INTERVIEW

波多野裕文(People In The Box)×yuichi NAGAO、ゴーゴー・ペンギンと現代ジャズ巡るディープな音楽談義

波多野裕文(People In The Box)×yuichi NAGAO、ゴーゴー・ペンギンと現代ジャズ巡るディープな音楽談義

UKはマンチェスター出身の新世代ピアノ・トリオ、ゴーゴー・ペンギンブルー・ノート移籍第1弾アルバム『Man Made Object』がリリースされて約2か月。クラブ・ミュージックや現代音楽の影響に基づく彼らの演奏は、ロバート・グラスパーを筆頭とする〈ブラック・ミュージック再解釈〉の動きとは一線を画しており、ジャズの新たな可能性を切り拓くアクトとして日を追うごとに注目を集めている。

Mikikiでは、彼らの歩みを紹介したイントロダクション&ライヴ・レポート記事に続いて、People In The Box(以下ピープル)の波多野裕文と、ビートメイカーのyuichi NAGAOを迎えた対談記事を企画。邦楽ロック・シーンを代表するピープルは、3ピースという編成や、変則的かつ難解な曲構成などにゴーゴー・ペンギンとの共通項も窺えるほか、フロントマンの波多野は自身のTwitter上などで、以前から現代ジャズへの興味を公言していた。片やyuichi NAGAO は、日本のエレクトロニカ・シーンを牽引するPROGRESSIVE FOrMから昨年9月に『Phantasmagoria』でアルバム・デビューを果たした(レヴューはこちら)新進気鋭のビートメイカーで、大学時代には菊地成孔に音楽理論を師事していたという経歴の持ち主だ。聞き手には〈Jazz The New Chapter〉シリーズの監修を務めるジャズ評論家の柳樂光隆氏を迎えて、ジャズ×ロック×ビート・ミュージックの3方向からゴーゴー・ペンギンと『Man Made Object』の革新性に迫った。

音楽家がクロスオーヴァーを志すのであれば、その動きを伝える記事でもジャンルを越境していくべきだろう。そのようなアイデアから企画されたこの対談は、4月2日(土)、3日(日)にブルーノート東京で開催されるゴーゴー・ペンギンの来日公演を前に、時に音楽理論も駆使しながら徹底解剖を試みつつ、〈この時代に音楽を作る理由〉にまで言及するという、非常にディープな内容となった。

★ゴーゴー・ペンギンの新作解説&NYライヴ・レポート記事はこちら
★公演詳細はこちら  

GOGO PENGUIN Man Made Object Blue Note/ユニバーサル(2016)

 

ゴーゴー・ペンギン台頭の背景
ジャズの最前線とUKのクロスオーヴァー

――波多野さんは現代ジャズだと、どのあたりに興味があるんですか?

波多野「最近のジャズはビートへの意識の持ち方がおもしろいなと思っていて。最初はヴィジェイ・アイアーの“Human Nature”を聴いてびっくりしたんですよ。なんの変哲もない3連のバックビートのようで、よくよく聴けば3拍目だけが3連符の中のひとつ分だけ長いんです。そういう手法を頭の中に思い浮かべることは論理的には可能だろうけど、そういったアイデアをサラッと演奏として実現させて、しかもそのビート上で各々の演奏が自由自在にフロウしているということに感銘を受けました。数学的ではあるけれど、聴いていてそういう感じがしないというか、あざとさを感じさせないのが驚異的ですよね」

ヴィジェイ・アイヤー・トリオの2012年作『Accelerando』収録曲、マイケル・ジャクソンのカヴァー“Human Nature”

 

――それ以外では?

波多野コリン・ヴァロンもガチでヤバイですね。ビートというか、音の長さに対する集中力がすごい。時間を支配してやろうという気合いを感じさせるし、演奏家としての甘えを感じさせない。どこからどこまでがインプロヴィゼーションなのかわからないけど、ギリギリのところでジャズであることを保っているというか」

――よくわかります(笑)。

波多野「電子音はまったく入ってないけど、オウテカみたいな音楽もガンガン聴いてきているのがわかるんですよね。パーカッションの〈トトン、トトン〉って響きが列車の走る音のように聴こえたりとか、そういうことをリスナーに感じさせる想像力の余地を残している。でも特別な楽器は使ってないだろうし、オーヴァーダブもしていないですよね。だから、『Le Vent』には本当に感動しました」

コリン・ヴァロン・トリオの2014年作『Le Vent』収録曲“Juuichi”(アルバム・レヴューはこちら

 

――長尾さんはいかがでしょう?

yuichi NAGAO(以下:長尾)グラスパー周辺はもちろんですけど、UKではLVのようなダブステップをやってた人もジャズに接近しているんですよね。日本だとトラックメイカーとジャズ・ミュージシャンは文化的な距離が若干ある気がするんですけど、そこがナチュラルに混ざっている。その折衷具合が最近は気になってます」

――LVが昨年リリースしたアルバム『Ancient Mechanisms』にはティグラン・ハマシアンが参加しているんですよね。あのコラボはジャイルズ・ピーターソンが間に入ったそうですけど。

長尾「LVの作品の延長線上としても聴けるし、ジャズ・ピアノを求めても楽しめる。そういうクロスオーヴァーの伝統がやっぱりUKにはあるんですかね」

ティグラン・ハマシアンをフィーチャーした、LVの2015年作『Ancient Mechanisms』収録曲“
Ruiselede”

 

――確かに、音楽の土壌がアメリカとは違いますよね。

長尾「ゴーゴー・ペンギンもそうですよね。リズムの訛り方を取っても、ヒップホップ的なもたり、J・ディラ的によれたビートというよりは、もっとコンポーズされた作為を感じたので、アメリカとUKの文脈を対比させて聴くのもおもしろそうだと思いました」

――ゴーゴー・ペンギンのキャラクターはUKそのものって感じがしますね。アメリカからは絶対出てこないバンドというか。

長尾「同じUKを拠点にしているバンドなら、例えばフロネシス(Phronesis)のほうがソロや変拍子といったジャズ的な旨味があるんですけど、ゴーゴー・ペンギンは折衷感があって、そこが単純に聴きやすい」

『Man Made Object』収録曲“Weird Cat”のライヴ映像

 

フロネシスの2016年作『Parallax』収録曲“Stillness”

 

 

ジャズメンだけどジャズらしくない、
現代的なサウンド・デザイン

波多野「ゴーゴー・ペンギンはコードが全然黒くないですよね。ブルース感もゼロだし」

長尾「そうなんです。新作に関してはミックスも特徴的で、ドラムの音が普通のジャズに比べてデカイ。UKの新しいジャズを家でいろいろ聴き比べているときに、ゴーゴー・ペンギンの新譜をかけたら、キックの音が意外に大きくて苦情が来ました(笑)。だから、音像的な意味でもエレクトロニック・ミュージックの延長みたいな感覚でスムースに聴けたんですけど、一方でリズムのアプローチにはジャズメンらしさもすごく感じましたね」

――というのは?

長尾「例えば『Fanfares』(2012年のファースト・アルバム)の1曲目(“Seven Sons Of Bjorn”)のような5連符系のリフなんかは、ダンス・ミュージックのトラックメイカーはあまり使わないんじゃないでしょうか。特にクラブ・ミュージックでDJが繋ぐのが前提となるような楽曲の場合、ビート自体はスクエアなものが比較的多いと思うんですよね。そうしたなかで、こういう訛ったビート感覚が、アドリブではなくてリフのなかにがっちりコンポーズされて入り込んでいるのは、ジャズの人らしい仕事だと思います」

『Fanfares』収録曲“Seven Sons Of Bjorn”のライヴ映像

 

波多野「僕は正直、前作(2014年のセカンド・アルバム『V2.0』)まではあまり良い印象を抱いてなかったんですよね。どちらかというと、ジャズというよりは、ポピュラー・ミュージック寄りのインストものみたいに感じられて」

――今回のアルバムはどうでした?

波多野「基本的な部分は変わってないんだけど、(前作と比べて)何かが決定的に違いますよね。まずは単純に、ジャズかどうか云々を抜きにして、とにかくサウンドが気持ち良かった。あとは本人たちの(制作に対する)意識がだいぶ変わった気がしますね。こういう精神論のような話をするのはすごく恥ずかしいですけど、なんか本気出してきたなって(笑)。そういうのは音にすごく表れるんですよ。単純にプロダクションのチームが変わったのかも知れないけど」

――以前からエンジニアとプロデュースを務めているジョー・ライザーブレンダン・ウィリアムズの2人はそのままで、マスタリングが今回はマンディ・パーネルビョークマシュー・ハーバートなど)に代わったんですよね。

波多野「なるほど。作曲と音像は、プロセスとしては分かれているんだけど、実はすごく密接なんですよ。〈この音をなぜここに配置するのか〉というのはソングライティングの領域とも地続きなんです。この新作では、そういう最終的なアウトプットにまで意識が働いていますよね。ピアノもそうだし、ドラムの音像も前作とはまるで違うじゃないですか」

長尾「ちゃんとフォーカスが定まってますよね」

波多野「そう。先ほどキックの話をされてましたけど、そういう狙いがここにきて定まってきたというか、ハイハットとかもすごく機能的に配置されている」

――過去のアルバムでは、エレクトロニック・ミュージックを意識しているわりに音圧が細かったりしたんですけど、『Man Made Object』ではそういう難点が一気に解消されているんですよね。

長尾「曲によっては、ウッド・ベースの音だけやたらと強調してみたり」

波多野「アタックのところをガッツリ上げたりしてますもんね。エンジニアとも疎通が取れているんだろうな」

長尾「出音やサウンド・デザインもパフォーマンスの一部というか」

波多野「これまでの作品は〈ジャズがロックに憧れている感じ〉というか、ハウスを意識した音作りにも中途半端なところが少し残っていたけど、今回のアルバムは音の配置に聴き手を踊らせるための強い意志を感じますね」

長尾「改めて聴き返してみると、最初のアルバムではドラムの叩き方もまだ普通のジャズっぽいんですよ。『V2.0』でいろんな要素が折衷しはじめて、今回で一気に定まった感じがします」

――ドラムの変化は一目瞭然ですよね。『V2.0』では人力ドラムンベースみたいな演奏も披露していて。

長尾「あのアルバムに収録されている“Garden Dog Barbecue”をAbleton Liveに突っ込んでみて気付いたんですけど、普通のドラムンベースやダブステップの場合、ハーフステップの関係ということで、単純に1:2の関係でBPMが変わるじゃないですか。BPM90なら180に、ということで、倍になっただけで実質同じテンポですよね。それが、この曲は(再生開始から40秒過ぎ~で)3:4で速くなるんですよ。BPM90なら120になる関係性です。こういうポリリズム的なアプローチで人力ドラムンベースをやっているのはジャズの人ならではという感じで、とても興味深かったです」

『V2.0』収録曲“Garden Dog Barbecue”のライヴ映像

 

※yuichi NAGAOより補足

ドラムンベースやダブステップなどのダンス・ミュージックにおいては、キックを半分しか打たないことで、テンポ感を半分にして聴かせる(BPM180なら半分のBPM90でもノレる)というアプローチが通常行われる。“Garden Dog Barbecue”では、こうした1:2のハーフステップの関係でのテンポ・チェンジではなく、3:4の関係性でBPMが変化するのが特徴で、3:4のポリリズムの関係性に基づいたテンポチェンジなので、オリジナルのBPMとの整合性が高い。後者の例として、“Lucy feat. Smany (yuichi NAGAO Remix ver 2.0)”においても、再生開始から2:46~付近の4つ打ちパートから同様の方法論にて、BPM95から126.6に変化している。

 

People In The Boxならどうする?
ユニークに働くトリオ編成の〈制限〉

――曲作りではLogicやAbleton Liveのようなシーケンス・ソフトで打ち込んで作ったデモを、あとから生演奏に置き換えているみたいですね。

波多野「そのデモを聴いてみたいですよね(笑)」

――トラックメイカーの立場では、こういうプログラミングを交えた作曲術はどんなふうに映っていますか?

長尾「さっき話したような5連で訛っていたりとか、そういうアイデアは単純におもしろいですよね。譜面に書く代わりにDAWに打ち込む、というのはDTMから音楽制作に入った人間にはある意味自然な感覚なんだけど、そこにジャズやクラシック上がりならではのアプローチが入り込んでいるので、作り手としてとても勉強になります。しかも最終的にはそれらを生演奏で完全再現する、というのもおもしろい」

波多野「でも、そういう手順をわざわざ踏む理由がわからないんですよね。ジャズ・ミュージシャンならすぐに再現できるだろうから、手癖を排除するために、まっさらの形で一度立ち上げておくのが彼らにとって重要であるということなんでしょうけど」

――他のインタヴューで読んだんですけど、波多野さんはデモを作らないんですよね。

波多野「というより、作れないんですよ。打ち込みが全然できなくて。頭の中で鳴っている音を演奏に落とし込むという作業を、僕らはトリオでやっているので、それを限界として設定していないと取り留めがなくなってくるんですよね。もしソフトを立ち上げてしまったら、いくらでも音や演奏を重ねていくことができる。そうなると、自分たちで再現する段階で物足りなく感じてしまうんです」

――だから、スタジオで曲作りしているんですよね。

波多野「それは僕の怠惰もあって、最初に細かく作り込んでしまうと、それを再現することに苦心しなくちゃいけなくなってくる。その行為がクリエイティヴかというと案外そうじゃなくて、むしろ鍛錬になってしまう。それで何か新しいアイデアにブレーキがかかるのは嫌なんですよね。だから音を重ねる作業、オーヴァーダブは案外簡単だし、いくらでも思い付く。むしろ難しいのは、想像力が膨らむのを抑えて、絞ること」

――抑えることで濃縮させていくと。

波多野「そうそう。コリン・ヴァロンも、頭の中にいろんな音が浮かんでいるはずなんですよ。それがあるからこそ、ああいうストイックな音楽を作れるんだろうなと」

――People In The Boxでは、ライヴとレコーディングは別物として捉えてます?

波多野「そうですね。録音物ではかなりオーヴァーダブもしているし、そもそもウワモノが歌とギターだけなので、ライヴでは違うものを弾かないと成立しなくなっちゃうんですよ。でも、僕らは自分たちで曲の根幹を把握しているので、一番大事なところを押さえて演奏できるから、音源と見劣りしないパフォーマンスができていると思います。あとはトリオの場合、ライヴと音源が違っていたほうが逆に良かったりもするので」

――ピープルもゴーゴー・ペンギンも同じトリオ編成じゃないですか。その立場から見て、彼らにユニークさを感じる部分はありますか?

波多野「今回のアルバムで言うと、ピアニストが一歩下がっている感じが興味深かったです。ロック・バンドでも、ギタリストが少し退いているほうが良かったりするじゃないですか。むしろここでは、ピアノはコンポジションの要素としてしか存在していなくて、演奏者の個性を意図的に消しているようにすら感じるくらい。そのぶんリズム隊が強調されている。そこがトリオっぽいかな」

――なるほど。

波多野「バンドってやっぱり、リズム隊が一番大事ですよね。ウワモノが生きるか死ぬかも、それで決まってくるわけじゃないですか。リズム隊が主役になればなるほどおもしろくなると僕は考えていて」

――ピープルはすごくリズムにこだわってそう。

波多野「メチャクチャこだわってますね、ビート感とか」

People In The Boxの2015年作『Talky Organs」』収録曲“逆光”

 

――そういうイメージがあるから、事前の準備はそこまでせずに、スタジオで3人がアイデアを出し合って曲作りしているという話に驚いたんですよね。波多野さんがしっかり考えて作り込んできたものに、誰かが用意したアイデアを肉付けしたりしているのかと思っていたので。

波多野「実は全然違うんです。職人気質のミュージシャンの場合は、伸び伸びと演奏しているときが一番良いプレイをするんですよね。だから僕らが曲作りをするときは、〈まずビートをちょうだい〉って。何を叩きたいのか訊いて、それに僕が曲を付けていく感じです。たまに簡単なデモを作るときもあるんですけど、そこにはわざとベースを入れなかったりもしますね。まずは、各々が思うがままに音を当ててみて、そこから良かったところを組み合わせたり、気に入らなかった箇所を調整したりしていくんです」

――そうだったんですか!

波多野「リズム隊が曲を補強するのではなくて、エンジンとして機能してほしいんですよね。車で言うと、外壁がない状態でも走れる状態でないとおもしろくない。特にトリオだと作れる曲が物理的にも限られてくるので、どうしてもそういう発想になるんですよね。ギターがコードを弾いて、ベースがルートを弾いて、ドラムがドッチカッチって8ビートを叩いたら、全部同じ曲になってしまう(笑)」

長尾「確かに(笑)」

波多野「だから逆に、ゴーゴー・ペンギンはしっかり(ベースが)ルートを保持しているのが偉いと思いましたね。あれだけの技術があれば、もっと奇抜というか、変な方向に行きたくなってもおかしくないけど、そこを親切にずっと鳴らしている。この人たちは、(テクニックよりも)曲を聴かせたいんだなって」

――ベースを抜いたり、曲調を無闇に変化させたりせずに、ループさせることでメロディーの美しさを強調していますよね。

長尾「完成度が高いですよね。“All Res”のライヴ映像でも、生演奏ですべて再現しているじゃないですか。(ピアノの)ちょっと訛った感じのリフも、CDと同じように全部弾きこなしていましたし」

『Man Made Object』収録曲“All Res”のライヴ映像

 

――前作まではライヴの叩き台という感じでしたけど、『Man Made Object』の曲はステージ上で再現することを前提に作られているというか。

波多野「確かに、今回のアルバムはもっと作品然としていますよね」

長尾「あと、ゴーゴー・ペンギンがライヴでの再現度を重視しているのは、ジャズというよりはクラシック奏者の感覚に近いと言えるのかもしれないです。彼らは技巧的にコンポーズしたものを、鍛錬によって再現することにクリエイティヴィティーを見い出しているのかもしれない」

――CDJの音飛びみたいなノイズも、人力で演奏してしまうのが象徴的というか。

長尾「そうそう。“One Percent”での人力グリッチなんか特にそうで、DAWで画面の横にオーディオ・ファイルを並べて、端の部分をハサミで切って、それをコピペ、コピペ、コピペ……と重ねたような感じ。そういうエディット感覚を活かした演奏のアイデアは、DAWに1回落とし込んでいるからこそ生まれてくるんでしょうね」

『V2.0』収録曲“One Percent”のライヴ映像(音飛び再現は5分過ぎから)

 

――ズレたリズムを強引に調整するというか、音を合わせるキメ打ちの快感を楽しんでいるみたいですよね。音はアコースティックなんだけど、ある意味フュージョン的というか。

波多野「そういうことをやるのはマジメだなって思いますね。フレーズもカッコイイし、確かに聴いていて気持ち良い」

――ピアノのクリス・アイリングワースは音大でクラシックを学んでいた人で、もともとジャズ畑だったのはベースのニック・ブラッカだけ。ドラムのロブ・ターナーはロック出身なんですよね。そのせいか、彼らはダブル・ベースだけすごくジャズっぽい演奏で、それがいいアクセントになっているとも言える。

波多野「その組み合わせは、言われてみると〈なるほど〉って感じがしますね」

――フォーマットとしてはピアノ・トリオだし、インプロの要素もあるから、ジャンル分けするならジャズと括るのが一番わかりやすそうだけど、本人たちはもしかしたら、自分がジャズ・ミュージシャンだという気持ちは薄いのかもしれないですよね。

波多野「あと個人的には、レディオヘッドがやってきたことを踏襲しているように映る部分も多くて。グラスパー周辺というよりは、レディオヘッドが持つミニマル感に近い気がします。影響の受け方がとても素直に感じるところもあるけれど、彼らはみんな20代ですよね。イギリス出身でその世代なら、遺伝子的に組み込まれていても仕方がないのかもしれない」

長尾「確かに、UKのアート・ロックに通じるセンスもありますよね」

波多野「もっと言うと、方法論はメカニカルだけど、楽曲そのものはエモーショナルですよね。誰が聴いても気持ち良いと思える和声で攻めることを恐れていない。そこは間違いなく長所で、特にアルバムの後半はグッとくる展開が多いんですよ。ここまでわかりやすいコード進行は、ジャズの人にはなかなかできないんじゃないですか」

レディオヘッドの2011年作『The King Of Limbs』収録曲“Morning Mr Magpie”のライヴ映像

 

『Man Made Object』収録曲“Smarra” 

 

何かを引用したようなふうにはしたくない、
これからのミュージシャンが自問自答すべきもの

――それにしてもピープルの作曲過程って、最初にビートがあって、次にベースが来て……メインストリームのR&Bみたいですね。

波多野「案外、トラックメイクしているのに近いかもしれないですね。しかも、最終的にはしっとりした歌モノになるという(笑)」

――そのなかで、波多野さんが調整役を務めているわけですね。

波多野「ゴーゴー・ペンギンのピアニストもそうだと思うんですけど、僕にもエディター気質みたいなものがあって。いまの時代は、作曲なんて誰でもできるというか。グラスパーだって整理屋さんとして名を馳せたわけで、曲を書く人よりも、最終的なアウトプットで誰が整理役を買って出ているのかが重要になってきていますよね」

――個人的な話ですけど、少し前に90年代以降のロックを浴びるように聴く機会があって、いま聴くとリズムがとにかく退屈だったんですよ。でも、ピープルはかなり攻めてますよね。

波多野「そう言ってもらえるのは嬉しいですね。実は、いろんな角度から気を付けていて。まずは、何かを引用したようなふうにはしたくない。〈ジャズっぽく〉とかそういうのはやめようと。かといって、カッチリした感じもおもしろくないじゃないですか。僕らはプレイヤーとしては結構ラフなほうだから、スタジオで〈ちょっとデリック・ホッジっぽく弾いてよ〉とか言うんですけど、全然そんなふうにはならないんですよ」

ロバート・グラスパー・エクスペリメントのメンバーとして活躍し、コモンなどヒップホップ/R&Bにも携わるベーシスト

デリック・ホッジの2013年作『Live Today』収録曲“Dances with Ancestors”のライヴ映像

 

――同じふうにはならなくていいんですよね。どこかにエッセンスが入り込むくらいが一番良かったりするもので。

長尾「いい意味での〈誤解〉を忍ばせるというか」

波多野「それもあるし、僕は影響を狙って出したくないんですよ。そもそも影響というものは、聴いてから1年やそこらじゃ絶対に出ないはずだと思っていて。そこはたぶんプレイヤー的な感覚だと思うんですけど、〈これを聴いてこの影響が出ました〉っていうのは上澄みを掬っただけで、筋肉となって自然に滲み出たものでないと、自分が興醒めしてしまうんですよね。そういう考え方ってすごく地味なのかもしれないけど」

――いや、わかりますよ。その人がその場で出す音じゃないとダメみたいな。

波多野「そうそう。その1音に至るまでにどんな背景があったのか。そういう奥行きが大事だと思うんですけど、最近は音楽について語るときに、そこがバッサリとカットされがちなのが嫌なんですよね。プレイヤーが培うスキルはみんなそれぞれ違うし、習得するまでに時間もかかるはずなんだけど、それに気付いたときの感動ってあるじゃないですか。最近は、〈スキルとは何か?〉という肝心な話がないがしろにされている気がしていて。そこはミュージシャンがもっと自問自答していくべきところでもあると思うし」

長尾「トラックメイカーの場合も一緒かもしれないです。エレクトロニック・ミュージックは流行り廃りも早いし、何かブームが起きるとみんな一目散に追いかけていくんですよね。いまは打ち込みのスキルって一瞬で共有されるから、音楽(情報)のソースがインターネットだけになると、個性を確立する前に、形式の遊びだけで終わってしまいがちで」

――例えば、ゴーゴー・ペンギンが機械に限りなく近い演奏をしていても、どこかで人間的なサウンドが漏れ出てしまうものなんですよね。本人たちが培ってきたジャズや現代音楽の素養だとか、そういう固有のニュアンスが絶対に滲み出てくる。

波多野「そうなんですよ! このアルバムでグっとくるのは、やっぱりそこだと思います。もしかしたら、曲の作りがマシナリーだからこそ、そういう部分が際立ってしまうのかもしれないけど。あと彼らの場合は若いのもあって、純粋に音楽が好きな感じが伝わってきますよね。特に今回のアルバムでは、変なコンプレックスが抜けたというか、〈ジャンルなんて、何でも良くない?〉みたいな開き直りが上手く作用している気もします。本人たちのなかでスイッチが入ったんでしょうね」

――そういう自信って、ミュージシャンにとってすごく大事ですよね。例えば、ホセ・ジェイムズも前作の『Yesterday I Had The Blues』で世界的に評価されるようになってから、ステージが一段上がったというか、ライヴも見違えるほど良くなったんですよ。ゴーゴー・ペンギンの場合も、〈マーキュリー・プライズ〉のノミネートや、ブルー・ノート移籍みたいなトピックが成長に繋がっているのかもしれない。その真価が、4月の来日公演で発揮されるのかなと。

2014年の〈マーキュリー・プライズ〉授賞式でのライヴ映像

 

長尾「自信を付けてステップアップした作品っていうのは、聴いていて気持ち良いものですよね。僕はプレイヤーではないので、彼らのライヴでは自分ができないことをやりまくっているところを観て圧倒されたいですね」

波多野「作品然とした新作の曲を、いざライヴで演奏するとどんなふうにブーストされるか、とても楽しみです」

 


 

ゴーゴー・ペンギン
日時/会場:4月2日(土)、3日(日) ブルーノート東京
・1stショウ 開場16:00/開演17:00
・2ndショウ 開場19:00/開演20:00
料金:自由席/7,800円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
★公演詳細はこちら

 

■PROFILE

波多野裕文
2000年代の中頃に3人組のバンドPeople In The Boxを結成。独自のスタンスを守り、常に変化を続けながら活動中。2015年に通算14作目となる作品『Talky Organs』、翌年2月にライヴDVD「Cut Four」をリリースした。ヴォーカル/ギター/キーボードを担当している。近年はPeople In The Boxと並行してソロでの活動も活発に行っている。

ライヴDVD「Cut Four」のトレイラ―映像

 

yuichi NAGAO
香川出身・東京在住の音楽家。美術大学ではサウンド・アートなどを学ぶかたわら、菊地成孔に音楽理論を師事。ジャズ・ミュージシャンと即興演奏を重ね、ビート・コレクティヴのEn-Tokyoに名を連ねるなど、ジャンルに捉われない活動を続ける。2015年に、ファースト・アルバム『Phantasmagoria』をPROGRESSIVE FOrMよりリリース。

『Phantasmagoria』収録曲“Phantasmagoria”  
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