Natsumi「安野さんに来ていただくと、やっぱりバンドとして一気に固まるんです。だから心強かったですね」

――どんな方なんですか?

Aika「とても気さくで」

Toko「レコーディングの時に私たちが緊張していると、〈さて問題です〉っていきなりクイズを出してきて(笑)」

Miyu「一瞬びっくりするんですけど、そこで気持ちが和むんですよ」

Natsumi「一流のムードメイカーです。すごい真面目な方だっていうことが垣間見えるんですけど、そこをあえて出さないようにしているところもあって。私たちのことを緊張させないように気を遣ってくださっているんだなと思いました」

Aika「安野さんやみんなのおかげでレコーディングは良い雰囲気でやらせてもらいました。ドラムって最初に録るので緊張していたんですけど、レコーディング前に一度レコーディング・ブースで安野さんにギターを弾いていただいて、合わせてもらったんですよ。Tokoにはベースを弾いてもらって。それで緊張が和らぎました」

Toko「逆に緊張したけどね、私は(笑)」

Aika「身が引き締まる部分もありつつ、笑いながら、なんて幸せなことをしているんだろうとその時は思いました」

Toko「メンバーが体調不良でリハーサルに来られない時は、代わりにそのパートをやっていただいたんですよ。一番おもしろかったのはドラムでした(笑)。安野さんはドラムを叩けないんですけど叩いてくれたんです(笑)。〈これはね、俺に惑わされちゃいけない練習だからね。クリックに合わせる練習だからね〉って言いながら。あれはとてもおもしろかったです。ヴォーカルもやってくださって。原曲のキーで歌ってくれたんですよ(笑)」

Miyu「すごく高いのに」

Toko「〈この音、出るかも〉って言いながら(笑)」

Natsumi「〈俺からしても新しい発見だ〉って」

Miyu「聴いてみたかった!」

――そんなふうに作られた『さよなら世界』は蒼さ、拙さも含め、いまのCASPAがストレートに感じられるところにとても好感が持てる作品になりましたね。

Aika「私たちのいまが100%出てる作品にしたかったんですよ。全力のプレイ、歌が詰まっていると思います」

――それはすごく伝わってきました。

Toko「安野さんのディレクションもそうだったんですよ。そこを見極めて、テイクを選んでくださっていたと思います」

――それぞれに気に入っている曲は?

Miyu「“Beautiful Dreamer”ですね。初めてもらった時から私の心境と同じだ、って共感できたんです。1番の歌詞ではまだ手探りだった気持ちが、2番では決意や覚悟に変わる。そんなふうに前向きに展開する歌詞を読んで私も励まされたので、もらった時から特別なものになりました」

Aika「私は“魔法使いみんな”です。この曲は場面場面で変わって、最後までどうなっていくんだろう、と。落ちるところもあれば、みんなでキメるところもあるし、16分で刻んでいるかと思えば、3連符で刻んだり。いろいろな展開があって、ドラム的には一番好きな曲です。この曲はキメているなかでドラムがどれだけ動いているか、手数を入れているか、フィルにもすごくこだわりました。安野さんのデモ音源にはなかったんですけど、レコーディング当日に安野さんに提案して、〈それいいじゃん、入れて〉って言ってもらえた思い出深い曲ですね」

Toko「私も“魔法使いみんな”です。この曲は物語になっていて、聴き終わったあとに映画を1本観終わったかのように感動しちゃうんです。ベース・ラインも一番気持ち良く弾けました。アウトロもイントロも、HAWAIIAN6さんっぽいなっていう感じがあるんです。これを聴いてもらえれば、HAWAIIAN6さんのファンにもきっと喜んでもらえるんじゃないかと思います」

――Natsumiさんは?

Natsumi「“静寂と光”です。単純に曲調が好きというのもあるんですけど、客観的に聴いて、これをガールズ・バンドがやっていたらカッコイイと思って」

Toko「確かに」

Natsumi「ギターは同じようなコードを弾いていてもパートごとに弾き方が違うんですよ。そういった意味で聴きどころが多い。ギタリストとして、すごく好きな曲ですね」

――さっきおっしゃったように、コーラス・ワークも聴きどころですね? こんなにハーモニーを重ねているロック・バンドはそんなにいないんじゃないでしょうか。

Toko「しかも全員が歌っているし」

Miyu「私以外のメンバーがメイン・ヴォーカルになる部分もある。そこも売りの一つです」

Aika「全員女性なので、女性だから出せるキーでハモれたり、主旋律に変わったりできるのがガールズ・バンドの特徴……」

Toko「特権だね」

Aika「そっか、特権か(笑)」

――レコーディングした曲をライヴで演奏することで、曲の感じ方も変わってきたんじゃないですか?

Aika「自分たちが気付かなかった部分に気付けました。“歌をうたえば”という曲は、楽器隊は難しいことをしているしテンポも速いんですけど、ライヴで演奏してみたらキャッチーに感じられた声もあったんですよ。メロディーが覚えやすいとか、一緒に歌えるという魅力はライヴでやったからこそわかったところですね」

Miyu「ライヴでは気持ちを伝えることを大切にしているので、レコーディングの時とは歌い方も変えているんです。そういった気持ちを前面に押し出して歌って、反響をもらえると、伝えることの大切さや気持ちの伝え方が改めてわかってきますね」

――『さよなら世界』の曲は、これからもライヴを通してまだまだ変わっていきそうですね。大勢の人に、という大前提はあると思うんですけど、今作はどんな人に聴いてもらいたいですか?

Aika「私はずっとガールズ・バンドに憧れていたので、同世代の女の子たちが聴いて、カッコイイ、真似したいと思ってもらえたら嬉しいです」

Toko「プラス、バンド好きの男性にも聴いてほしいです(笑)。偏見かもしれないけど、バンドを聴き込んでいる男性は、あまりガールズ・バンドを聴いていないと思うんですよ。でも、『さよなら世界』を聴いて、女の子でもカッコイイことをやっているんだって、そういう男性のリスナーにも思ってほしい」

Miyu「私は上の世代の人にも聴いてもらって、青春時代を思い出してほしいという気持ちもあります(笑)」

Natsumi「私は、この世代と言うよりは、小さな一歩を踏み出せない人に聴いてほしい。私自身バンドを始めたきっかけが、悩みがあった時に音楽が背中を押してくれたことだったんですよ。今回の作品もそうやって背中を押してあげられるアルバムになっていると思うので、そういう人たちに聴いていただきたいですね」

――自分たちのスタイルを変えるところから作りはじめたこのアルバムを完成させたことで、新たな引き出しが増えたと思うんですけど、こんなこともできるんじゃないか、こんなこともしてみたいという可能性を感じたのではないでしょうか?

Aika「いろいろな弾き方、歌い方を自分たちらしいやり方で試しながらやっていけたら、どんどん発展していけるバンドになれると思います」

Natsumi「今後は自分たちの曲もやっていきたいんですけど、安野さんの癖も全部取り込みながら自分たちのスタイルにしていきたいです。そこに可能性を感じました。たぶん自分たちだけでやっていたら、こんなことには気付かなかっただろうなって、勉強になることが多かったので、それを踏まえたうえで活動していきたいですね」

――最後に、2016年はどんな1年にしたいですか?

Aika「とりあえずCASPAを知っていただきたいです。ジェットコースターのようなスピード感で、自分たちの目標に向かって駆け抜けられるような活動をしていきたいと思います」

Toko「勢いを止めないようにね」

 


 

~CASPAからのお知らせ~

『さよなら世界』収録曲がダブル・タイアップ決定!

フジテレビ制作ドラマ「グッドモーニング・コール」主題歌
http://www.goodmorning-call.com/

NHK-FM「ミュージックライン」 2、3月度エンディングテーマ
http://www4.nhk.or.jp/ml/

ライヴ情報

〈ミニライブ&サイン会〉

日時/会場:3月28日(月) 19:00 タワーレコード渋谷店 1F イヴェントスペース

詳細はこちら