COLUMN

スナーキー・パピーの鍵盤奏者、ビル・ローレンス&コリー・ヘンリーのソロ活動から迫る最強ジャズ・コレクティヴの本質

ビル・ローレンスコリー・ヘンリー、共にスナーキー・パピーの一員であるキーボード奏者だ。しかし、その演奏や出自はまったく対照的と言っていい。ビルはクラシックを学び、ロンドンをベースに活動を続けている。一方のコリーはブルックリン出身で、教会でゴスペルを学んだ。ある意味、スナーキー・パピーという懐の深い音楽コレクティヴの多様性を象徴する存在とも言えるこの2人のソロ・アルバムが、スナーキー・パピーのレーベル=グラウンドアップ(GroundUP)から同時にリリースされた。

その内容もまた実に対照的だ。ビルの早くも3枚目となる『Aftersun』は、前2作同様にスナーキー・パピーの中心人物であるマイケル・リーグをベースに、ロバート“スパット”シーライトをドラムスに迎えているほか、ガーナ出身のパーカッション奏者のウィーディー・ブライーマをフィーチャーして、新たな展開としてポリリズミックなアフロビートを聴かせる。片やコリーの『Revival』は、NYの教会で行ったライヴ録音で、ハモンド・オルガンのみを弾いている。内容もコンセプトも録音もまったく異なったものだが、両アルバムとも非常に聴き応えのある作品だ。このリリースをきっかけに2人の活動を振り返りつつ、そこから見えてくるスナーキー・パピーの魅力も改めて考えてみたいと思う。

★cero、Ovallのメンバーを中心としたorigami PLAYERSがサポート・アクトを務める、スナーキー・パピー来日公演の詳細はこちら
★スナーキー・パピーの日本人メンバー、小川慶太のインタヴューはこちら


UK出自のクールネスもたらすバンド屈指の知性派、ビル・ローレンス

ビル・ローレンスは、14歳の頃からプロのミュージシャンとして活動を始めた。2004年のスナーキー・パピーの結成当時からメンバーとして加わっているが、活動のベースはロンドンで、インスティテュート・オブ・コンテンポラリー・ミュージック・パフォーマンスの講師も務めている。テキサスで結成されたスナーキー・パピーの音楽性に、UKならではのクールさをもたらしているのは間違いなく彼の存在に拠るものだろう。昨年9月に開催された〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉でスナーキー・パピーは来日したが、そのときのメンバーにビルの名前はなかった。マイケルとロバートのリズム隊を主にしたその演奏はファンク色が濃く、グルーヴィーでアグレッシヴなステージだったが、ビルが加わるとまた違った世界が展開されることは、録音物から十分に窺える。

『Aftersun』の前にリリースされた2枚のソロ・アルバム『Flint』(2014年)と『Swift』(2015年)では、ストリングス・オーケストラが起用されていた。ストリングのアレンジはビルとマイケルが担当。ジャズ・オーケストラのようなアンサンブルもあれば、ポスト・クラシカルを彷彿とさせるミニマリズムもあり、さらにはUKならではのフューチャー・ジャズ的な響きや、ポスト・ロックのような展開も聴くことができた。その音楽性の幅は実に広く、またピアノはもとより、オルガンや各種のシンセサイザーから、メロトロン、シーボードなど、多種多様なキーボード類を弾きこなし、エレクトロニクスの導入にも柔軟だ。

※Seaboard:シリコンゴムで出来た柔らかい鍵盤を使ったMIDIキーボード

『Swift』収録曲“U-Bahn”

 

BILL LAURANCE Aftersun groundUP/ユニバーサル(2016)

先頃素晴らしい来日公演を行ったマンチェスター出身のゴーゴー・ペンギンがUKのクラブ・ミュージック/エレクトロニック・ミュージックから大きな影響を受けてきたように、ビルの音楽にも同様の傾向を感じる。彼らの演奏は、ループとソロ・プレイという、従来は水と油のような関係だったコンビネーションを非常に滑らかに繋げ、新たな可能性を提示していると言える。最新作『Aftersun』では、ストリングスの代わりにアフリカン・パーカッションに焦点が当てられ、ビルの音楽にダイナミズムと即興性がもたらされた。この作品は、3部作の1作目であり、今後、ロンドンの教会でレコーディングされたライヴ・アルバム、クラシックとエレクトロニック・ミュージックを融合したソロ・ピアノ・アルバムが予定されているという。

 

ハモンド・オルガンの可能性を追求する花形プレイヤー、コリー・ヘンリー

コリー・ヘンリーは、2歳でオルガンを弾きはじめ、6歳のときにアポロ・シアターのステージで演奏したという。正式な音楽教育は受けておらず、ただ教会が彼に音楽を与えた。教会に通うことで、ゴスペルや霊歌に触れ、オルガンの腕を磨いたそうだ。ハモンド・オルガンの魅力に取り憑かれたコリーは、教会以外の音楽にもチャレンジするモチヴェーションを得ていく。19歳のときに、サックス奏者ケニー・ギャレットのツアー・メンバーに抜擢されると、以後ジャズはもとより、パフ・ダディルーツからブルース・スプリングスティーンまで、さまざまなジャンルのアーティストのバックを務めるように。そして、いつしか、〈ハモンドB-3の名手〉と呼ばれるようになり、ハモンド・オルガンは彼のサウンドのアイデンティティーになっていった。

Cory Henry The Revival groundUP/ユニバーサル(2016)

『Revival』は、そのハモンド・オルガンに捧げる作品で、コリーとドラム/パーカションのジェイムズ・ウィリアムズのデュオでライヴ録音されたものだ。伝統的なゴスペル曲から、スティーヴィー・ワンダージョン・コルトレーンの曲までがカヴァーされているが、教会内で鳴り響くハモンド・オルガンの重厚で温かみのあるサウンドがとにかく耳を惹き付けて離さない。ライヴならではの、ダイナミックで即興的な雰囲気を楽しめる一方で、細やかなパッセージなどテクニカルな側面も要所要所に感じられて、ヴィンテージの楽器と古い楽曲が、不思議と新鮮に響いてくる瞬間も用意されている。

2014年にリリースされたソロ・アルバム『Gotcha Now Doc』ではバンド編成でモダンな演奏も聴かせるが、それに合わせて公開されたドキュメンタリー・フィルム『Gotcha Now Documentary (The Life & Music Of Cory Henry)』(動画はこちら)には、ハモンド・オルガンを嬉々としてプレイする幼いコリーの姿が映し出されている。下記の発言の通り、一つの楽器を掘り下げていくコリーの姿勢は、スナーキー・パピーの音楽性を間違いなく豊かなものにしていると言えるだろう。「ハモンド・オルガンは、今日の音楽社会の中で十分な評価を得ていない。これは僕の一番好きな楽器で、僕の初恋の相手だ。主に教会で使用されているが、これが教会のためだけのものじゃないことを証明したかった」。

 

スナーキー・パピーの多様性を象徴するレーベル活動

ビルとコリーによる対照的な2枚のアルバムをリリースしたレーベル、グラウンドアップについても少し触れよう。99年以来、ジャズやファンクからヒップホップ、クラブ・ジャズまで横断し、興味深く冒険的なリリースを重ねてきたインディー・レーベルのローパドープ(Ropeadope)から2013年に発表されたスナーキー・パピーの『Family Dinner Volume One』は、グラミー賞をバンドとレーベルにもたらした。これをきっかけにローパドープがサポートして、スナーキー・パピーの主宰レーベルとしてグラウンドアップが設立。ワシントンDCのトランペット奏者、フィリップ・ラシターの『DreamZzz』(2014年)など周辺アーティストの意欲作もリリースしている。

グラウンドアップからリリースされた、スナーキー・パピーの2014年作『We Like It Here』収録曲“Lingus”。映像の冒頭でビルが映り、4分過ぎからコリーの凄まじいソロが始まる

 

スナーキー・パピーの最新作『Family Dinner Volume Two』も同レーベルから発表。ベッカ・スティーヴンスジェイコブ・コリアーから、サリフ・ケイタデヴィッド・クロスビーまでこれまで以上に多彩なゲストを迎えたアルバムになったが、その豪華さ以上に、多様な音楽性がクロスする、単なるバンド以上の複合的な音楽コレクティヴとしての在り方をさらに更新する内容となっていた。それは、かつてローパドープがリリースした、ユリ・ケインクリスチャン・マクブライドクエストラヴが参加した『The Philadelphia Experiment』(2001年)、カール・クレイグカリーム・リギンスからマーカス・ベルグレイヴまでが参加した『The Detroit Experiment』(2003年)といった自由度の高いプロジェクトの発展形のようにも聴こえるし、マーク・ド・クライヴロウ『Church』(2014年)クリスチャン・スコット『Stretch Music』(2015年)といった、現在のローパドープによる重要作とも共鳴するものだ。

そして、こうした各々のリリースの総体が、現在のスナーキー・パピーの音楽性を形作っているとも言える。ふたたび来日を果たす(今度はビルも同行する予定だ)彼らのライヴは、そうした観点からもぜひ楽しんでもらいたいと思う。

ジェイコブ・コリアーをフィーチャーした『Family Dinner Volume Two』収録曲“Don't You Know”(ジェイコブ・コリアーのインタヴュー記事はこちら
『The Detroit Experiment』収録曲“Think Twice”

 

Snarky Puppy Japan Tour 2016

【東京公演】
日時/会場:6月16日(木)東京・赤坂BLITZ
共演:cero
オープニング・アクト:ミシェル・ウィリス
開場/開演:17:30/18:30
料金(税込/1D別):1階standing/7,000円 2階指定席/8,000円

【神奈川公演】
日時/会場:6月18日(土)神奈川・横浜ベイホール
共演:origami PLAYERS(mabanua、Shingo Suzuki、関口シンゴ、SWING-O. and more)
オープニング・アクト:ミシェル・ウィリス
開場/開演:16:00/17:00
料金(税込/1D別):7,000円

★公演詳細はこちら

関連アーティスト
40周年プレイリスト
pagetop