マンチェスター出身のピアノ・トリオ、ゴーゴー・ペンギンが新作『Man Made Object』を引っ提げての初来日公演を、去る4月2日~3日に開催した。会場のブルーノート東京は2日間の全公演が文字通りの超満員で、コアなジャズ・ファン層以外のみならず、若いリスナーの姿が目立っていたのが印象深い。

そのライヴでまず驚かされたのが、緻密なポスト・プロダクションが施されているアルバムの音像が、ステージ上でもほぼそのまま表現されていたこと。個々としても卓越した演奏スキルを披露しつつ、メンバー間の目配せだけですべてを理解し合い、〈バンド・サウンド〉然とした形で機能していたのも特筆すべき点だろう。そこに即興的なスパイスや生身の人間ならではのダイナミズムが加わり、観客をグイグイと惹き込んでいった。スタンディング・オヴェーションで迎えられたアンコールも含めて1時間少々のライヴであったが、体感時間はそれよりもずっと短く、かなり濃密なパフォーマンスだった。

2日間のライヴを終えた翌日にゴーゴー・ペンギンの3人を訪ねると、地元マンチェスターにおけるユニークな音楽シーンや、彼らの音楽を特徴付けるエンジニアリングのこだわりなど、とても真摯に答えてくれた。3人がそれぞれの役割を理解し、適切なコメントを返していく光景は、自身の音楽性とも重なるところがあったように思う。彼らは全員が20代。これまでの手法とはまったく違った手法を実践する、新しい感性をひしひしと感じることができた。

★6月10日追記
Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPANに出演決定!
※9月17日(土)開催、詳細はこちら

GOGO PENGUIN Man Made Object Blue Note/ユニバーサル(2016)

 

エレクトロニカの人たちはコンピューターで簡単にサンプリングするけど、僕らは耳で聴いて楽器で表現していくんだ(ロブ・ターナー)

――まずはメンバー皆さんの経歴を教えてもらえますか。

ニック・ブラッカ(ベース)「僕はマンチェスターではなくてウェスト・ヨークシャーのリーズ音楽大学でジャズを勉強していた。もともとはエレキ・ベースをやっていたんだけど、少し経ってからウッド・ベースに転向したんだ。マンチェスターには長いこと住んでいて、ロブとはずっと交流があった。ジャズやフォーク、カントリーなどいろんなスタイルのバンドで演奏をしていたよ」

クリス・アイリングワース(ピアノ)「8歳のときにクラシックのピアノを始めたんだ。その後、マンチェスターの音楽学校へ行ってまずはロブと出会い、それからニックと出会った。若い頃にはベースも弾いていて、それもあってバンドでも活動するようになったんだよ」

ロブ・ターナー(ドラムス) 「最初にコンサートで演奏したのは9歳のときで、地元のオーケストラでリコーダーを吹いていた。その後はクラシックのトランペットや、オーケストラのパーカッションを勉強したんだ。全英中からオーディションでメンバーを募るナショナル・ユース・オーケストラに参加したこともあるよ。音楽学校ではクラシックとジャズを学んだんだけど、10代の頃にはインディー・バンドでも活動していた。ジャズやブルースのバンドをやったあとに、エレクトロニックな音楽にも興味を持つようになったんだ」

ニックとロブが、スチュアート・マッカラムシネマティック・オーケストラのギタリスト)などと結成した、ノー・グッド・ビートニクスのライヴ映像
 

――バンドのコンセプトについても改めて教えてください。

ロブ「マンチェスターという街では、ミュージシャン同士が小さなバンドをたくさん作るんだ。このメンバーもそのなかで知り合い、一緒に演奏するようになった。コンセプトとしては、自分たちが聴きたい音楽を演奏し、誰もやったことのないようなことにトライするというのがまずあったね。それで、最初は家の中で実験的に演奏していたんだけど、あるときキャンセルしたバンドの代わりに急遽ライヴすることになってね。そこでの反応がすごく良かったからアルバムを作ることにしたのさ。アコースティックな楽器でエレクトロニックな音楽を作るという、クロスオーヴァーをやってみようというのがその当時からのコンセプトだよ」

――あなたたちが育ったマンチェスターの音楽コミュニティーも興味深いです。ブルー・ノートより以前に所属していたゴンドワナの雰囲気であったりとか。

ニック「マンチェスターのシーンはロンドンほど大きくないけれど、大学の数が多いのもあって良いプレイヤーも大勢いるから、中身の伴ったユニークな動きがたくさん起こっているんだよ。ゴンドワナのオーナー、マシュー・ハルソールはおもしろい連中と契約していて、サックスのナット・バーチェルや、いまUKで成功しているビーツ・アンド・ピーセズというビッグバンドも彼と契約しているしね」

マシュー・ハルソール&ゴンドワナ・オーケストラの2015年作『Into Forever』収録曲“Into Forever”
ビーツ・アンド・ピーセズのライヴ映像
 

――ゴーゴー・ペンギンのように、ジャンルをクロスオーヴァーしているバンドが他にもたくさんいるんですか?

ニック「いや、もちろんトラディショナルなジャズをやっている人もいるよ。でも、マンチェスター・シーンの特色はやっぱり、違うジャンルの音楽を混ぜていくことに躊躇しないことにあるね。友人のジャズ・ミュージシャンでも、フォークやロック、ヒップホップを採り入れている人たちが多い。自分たちがインスピレーションを受けたものを取り込んで、それを自分のサウンドにしていくんだ」

――あなたたちの音楽は、エレクトロニカの要素を積極的に吸収していますよね。『Man Made Object』の収録曲をマシュー・ハーバートダブリーが手掛けていたのは、そういった音楽へのオマージュのようにも映りました。

ロブ「これまでもジャズとエレクトロニカはたくさんのクロスオーヴァーを重ねて、トラックメイカーがジャズの音源をサンプリングしたりしてきたわけだけど、僕たちはそれを〈逆に〉やりたいんだ。つまり、エレクトロニカやポップスのサウンドを(ジャズ演奏に)サンプリングしていきたい。それが音楽の自然な関係性じゃないかな。やっぱり良い音楽があればサンプリングしていきたいし、E.S.T.のような〈それがジャズとしてアリかナシか〉にこだわらない姿勢も大切にしていきたい。いいなと思うアイデアがあれば、どんどんサンプリングして自分のものにしたいしね。エレクトロニカのミュージシャンはコンピューターで簡単にパッとサンプリングするけど、僕らは耳で聴いて楽器で表現していくんだ。もちろん、何もかもが盗んだアイデアというわけではないよ(笑)」

※93年に結成されたスウェーデン発のピアノ・トリオ。貪欲な実験精神で知られ、ジャズとクラシック/現代音楽やエレクトロニック・ミュージックなどを組み合わせた音楽性は高く評価された。2008年に中心人物のエスビョルン・スヴェンソン(ピアノ)が事故で他界
 

――同じピアノ・トリオとして、e.s.t.からどのような影響を受けました?

クリス「僕がピアノを勉強していたときに、当時の先生からキース・ジャレットオスカー・ピーターソンのCDをもらって、そのあとに別の先生がE.S.T.の『Good Morning Susie Soho』(2000年)をプレゼントしてくれてね。それを聴いたときはぶっ飛んだよ。ピアノを勉強しながら、バンドをやりたいという気持ちはどこかにずっとあったんだけど、自分がやりたい音楽がどういうものかわかっていなかった。そこでE.S.T.に出会ったんだ。彼らの音楽はもちろん、その挑戦的な姿勢が何より素晴らしいと思う。ああいうピアノ・トリオは彼ら以前にいなかったんじゃないかな」

E.S.T.の2000年作『Good Morning Susie Soho』収録曲“Good Morning Susie Soho”
E.S.T.の2003年作『Seven Days Of Falling』収録曲“Elevation Of Love”のライヴ映像。ゴーゴー・ペンギンと重なる部分は多い

 

ピアノに関しては、僕とエンジニアの2人で一緒にインプロヴィゼーションをしているんだ(クリス・アイリングワース)

――ゴーゴー・ペンギンとジャズの関係性について訊きたいのですが、あなたたちの音楽において〈即興〉はどういう位置付けで、どのように機能していますか?

クリス「僕らの音楽における即興は、それがアルバムであってもライヴであっても、全体の流れにおける一つのピースである、というのがすごく重要なんだ。(ジャズで)よくあるように、テーマをみんなで演奏したあと順番にソロを執って、最後にまたみんなでまとめる……といったふうに区切ってしまうのではなくて、一つの流れのなかでインプロヴィゼーションの要素を組み込みたいんだ」

ニック「ライヴにおいて、即興はすごく重要なものだと思っているよ。アルバムの曲に対してのアプローチもライヴになると変わってくるしね。あとはクラブであったり、スタンディングの会場であったり、劇場であったりと、演奏する場所によっても変えているんだ。ジャズ・クラブだったらもう少しインプロを増やしてみたりね」

――今回のブルーノート東京はいわゆるジャズ・クラブですが、ライヴ中における楽曲自体の尺はCDとほとんど同じだったと思います。あの演奏のなかにも、〈即興〉は存在していたということですよね?

クリス「そうだね。構成要素として確実にインプロはあるんだけど、目立った長尺のソロではなくて、音楽の継続性のなかで入れていくというのを僕らはとても大事にしているんだ。楽器のソロだけではなくて、もちろん演奏のダイナミクスやアーティキュレーションもインプロヴィゼーションに含まれている。だから言い換えれば、僕らの音楽には常に即興の要素があるんだ。個々人ではなくて集団、バンドとしてインプロヴィゼーションをやっていくという方法にチャレンジしている」

※旋律(フレーズ)などをより小さく区切り、音の形や強弱を変化させ表情を付けること。譜面上ではテヌートやスタッカート、アクセントといった記号で表わされる

2014年作『V2.0』収録曲“Garden Dog Barbecue”のライヴ映像。来日公演のハイライトとなった
 

――ゴーゴー・ペンギンは作曲において、シーケンス・ソフトで最初に曲を組み立てて、そこからバンドの演奏に置き換えているんですよね。その作業は〈即興〉のある部分に制約を設けることで、また別の想像力を生むことが狙いなのかなと思ったんです。

クリス「そうだと思う。僕は多くの場合にソフトウェアを使って作曲をするんだけど、それはあくまでスケッチでしかない。ピアノでもスケッチを作れるけど、2人に理解してもらうためにLogicやAbletonを使ったほうがわかりやすいから、そうしているだけなんだ。誰か1人が完璧な曲を書いて残りの2人がそれを演奏するのではなく、お互いに曲を理解してみんなが参加していくというのを大事にしているから、その理解を促進するためにスケッチを作っている。そこで制限を加えることによって、新しいインスピレーションを得ているというのは確かにあるね」

――ひょっとして、ゴーゴー・ペンギンは自分たちの音楽を譜面に起こしたりしていないんじゃないかな?と、ライヴを観て思いました。ステージ上にも譜面台はなかったですし。その〈スケッチ〉を、どんなふうにして楽曲の完成形まで持っていくんですか?

ロブ「楽曲次第で書き方は変わってくるから、譜面を書いたほうが楽なときもあるけど、もう必要ないと思っている。大学なんかでいろんな音楽をやってきたから、譜面を一度見ればそれがどんな音楽か大体わかってしまうしね」

ニック「そう。演奏できてしまえば譜面は必要ないし、むしろ譜面が必要ないという状態に至ってから、演奏するうえでの自由は始まるんだ。曲を理解するってそういうことじゃないかな」

クリス「そうだね。アイデアやビートを書いたメモを渡し合うことはあるけど、そこには一から十まで書き込んでいるわけではない。〈こういうサウンドが欲しい〉というアイデア、インプレッションに過ぎないんだ。それを渡せば、他の2人はそれに合わせたサウンドを作ってくれるしね」

ロブ「ピアノのメロディーを1行書いて、コードを書いて、その下には〈ベースを演奏しろ、僕はドラムを叩く〉って書いたこともあったな」

ニック「ロブは大抵〈自分で好きなことをやってくれ〉って書くよね(笑)。クリスはたまにベース・ラインも書いてくるけど」

――じゃあアルバムに収録されている曲も、ここが完成形というわけではなくて、ライヴやツアーを経てどんどん変わっていく可能性もあるんですか?

ロブ「アルバムがスタート地点になっている部分もあるね。本当はツアーを1、2年したあとにアルバムをレコーディングするのが理想なんだけど、それはなかなか実現できないことだよ」

ニック「スタジオに入るときは、前の日に書いた曲を持ち込んで演奏するという形になりがちで、その曲ならではの呼吸が生まれていない状態のときもある。レコーディングをして6か月くらい演奏したあとに、曲が独自の呼吸を始めることが多いんだ」

――『Man Made Object』のレコーディングはどれくらいの時間が掛かったんですか?

クリス「1日最長でも10時間ぐらい作業をして、それで5日間くらいかな」

ロブ「そのあとに、〈4人目のメンバー〉であるサウンド・エンジニアのジョー・ライザーが、3日間ほどでポスト・プロダクションを施した。あとはボーナス・トラックのために1日追加でレコーディングをしたから、それ合わせても全部で10日間くらいだね」

――今回のアルバムは、ポスト・プロダクションによって音楽のキャラクターを作っているところも大きいと感じています。そのポスト・プロダクションはどこからアイデアを得て、どのように施されるのですか?

ロブ「このアルバムでは、特にエレクトロニカの影響が強いというのはわかってもらえるよね。もともとメンバー3人の共通点としてエレクトロニカがあって、今回のアルバムにはそれが顕著に表れていると思う。それでエンジニアのジョーは曲を書いているときも、アレンジをしているときも、リハーサルをしているときも、常に一緒にいるんだ。だから、僕たちが何をやりたいのか根底から理解してくれている。そして僕らも、彼が〈こうしよう!〉と選択することに対してかなり信用している。例えば“Smarra”の深いディレイであったり、“Protest”のイントロの派手なエフェクトであったりね。ジョーのアイデアから生まれた部分は他にもたくさんある。今回のアルバムでも、彼はすごく良い仕事をしてくれたよ」

――そのジョー・ライザーは、今回のライヴにも参加していたんですよね。というのも、ライヴを観た感じだと、ピアノの足元にあったペダルだけであんな音は作れるはずがないと思ったんです。ライヴ中だと彼はどんなことをしているんですか?

ロブ「ジョーとは最初に何回かライヴのエンジニアをしてもらってから、〈バンド・メンバーになってほしい〉と何度も伝えて現在の関係になったんだ。僕らのステージでは彼がサウンドに関する一切の責任を負っているし、ジョーの好みには本当に信頼を置いている。ライヴでは、ベースに関してはステージ上でサウンドを作っているけれど、ピアノのディレイやリヴァーブはほとんど彼によるものだよ」

クリス「ピアノに関してはディストーションとピアノの内部奏法だけは自分でやっているけど、それ以外のディレイやリヴァーブに関してはジョーにすべて任せている。つまり、ジョーも僕らと一緒にインプロヴィゼーションをしているんだ。ピアノに関しては、僕とジョーの2人で一つになれたらベストだと思っている。ステージ上からも、ミキサーからも、サウンドをコントロールできるようになれればってね」

※ピアノ内部の弦を演奏者が直接触ったり叩いたりして音を出す奏法

――バンドのなかで、ライヴとレコーディングで表現したい世界に違いはありますか?

クリス「曲の背景にある部分が変わることがないから、そこまで大々的に異なるということはないね。ただ、ライヴとアルバムをまったく同じものにすることも不可能なんだ。ライヴっていうのは、場所や観客やその日の気分も関係して変化していくものだからね。曲の本質は変わらないけれど、即興は日によって変化している。“All Res”や“The Letter”といった曲はそういう変化を表現できるスペースを持つ好例で、すごくアグレッシヴな演奏になる日もあれば、落ち着いた演奏になる日もあるんだ」

――ゴーゴー・ペンギンにとっての〈即興〉の捉え方が、既存のジャズと大きく異なっていることが話を聞いてよくわかりました。それを踏まえて、〈ジャズ〉という音楽の概念についてはどう思っていますか?

ニック「僕やロブはビバップもやっていたしストレートアヘッドなジャズも経験しているから、背景としてジャズはあるけれど、このバンドをジャズのバンドだと考えたことはないな。僕らはジャズではなくて音楽を作るバンドなんだ。3人ともエレクトロニカは共通して好きだけど、ジャズに関しては好き嫌いがはっきりしていて、みんな趣向が違うんだ。だからこのバンドは、自分たち3人が作りたい音楽を作るバンドでしかない」

クリス「自分のなかでは、やっぱりクラシックのバックグラウンドが大きいと思っている。即興にはいろんなやり方があって、それは音楽に限らないし、例えば話し方だってそうだ。音楽のフォームやスタイルが違えば、それだけ違った即興の形や役割がある。そういう多様な即興の形をアイデアとして取り込んだうえで、自分たちはどういうふうにインプロヴィゼーションをしていくのか。個人として、あるいはバンドとして、どういうふうにアイデアを消化し、表現して、進化させていくのかを常に実験しているんだよ」